第394射:懐柔策
懐柔策
Side:アキラ・ユウキ
ノスアムの人たちからの事情聴取?情報提供は一旦中断して今は休憩という名の食事会。
人はずっと話していられるほどタフじゃない。
気が付けば日が傾いていたので食事会になったのわけ。
ついでに言うと、ノスアムの人たちに俺たちは本当に悪い相手ではないと知らせるためでもある。
何せ俺たちはこのノスアムを攻め取った侵略者だ。
そしてノスアムのジェヤナちゃんとその叔父さんは随分ノスアムの人たちに人気だったようで、平和を脅かした俺たちに対して冷ややかな視線を向けてきた。
死亡した兵士の家族たちからは罵声を浴びせられたりもした。
正直に言って辛かった。
こっちにはこっちの理由があったんだけど、命を奪ったことには変わりない。
……はぁー、と落ち込んではいられない。
こんな感じでノスアムの住民感情自体もそこまでよくないので、その解消として食事会として住民にも懐柔策で食料を提供しているわけだ。
で、その成果というと……。
「おいしー!」
子供たちはおいしそうにから揚げを頬張っている。
ちなみに冷凍食品。
一から料理するなんて時間も手間もかかるから、冷凍食品の提供ですまそうという田中さんの案でやったのだがびっくり……でもないか、素人の料理より冷凍食品が美味しいのは当然の話だ。
そして、子供たちが素直に食べれば次は大人たちも食べ始め。
「いや、こりゃ美味い」
「なんだこの味は」
「すごいわね~」
と、大人たちも驚きつつも沢山食べてくれている。
ちなみに出している物は唐揚げとパンだけなのだが。
これだけでいいのかと思っていたんだけど。
田中さん曰く。
『手間がかかりすぎるし、全員同じものが食べられる可能性が低くなる。それは不満につながるからな。別に専門店ってわけじゃないし、これでいいのさ。大事なのは俺たちに敵意がないってことを知らせることだからな』
まあ、言っていることはわかる。
沢山種類を出せばきっと補給も追い付かなくなるし、それで不満が出てくるっていうのもわかる。
きっと屋台が一つにつき一種類ぐらいしか売っていない理由なんだろう。
そんなことを考えていると、兵士がこちらにやってくる。
「ユウキ様。お屋敷で晩餐の準備が整いました。こちらは私たちが引き受けますので、そちらに」
「あ、はい。分かりました。よろしくお願いします」
どうやら領主館の方もご飯のようだ。
ジェヤナちゃんたちも少しは落ち着いているかな?
攻めてきた側がそんな心配をと思うが、気になるのは仕方がない。
アレだなーこれが戦争をしている人たちの気持ちなんだろうか。
上は下の気持ちなんてわからないって。
まあ、東側としては西側が攻めてくるから解決をしないといけないのが上の気持ちなんだろうけどね。
そんなことを考えながら移動をしていると、撫子や光と合流する。
「あ、2人とも」
「あら、晃さんも戻るのですか?」
「そう。というか2人で移動してて大丈夫なのか?」
俺とは違って2人は女性でしかもこっちではかなり幼く見える。
田中さんとかは襲われる可能性があるから注意しろっていってた。
まあ、俺のほうは女に気を付けろってよく言われている。
今回はそれっぽいことはなかったけどな。
「大丈夫ですよ。私たちは回復術師として認識されてますから」
「そうそう。治療してくれる優しい美少女ってね。まあ、もちろん気を付けてはいるよ」
「そっか」
確かに、こんな2人だと脅威は感じないだろうし、中身は俺と同じぐらい強いしな。
そう思っているとなんか光から鋭い視線が飛んできて。
「あん? なんか変なこと考えてた?」
「変なこと?」
「いやいや、普通に襲われても2人なら対処できるかなって」
危うく変態にされそうだったので素直に2人に心配はいらないかなってことを話す。
「あーあー、わかってないなー晃は。これじゃヨフィアさんが心配だよ」
「そうですわね。女性の扱いというのが分かっていません」
「まってくれ。変なことを考えていないって否定しただけでそれかよ」
女性は難しいとかいうレベルじゃない。
理不尽だろうそれはと思っていると。
「お帰りなさいませー。アキラさん、ヒカリさん、ナデシコさん。ささっ、準備は出来ていますよ~」
と、領主館の前で既に待っていたヨフィアさんがそう言って出迎えてくれた。
「あと、アキラさんは優しいですから女の扱いはわかっていますよ~」
「そう? 雑なら僕に言ってくれればいいからね?」
「ええ。その時は任せてくださいませ」
「その時はお願いします。じゃ、行きましょうか。皆さんお待ちです」
ほっ、俺への口撃は止まったようで何よりだ。
俺はフォローしてくれたヨフィアさんに軽く頭を下げてお礼をすると、普通に笑顔で答えてくれる。
うん、出来たメイドさんだ。
というか、いつか答えを出さないといけないんだろうか?
