第414射:到着
到着
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
田中さんからの連絡を受けて僕はさっそく領主館を出て晃がいる車の方へ向かう。
今となっては、護衛の兵士も必要なければ、僕たちに露骨に襲い掛かってくる人もいない。
むしろ……。
「お、ヒカリちゃんじゃないか。お仕事かい?」
「うん。ちょっと急ぎなんだ~」
「なら、こっちを持っていきな。今日のとれたてさ」
そういっておばちゃんがぽいっと、リンゴっぽい果物をくれる。
これってこの大陸ではどこにでもあるやつで、それなりに甘いくて美味しい。
まあ、日本のリンゴとかには及ばないけど、それなりに食べられる。
「ありがとー」
僕はそれを受け取りつつ、おばちゃんに手を振って走っていく。
その間も、子供連れのお母さんとか、兵士の人とかと軽い挨拶をしながらルーメルに提供されている空き地へとやってくる。
ここはルーメルの軍が駐留していた外じゃなくて、ノスアムの町の中にある。
場所は倉庫街の空き地で、トラックのコンテナがずらーっと並んでいる。
しかも縦にも積み重なっていて、中も階段が付いていて移動ができる。
所謂トレーラーハウス。
意外と内装もおしゃれでどうしてこんなのを出したのと聞くと。
『傭兵団だったとしても客商売だから。ボロボロの汚いところで武器を持ったやつと話し合いをして信じられるかっていうことだ』
凄く納得できる話を聞いた。
田中さんのところはいわゆるPMCっていう民間軍事会社の前身で、傭兵団からPMCに正式に切り替えようってところで全滅したんだって。
うん、思い出しただけでどこが民間会社だよって思うけど、傭兵ならそういうもんかって今ならなわかる。
命を懸けているんだからそういうことも起こるんだろう。
だからこそ、妙なところでっていうか、お金を惜しまず使っているんだろうなーって。
明日には死体になっているかもしれないしからね。
お金はあの世に持っていけないってジョシーも言ってたしね。
そんなことを考えながら僕は晃が仕事をしているコンテナ車両について中に入る。
このトラックコンテナの中は臨時作戦室と、これ一つである程度運用できるようにしていて、結構物が多い。
「狭いよねー。まあ、これ一台だけ逃げだせば最悪大丈夫って予定だし、当然なんだけど」
小柄で可愛い私でも狭いと思うし、撫子やヨフィアさんとかは苦労するんじゃないかなーって思う。
まあ、そこはいいとして。
「おーい、晃~」
このコンテナの奥で監視をしているはずの晃に声をかける。
田中さんに言われたことを伝えるために来たんだし。
で、声をかけてすぐに返事がある。
「んー、光か? ようやく交代してくれるのか?」
そんなことを言っておくのモニター室から顔を出す。
「ほんとーですかー?」
ついでにヨフィアさんも顔を出す。
2人とも目が辛そうというか死んでいる気がする。
まあ、モニターを見続ける作業ってつらいしねー。
「そういえば、頼んでどれぐらいたってる?」
「えーと、朝からだから今3時すぎぐらいだろ? 6時間ぐらいか?」
「そのぐらいですねー」
僕の質問に二人ともちょっと考えて答える。
普通なら悩むような計算じゃない。
つまりそれだけ疲れているってことだ。
うん、しまった僕たちが頼りすぎた。
「とりあえず二人とも、そこから出て、僕が代わりに入るから。休憩しつつ話を聞いてくれるかな?」
「ああ、わかった」
「助かります~」
そういってのそっと二人が出てきて、僕が代わりに部屋にはいる。
そこには多くのモニターが存在していて、僕と撫子が出ていった時とあまり変わり映えはない。
それを6時間続けてみているってこと。
うん、こりゃ辛いよね。
そんなことを考えつつ、僕は撫子に連絡を取る。
『はい。こちら撫子です』
「僕だよ。今撫子は何しているの?」
『私の方は人の出入りの確認を進めているところですが、何かありましたか?』
「あったというか継続していたというか、ほら、晃に監視任せっぱなしだったでしょ?」
『あ』
撫子も忘れていたようで、僕が指摘すると今思い出しような声を出す。
「今、田中さんからの連絡で晃に話すことがあって戻ってきたんだけどさ。流石に6時間も任せっぱなしだし、交代しようかなーって」
『わかりました。私の方もあとは兵士の皆さんに任せてもいいですし、戻ります』
撫子の方もすでに自分が指示しなくてもよさそうで、こちらにすぐ来るってことになった。
