第407射:まずは予定通りに
まずは予定通りに
Side:タダノリ・タナカ
夜中の運転。
それだけを聞けば特に何の不思議もないことだろうが、これが異世界となれば違う。
いや、それも違うな日本以外となれば違う。というのが正しいな。
あれだけ電灯のなどの配備が済んでいる国はそうそうない。
夜の移動となれば真っ暗な道を車のライトのみで突き進むことになる。
下手をすれば、強盗などに足止めをされることもままある。
紛争地帯などになれば盗賊というか武装集団に襲われることもある。
まあ、そこまでの場所なら昼に移動しても大して変わらないけどな。
それでこっちはそんな盗賊や夜盗とかが普通にいる異世界。
そんな世界の夜間移動となればそれだけ気を遣うのだが……。
「装甲車ともなれば、そこまで心配はないか」
『そりゃそうだろうさ。普通に考えれば装甲車に手を出すなんてよほどの武装組織だけだ。RPGやアンチマテリアルライフルでもなければ手を出さないぞ』
俺のつぶやきにジョシーがそう返す。
確かに装甲車なんて火力が無ければ突破できないし、突破したとして後で出てくるのは軍だ。
下手に手を出せば軍が出てきて殲滅される。
それを考えるとテロリストたちはある意味根性が座っているんだろうなと思う。
「ここは現代の軍なんて知らない場所だろう? 多少は出てきてもおかしくないと思っていたんだが」
『こっちの正体は知らなくても、ここら一帯の敵対組織は蹴散らされているしな。何よりこの速度に追いつくこともできなければ無理だね』
「あーそっちの問題もあったか」
現在の時速は60キロ。
随分安全運転のように見えるが、馬車はせいぜい時速5キロから10キロ、人の足は4キロ前後、馬だけでも20から30キロとなると、数倍の速度で移動していることになる。
足がメインの盗賊が追い付けるはずもないか。
『それでガキたちにノスアムを任せてよかったのか?』
「メイドたちもいるから大丈夫だろうさ。死ぬなら死ぬでそれで終わりだ」
『ダスト。お前帰るために必要とか言いつつ、そこらへん扱い酷いよな』
「何から何まで面倒なんか見てられないからな。やれることはしたしそれで無理ならどうしようもない。俺は何でもできるわけじゃないからな」
あくまでも一緒に帰った際に悪評を広げられると困るという程度だ。
流石に学生たちを蔑ろにしたなんて言われればその地域で働くのは無理だろうしな。
打算沢山の大人の思考ってやつだ。
そしてその意図はジョシーに伝わったようで。
『いやらしい大人なことで』
「傭兵に何を求めているんだか。ガキを世話しただけマシだろう」
戦場で子供を拾って育てるなんざ余程酔狂だろうしな。
『お前も育てられた口だろうに。血がつながってなくても似るのかね』
「弾避けには優秀だったんだよ。国は勇者様は大事にしたかったらしいからな」
『露骨だなねぇ。ガキどもが聞いたら落ち込むんじゃないか?』
「そういう側面があるのは既に言っている。ついてきているのはルクセン君たちの意思だ」
そんなことで内部分裂なんて面倒だからな、そういうことは伝えている。
というか国が勇者という手札を欲しがっているという風に曲解はしているけど、俺の意図も伝わっているだろう。
それが分からないような子供じゃない。
『ちっ、詰まんないねぇ。ガキはガキで成長しているってことか。平和ボケしている所から来た割にはと思ってたけど』
「そんな甘い考えのまま生き残れる場所じゃないからな。毎回トラブルに巻き込まれてたら面倒だ。帰還の目的を果たすには非情も必要だからな」
流石に何でもかんでも助けるようなアホを連れて行くわけはない。
だからそこで意見が割れれば見捨てるつもりだった。
まあ、3人ともそこは察しが良くて助かった。
いや、下手を打ったルーメルに感謝するべきか?
