第420射:敵さんの物資は足りていますか?
敵さんの物資は足りていますか?
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「……目が痛い」
「そうね……」
僕たちはあれからずっとモニターとにらめっこをしている。
ヅアナオには動きはなし。
奥にいる兵士たちも動きはなし。
なんというか、ここ数日で集まっているようには見えるけど、劇的に増えているという風には見えない。
田中さん曰く、ただ物資を届けているだけじゃないかって話。
つまり、軍事行動をする気はないってこと。
「なんで集まっているんだろうね~」
「そこは別に疑問ではありませんわ。私たちが来たから防衛しているのでしょう」
「あー、そういえばそういう話もあったね」
何も考えていない東側連合は僕たちというか田中さんが居なければ、あの待ち構えたヅアナオで一戦をして被害を受けたかもしれない。
けど、僕たちは動いていない。
こうしてにらめっこしているんだ。
「向こうも動かないって気が付かないのかな?」
「いえ、私たちの進軍速度が異常に早かったこともありますから、補給とかを考えるとまだ動く時ではないのでしょう。あれだけの数です。ちゃんと物資が揃わないと動くにも動けないはずです。というかむしろヅアナオで集まっていることですらもキツイはずですよ」
「なんでわかるの?」
なぜか撫子はヅアナオの近くで待機している兵士たちの状態をそういう。
僕にはなぜかわからないので、理由を聞いてみると。
「別に推理でも何でもないですよ。ドローンで監視している映像を見直してみると分かりますけど……」
そう言って撫子はドローンの映像データを表示させ、ある時点て停止をする。
「これです」
「ん?」
映像を見ても、特に何かが映っているようには見えない。
物をまとめておかれているだけに見える。
「荷物しか見えないけど?」
「それを見ているのですから間違っていません」
「え? 荷物?」
映っている物をマジマジとみるけど、僕にはよくわからない。
「あの量で、万を超える人を養えると思いますか?」
「養えるってごはんってこと?」
「ええ、その通りです。足りていると思いますか?」
そう言われて改めて映像を見る。
確かに一人だとして見ると大量だけど、万人も人がいるならあそこにある荷物だとすぐになくなるのは、今までそういうことやってたから理解できる。
「ご飯だけだとしても、全然足りないよねあれ」
「ですわね。まあ、もちろん地方から集まっているような感じで持ち回りの食料などはあるみたいで、ここから使用しているところは今の所ありませんが……」
「うん、使ってないとしても
つまり……。
「足りないね。あれ? よくて4、5日分ぐらいしかないよ? どうしているのあれ?」
そう、物資の集積場所をよく見てみると、どうやっても万の軍勢が敵を倒すために移動できるような物資があるとは思えない。
「ですわよね。他に隠しているならと思いますが、これを隠す場所も何もありませんから」
「だよねー」
僕は同意しつつ、現在全体を監視しているドローンの映像に視線を向ける。
全体を監視というのはかなり上空から全陣地を見渡せる位置にいるってこと。
これを確認して……。
「穴でも掘ってない限りは物資を隠すとか無理だよね~」
撫子の言う通り物資を隠している様子は見られない。
この軍隊がいる場所は、平原の真ん中に展開していて、建物とかも全然ないし。
そんな感じで映像を見つめていると、ある一点から兵士の集団が集まって移動しているのが確認できたので、近くのドローンに映像を切り替えてみると。
「狩りだね」
「狩りですね」
そこには兵士が集まって、うさぎやたぬき、蛇なんかを持っている。
平原だし、それぐらいだよなーって思っているとシカやイノシシもいたようで盛り上がっている。
確かにあの人数だけで食べるなら、ごちそうだと思う。
寄生虫とかちゃんと処理できるならだけど。
意外と野生動物って寄生虫が多くて食べられる部分が少ないんだよね~。
魔術の応用でそういう可食部だけを残す魔術をかけると半分以上消え去ったとかあるから、本当にびっくりした。
って、考えがずれたけどあの狩りじゃあの部隊は食べれても全体は無理だよね。
