第408射:穏やかな留守番
穏やかな留守番
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
田中さんがユーリアを連れて行って、気が付けば空には太陽が昇っている。
僕たちはあれから田中さんたちを見送って特に動きは無し。
ノスアムの人たちもいつもの通り。
「まあ、何か反乱とかあっても大変だけどね~」
「言うなよ。現実になりそうで怖い」
晃はそう言って顔をしかめているけど、僕はそう思わないけどね。
確かに反乱があったら大混乱だろうけど、そうなる理由がないもん。
まあ、注意はするけどさ。
「ですわね。それに連絡ではそろそろ西ノスアム砦にジョシーさんたちが攻撃を仕掛ける時間です」
あ、撫子に言われて思い出したけど、ノスアムを出た東側連合は本日のお昼前ぐらいに砦に到着して攻撃を仕掛けるって言ってたな。
戦力的にも問題がないので、全然心配してなかった。
ジョシーが率いる戦車隊が負けるとかありえないし。
まあ、でも制圧するための歩兵がやられたら町を滅ぼすしかないって言ってたから下手な損害は認められないとは言っていたけど、それも敵が待ち構えている王都とかその近辺の話。
砦で時間はもちろん兵力もそこまで減る予定もない。
だから僕はそこまで気にしてなかった。
むしろ……。
「砦の人たちさっさと降伏した方が被害が少ないのにね」
「そりゃ、戦力差もあるからそうなるといいんだろうけどな」
「あまり楽観はできませんわ。人は追い詰められるとどんなことでもしますから」
撫子の言うことは分かる。
今まで色々経験してきたからさ、人って追い詰められると突拍子のない行動にでるし、妙な馬鹿力を出したりする。
生きるってなんでもするんだよなーって。
僕自身も経験したし、オーヴィクたち助けるために無茶な回復魔術使ったりしたしね。
「でも、ジェヤナたちが反乱を扇動するにはまだ早いって感じだから多分大丈夫だよ」
「まあ、そこは同意だな。ジェヤナは俺たちに好意的だし、町の人とも多少は仲良くなっているしな」
「物資の提供がうまくいったようですね。下手に何もしないクホール王国よりも潤沢な物資などを提供してくれるルーメルの方がノスアムにとっては有益な相手と考えるでしょう」
「だよねー」
どっちが便利とか強さを考えると普通はこっちにつくよね。
別に土地の人を弾圧しているわけでもないし、お金を巻き上げているわけでもない。
占領というより土地を又借りしている感じだしね。
「だけど、それは俺たちが有利な時までだろう? こっちが不利になればノスアムは自分の立場のために敵になるしかない。ジェヤナは普通にそうするよな?」
そこで晃は普通に同席しているジェヤナに話しかける。
「えーと、ストレートにそういわれると、はい。としか頷けないのですが……私もこのノスアムの領民を守る必要がありますので」
ジェヤナはびっくりした様子で、素直にというか苦笑いをしながら返事をする。
「別にそこまで怖がらなくていいよ。そういう時は仕方がないって。ああ、逃げるときに見逃してくれるぐらいはしてほしいけどね」
「ですわね。退路を塞がれると攻撃をせざるを得ませんから。そこはこっそりお願いしますわ」
「はい。構いませんよね、叔父様?」
「ええ。その時はそれが最善でしょう。私たちは今更ルクセン様たちに武器を向けられませんし、向けたところで勝てる気はしませんから」
うんうん、だよねー。
僕たちも武器を向けたくはないし、敵対して攻撃してきたら田中さんとかジョシーは遠慮なく殺すと思う。
そして混乱しているうちに撤退ってなると思う。
「しかし、正直な所負けるというのはありえるのでしょうか?」
叔父さんの方が私たちに質問をしてくる。
「あの兵器があれば敵の数などモノともしないはずですが?」
「あー、確かにそうですが、制圧できる兵士がいないと滅ぼすしかないですからね。ノスアムも守れはするでしょうけど、周りとの接点は切られる。それはノスアムとしてはよろしくないのでは?」
