第390射:領主館攻略開始
領主館攻略開始
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
ノスアムの攻撃が始まって2時間ぐらいかな?
と言っても、激しい攻防戦とかはなくて、戦車で門に向かって砲撃を散発的にするだけ。
この前の戦線突破とは違ってゆっくりした戦いで、こっちは不謹慎かもしれないけど退屈。
まあ、町に被害が出ないように煙が晴れるのを待って砲撃を繰り返すってだけだからね。
貫通させて、奥にある家屋を吹き飛ばすわけにもいかないから田中さんやジョシーも注意を払っているみたい。
「門の近くは完全に壊れたね~。でも、あんなに壊していいのかな?」
「下手に門から兵士が湧いてきても困るから壊したのでしょうね」
「ああ、そういうことか」
城壁の上にいる兵士とか、門の上から攻撃するよな場所があるのは当たり前だからね。
そういう被害を被らないためにしっかり壊しているのか。
「ま、向こう側は戦意喪失してそうだけどな」
「そりゃそうでしょ。門とか防壁が機能してないんだから」
これは戦いになってないんだよね。
それを理解してなかったノスアムの兵士たちだけどこの二時間で体感したはずだ。
こっちがその気になればあっという間にノスアムは廃墟になるって。
それがわかって積極的に動けるかっていうと普通に難しいんじゃないかな?
「油断は禁物ですわよ。最後の最後で突撃をしてくる可能性もありますわ」
撫子の言う通り油断は禁物なんだけど……。
「上空の様子から、兵たちは集まってないけどね~」
上空からの映像だと、門から救出している兵士は少数で、大半は既に領主館の方へ兵士を集めているように見える。
僕の言葉で撫子もタブレットから町の様子を伺うと……。
「徹底抗戦のつもりでしょうか? 門が壊されたのですよ?」
普通門が壊された時点で兵士がなだれ込んで抑えられなくなるから籠城する意味はなくなるんだけど……。
そこで僕は閃いてしまった。
「あー、なんか籠城した理由がわかったかも」
「どういうことでしょうか?」
珍しく撫子が僕に質問する形になっている。
まあ、たまにはこういうのもいいだろうということで僕は自分が思ったことを説明する。
「ほら、僕たちって数は少ないでしょ?」
「数は少ないですが、戦車という強力な戦力があるのですよ? これで籠城する意味があるのでしょうか?」
「確かにね。まともに戦えばそうだけど、こっちは犠牲は少なくしたいっていってたじゃん?」
「そうだな。言ってた。というか田中さんが町の人の恨みを買いたくないし撃ちたくもないっていってたしな。俺もそれは同意」
「つまり、無茶な攻撃はしないって思ってるんだよ。あとは領主館を制圧するんだけど、結局は人を送り込むことが必要だろう?」
僕がここまで言うと言いたいことが分かったのか2人とも目を細める。
「白兵戦、歩兵なら勝てると?」
「なるほどな。まあ、領主館ごと吹き飛ばさないって前提があるんだけど」
「領主館を吹っ飛ばしたら必要な書類までおじゃんじゃん?」
「なるほど。確かに」
今度は後ろから納得の声が聞こえて振り返ると、ユーリアがいた。
「お、ユーリア。何かあった?」
「私の方はなぜ戦車でさっさと領主館や冒険者ギルドを吹き飛ばしてしまわないのか不思議でしたが、確かにナデシコの言う通りですね。必要な書類まで吹き飛んでしまうのは面倒です。とはいえ、極秘書類などは処分しているでしょうが」
「この状況で相手は勝てるとは思っていないでしょうし、その手の書類は処分しますわね」
「しかし、これからどうするのでしょうか? 味方が到着するのを待って突撃でしょうか? しかし、それだと民間に被害がでそうですね。まあ、多少は仕方がないのでしょうが」
「「「……」」」
ユーリアの言葉に僕たちを沈黙する。
連合軍の歩兵が来るってことは戦争に紛れて略奪行為をする人が必ず出てくる。
言い分は町の人が襲い掛かってきたから片付けたで済むしね。