『で、そこはいいとして、砦の攻略は手筈通りで良いんだな? 予定通り明日の昼前には到着するぞ?』
「ああ、門を砲撃で吹き飛ばした後の突撃占領は他所に任せろ。それである程度満足してくれるといいんだが」
『どうだろうねぇ。まあ、あの連中も被害が少なくて功績を貰えるならその時は大丈夫だろうが、それで満足するかというとねぇ……』
「砦内部に金銀財宝が詰まっていることを祈っておけ」
『そりゃ無理だ。ありえない。ドローンでこっそり偵察してみたが中身は普通だよ。武器に食料、消耗品ぐらいだ。金目の物なんてあるのかってぐらいだ』
「そりゃそうだろうな。砦で役に立つのは金銀財宝じゃなくて武具や食料、消耗品だ」
金銀財宝を詰めていたら何を考えているんだってなるしな。
それが当然だ。
「じゃ、やっぱり止まらないだろうな」
『だね。ああ、面倒だ』
「とりあえず、被害がないように努めてくれ」
歩兵が減ってしまえば拠点の制圧、維持なんてできないからな。
砦の攻略で致命的に減るとは思わないが、注意しておくのは当然だ。
これから敵の準備が整っているところに行くんだから、せめて万全の体制を整えておきたいよな。
そう思っていると……。
『なあ逆に、砦で致命傷受けて撤退した方が総合的にはありじゃないか?』
「敵の対応は遅くなるだろうが、こっちの手間も増えるだけだしな。士気も落ちていくし微妙だな。とはいえ、ここで負けておけば撤退は楽だろうな」
『だろ?』
「とはいえ、負けるような戦力差じゃないんだろう? 後ろから撃つわけにもいかん」
『まあ、やりようはあるさ』
「それは俺でも思いつくが、わざわざ味方を減らす理由にもならん。攻め込めるなら攻め込んだ方がいいのは間違いないから、しっかり支援してやれ」
ジョシーの言葉の端々からやるぞという感じがしたので、くぎを刺しておく。
敵にやられるよりも、味方にやられるほうがいろいろな意味でダメージがでかいし、俺たちが最悪敵認定されてしまう。
そうなるぐらいならしっかり支援して信頼を得た方がいいだろう。
『わかってるよ。大人しく門を吹き飛ばす支援をするさ』
「頼むぞ。その間にこっちは話をつけておくから、そのあとの説明をする時間を作っておいてくれよ。勝手に進めさせるな」
『そこはやってみないとわからないね。砦を落としたあとどれだけ余力が残っているかになるかだからね。得られるものが少なすぎれば憤慨して突き進むこともあるからね』
「いや、それこそ攻撃してでも止めろ。それぐらいは許す。犠牲は出すなよ」
『それこそこっちに反感を覚えそうだが?』
「負ければ東側連合の全体の問題になるとか、そういえばいい。そして攻めるために許可をもらっているとかな。命令がないのに動けば処罰するとかいってくれ」
『私が取り締まる側ってことか~。似合わないね~』
「お前は勝手に行動する側だからな。だけどやめろよ。本当に」
こいつなら本当にやりかねん。
命令を最初から最後まできっちり聞いたことの方が少ない奴なんだよな。
『前も言ったがな作戦自体を破綻するようなことはしないさ。私だって死にたくないし、無駄に働きたくもない。とりあえずできる限りはするが、結局上に話が通らなきゃ意味がないわけだが、そこはどう思っているんだ?』
「お姫さんやマノジルの爺さんの話だといけるだろうってことだ」
『そうなることを願うよ。というか、南側の戦線が破られたことで、各戦線に変化はないのか? 連合の動きは?』
「そこもついでに確認してくる。だが、ドローンの方から見る限りどっちも動きはないな。まだ通達がいってないんじゃないか? まだ南側を突破してノスアムを攻略して3週も経っていない。一月は軍を動かすのには時間がかかるだろうし、南側が落ちてから確認に着た様子もないしな」
『その可能性はあるか……はあ、不便なのって大変だな』
南側と突破してから随分経ったように見えるが、未だに敵は痛みを露わにするには時間が足りないという可能性があるのは、こちらにとってもある意味読みづらい状況だ。
「ともかく、砦を頼むぞ。こっちは許可と状況を聞いてくるからな」
南側を突破したことが確実に伝わったことで、各戦線がどう動くのかも見ものだ。
俺は暗闇の中、ジョシーに現状を聞きつつ車を走らせていくのであった。