「ふむ。確かにノスアムの視点ではそうですが、連合軍としては拠点としてほしいのでは?」
「そこは私たちが判断することではございませんが、飛び地になりますので、維持する労力が見合うかという話になりますわ」
叔父さんの疑問に撫子が答える。
「「飛び地?」」
僕とジェヤナの声が重なる。
「そうです。飛び地です。敵に囲まれたところの拠点という意味ですね。補給も出来なければ攻撃をいつ受けるかもわからない。そんな場所を守る意味があるのか?という話になるわけです。そして孤立して辛いのは兵士だけではありません、ノスアムの人たちもです。敵の味方をするノスアムの人たちをこの地の人たちが見逃しますか?」
「……なるほど。確かに敵の力を削ぐために田畑はもちろん人手を削るために襲うというのはよくあることですね」
「えー、そういうの普通にするの? 民間人に手を出すってさいてー」
「光、戦争ってそういうもんだよ。で、そんなことがあるとノスアムに俺たちが居座っているのが悪いって話になりかねない」
「なるほど、確かに戦争で勝てても内部がというわけですね」
「そういうことです。それでその状態はノスアムにとってもよくはありません」
「確かに」
なるほどねー。
僕感心しちゃったよ。
まあ、嫌がらせは周りからやる人もいるしね。
そう言うやつだろうと思っていると、不意に晃が立ち上がったと思ったら。
「ちょっとトイレ」
「いってらー」
僕がそう言うと晃は部屋を出ていく。
余程ギリギリだったみたいだ。
「戦争とは難しいものですね。敵を倒せばと思っていましたが、アキラ様やナデシコ様の言う通りその後を考えなければいけないのです」
「私も想像が追い付いていませんでしたな」
ジェヤナはともかく、叔父さんまで関心しているか疑問だったので僕の方からも質問をしてみる。
「ねえ、あまりここら辺って戦争はないの?」
あの様子だと戦いに出ている感じじゃなかったからね。
「はい。私がこのノスアムを治めるようになった時は盗賊の討伐ぐらいでした」
「ジェヤナ様の仰る通り、私も含めて戦争を体験しているものは少ないでしょう。あるとすれば魔物退治ぐらいでしょう」
「平和だったんだー」
僕はその返事を聞いてそう言うと、ジェヤナと叔父さんはちょっと違うって感じの顔になり。
「いえ、私たちが平和なのは間違いありませんが、ノスアムがというとちょっと違います」
「このクホール王国も他国と隣接していますので、そちらの国境争いなどで小競り合いは多々起こっています。そこで戦争は起こっているのですが、このノスアムは西の最後の町であり、森からくる魔物との戦いがメインとなっているのです」
「あー、つまりノスアムは戦争とは縁遠かったけど、クホール自体は戦争があったわけだ」
「その通りです。なので父の代では出兵の要請を強制されたようですが、今は全然」
「当然です。無用な戦争で先代様は戦死されてしまった。そのおかげで数年の兵役を逃れているのです」
なるほど、戦争でジェヤナのお父さんは亡くなってそのお詫びっていうのは変だけど、その代わりに戦争に出なくてよかったんだ。
「何より、西魔連合が出来てから戦争はぱったりととまっていますので、ここ数年は平和という意味では確かにそのとおりなのでしょう」
「なるほど。ここ数年は確かに戦争は無かったのですね。しかし、それを考えるとやはり……」
「変な話だよねー。他の国が東側に逃げたって話は知らなかったってことだよね?」
「ノスアムが管理するルートを通ったというのがないのは確かです」
何かが起こって魔族という化け物が生まれて、国が乗っ取られたって話が東側の話なんだけどね。
こっちにはそういう話が全く伝わっていない。
本当に不思議。
そう思っていると、トイレから晃が戻ってきて。
「今連絡があった。ジョシーさんたちは無事にノスアム西砦を落としたってさ」
「「「おー」」」
分かってはいたけど、快勝の連絡を受けるとやっぱりこういう反応しちゃうよね。