「で、俺に話したいことってなんだ?」
「ヒカリ様もコーヒー飲みますか~?」
「ちょっとまって、撫子も来るから揃ってからね。で、コーヒーはもらうよありがとう。撫子も来るから用意お願い」
「わかりました~」
と返事を聞きつつ、僕はモニターを確認する。
相変わらず、人の行き来は確認できない。
「ねえ、晃、次の町にはまだ到着してないんだよね? モニターこれだよね?」
僕は道が映っているモニターを指さして晃に確認を取る。
モニターの配置って自由に変えられるし、間違っていないか聞かないとね。
「ん? ああ、そのモニターで間違いない。で、映っている通り6時間かけてもまだ到着していないな」
「随分遠いんだね」
「まあ、ドローンが早いっていっても人が通る確認もあるし、ドローン自体の速度も実はそこまで出ていないよ。精々30キロぐらいか?」
ああ、なるほど。
確かにドローンの最高速度は60キロぐらいだけど、その速度で移動すると人の確認は難しい気がする。
そうなると思いのほか進んでないわけだ。
「そうなると進んでいるのは30キロ×6ってことで180キロってところ?」
「まあ、そうだな。とはいえ光たちと交代したときに移動をしていたみたいだからどこら辺っていうのは分からないけどな」
「そうなると、結構次の町まで距離があるってことか~」
180キロ進んでも町が無いって日本じゃまずありえないことだし。
「別に直線ってわけじゃないしな。道なりにうねっているし、もっと距離はあると思うぞ」
「そうですね。道は土がむき出しの道ですし、天候によって荒れ具合とかもあるでしょうから」
「うへー。そんな距離を軍が移動するっていうのも本当に大変なんだね~。えーと、180キロ以上ってなると、僕たちが見ていたのが2、3時間前だったし270キロだよね。大体日本で言うと……」
「そうですわね。まあズレはあれど都道府県で言うのであれば東は福島、西は名古屋ぐらいでしょうか?」
そんな声が聞こえて出入口を見ると到着した撫子が立っていた。
「あ、こちらにどうぞ。コーヒーとチョコです~」
「ありがとうございます。それで、270キロが何でしょうか?」
「ドローンを次の町に飛ばして、進んだ距離ってやつだよ」
僕が答える前に晃がそういう。
すると、撫子が少し難しい顔をする。
「……道を歩くとなると300キロ以上ですか。人の足、馬車とかだと一日に20キロもいけばいい方ですし、15日以上の行程ですわね。軍などの集団移動になればもっと時間がかかりますわ。確かヅアナオでしたか? 本当にそれだけの距離があるのに他の町が無いのですか?」
撫子はなんでそんなことを言い出したんだろうと首を傾げる。
だって、町の確認は僕たち全員でしているんだ。
しかもノスアムのジェヤナだけじゃなくて、他の人たちも一緒に地図を覗き込んで。
今更全員が嘘をついてだましていたとか、ありえないと思う。
その僕の疑問を察したのか撫子はすぐに訂正を始める。
「ああ、いえ。ジェヤナさんたちが嘘をついているという話ではないのです。この工程を旅していると考えると補給もできないのですよね? 15日も無補給となると……」
「ああ、大荷物になるよね」
一人旅するだけでも15日分の飲食量だけでもとんでもない量になる。
軍ともなるとさらにだよね。
「ルーメルから出た時も大体10日はかかってないよな?」
「そういわれると確かに」
馬車に揺られて旅していた時もそこまで無補給はなかったような気がする。
「まあ、皆さん落ち着いて、確かに町はありませんが、ポツポツと村は存在していますよ。そこで補給は受けられるでしょうし、小川も存在します。あと、理由は聞いてみないと分かりませんが、西と東を分けている山脈の森には強力な魔物がいたようですし、それを考えると、防衛のための距離とも言えなくもないですし。ほら、ロガリの方ではラスト王国がある中央の大森林の近くにはあまり町はなかったですよね?」
「確かに、最前線の町であるアスタリの町以外は近くの町はありませんでしたわね。砦などはあったようですが」
ああ、脅威があるから近くに町を簡単につくれないってことか。
と、そんなことを話していると、映像にあるものが映るのが確認できた。
それは……。
「町だ」
「「「え?」」」
僕の声に3人ともモニター室に集まってきてそれを見る。
ドローンが映す映像の先には確かに、町が存在していた。




