第396射:これからを考える 下っ端
これからを考える 下っ端
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「はーい。スープは熱いから気を付けてねー」
僕はそう言いつつ、スープが入ったお皿を渡す。
受け取った子供は笑顔で。
「うん。お姉ちゃんありがとー」
「また夜に炊き出しやるからおいでー」
「うん、またくるー」
そう言って手を振るよこで、毛布を受けとり手に持っているお母さんらしき人がこちらに会釈をしてくるのでこちらも会釈をして返す。
そこで終わればいい話だったんだけど。
「光、止まるな。ホラ次の人来ているぞ」
「あ、うん!」
慌てて正面を向くとそこには同じようにお皿を持った人が立っている。
「はい。入れますね~」
炊き出しというのは昨日もやったけど、なぜか昨日よりも人が多いように見えるのはなんでだろう。
とはいえ、その疑問をしている暇もないのでそのまま何とか人が途切れるまでずーっと配り続ける。
気が付けば、既にお日様は真上を通り過ぎていて時間は既に1時だった。
「うへー。朝からやってたのにお昼だよ。一体どれだけ人がいたんだろう……」
僕は自分の分のお昼を持って椅子にもたれかかりながらそういうと、横で同じように食事をしていた撫子も疑問だったようで。
「確かに、昨日の炊き出しよりも人が多いように見えましたわ。何か知っていますか?」
そう言って撫子は同じように食事をしているゼランに話を聞く。
今回の炊き出しじゃ、ゴードルのおっちゃんとのコンビで炊き出しの代表をやっていたんだよね。
だから何が起こったかを知っているかもしれない。
「知っているというか、昨日の話が広がったんだろうね。私たちは安全で配っているものも質はいいってさ。無料でもらえるなら誰だって来るさ」
「んだ。昨日は被害にあった人たちがアキラたちに治療されてそこから信頼した人たちだけだっただべよ。それが今日で噂が広まったんだべな。ほれ、攻めてきた軍人さんたちが優しいとか、普通はそうそうないだべからな」
「なるほどー」
確かに略奪するのが普通って話だから、それを考えるとうかつに近寄りたくはないよね。
何されるから分からないんだから。
と、思っていると不意に晃が疑問を口にする。
「……そうなると夜の炊き出しはさらに増えるかな?」
「「……」」
その疑問に対して僕たちは何も答えることはできない。
確かに、昨日の噂が広まって今日人が増えた問うのは事実だけど、それが町全員かというと違うと思う。
そうなると、さらに人が増えるってことで……。
「あはは、そういう心配はいらないさ。ちゃんとそこらへんも考えているさ」
「んだ。タナカ殿もそこらへんはわかっているべ。前回と今回の炊き出しを受け取った人たちから協力者を募るようにしているべ。そうでもしないと回らないだべよ」
「あー、そういうことか。でも、大丈夫なの?」
現地の人に協力をっていうのはよく聞くけど、戦ってというかこの町に攻め込んだのは昨日の今日の話だよね?
