第410射:人の出入りについて
人の出入りについて
Side:ナデシコ・ヤマト
「うへー……。コレマジ?」
光さんが用意されているモニターの前ですごく嫌な顔をしています。
その気持ちは私もよくわかります。
何せ……。
「またモニターの監視……」
そう、椅子に座ってずっとモニターを見つめるという拷問をしなくてはいけません。
ですが、この拷問にも理由があるのです。
「光さん。仕方がないんです。敵が包囲殲滅を狙っている可能性が高くなっているのですから、どこでそういう攻撃を受けるか、しっかり調べないといけませんから」
私はそう田中さんに言われたことを繰り返し伝えます。
「わかってるよー。でもさー、まだどこに敵がいるかもわかってないんだよー」
「一応、ジェヤナさんから聞いた町などを優先してドローンを飛ばしましょう。そこから補給をしているはずですから、多少は楽になるはず……です」
田中さんとしてはジェヤナ、というかノスアムが知らない拠点があってそこから攻撃をかけられることを警戒しているのです。
確かに、敵がノスアムを占拠していると知っているなら、ノスアムが知らないところに隠れて攻撃をするほうが相手を混乱させられると思うのは当然でしょう。
だからこそ、そんな隠し拠点のような場所があるのであれば、町などから大きな補給をしているはずだからわかるはずだと。
後は、その町を見つけて補給をしている部隊を追えばというわけですが……。
「その町ですらどこだよーって話なんだけど」
そう、光さんの言う通り、まずはその町がどこにあるのかを探すところから始まります。
「……一応ジェヤナさんから提供された地図はありますけど」
「あの落書き地図が役にたつわけないじゃん。幸いなのは一応道はつながっているってことだけ」
「まあ、それでもいいではないですか。おかげで迷うことはないですし。前の魔族と町のゾンビを連れた集団を探すよりもまだましです」
「確かに、あの時よりはましだけどさー」
あの時は本当につらかったです。
道らしい道もなくとりあえず山を飛んで敵を探すという、本当に目の痛い方法でした。
それに比べて、道をたどればいいというのはかなりましです。
とはいえ、この落書きレベルの地図ではどれぐらい行けば町にたどり着くとかはさっぱりわかりませんが。
国防上仕方がないというのはわかりますが、防衛はもちろんこれからをを考えなければならない立場になった私たちにとっては非常に面倒としか言いようがありません。
「しっかしさー。道をたどってはいるけど、人もいないよねー」
「それは仕方ありません。まずはノスアム西砦があるのですから、そこまでは人の行き来はないでしょう」
「あ、そっかー。今はジョシーたちが行ってるから普通に人は通らないか。ってそれはそれでおかしくない? ノスアムの町の規模を考えると毎日出入りあってもおかしくないでしょ?」
「……そういえばそうですわね。とはいえ、敵が町を囲んでいれば人は離れていくのではないでしょうか?」
「うーん、確かに撫子の言う通りではあるんだけど、短期間で制圧は終わったでしょう? そのあとは兵士は確かにいたけどさ別に商人の出入りに関してはあまり関係ないんじゃない? 商売ってそういうもんでしょ?」
「いえ、それは間違いではありませんが、こちらの世界は違います。商人は下手に正体がわからない軍には近寄らないという話を聞いたことがあります。軍とは言え万全とは限りませんから、徴発される可能性があると聞きました」
「ちょうはつ……えーと、奪い取るんだっけ?」
「……その通りです。有無を言わさず料金を支払わず。奪うのです。そんな目に合えば商人はひとたまりもありませんし、下手をするとその後の悪評が広まるのを避けるために……」
最後まで言いませんでしたが光さんは分かったようで顔をしかめます。
「そっかー……。そうなると人が近寄らないっていうのはそうかもね」
