第416射:見つけてもすぐに全部わかるわけではない
見つけてもすぐに全部わかるわけではない
Side:ナデシコ・ヤマト
私たちは発見したヅアナオの町をつぶさに見ていました。
ここが情報封鎖をしている町。
そして、さらに少し奥に行ったところで軍が集結しているのが見えます。
ですが……。
「ここで迎撃するのって難しくない?」
そう光さんがつぶやきます。
「まあ、そうだよな。兵士が町に入ってないし、入ったとしても特に壁が強そうってわけでもないよな?」
晃さんの言うように兵は町に入って準備をしているわけでもなく、町の防壁が強固で大きいというわけでもないようです。
これで、私たち、というかジョシーさんがついて行っている兵士たちとぶつかれば被害は大きくなるはずです。
何より、普通の兵士はともかく……。
「これではジョシーさんを止めることは出来ませんわね」
「だよねー」
「吹き飛ばされて終わりだよな」
と、全員の意見が一致する。
どう見ても戦車を止める力はないと分かります。
「いえいえ、こっちの目的としては兵の損耗を抑えないと負けですし、私たち、というかジョシーさんを倒さなくてもいいんですよ~」
そうヨフィアさんの指摘で冷静になる。
「あー、そっか。とりあえず歩兵を減らされると都市制圧も出来ないって話だよね」
「ああ、そうなると町を破壊するしかなくなるから恨みつらみに補給線が伸びるって言ってたな。まあ、田中さんの補給線が伸びたとしてもそこまで問題はないと思うけど」
「晃さん、確かに問題はないとは思いますが、不安になる要素は排除しようということでしょう? それに町を破壊して恨みつらみを持ってしまえば背中に注意しなくてはいけなくなるのは面倒です」
「わかってるって、俺も町を破壊しようとか思ってないから」
「となると敵は、本当にあの町で迎撃を考えているってこと?」
「さあ、そこまでは。とはいえ、砦に詰めていないということは、外で迎撃の可能性も高いですけどね~」
確かに、町の防壁を利用するつもりであれば既に入っていておかしくないのですが、10キロほどの距離で待機しているので微妙です。
「外で迎撃ね~。あの数だと微妙でしょ~。なんであの数なんだろう?」
「確かに確実にとは言い難いですね。とはいえ、私たちのことを予想しているのであれば間違いでもありませんが」
「どういうこと?」
「先ほども言いましたが、歩兵はもちろん物資を減らしてしまえばいいと思っているのですよ。こっちは向こうよりも遠くに来ていますし、簡単に人も物資も補給できない。つまり一度の決戦ではなく継続してこちらを削ろうとしているのではという話です」
「ああ、なるほど。確かに同数だと絶対にこっちも削られるから最後にはってことかー」
「その通りです。って、こう言っては何ですが、これも誘因作戦の一つともいえますね~」
ヨフィアさんは苦笑いしつつそう言います。
私もその言葉で考えてみたのですが、確かにその通りです。
ギリギリ勝てそうなぐらいであるなら、こちら側の軍人さんは頑張ってしまうでしょう。
向こうはそのギリギリを狙って敵を引き寄せて更なるカウンターを狙っているということでしょうか?
