第417射:何故長い期間止まっているのか
何故長い期間止まっているのか
Side:タダノリ・タナカ
新情報が次々と出てくるおかげで会議は紛糾。
とはいえ、時間が経ち敵が準備を整ていることもヅアナオの情報ではっきりした。
そして軍としては、無理な進撃は出来ないと判断したようで、げっそりとした感じのお姫さんと爺さんが戻って来た。
「おつかれさん。ほら、コーヒー」
俺は希望を聞かずにカフェインたっぷりのコーヒーを差し出す。
2人とも文句を言わずに受け取って飲む。
「ああ、いい苦みと香りですわ」
「ですな。あそこでの飲み物など落ち着いて飲んでいられんですから」
2人とも遠い目をして呟く。
「ほぼお客なのに、そんな空気を気にするんだな」
ルーメル軍として参加している俺たちはある意味東側連合の中でも特異な部隊だ。
戦力として突出しているし、要ともいえるから基本的に気を使われる側だし、何より別大陸の出身。
権限としては東側連合の総司令部と同等だろう。
まあ、東側連合に命令できるわけではないが、物資の供給と戦力差で無視はできない。
その二人が気を遣うっていうのは、それだけ紛糾しているんだろう。
「原因が私たちが提供した情報が原因ですからね」
「これが本物かどうかという話になり、最初から出せばと愚痴られるのはどうしてもですな」
「ああ、ドローン関係を話したんだったな」
此方の情報収集を信じてもらうためにも手札を明かしたのだ。
上空からの安全な偵察と写真というものを。
聞かされた側はなんでもっとという話になるよな。
とはいえ、簡単に増やせるわけもないし、前提にそれを信じさせるための実演も必要となる。
おかげで、色々と混乱が起こったわけだ。
具体的にはドローンはどう作るのかというところから、写真はどう作るのか、どうやってがどんどん続ぎ、その次は性能について、さらにはこれをどう使うかという話になってきたわけだ。
おいおい、ドローンの運用はルーメルだけだぞって言えればいいんだが、協力を申し出た手前、多少はってことで2機だけだと言ったらそれはそれで会議がもめたようだ。
こっちも大変だっていう理由から絞ったらしいが、それがさらにというやつだ。
まあ、ほぼノーリスクで敵の奥地を偵察できるとか俺が聞いても使いたいとは思う。
そうなれば会議は揉める、紛糾するのは当然だろう。
しかも数はたった2つときたもんだ。
いや、数があっても結局は全域をカバーすることは出来ないし、それはそれで揉めていただろうな。
まあ、そこはいいとして。
「で、軍は動かずで決まったとは聞いたが、具体的にはどうなったんだ?」
そう、軽く軍は進撃しないとは聞いたが、どういう風にというのは聞いていないのだ。
ここはちゃんと聞いておかないと、前線のジョシーが押さえている軍が勝手に動きかねない。
「ああ、それはですが、ノスアムを中心として西砦を迎撃拠点として陣地を作るそうです。援軍を送り拠点を強化を図ると」
「タナカ殿たちから持ってこられたデータを見る限り、まず万の軍を常駐させるには不足していますからな。これからもそうなりそうですし、ここで楔を打つこともかねて、東側連合の拠点を作ろうということになっております」
「なるほどな」
今までの最前線基地は東西を分ける山脈の所だ。
そこから西側の敵拠点を落としてそこに前線基地を作るっていうのは悪くない判断だろう。
しかもノスアムである程度自給自足は出来る。
補給路も東側から中継できる分、敵には圧力が増すことになる。
勿論、いうだけ簡単でもないがな。
敵は当然このノスアム占領を黙ってみることはないだろう。
なんて言ったって、領地の失地だ。
西魔連合にとっては各国をまとめ上げている手前、領地を失うというのは通常であれば安全保障の破綻ともいえる。
だから何としても領地を取り返しに来る可能性が高い。
もちろん逆もある。
あまりに領地を取られたままで放っておけば、役に立たないと見限る可能性もあるしな。
つまり、そういう意味でもノスアムにしっかりとした拠点を作ることは意味があるってことだ。
まあ……。
「ノスアムを囮に他のルートから山脈の本拠地を落とされないといいがな。そこらへんはどうなんだ?」
