第388射:町攻撃前
町攻撃前
Side:アキラ・ユウキ
一昨日、予定を聞いてはいたんだけど、これは緊張する。
それはなぜかというと……。
『ノスアムの住民に告げる。こちら東側連合軍である。明日の明朝より西魔連合への攻撃を開始する。私たちは無関係の住民に攻撃を加えるつもりはない。また、降伏の意思があるのであれば明朝門を開けて領主と兵は門の外で武装解除の上待っていてほしい』
と、こういう勧告を田中さんとジョシーさんが拡声器をつかってしている。
だが、向こうは一向に門を開く様子もなければ、民間人が逃げていく様子もない。
それも仕方がない、車両だけが先行してきているので、こちらは合計100両にも満たないのだ。
向こうの兵士は町の大きさからみても1000はいるだろうし、負けるとは思わないよな。
そんなことを考えつつ、俺はノスアムの様子を確認したので、陣地に戻る。
「どうだった?」
「いかがでしたか?」
俺が戻るのを待っていたのか、光と撫子がそう聞いてきた。
「全然動く様子はない」
俺は隠す理由もないので素直に事実を告げる。
「そっかー……」
「そうですか……」
2人は目に見えて不安に思っている。
そりゃ、まあ、このまま攻撃が始まればあっという間に吹き飛ぶのは目に見えているからな。
でも……。
「そこまで、心配はいらないと思うぞ。田中さんやジョシーさんがこのことを想像してないわけないと思うし。まさか無差別に砲弾の雨を町に降らせるわけじゃない。ですよねジョシーさん?」
奥から歩いてきているジョシーさんにそう聞くと。
ジョシーさんは特に気にした様子もなく。
「ん? そりゃ民間人に無駄弾ばらまくなんてことはしないな。敵がいると思しき場所に撃ち込むのが基本だ」
「そっかー。それなら安心だね」
「……そうですわね。それで敵がいると思しき場所には見当がついているのですか?」
「ああ、そりゃもちろん」
ジョシーさんはそう言って手元のタブレットを使って俺たちにノスアムを空から見たドローン映像を見せる。
「現在、あー暗くて見にくいか? ちょっとまて」
俺たちに見せてきた映像は夕暮れが近くちょっと確認しにくいのですぐに切り替える。
これはお昼の映像だろう。
「まあ、ぱっと見は分からないだろうが、こことこことここ」
そう言ってジョシーさんが立っちすると丸で囲まれる地点が3つ。
「この町っていうのは幸いというか東西南北の門がある町だ。そして私たちは南を塞いでいるだけ。つまりほかは逃げ放題ってわけだ。明日、この目的地を吹き飛ばせば逃げ出す連中も出てくるだろう。とはいえ、民衆に手出しはしないと言っているから、逃げるのは……」
「兵士や領主ということですか?」
「まあ、そうなりゃいいね。こういう時は市街地戦になると面倒なんだ。パルチザンにでもなられたら町を吹き飛ばすしかなくなる」
パルチザン、確か民衆が内在的なテロリスト、義勇兵になるってことだよな。
あの町でパルチザン蜂起になれば……確かに吹き飛ばすしか方法は無いよな。
敵味方を区別する方法はないからな。
一度そういうことをされれば全て敵と判断するしかないんだろうな。
「むう」
「……」
光と撫子は不満そうに黙り込む。
そう言うのは一部だけって言いたいんだろうが、かといって自分たちのワガママで周りが危険に遭うのはってことなんだろうな。
「そうむくれるな。そのパルチザンっていうのは元々帰属意識が高かったから起こった話だ」
「きぞくいしき?」
「国の所属、あるいは地元が大事だと思うのは当然では?」
光は分かっていないようだけど、撫子は分かっているようでそう返す。
「えーと、まずヒカリに説明からな。帰属意識っていうのはナデシコが言ったように、自分はどんな集団に属しているかって話だ。例えば、ヒカリはどこの国から来たんだ?って聞かれたらどうする?」
「え? そりゃ、日本だよ」
