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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第403射:他の可能性

他の可能性



Side:タダノリ・タナカ



ジェヤナのお嬢ちゃんは、意外とモノノドオリは分かっていた。

いや、最初から賢い子というのは分かっていた。

ノスアムの住民が下っていて、部下もちゃんとついてきているからな愚かではないってことはわかる。

だが、軍の話にもついてこれるとは思わなかった。

そう言う話を……。


『そりゃいい話じゃないか。ただの子供に説明するよりずっとましだろう?』

「まあな。だが、賢いってことはそれだけこちらのことを警戒するってことだ」


まだ完全にノスアムが降伏したって判断もできない。

下手をすると寝首を掻かれかねないが……。


『別に気にすることじゃないだろう。そこまで用意周到ならもうまとめて始末するしか方法はないしな』

「お前は判断が早いな」

『こっちの安全を確保するならそれがいいだけって話だ。こっちがこれだけ譲歩を見せて敵対するからには、それ相応の結果がもたらせられるべきだろう。傭兵というか兵士も国も舐められたら終わりなんだよ』

「それはそうだ」


確かに裏切りには厳正に対応しなければその後の面子に関わる。

温いと思われれば、ずっとついて回り馬鹿にされた対応を取られる。

だからノスアムが裏切るようなことがあれば、潰すしかないわけだ。

結城君たちがどういおうが。

まあ、反発が面倒だから後日こっそり消えてもらうことになるだろう。


「で、そこはいいとしてだ。そっちは空の監視はどうだ?」

『それが全然。多分その空路ってのは部隊がものすごく少ないとか、運用が本当に限定的なんじゃないか? 普通に考えれば、最南端の防衛戦が突破されて、ノスアムが落ちて、こうしてノスアムの西砦までこっちが来ているのに敵が対応している様子はない。運用が連絡網としても機能しているなら、援軍は間に合わないにしてももうちょっとマシな動きをしていると思うんだがな』

「援軍が来るとわかって籠城しているんじゃないのか? まだ落としてないんだろう?」

『落とすどころか到着すらしていないね。いやー、徒歩は行軍が遅すぎてあくびが出る』


あ、そうか。

物資の疑問を持って質問をしたのは午前中だったな。

色々あって随分時間が経っているように感じたが、軍が西砦に到着するほどは時間が経っていないわけだ。


「……予想以上の遅さだな」

『人の足はびっくりするほど遅いんだね。向こうなら半日もすれば包囲されるどころか、防衛線突破した時点でノスアムが簡単に落とされるわけもないけどな』

「現代ならそうだな。まあ、というか防衛線の突破すら難しかっただろうが」


兵士と兵士がぶつかり合うような戦場じゃないからな。

塹壕を敷いて、戦車や敵弾はもちろん、最初は航空支援から入るし、制空権を争うための空戦、いやー規模が違いすぎるか。


『うーん。ちょっとまて、普通は戦線が突破された場合は迎撃が間に合う地点で防衛の再構築をするだろう?』

「ああ、そりゃそうだ。当然のことだろう? そうでなければ無駄に兵士や物資を消費するからな。やるなら捨て駒の遅滞戦闘をやるしかないが……ってまて」


自分で説明をして気が付いた。


「ノスアムとその一帯は切り捨てたって話か?」

『可能性はゼロじゃないだろう? というか元々、そういう計画は考えて動くもんじゃないか?』

「確かに」

『こっちの進軍速度だってあくびがでるほど。そして向こう側も主力の移動能力はそう変りがないだろう。敗走して兵が四散して状況を把握する時間とかを考えると、ノスアムで迎撃準備を整えるのは不可能と考えても特に不思議じゃないだろう?』