いや、もう追い詰められている気はするけど、まずは帰る方法とか安全を確保しないとな。
いやいや、話が飛びすぎだまずは領主のみんなとご飯だ。
「そういえばヨフィアさん。晩御飯はどうしたの? 田中さんがなんか中に残ってたよね?」
「そうですわね。私たちにノスアムの民衆の対応を任せましたが、中に残って何を?」
「あー、基本的にはまずお屋敷の片づけですね。銃撃と爆発でボロボロでしたから」
「「「あー」」」
相手の降伏を促すために、そしてこちらの被害を出さないために結構な攻め方をしていたんだった。
下手に拮抗していると戦えると思われるからってことだ。
だけどその代わりに屋敷の被害は甚大だろうな。
それは予想がつく。
その片付けに田中さんが残ったわけだ。
俺たちはケガ人の治療や炊き出しだったし。
「でもさ、片付け初めてまだ数時間でしょ? それでどうにかなるの?」
「ですわね……」
俺も同意見。
銃撃と手榴弾で破壊された場所が簡単に修理できるものか?
日本の準備万端でも難しそうな気がするけど……。
「いえいえ、修理できたわけではありませんよ。とはいえ、攻撃した場所は限定してますからね。ああ、そういえば中には入ってなかったんでしたっけ?」
「はい。俺たちはそのまま外で運び出された人の治療にあたっていましたから」
「なるほど、だからですね。まあ、中を見れば分かりますよ」
そう言われて俺たちが屋敷の中に入ると、吹き飛ばされた玄関やバリケードがあった場所はひどいモノだったが、そのほかは特に傷がないように見える。
「戦ったとはいえ、別にタナカ様たちも敵を全員皆殺しにしたいわけでもないですし、拠点としても活用したかったようですからね。敵がいたところだけの攻撃にとどめていたんですよ」
「なるほど」
「そっかー。まあ考えれば当然だよね」
「ええ。銃撃や手榴弾だけで家屋が全て破壊されるというのは余程やらないといけませんし。そういうのはみませんでしたものね」
2人の言う通り少し冷静に考えていれば当然の話だった。
田中さんは元々降伏を目的としていたし、そのために被害は最小限。
そして破壊するにしても銃と手榴弾で家屋を全損させるのはものすごく大変だ。
しかも屋敷となるともっと大変だろう。
映画とかでも一部屋がボロボロになるぐらいで済むし、そう考えると……。
「意外と使える部屋は多く残っているってこと?」
「その通りです。なので晩餐会の準備で使う調理場は無傷で使えましたし、晩餐会を行う部屋も大丈夫でした」
「不幸中の幸いというわけですわね」
「はい。破壊されたのは玄関や防衛に使っていた場所だけなので住まいとして使う分には機能を果たしています。さて、あそこが晩餐会の部屋ですね」
ヨフィアさんは俺たちから離れるとドアの前に先にいって俺たちの到着と合わせるようにドアを開く。
そこには……。
「お、来たな」
「おう、今日は豪華だぞー」
「お待ちしていました」
田中さん、ジョシーさん、そしてユーリアから出迎えられて中に入ると、長テーブルの上には本当に豪華な料理がならんでいた。
マジか、これって……。
「ノスアムの領主や領主代行たちとも話すからな。美味しい食べ物があった方がいいだろう」
なるほど、そういうことで田中さんはこれほどの料理を用意……ん?
そこで違和感に気が付いて、光が真っ先に質問する。
「ねえ、田中さんってここまでの料理って見たことあるの? というか参加したの?」
「ん? ああ、傭兵って粗暴なイメージがあるだろうが、それは間違いじゃない。とはいえ……」
「贅沢をしないってわけじゃないぜ? 雇う側は金持ちだしな。こういうことは意外とあるんだよ」
そう言って田中さんとジョシーさんはニヤッと笑ってワインを持っている。
「疑問が解けたようでなによりです。ジェヤナ様もお待ちのようですし、皆様。グラスをお持ちください」
俺たちはいつの間にかヨフィアさんに差し出されたグラスを持って。
「ルーメルとノスアムの友好を願って、乾杯」
「「「乾杯」」」
こうしてノスアムの夜は更けていくのであった。