「とはいえ、知り合いが戻ってくるとかはありそうですが、その出入りがあったかなどは確認した方がよさそうですわね」
「あ、そっか。商人じゃなくてもどこか出ていた人とかもいるかもしれないしね。そういう人が戻ってきたっていうのはあるかもしれないね」
「そなると、ジョシーさんたちが遭遇している可能性はありますわ。連絡を取ってみましょう」
「そうだね」
ということで、私たちはジョシーさんに連絡を取ってみます。
何か仕事でもなければすぐに出るはずですが……。
『おう、どうしたんだい?』
あっさりと私たちの連絡に応じてくれました。
「やっほー。ジョシー、そっちは無事に制圧できたって?」
『ああ、敵さんが戦う前に降伏してくれたからな。賢かったってわけだ。おかげでこっちも降伏してきた兵士を無下に扱うわけにはいかないから面倒だよ。ダストに上の確認をとってもらっているとろさ』
なるほど、確かに降伏してきた兵士たちの扱いを勝手に前線の兵士が決めることはできませんわね。
戦いで死亡したのならともかく、最初から降伏したのですから殺害するというのは風聞が良くありませんし、うまくいけば現地協力者として戦力にできます。
『で、私の状況を確認するために連絡してきたのかい?』
「あ、ちがうちがう。ジョシーに聞きたいことがあってさ」
『聞きたいこと?』
「そう。ジョシーたちが進軍しているときにノスアムに向けて動いている人っていなかった?」
『ノスアムへ向かう人?』
「そうそう。戦争していたっていっても、全員に情報が届くわけもないしさ、商人じゃなくて、ただノスアムから用事で出ていってた人がいるかもしれないでしょ? その人たちが戻ってくるかもって」
『……なるほど、言いたいことは分かった』
流石というべきでしょうか。
戦いのことに関しては本当に鋭いですね。
『確かに戦闘時間は一日で終わっているし、早馬は出したとはいえ、一般人まで規制が間に合うかっていうと微妙なところだよな』
「うんうん。ノスアムに戻りたいって人もいるだろうし、こっそり出ていく人もいると思うんだよ。そういう人たちに出会った?」
『いや、言われて気が付いたが、誰一人出会ってないな。ドローンで進攻ルートの確認は怠ってはいないから、道を歩く人がいれば気が付く。しかし、それがないってことは完全にどこかで足止めをされているってことだよな?』
「うーん、よくわからないかなぁ?」
ジョシーさんの返事に対して光さんはもちろん私も明確に答えることは出来ない。
でも、人がやってこないということに対して違和感があるのは間違いありません。
『私の方でもちょっとその関係を調べる。ヒカリとナデシコたちはノスアムの人の出入りを調べろ。あ、見つけても勝手に動くな。こっちの、いやダストの指示に従え。連絡は密に、一時間、いや30分の定期報告をしろ。なければトラブルに見舞われていると判断する』
確信がない私たちとは違い、ジョシーさんは何か危険なものを感じるようで明確に指示を出して来ます。
これは思ったより危険な事態になっている?
そう光さんと顔を見合わせていると、その無言の時間を察したのか……。
『ああ、危険度はそこまでは無いと思っているから心配するな。ノスアムのお嬢ちゃんたちが何かを企んでいる気配はない。問題は出入りしている連中を調べることで、敵が対応策を取ることだ。だから話を聞くぐらいに済ませておけ。そしてアキラたちも車に基本的にはいるようにした方がいいって話だ』
「下手に町に出るのはよくないと?」
『元々迂闊に出歩くのは良くないって言われているだろう? 作戦行動中ってことで押し通せばいい』
「えーと、ジェヤナたちには?」
『素直に伝えた方がいい。こっちが隠して動き回ると向こうも不安がるだろう。私はこれからダストの方に連絡を取るから、頼む』
「わかりました」
ということで、私たちは早速ジェヤナさんへ住人の出入りについて確認をすることとなりました。
あ、代わりに晃さんにはモニターの監視を任せましたから大丈夫です。