「そうだな。となると、敵はどこかで集結している可能性はあるか」

『あるだろうね。まあ、状況から考えてここはノスアムが仕えている国の本拠地だろう。えーとクホール王国だっけ?』

「あってるぞ」

『そのクホール王国の王都で人や物資を集めて反撃って所じゃないか? 移動手段はもちろん物資の備蓄能力も必要だろうし、ノスアムはそう言う意味では不便だしな』


確かにお嬢ちゃんはそういう所は自分で指摘していたな。


「俺たちは自分の感覚で考えすぎたってことか。遅滞戦闘しようにもできないか」

『いや、一応ノスアムやこっちの砦は戦う予定だから、遅滞戦闘とも言えなくもない。まあ、組織的な判断かというと疑問だけどな』

「ノスアムの方は自衛の戦力だけだったしな。砦の内部戦力も通常よりは多いかぐらいだ」

『そこは不思議だと思っていたんだが、まあ前線基地みたいな役割をしていると考えると不思議でもないさ』

「ああ、中継基地みたいなところか」

『そういうこと。ノスアムの町も出来なくはないだろうが……』

「領主はもちろん住民とのトラブルを考えると避けた方がいいか」

『あとは情報漏洩とかな。軍人以外の接触が多いのはどうしてもアレだしな』

「敵が入り込むか」

『そういうこと。こっちの世界にはパスもなければ、情報漏洩のシステムもなさそうだしな』


こっちの世界にセキュリティとか期待するだけ無駄だよな。


「じゃあ、こっちは引き続きお嬢ちゃんたちにクホール王国の話を聞く方がいいか」

『だね。王都以外にも何かある可能性はあるし、そこは詳しく聞いてくれ。あ、あと敵が迎撃態勢を整えているとしたら、常套手段としては攻撃は早めた方が、敵も焦るはずだが、どうする?』

「それはお前が勝手に動いて砦を落とすって話だろ?」

『そりゃそうだろ。歩兵が砦に取りついて落とすとかどれだけ時間がかかるか。一応兵力差はあるが、それでも時間はかかる。何のために攻撃早めるって意味だと思ってるんだよ』

「言っていることはわかるが、今回は歩兵の部隊に戦功を譲るって話なのは知っているだろう? 活躍の機会を奪うとこっちも面倒だ」


背中から刺されるとか勘弁だからな。

余裕ができている今の状況だとあり得るのが怖い。

現実でも嫌な部隊の始末ぐらいは普通にするからな。

それが傭兵ならなおのこと簡単に使い潰す。

だからこそ傭兵は周りの情報収集を入念にする。

全滅なんて誰だってしたくないからな。

その原因を作るのも勿論避けて通るのが普通だ。


『言っていることはわかるけどな、下手をすると私たちが全部割を食うことになる可能性もあるんだぞ?』

「わかっている。だからまだまて、こっちからそっちの進軍の指揮官と話す。お前に文章データ送るから印刷して渡せ」

『ああ、なるほど。こっち独自の連絡網で押し通すってわけか。言うことを聞かなければ?』

「その時は仕方がない。忠告はしたし、この連絡は本部も知っているってことで全責任は貴官が担うというのであれば問題ないって伝えてやれ。あ、もちろん戦功は譲るっていうのはわすれるなよ?」

『戦功があれば黙るか? まあ、そこは分かった本部にも連絡をやっているとなると勝手な行動はしないだろうさ。とはいえ、本部からの命令書でもあればなおいいな』

「そっちは手早く用意できるかはわからんが、やってみよう」

『おう頼む』


ということで、ジョシーとの連絡は終わる。

さて、また戦況が様変わりしたな。

敵は慌てているとか対応が遅いというわけじゃなく、対応できるところで準備をしているっていう可能性が出てきたわけだ。

あー、情報部の真似を俺が個人でしているってだけだが、非常に大変だ。

とりあえずは、結城君たちはもちろんお姫さんたちを集めてまた詳しく話をする必要があるな。

敵はもっと奥で迎撃態勢を整えている可能性が高くなったこと、それにどうあたるべきかという話だ。


「もうめんどくさいから、ミサイル出して吹き飛ばせばイーじゃないかと思うこともあるんだよな」


俺は現状の厄介さに勝手に知らぬ間に敵が爆散していなくなりましたってのもいいかもしれないと思ったのだ。

どうせ地球の専門家がいるわけでもない。

再現もできない、知識もない。

つまり結果的には原因不明の事故としかならないわけだ。

まあ、関係のない人たちが吹き飛ぶ可能性が大いにあるが、結局の所、戦争をしているのだからどちらにしても同じこと。

いや、ここで敵の本拠地を吹き飛ばした方が結果的には犠牲者の数は少なく済む可能性の方がむしろ高いだろう。

ただ問題なのが、それを起こす側のメンタルというやつだ。

ボタン一つで多くの命を消し飛ばす。

それを背負えるかというと、俺は気にしない。


敵は殺す。


その前に降伏勧告があろうがなかろうが、そういうのはケースバイケースなだけだ。

余裕があればしてやる程度。

今回は、俺にとっての余裕が……。


「田中さん。何か物騒な顔をしてますが? 何かございましたか?」


そう声をかけられて振り返ると、大和君を先頭に他のみんなが集まっている。


「ああ、ジョシーに今日の話をしていた。プラス空の監視について聞いてた」

「あ、空って何か見つかったの?」

「全然」

「えー」


期待が外れたと言わんばかりに声を上げるルクセン君。

とはいえ……。


「代わりに別の可能性が出てきた。それを話そう。部屋に行くか」

「あ、でも晩御飯らしいですよ?」

「そうか、そんな時間か。じゃ晩御飯食べたあとでだ」


こんな感じで俺が物騒なことを考えていたことはすっかり忘れてもらうことに成功したのであった。



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