「でも、それだとあの町、ヅアナオを囮にしているってことですよね? 落ちても構わないってことですか?」
「そこは私には何とも。実際こちらを誘引すると決まったわけじゃないですからね~」
「そうか。じゃ、やれることはドローンでの調査か」
「うへー……」
その晃さんの言葉に光さんは思わず嫌な顔をします。
いえ、きっと私も同じようだったと思います。
モニター越しに監視を続けるのは本当に面倒なんですよね。
と、そんなことを考えていると、田中さんから再び連絡が来ます。
『こちら田中。今大丈夫か?』
「はい。大丈夫です」
『いま大和君は一人か?』
「いいえ、晃さん、光さん、ヨフィアさんと一緒にモニターを見ながらヅアナオの感想を述べていました」
『ああ、それならちょうどいい。全員に繋いでっと。聞こえるか?』
田中さんがそう聞くと、晃さん、光さん、ヨフィアさんにもつながったようで各々が返事をしています。
『よし、改めて話を始めるが、その前にヅアナオについてそっちで何かわかったことはあるか?』
「先ほどですが、ヨフィアさんがここの兵士も東側連合を誘い出すための撒き餌なのでは、という話がありました。迎え撃つにしては微妙な数ということで」
『ああ、なるほどな。そういう可能性もあるな。そっちも考慮して情報を集めよう。で、こっちの話だが、簡単に情報収集だ。残念ながら俺も、ジョシーも監視だけをしている暇はないからな。ゴードル、ノールタル、セイールもモニター監視は出来るだろう? そっちに回ってもらおう』
「いいのですか?」
『下手にノスアムの人たちと接触させるよりはいいだろう。まあ、今では慣れているようだが』
そう、ノールタルさんやゴードルさん、そしてセイールさんたちも今では普通にノスアムの人たちと接触している。
炊き出しの手伝いなどで印象が良くなったというのもある。
とはいえ、積極的にかかわるのは微妙なところです。
ノスアムの人たちを信じていないというわけではないのですが、信じすぎるというのも問題ですからね。
私たちはあくまでもこのノスアムにおいては侵略者だというのは間違いありませんから。
『なにより、モニター監視は人を増やすしか負担軽減がないからな。ローテーションについては話し合ってくれ。まだまだ監視は続くから、そこは悪いと思うが頑張ってくれ』
そういって田中さんからの連絡が終わる。
「珍しいよね~。田中さんが悪いと思うって。戦いならやることやらないと死ぬって言って僕たちをボコボコにしてたのにね」
「別に珍しくもないだろう。田中さんの目的は今回俺たちの訓練ってわけじゃないからな」
「ですわね。今回のは監視をちゃんと行えるようにということですから」
「ですね~。無理をしたからって、強くなるような話でもないですし、私が呼んできましょうか?」
「はい。よろしくお願いいたします」
私がそう言うとヨフィアさんは即座に出て行ってノールタルさんたちを呼びに行く。
「そういえばノールタル姉さんたちっていまどこにいるんだっけ?」
「ん? 確かこの場所のはずだぞ?」
「ええ、炊き出しとかお手伝いが無い限りは基本的に割り当てられたこの区画にいるはずです。一応私たちも軍属ですからね」
色々と面倒なのですが、トラブルを避けるためにもこういう分け方は大事なんです。
最近は私たちは会議で領主館の方に出向いていましたし、ノールタルさんたちは元気でしょうかと思っていると。
「おーい。きたぞー」
「お待たせしました」
「なんかあっただべかー」
と、そんなことを言いながらノールタルさんたちが入ってきます。
ですが、場所はそこまで余裕がないので、特にゴードルさんは窮屈そうにしています。
「あー、場所変える?」
「そうだな。会議室用のコンテナに移動だな。あ、でも監視があるし、俺が残っておくから、説明とローテンション決めてくれ」
「いいのですか?」
「ああ、俺はこの後のシフトは休憩絶対でよろしく」
そう言って晃さんはモニターへと視線を向ける。
そこまでされては私たちとしても何も言えませんし、休憩を約束して会議室用のコンテナへと移動をします。
そこで改めて、ノールタルさんたちに現状を説明します。
「ふぅん、私は軍事に関してはよくわからないけど、ゴードル的にはどうよ?」
「状況から見るに、ヒカリたちが言うことはわかるべ。迎撃するには微妙。だども、こっちの行軍や偵察が早すぎたって感じもあるべだからな~。タナカの言うように偵察が大事だべな~」
「私も軍に関してはさっぱりですから、ゴードルさんやタナカさんがそういうのであればそうなのでしょう。では、私たちはドローン監視の交代要員ということですね」
「だねー。退屈だけどやらないとねー」
そんな感じで、ローテーションを決めていくのでした。