「あれだけじゃ全然足りないよね。なんであんなことを?」
「少しでもマシにでもしようとしているのではないでしょうか。ヅアナオで買おうにも、町の規模を考えると干上がらせてしまいますし、買うことは出来ませんから」
「あー、確かにあの規模の兵士が買い物に行ったらヅアナオの物資なんてあっという間になくなるよね~。だから自分たちで補給か。うん、納得がいった。動きたくても動けないんだねあれ」
「おそらくですが」
「でもさ~、あのままだと動けないまま、集めている物資に手を出して終わりじゃない?」
増えてはいるように見えるけど、劇的に増えているわけでもないし、手持ちの食料が沢山あるようにも思えない。
近いうちに空っぽになって動けなくなればいいところで、部隊が散り散りになる可能性もあるんじゃないかなーと思う。
で、僕の意見を聞いて撫子は苦笑いをしながら答えてくれる。
「流石にそれでは迎撃のために集まった意味がありませんから、あの軍が崩壊する前には物資が集まる。いえ、到着はするでしょう。そうでもしないとヅアナオでは一月も持たないでしょう」
確かにそうだよね~。
ちゃんと支援はするってことだ。
ん? 何か引っかかる。
「ねぇ、撫子。つまり、これからあの万の軍勢に物資が届くって話だよね?」
「ええ。そうだと思いますわ」
撫子はしっかりと頷いて肯定してくれて、僕はあることを思い出した。
「撫子。なんか田中さんとかが物資の補給どうしているのかって話があったよね?」
「ええ、ありましたわね……。そうですか、つまり敵の補給方法が確認できるということですわね?」
「うん。あと、こういうのは定番だけど、あの物資にドローンで攻撃でも仕掛ければ焼き払えるよね? そうなれば、戦わずに勝てない?」
「……勝てますわね。むしろ被害が無くて万々歳ですわ」
「なんかそういう兵糧だっけ? そこを狙うっていうのは晃が言っていたしさ」
さんごくし?とかではよくあるってさ。
まあ、軍とぶつかり合うことなんてそうそうなかったし、こういう奇襲をする側じゃなくてされる側がだったしね~。
「ですが、先ほどいいました、補給がどう行われているのかというのも気になりますわ。田中さんに相談の上ですわね」
「そこは当然だね。でも、空から運ぶとかもあったし上空警戒もいるんだよね~。というか、これまで空意識してた?」
「……それを言われると自信がありませんわね。今は人の移動とかを確認していましたし」
だよね~。
空からの空輸があるとは言われていたけど、最近は人の移動が極端に少ないってことで地面ばかり見ていたし、空を意識していたことはない。
「これ確認しなおし?」
「とりあえず、報告をして、ノールタルさんたちにも情報の共有と空の確認をしていたかを聞いてみましょう」
「うん、まずはそっちからだよねー」
僕と撫子は苦笑いしながら行動に移す。
とはいっても僕はこのままモニターを監視を続けて、撫子が席を離れて皆に聞き込みと、田中さんへの報告とこれからどうするのかって話を聞きに行った。
せめて、面倒なことにならないといいけどなーって思っていると、思ったよりも早く撫子が戻ってきて。
「私たちが考えていることは、田中さんやジョシーさんも思いついていたようで、特に今は動く必要はないということですわ。あと、空の監視がおろそかになっていたかもしれないという話は、ジョシーさん曰く、空を通過した物体は確認していないと連絡がありましたし、このノスアムの上空に関しても多くの人が見過ごすということもありませんし、何より空を通過するかもという話はしていたので監視要員もいたので見逃したということはなさそうです」
「よかったー」
正直、これから見直しとかなるととんでもないことになるからさー。
そう思っていたんだけど。
「とはいえ、別方向に飛んで行った可能性もあるので、私たちの方でヅアナオに展開しているドローンの映像の再確認をお願いされました」
「……え?」
「映像の確認はしないといけなくなりました。ノールタルさんたちも集まってからそっちの確認に人を割かないといけないです」
「うそぉ……」
結局僕たちはこのモニターを見つめる作業が増えるのはかわりないようだった。