そう、あくまでもノスアムが拠点として機能するのは後ろ、つまり東側からのサポートが万全であればという条件が付く。
勿論、俺が物資をミラクルパワーで出せば何とかなるだろうが、本拠地を急襲されて後方遮断されるとなると、俺たちルーメルはともかく、東側の諸国から来ているメンバーは動揺間違いなしだろう。
とはいえ、たらればを言い出せばキリがないのだが、これぐらい本拠地の総司令様たちが考えていないわけないと思って聞いたわけだ。
「それはもちろん話し合いがありました。だからこそのドローンの偵察をということらしいです」
「ああ、そういうことか。で、他の戦線は異常はないってことでいいのか?」
「そのようですな。いまだに一進一退の攻防を続けているとは言っておるが、お互いにらみ合いじゃろうな」
マノジルの爺さんはなぜ確信めいた感じで言う。
「理由は?」
「簡単じゃよ。前線から戻ってくる兵士が全く増えておらぬからな。激戦、一進一退の攻防などというのであれば、負傷者や死者の出入りはもちろん、この拠点から増援も送る。じゃが、そんな様子はない」
「なるほどな。出入りなら見ていればわかるか」
「そういうことですな。そもそも、こちらに来てから大きな動きと言えば、ノスアムに侵攻したときぐらいで、他はありません。こういっては何ですが、あまりにも平和すぎる」
「確かに、前線基地としてはあまり緊張感のようなものはありませんね」
最前線を経験しているお姫さんも同じ意見のようだ。
まあ、そこは俺も同意だが、こういう状況は経験がある。
「おそらく固定化しているんだろうな」
「固定化ですか?」
「ああ、戦場の状態を維持というか、国境を改めて作っているんだろうな。お互い過度に攻め込まないぞってな」
「相手を油断させるためという可能性はないのですかのう?」
「あり得るが、既に半年以上だろう? 下手をすると一年以上この状態だ。どこの国だって長い負担は避けたいだろうし、それは敵だって一緒だろう」
一年中というか、数年にわたり戦争を続けられている体力があるという国はまずない。
どこかで息抜き、いや息継ぎをしないと国が軍を支えられなくなる。
かといっては戦う姿勢を崩すのは問題があるという状況下で求められるのは、戦う場所を固定化して、負担を減らすってやつだ。
ある種の国境の制定ってやつだな。
勿論、お互いに公式に決めているわけじゃなくて、自然とできる国境だ。
お互いにこれ以上踏み込めば被害が大きくなると判断して膠着状態になる。
ということは、膠着したところの防備は固められるし、そうなれば投入する兵の数は減らせる。
そして兵が減ればその分負担も減る。
つまり国庫にはとてもやさしいってことになるわけだ。
その意図はお姫さんにも伝わったようで。
「上は敵と繋がっていると?」
「いやー、こういうのは暗黙の了解みたいなのがあるからな。戦力を出し渋る上とそれでも戦果を求める上、そして前線の意思とかがあるからな。上の意向としては引くに引けないが、予算は減らされる。そうなると兵士を減らすしかない。それは敵側もだ。だが、それでも成果を出さないといけないから、爺さんの言う通り一進一退の戦いってなるわけだ」
「……逆に無駄ではないですか?」
「言わんとするところは分かるが、かといって俺たち抜きだと考えて、兵士を集めて敵を確実に押し込めるとか、制圧できると思うか?」
俺は正直にお姫さんに聞いてみると、素直に首を横に振る。
「無理ですわね。いまだに私たちですら、敵の全容を把握していないのです。ここで無理に押し込んでも制圧できたとしても一時的なものになりかねません。最悪は此方の兵士が全滅しかねない。……ああ、なるほど。ですから膠着を望むのですね」
「理解できたようで何より。上の意向としては戦わないといけないが何もかも足りない。かといって押せないし引けない。となると妥協になるってわけだ。国境ができる一歩手前だな」
「このまま安定化すると?」
「いや、それはないだろうな。ノスアムをこっちが落とした。向こう側西魔連合として失地を回復しないと瓦解する。近いうちに何かしら動きが出るのは間違いない。だからこそ上も色々考えているんだろうさ」
さて、どういう答えを出すか見ものだな。




