第401射:陸路でないのなら
陸路でないのなら
Side:タダノリ・タナカ
「はい? 南側戦線への補給物資ですか?」
「はて? そのような大量の物資は我が領にはありませんが?」
結城君たちに頼んで話の席を設けてもらったが、領主であるお嬢ちゃんはもちろん、実際運営をしている叔父に至っても同時に首をかしげている始末だ。
配下の重臣たちも同じように首をかしげている。
とぼけているにしては、真面目に何を言っているんだって感じがして、嘘を言っているとは思えない様子だ。
「そちらを疑っているという話ではないのですが、何か情報をお持ちかと思いまして聞かせていただいたのです。私たちが撃ち破った兵は4000。大半は魔物としても1000人近くは人でした。なので水や食料を考えれば一日で2、3トン。それを一年以上も支えていたとなると……」
俺がそこで切って相手の反応をまつと叔父の方があごに手を当てながら言う。
「確かに、そんなに大量の人や魔物を維持するには物資が必要ですな。医療品はもちろん消耗品などもあるでしょうし、もっと量は多くなるはずですが……。そんな人が行き来したという話は聞いたことがありませんな」
「はい。そんな人はもちろん大量の物資を受け入れて輸送するという話は聞いたこともありません。倉庫は空っぽとは言いませんでしたが、収穫前ですので少なくなっていましたし」
倉庫の方も確認をしたが、この前俺が支援した物資ばかりで倉庫の方は大半が空だった。
何でこんなことにとおもったが、国に税で持っていかれているようだ。
そして、倉庫が一杯入っているのは、税を納めるための保管庫であり、豊作でもなければ倉庫の大半に食料が残っている方が珍しいということだ。
うん、アレだな。
地球の食料保管レベルを侮っていたな。
まあ、あれもトラブルの際には機能するか怪しいが、常時の備蓄はかなりしているところは多数あるし、こっちの小麦とは違い、ほぼ腐ることはない。
缶詰を筆頭に日持ちするどころか年単位で持つ食料などは山ほどあるからな。
「状況やそちら側の証言を考えれば、このノスアムが食料を筆頭とした物資を供給しているとは私たちも思えません。となると……」
「どうやって前線に補給をしていたか……ですか?」
「その通りです」
このお嬢ちゃん、最初はお飾りかと思っていたが、ここ一週間ほど話したり行動を見てきたりしたが、ちゃんとこちらの話を理解していたり状況を正確に把握しているのが分かる。
決して馬鹿ではないのだ。
だからこそ部下がついてくるんだろうな。
とはいえ、物資がどこからか湧いている事実は変わりないが……。
「このノスアムが違うとなれば、答えは一つでしょう。別の輸送ルートがあると判断するかありません」
「まあ、その通りですが、道が新しくできたなどという話は聞いたことがありませんよ叔父様。ちょっと待っててください」
そういってお嬢ちゃんは席を外して、部屋を出ていく。
「彼女はどちらに?」
「おそらく地図を持ってくるのでしょう」
「私たちに見せていいので?」
「私たちは敗北していますからね。そちらに良い印象を与えるために従順にして見せるのは当然かと」
「味方が助けに来てくれるとは思いにならないのですか?」
「前も申し上げましたが、この町は確かに自慢の町ではありますが、この程度の町はこの西側には沢山ございます。ここが落ちたからといって奪還を目指すのは随分あとでしょう。そして、奪還された後は我が姪や一族が返り咲けるとも思えません」
確かに、ノスアムを失陥したことは間違いないし、ここを取り返した軍がいれば何かしらの褒章が必要になる。
その場合、一番やりやすいのは奪還した町をそのままくれてやることだ。
もちろん、支配する側としては反発が気になるだろうから、住人に慕われている領主を簡単に切るとは思いたくはないが、それでも何かしらの責任は発生するだろう。
こんな時代背景の国なんて町の一つや二つ財政が傾いても特に気にしないからな。
あっさりこのおっさんや先ほどのお嬢ちゃんを切り捨てる可能性も十分にある。
いやー、そういう思い切りがいいのは俺としても羨ましいね。
ルーメル側としては、いや、俺たち地球人としては足元が揺らぐからやりたくないし、何より結城君たちがそういうことは嫌がるだろう。
ノスアムの人たちを飢えさせてまで贅沢をしたいとは思わないからな。
そんな話をしていると、お嬢ちゃんが少し大きめの羊皮紙を持ってきてテーブルに広げる。
そこに書かれていたのは……おそらくノスアムを中心とした地図なんだろう。
「「「……」」」
その出来に、こちら側は何とも言えない顔となる。
何せ、相変わらずの適当地図なのだ。
とはいえ、ノスアムから近隣の村などや危険な場所の記載はあるので、多少はマシではあるが。
「ご説明させていただきます。こちらの中央にあるのがノスアムの町です。それでこちから西に向かう道が今進軍中のノスアム西砦がある場所です。そして東に向かう道が西側の山脈に向かう道となっています」
「……こちらの細い道は?」
「はい。こちらは村や、森などの資源の場所となります」
なるほど。
ノスアムを中心に村が10はあるのか。
ここら辺を迂回しようと思えばできるか?
