第419射:冒険者ギルドの接点
冒険者ギルドの接点
Side:タダノリ・タナカ
東側連合が侵攻を停止して、一旦拠点の強化に力を置くと決めて半日。
夜が明けて、朝日がまぶしいのだが、上の連中は得られた情報の元にどう動くかと会議を始めている。
とりあえず南側方面には援軍を派遣して、ノスアムや砦の強化を図り、軍を受け入れられるように拡張を進めると言ってはいたが、じゃあ、実際どうするのかって話を今しているわけだ。
「まあ、当然と言えば当然なんだが。待つ身としてはつらいわな」
俺はいつものようにたばこをふかせつつそう呟く。
一応俺たちの狙い通り、ノスアムを突破した軍がこれ以上前に進むのは一旦中止となった。
敵が奥で待ち構えているならなおのことだよな。
とはいえ、それで終わりじゃない。
停止している軍は戻すのか、強化をするかって話だが、人員の追加とかの話が決まるまで、そこで待つ必要がある。
ジョシーはともかく、部下というか上からの命令で派遣されている兵士たちは我慢の限界が来そうだがな。
「とはいえ、暴発したところでどこに行くことも出来はしないしそこまで心配はいらないか」
そう、派遣されている兵士たちにとってあの砦で暴発しても被害はたかが知れている。
これがノスアムの町なら被害に関してはちょっと注意しなければいけないレベルになっただろうが、砦だと働いている連中なんてたかが知れているし、その連中に手を出せば自分たちの首が絞まることになる。
何せ、砦の連中がいるから生活が多少不自由なくできているんだからな。
勿論、ジョシーを通じて俺たちからの補給物資もある。
そこまで悪い状態にならないとは思う。
「そうなると、後は偵察をどこにするかって話だな」
俺たちルーメル軍が残っている理由は、ドローンを使った偵察に関してだろうな。
そもそもドローンを使えるのは俺たちだけだし、場所も二か所と限定している。
向こうとしても情報は出来る限り集めたいだろうしな。
……これを利用して情報を俺から引き出すことは出来るか?
いや、ノスアムの連中にしてもさっぱりだったんだ。
なんでこっちの連中がより事情に詳しいと思う?
おそらく核心的な、敵が起こった理由、西魔連合を作った原因ぐらいは分かるだろうが、現在の敵の動きは分からない。
まあ、西魔連合が出来た理由が分かれば、その考えに基づいて動きを読めないことはないが、今までのことを総合して考えると、どうもきな臭い。
正直話すわけもないだろう。
「……つまりは身内の盗聴か?」
実際、ここにいてやること、出来ることと言えば、味方からの情報収集だ。
俺たちはこの戦争の経歴はよく知らない。
まあ、西側が攻めてきたというのは聞いてはいるが、それを鵜呑みにする理由もないからな。
ノスアムでのことを見ても妙な情報封鎖というか、西側が急にまとまったということしかわかっていない。
一体何が起こったのかがさっぱりわかっていないんだよな。
これが現代なら……。
「いや、それはそれで山ほど情報が錯そうしてわけがわからない状態だったかもな」
情報が一瞬で伝わるという便利な反面、何が事実かどうかはよりわからなくなってきている。
そう考えていると、今回、こっちに戻るということでついてきていたギルドから派遣されていた一人がこちらに歩いてくるのが確認できる。
確か、名前は……。
「シシルか」
「はい。今は大丈夫でしょうか?」
最近影がめっきり薄いというか、冒険者ギルドとしてはルーメルに便宜を多少図るくらいで実働戦力を貸し出すってわけじゃないから、これができる限界ってことなんだろう。
ちなみに、ノスアムに残っているギネルってやつも戦闘には参加しないが、炊き出しとかは手伝っている。
「ああ、冒険者ギルドから何か連絡あったか?」
そこで思い出した冒険者ギルドは一応西側にも拠点があったはずだ。
そこから新しい情報が得られたという可能性に気が付いたわけだ。
