第397射:戦力分散相談
戦力分散相談
Side:タダノリ・タナカ
炊き出しを始めて3日目。
外で待機をしている東側連合を連れている将軍から申し入れがあった。
簡単に言うと……。
「休憩も十分にできたから、我らは予定されている攻略へ向かうか……」
「まあ、普通に当たり前の話だね」
俺の言葉にジョシーはコーヒーを飲みながらそう返事をする。
確かに、外で待機していた東側連合軍はノスアム攻略の際に何かをしたわけでもないからな。
けが人も出なければ死者も出ていない。
あるのは行軍疲れぐらいだろう。
物資を消費したぐらいだが、その消費した物資に関してはルーメルの協力であっさり回復しているので行軍の問題は一切ない。
あるのは、これからの敵に関してだが……。
「情報が不確かだから進むなってはいえないな」
「ええ。言えませんね。彼らは命令に従っているだけです。そして彼らはまだ何も戦功をあげてはいません。当然の考えですね」
と、お姫さんはそう答える。
「ま、軍人じゃから当然の話よのう。早く攻め落とせばそれだけ名が挙がる。名誉なことじゃ」
マノジルの爺さんもそう答える。
「二人の言う通り止める理由がないな。ノスアムが不安定だともいえないしな」
「そんなことを言えば、外の東側がノスアムを占領に入りますよ。文字通り略奪になるでしょう。その方がもっと面倒になります」
「そうだな。ということは見送るしかないか。多少戦力を随伴させるぐらいだな。勝手に崩れてもらっても困るし」
そう、俺たちからすれば戦力にはならないとはいえ、数があり威圧や制圧を行うのには必要だ。
勝手に戦って大敗離散されてしまえば、このノスアムにも敵が攻め込んでくる可能性がある。
いや、この状況でも十分にあるんだが、数がいるのといないのでは相手の動きも変わってくるからな。
何より俺たちも向こうが攻めてくるなら手加減が難しくなる。
向こうは勝てて当然と思うだろうし、弱い相手でしかも領土を奪っている相手を手加減する理由もないからな。
同じ交渉の席につかせるには、文字通り蹴散らさなくてはいけない。
圧倒的な戦力差があるのだと理解させない限り相手は攻めてくるだろう。
つまりそれは結城君たちのメンタルをゴリゴリ削ることになるのだ。
それに加えて、被害が大きいということは今後の友好関係にも問題が出てくる。
親しい人を殺されて仲良くできるやつは極少数だからな。
となると、こっちが少しでも戦力をだして負けることを避けるべきという判断になる。
「え? でも、誰がついて行くの?」
そして当然の疑問がルクセン君から出てくる。
戦力を出すということは当然、このルーメルメンバーから誰かが出ていくことになるが。
「それは分かり切っている。俺かジョシーだな」
「だな。それしかないだろう」
あっさり言い切る俺とジョシー。
ぽかんとしているルクセン君たちだが、他のメンバーは特に驚いていない。
なにせ。
「このメンバーの中で兵器運用を込みの戦闘方法なんて知っているのは俺とジョシーぐらいだしな。戦車を操れって言ってできるか?」
「いやーそれは無理だなー」
「ですわね。確かにお二人のどちらかが行くしかないでしょう。しかし、ジョシーさんが向かった場合は戦車を複数台操作できないのでは?」
「あーそこの心配はない。ドローンから見ながらジョシーと打ち合わせをして動かしていくから」
結局のところ戦車であろうがラジコンなのだ。俺にとっては。
いや、オートメーション化はどの軍でも同じだから、結局のところこういう方法行きつくことだろう。
ドローンを利用していることがその証拠でもあるしな。
「まあ、普通に考えれば私が戦場だな」
「だろうな」
そしてどちらかが行くかという問題はこうしてあっさり解決する。
「え? なんで?」
「いや、俺がやられると戦いどころか物資の補給も出来なくなるしな。そういう可能性がある前線にはまず出て行かないのがルールだ」