「そう。それが帰属意識だ。ヒカリは日本が自分が生まれ育った国だと思っている。だから、よその国が攻めてくるなんてとんでもないって思うだろう?」
「そりゃ、そうだよ。だからこのノスアムの人たちも国とか故郷のために立ち上がるかもしれないんでしょ?」
そうだ。
彼らにとってはこの町が所属している国があるはずだ。
その帰属意識から俺たち東側の制圧なんて認めないはずなんだけど、ジョシーさんはそのまま話始める。
「その可能性はゼロじゃないが。正直低いんだよ」
「低い?」
「そう。帰属意識がこういう町の連中は少ないんだ」
「どういうことでしょうか?」
今度は撫子もわからないようで首を傾げている。
俺も正直分からない。
「帰属意識っていうのは教育で刷り込まれるもんだ。君たちはこの国で生まれて、この国で育った。だから、この国に貢献できるようにってな。もちろん洗脳教育とかそういうのもあるけどな。敵国を占領した際にそうやって次代が反発しないようにってな」
「ん? よくわかんない」
「ああ、なるほど。つまりこの町の教育が行き届いているわけではないと?」
光は分かっていないようだが、撫子は分かったようだ。
俺も引っかかってはいるが、よく理解できていないので黙って話を聞く。
「そういうこと。まあ、こういう領土の取り合い合戦の時はよくある話なんだけどな。戦いで所属が変わることはよくあるんだ。そして教育もできないとなると……」
「帰属意識は国ではなく、町になると?」
「そういうことだ。町が、そこに住んでいる場所の安全保障がされるなら誰がトップでも問題ないわけだ。だからこそさっきの忠告は効くわけだ」
「ああ、町を攻撃するつもりはないってことですね?」
俺も納得して聞いてみると、ジョシーさんは頷いて。
「そう、町の人を攻撃する気がないって、最初から言っているからな。明日には攻撃する場所も告げるしそこには近寄らないだろう。あと略奪とかしなければ町の人はまず敵にならないだろうさ。こっちには十分な物資もあるからな。相手がこれを機会に町の住人から搾り取っていればなおのこと、こっちを受け入れるかもな」
「あー、僕もようやくわかったよ。ノスアムの人たちにとっては危害を加えなければ、誰が制圧してもいいってことだよね?」
「そういうこと。国に所属している意識が低いから、あとは町の安全を伝えれば敵に回る可能性は低いってことだ。とはいえ、徴兵されている連中はいるだろうから、その連中を殺傷して恨まれる可能性はあるだろうがな。そこも支援内容次第だろう。こんな人死にが出る世の中なんだ。そこらへんは割り切っているさ。さ、休んだ休んだ。結局は明日にならないとわからないことだしね」
ジョシーさんはそう言って、俺たちから離れていく。
「あ、そういえばもう日が暮れているね」
「先ほどまで夕方だと思っていたんですが」
2人にそう言われて空を見上げると星空が広がっている。
幸い僕たちは設営されたライトからの光源があって暗さに不便することはない。
代わりに、ノスアムの町の壁には多分焚火が付けられていてこちらを監視しているように見える。
その灯りは乏しくみえる。
俺たちが使っているライトとは違い揺らめき風が吹けば消えてしまうのではないかと。
「動きはなさそうだし、俺たちも休もう」
「だね~。というか晩御飯食べよ~。今日は何だっけ?」
「確か、この前倒したオークのお肉だったはずですよ?」
「あ~、う~ん。食べれそうな僕はタフになったと実感したよ。この前よりも」
「食欲は普通にありますわね。確かに私もあの時普通に食事が取れていたからそう思いましたわ」
「俺もそうだな」
戦争中で周りが悲惨な状況でも、それでも普通に食事がとれる。
これは生きる上では大事なことなんだろうけど、俺たちが平和から遠ざかっているってことなんだろうなと思ってしまう。
せめてノスアムの人たちが賢い選択をしてくれるといいんだけど。
そう思いつつ、俺たちは晩御飯を普通に美味しく食べて明日に備えるのであった。