それが戦闘終了していれば、それなりに規制はできるけど、戦いの最中だとこっちの兵士たちも生きるか死ぬかの戦争で報酬を求めてきたんだし、連合が略奪自体をそこまで止めていないっていうのもある。
元々、相手の領土からお金をとって賃金にしようって発想だし。
「大丈夫ですよヒカリたち。田中殿たちがいれば大人しくなるでしょう。とはいえ、あれだけ兵が集まっている中に送り込むとなれば、それなりの報酬はいるでしょう。そこはどう考えているのでしょうか……」
確かに、情報を確保したい僕たちが領主館とかに戦車砲を撃ち込むわけにもいかないし、どうなるんだろうと思っていると。
「そりゃ、普通に制圧だろう。確かに書類は大事だが、そもそもこっちが生きていることが前提だ。とはいえ、領主館を吹き飛ばしたら、車の生活になるしな。多少は原形を残しておきたいし、まあここは機銃掃射で許してやろうって感じだね」
今度はジョシーがやってきてそういう。
「え? 機銃って戦車についている?」
「そうそう。対歩兵用の武器だしな。有効活用しないともったないからな」
どうやら、ジョシーの予定じゃ戦車をそのまま突入させて攻撃に使うみたい。
でも、それって……。
「戦車の機銃で屋内の敵を全て排除できるわけではないのでしょう?」
「そりゃ、屋内を潰してしまわないと無理だな」
「では、危険なのは変わりないのでは?」
撫子の疑問は当然だよね。
このままじゃ沢山の敵の中に突っ込むことになるのは間違いない。
なのに、ジョシーは特に気負いした様子はなく……。
「剣と弓、あと魔術程度でどうにかなるほど屋内戦というか、市街地戦は楽じゃないんだよ」
そう言って、ジョシーはその場からひらひらと手を振って立ち去ったと思いきや、戦車が5台ほど前進を始める。
『これからノスアム領主館を押さえにいく。結城君たちは包囲のまま待機。上空から警戒しててくれ。人が出てきたらその報告を』
そして、狙ったかのように田中さんから無線機連絡がくる。
でも、それは僕たちが知らなかったことで……。
「はい!? 2人で突入? マジで? ちょっと、田中さんに連絡、連絡!」
「あ、ああ! 田中さん!」
僕が慌てて晃に指示を出すとすぐに連絡が取れる。
『ん? どうした?』
「どうしたじゃないですよ。2人で突入するんですか?」
『2人か、まあ2人だな』
晃の質問に田中さんんはなんか不思議な返しをする。
その声音にはジョシーと同じで全然緊張感がない。
「いや、相手は沢山いるんでしょ?」
晃に代わってそういうと。
『まあ、いるな』
これもなんか返事があいまいだ。
代わりに撫子が出てきて。
「いるなって、それは死にに行くようなものではないのでしょうか?」
ストレートに心配だと、死んでしまうぞと聞くと……。
『まあ、それ専門家に任せとけって話だな』
「専門家……ですか」
『そういうことだ。俺たちの行動はドローンの12、13で追えるから見てみろ。傭兵というか、軍隊の戦い方ってのが分かるさ。ああ、いや軍隊は違うか。あっちは人海戦術が前提にあるからな』
やっぱり的を得ない答えが返ってくる。
こりゃどうしても止められないか。
いや、あの状態の田中さんとジョシーを止める手段なんて僕たちにはないんだけど。
とりあえず言われたようにドローンからの画面を見てみることにする。
すると、どうやら田中さんとジョシーは二手?に分かれているようで、戦車を2台と3台で別れている。
どっちもなぜか、正面門にはいかない。
何でだろうと思っていると、戦車がなぜか砲撃をする。
「「「はい?」」」
そんなことをすれば、領主館が吹き飛ぶんじゃと思っていると、どうやら着弾は壁の方で領主館を覆っている壁はその砲撃でバラバラになる。
そりゃそうだ。
防壁より丈夫なわけないし。
そしてそこから戦車が乗り込んでいく。
「あー、なるほど。正面で待ち構えていた人たちは慌ててるよな」
「「あー」」
晃の説明に納得する僕たち。
そうか、入り口がないなら作ればいいわけか。
うん、納得は出来るけどものすごい手段を取るな。
こうして領主館は田中さんたちのやる気のない進行(侵攻)をうけていくのであった。