なので、そこを聞いてみることにする。
「どこかの村を経由して、物資を運び込むという可能性はありますか?」
「うーん。正直に申し上げますが無理に近いかと」
お嬢ちゃんは悩むそぶりをするが、即座に回答を出す。
「理由は?」
「どの村も規模的にはノスアムより小さいのはお判りいただけますでしょうか?」
「ええ」
「つまり、ノスアム以上の保管場所はないのです。たとえ建設をしていたとして、そこに物資を集積して移動しようにも道が細いですし、そこから直接山脈の方に向かうにも道がない。そうなると作るしかないのですが、そういう話は全く聞きません」
そう言っておっさんは首を横に振る。
つまりだ、村を拠点にしているんじゃないかという指摘は、まったくもって無理だということだ。
さて、じゃあ物資の補給はどうなっているのだろうと、全員が沈黙した時ルクセン君が窓に視線を向けながら……。
「それなら、空でも飛んで運んだんじゃない?」
「何を言っているんですか、光さん。空を飛ぶ……なんて……」
ルクセン君に意見を言った大和君も何かに気が付いてこちらに視線をむけ、そして結城君やヨフィア、さらにはお姫さんにゼラン、爺さんも目が大きく見開かれる。
「あの? 空からというのは?」
お嬢ちゃんの言葉で俺たちは叫びそうになるのを必死に抑えて、俺が代表して答えることにする。
「では私が代表してお話しましょう。といっても難しい話ではありません。文字どおり空から敵がやってきたことがあるのです」
「え? 空から?」
「別に不思議なことではないでしょう。元々魔物を使役しているのです。空を飛ぶ魔物がいても問題はないでしょう」
「……まさか」
お嬢ちゃんはまだ理解していないようだが、おっさんは俺の言いたいことが分かったようだ。
「あの、叔父様?」
「ああ、ジェヤナ様。タナカ殿が言っているのは空を飛ぶ魔物を使って物資を運んでいるのでは。ということです」
「まさか。空を飛べる魔物はいますが大量の物資を運べるなどとは……」
「アイテムバッグがあれば多少はどうにかなるでしょう」
「高級品ですよ? 下手をすれば全部紛失する可能性もあるのに?」
確かに、リスクはでかい話だ。
魔物をどれだけのレベルで使役できているかという話にもなるが、大事なのはリスクではない。
「ジェヤナ様、確かに喪失のリスクはありますが、本当にタナカ殿が言うように空からの輸送が可能だとすれば、どうです?」
「……確かに、それが実現可能であれば村や町などに集積する必要もありません。人手も減らせるでしょう。それに応じて費用などの削減にもなりますし、連絡の手間なども……」
うん、本当にこのお嬢ちゃんは優秀だ。
下手をするとルクセン君よりも。
いや、ルクセン君はルクセン君で馬鹿ではないのだが、まあ考え方の違いなんだろうな。
とはいえ、空輸をしているかもしれないという事実がでてきたのであれば俺がやることは一つ。
「ちょっと席を外します。軍の方へ空を注意する必要がでてきたので」
「あ、はい」
「そうですね。私たちも町の衛兵に空には注意と通達をしましょう」
俺の行動におっさんも状況としてはまずいと理解したようで一緒に動き出す。
下手をすると空から襲われる可能性もあるからな。
まあ、状況を考えればいまだに空輸以外に空中戦力を使ってはいないようだが、いつ転用するかわからない。
「さあ、面白くなってきたか?」
いや、あっちの大陸でも空を飛ぶぐらいはあったか?
そんなことを考えつつ、ジョシーに連絡を取るのであった。