「そこは心配はいらないっていうとちょっと自信はないけど、まず大丈夫さ。何せ被害が出たのは防壁と領主館に詰めていた兵士たちと関係者ぐらいさ。こうして炊き出しに来ている人はそもそも直接的な被害は出ていない連中さ」
「んだ。本当に恨みをもっている人たちはここには来ないべよ。ノスアムの人たちだってトラブルは避けたいだべだからな」
「なるほど、確かに全員が全員敵対したいというわけではありませんわね」
「言われてみればそうだよな。俺たちだってノスアム占領はちょっとって思ってたし、お互いそういうのがいても不思議じゃないよな」
確かに撫子や晃の言う通り全員が全員、戦争万歳、復讐万歳ってわけじゃないよね。
そう納得していると、不意に撫子が質問を始める。
「それで炊き出しの心配はいいのですが、この西側の情報などは集まっているのでしょうか?」
あ、そうだった。
僕たちは炊き出しをしてはいるが、ノスアムを占領した本当の目的は補給拠点にするわけでもなく、なぜ西側が東側に攻めてきたのかっていう原因を探ること。
というか僕たちだけに絞ると、帰る方法を見つけることなんだよね。
それでゼランさんの返事はというと……。
「いや、まだ全然だね。何せ今日で二日目だ。まだまだ落ち着いていないからね。あのジェヤナお嬢ちゃんたちもこちらの様子を伺っているところさ」
「まあ、当然だべな」
そう言ってゼランとゴードルのおっちゃんはスープを飲む。
そっか~、まだそこまで時間が経ってないもんな~。
何か具体的な話が出てくるわけないか。
そう思っていると……。
「ま、とりあえずだけ聞いてみているが、このノスアムは確かにそれなりの町だが、この西側にはもっと大きな町もあれば、同じ規模の町も沢山ある。その多くの領主がいる中でのノスアムなんてどこにでもよくいる領主なんだよ。そこに詳しい話は回ってこないっていう話はあったな」
「城仕えってわけでもないだべだからな~。命令があるぐらいでこちらから質問できるかっていうとそうでもないべ」
「そうそう。下っ端は命令に従うだけだからな。下手な詮索は……」
ゼランはそう言って首に親指を当てて引く。
殺されるってことね。
あーあ、嫌な世界だよ本当に。
そんなことを考えつつ、から揚げを口に放りこみ。
「もぐ、でもそうなるとこのノスアムをまとめているお城に話を聞きに行くしないよね~」
ノスアムの人たちが何も事情を知らないなら事情を知っているところに行くっていうのは当然の話。
「ま、そうなるだろうね。とはいえ、ノスアムを無理に確保したから動きは鈍りそうだね」
「無理にとは?」
「ナデシコ。俺たちは人数が少ないだべよ。今回のノスアム占領も本来は東側連合軍の連中に任せる予定だっただべ。まあ、そのあとのトラブルもひっくるめてってやつだべが。その代わりに町をどうこうする権利が与えられるってわけだべだが、運よく、運悪く、かはわからないだべだが、思ったよりもあの若い領主とその部下たちがおとなしく言うことを聞いてくれたべ。だからこうして炊き出しをして人心の安定を優先しているだべよ」
「そっか~。私たちが離れた途端に反乱とかされてもね~」
「ああ、そういうこともあるんだよ。だからしばらくはノスアムの連中を安心させてやらないといけないし、敵がこのノスアムに東側連合がいるってことを知って敵を送り込んでくる可能性もある。下手に動けばそこを突かれてグダグダになりかねないからね。動くなら慎重になるだろうさ」
「なるほど。でも、俺たちがノスアムに留まるってことは、今外にいる東側連合が動くんじゃないですか?」
「動くね。とはいえ、それが簡単に町や砦、はてはこのノスアムとかをまとめている国の王都を簡単に落とせると思うかい?」
「「「……」」」
そこを突かれると沈黙するしかない。
今回ノスアムを攻め落とせたのはどう考えても田中さんの戦車とかがあったからだ。
田中さんを欠いた東側連合軍が簡単に攻め取れるとは……正直思えない。
「そういうことだよ。簡単にはいかないってね。かといって見捨てるわけにもいかない。数って言うのはそれだけ強いからね。少なければノスアムだって私たちに抵抗してきたから、わかりやすい強さってことだ。だから東側連合が進軍するならルーメルは万が一に備えてついていくことになるね」
「そうなると、おらたちが分かれて行動することになるべ。つまりさらにルーメルの戦力は落ちるし、ノスアムの戦力も少なくなるべ」
「それって問題だよね~。西側が攻めてこないとも限らないし~」
「なかなか難しいですわね」
「それを田中さんたちが考えているんだろう?」
「ま、そういうことだ。とはいえ、外で待機している東側の連中としては何もしないでずっと待機はしたくないだろうし、何か戦果を求めて動くだろうし、近いうちには動くだろうさ」
近いうちに動くか~。
何もわかっていないのに。
いや、あの人たちも元々の命令に従って動くだけだし目標とかはあるんだろうね。
そんなことを考えていると、ノールタルの姉さんとイーリスさんがやってきて。
「難しいことを考えるよりも今はしっかり食べな。夜の炊き出し準備もすぐに始めるからね」
「そうですよ。しっかり食べて休みましょう」
沢山の料理を置いて、それを僕たちと一緒に食べ始めるのだった。
うん、まずは僕たちが万全にならないと炊き出しもできないしね。