「そういうこと。私だって弾無しで敵に突っ込めとか嫌だからな。何より、敵を撃てる仕事の方が正直ありがたい。こっちの魔物とかはそこまでやりあったことがないからな」
そう、俺が物資の要であり万が一はあってはいけない。
もちろんいなくなったことを考えてフリーゲート艦が率いる補給艦などには物資をできうる限り出して備蓄はしているが、そこからの輸送に頼るようになることは正直勘弁願いたい。
それだけ追い込まれているということでもあるからな。
そして、ジョシーの奴は戦争が大好きな奴だ。
後方に置いておくよりも、前線に出した方がこっちとしても安心だ。
「油断して死ぬなよ。ああ、もう死んでたな。この場合どうやったら死亡になるんだ? なあ、爺さん」
「そうだな。体は死んだままだけど、これってどうやったら死ぬってことになるんだ?」
ものすごく素朴な疑問だった。
ジョシーは死んでも問題はないが、こいつはゾンビだ。
どうやったら死ぬのかしっかり確認を取ったことはなかった。
殺し方を教えてもらわなければ、撃っても死なないとか細切れにするか燃やし尽くすぐらいしか方法がない。
「ふむ。そうじゃな。普通に体の損傷が激しいと動けなくなるし、バラバラにされるとか灰にされれば死んだも同然じゃな」
「同然ってことは死んだわけじゃないってことか?」
「灰はわからんが、五体バラバラぐらいではゾンビは動くな。意思通りに動くかはわからんが。残った手などがまとわりついてきたという話は聞いたことがある」
「へー。そりゃ便利だ。銃を持ったまま腕を落とせばそこから撃てるわけだ」
「体があって狙いが付けられるんだろう? 命中率は最悪だぞ」
そういいつつも、とりあえず撃てることは便利だよなと素直に思う。
「いやいやいや、普通にゾンビの利便性で喜ばないでよ。ジョシーも傷つかないで帰ってきてよ」
「なははは。ま、それが一番だな。万が一の時はヒカリやナデシコに治してもらうとしよう」
「何を笑って……。はぁ、とりあえず軍の人たちが出陣することは問題ないというわけですね?」
「そうだな。どれだけの戦力がついて行くかについては多少話し合う必要はあるだろうが……俺たちについてはこのノスアムを中心にしばらく情報収集が必要だ」
ちょこっとだけ話を聞いたがノスアムというか、この西側の状況もやっぱりそれなりにおかしい。
たった数年で西側が纏まったというのも、そして東側に攻め込んだというのも。
余程のことでもなければそんなことは起こりえない。
ヨーロッ○が完全にまとまってロシ○に戦争を仕掛けたというのは言い過ぎかもしれないが、それぐらいの大事が起こっている。
これで何もなくいきなり各国が同盟を組んだなどということはないだろう。
本当にとんでもないことが起こっていると思っていいだろう。
例えば、ロシ○がヨーロッ○各国にミサイルを無差別に打ち込んだとかな。
そうなれば、いがみ合っている暇なんてない。
反撃しなければやられるのは此方なのだから。
とはいえ、この世界において何を持って一致団結をさせたのか。
そう言う余程というのが何なのかはさっぱりわからん。
分からないからこそ慎重になるってやつだな。
これが入念に時間をかけて西側を統一したとかならまだわからないでもないんだがなー。
そういう話がないからこその混乱だ。
なので、ジョシーがついて行くことになったが。
「ジョシー。状況が不透明だから、無暗に動くなよ。要人も殺すな」
「わかってるって。流石にこの状況は不気味だ。いやー敵と味方の主張が違うのは当然のことだけど、それ自体がさっぱりわかっていないからなー」
ジョシーもこの状況が妙だというのは分かっているようだ。
だからこそ自分も戦場に出ると言っているのだろう。
何もわからない後方でくすぶっているよりも情報が集まる前線の方が安全だったりというのもなくはない。
つまりその時は俺たちが大忙しというわけだが、そいうことにならないことを願いながら、話を詰めていくのだった。