だが、俺の予想とは反してシシルの表情はすぐれない。
「いえ、残念ながら東側との連絡のみで、西側とは全然」
「そうか……。ノスアムにあった冒険者ギルドはどうだったんだ?」
「そこは調べていましたが、冒険者ギルドの中の書類は全て近辺のことだけで、戦争に関することはまったく」
「全くなかった?」
「はい」
「……そこは不自然じゃないか?」
「おそらくノスアムに敵が迫った時点で逃げたという可能性が高いかと。その手の情報も持ち出しが確認されています」
「ああ、つまりだ。冒険者の関係者は逃げ出したってことか?」
「はい。ノスアムの領主であるジェヤナ様からの情報で冒険者ギルドが移動していたのは確認されています」
ふむ。
なんというか意図的なんだろうな。
南側の戦線が突破されたのは、冒険者ギルドなら個人で情報収集はしていただろうし、その程度は理解しているだろう。
とはいえ、冒険者ギルドは基本的に中立だ。
そこで逃げる必要性があるかというと……。
まあ、軍とはいえこの状態で敵の町をそのままにするとは思えないな。
うん、冒険者ギルドの連中が逃げたのは特にまずいことでもない。
名乗り出たところで、処分されてもおかしくないからな。
「理解した。まあ、そういうこともあるんだろうな。軍の安全保障なんかあってないようなものだしな」
「その通りです。略奪が行われれば冒険者ギルドだろうが関係ないというか、真っ先に兵士を集めるところですからね。そこを叩くのは理にかなっています」
「まて、つまりノスアムの攻めた時に冒険者ギルドの関係者は残っていたってことか?」
「はい。残っていましたが、ギルド長や幹部といわれる人たちは逃亡していたようです」
「関係者というか職員たちだろう? 彼らが知っていることは聞いていないのか?」
「周辺の魔物の状況ぐらいですね。どうやら、魔物を捕縛して軍事利用をしていたようで、その下請けの仕事が多かったようです。東側ではあまり見ない仕事ですね」
「そうなのか? まあ、確かに魔物は俺たちも退治するとか、生息区域を調べるとかが主だったな」
結城君たちは受けていなかったが、ゴブリンやオークなどの捕縛依頼もあることはあった。
研究のためとか、魔術師の中でもテイマーとかいう魔物を従える連中がいて、そのためとか。
まあ、死んでもいいコマを増やすには魔物が一番だろうというのは理解できる。
「で、状況を考えるに、西魔連合が各防衛線で投入している魔物は……」
「おそらくではありますが、こういった冒険者ギルドで捕縛したものを投入していると考えていいでしょう」
「そこらへんを詳しくあのお嬢ちゃんには聞いてなかったな。そっちが聞こうとはしなかったのか?」
「それがその手の書類が無いのです。確かに仕事としては存在しているのですが、仕事を出しているのは個人であり、国が関与しているというわけではないのです。数にしても軍で利用するような数ではありませんでした」
「だが全体の数は多かったんだろう?」
個人依頼とはいえ、その数が多ければそれは総数としては大量になる。
「多いのですが、それはあくまでも個人利用なのです。冒険者ギルドにはその関係の書類は存在していませんでした」
「なら、なんで魔物を捕縛して軍事利用をしていたとわかった?」
「その報告書はあったのです。西魔連合がそのような動きを見せていると」
「冒険者ギルドはあくまでも個人の依頼を受けていることしかなっていないというわけか?」
「そのようです。まあ、表向きというのはあるかもしれませんが」
「そうか……。とりあえずここで待つだけなのもあれだ、無線を通じて冒険者ギルドの情報網から色々探ってみるか。シシルいいか?」
「はい。構いません。そろそろギルド長に連絡をしたいところですから」
そうだな。
今回の発端と言えるフィエオンの情報を掴んでいたんだ。
あのギルド長は西側と繋がりがあってもおかしくはない。
そこから調べてみることにするか。




