第387射:軍の意味について
軍の意味について
Side:タダノリ・タナカ
俺とジョシーは相手がただの悪者ではないということを告げる。
まだ確定ではないが、色々出てくることは分かり切っているからな。
先に言っておかないとためらうこともあるだろう。
「まあ、戦争に絶対的な正義なんてないって話だ。この前の魔王の戦いが珍しいぐらいだ」
あっちは人を滅ぼせって感じの全方面に対して敵対姿勢だったからな。
身内の魔族たちからも反感買っていたぐらいだ。
あれぐらいわかりやすい独裁者なら倒しがいもあるだろうが、今回はそうもいかない。
フィエオンという小国をトップにしてまで連合を組んで、元西側の国を追い落として東側まできたんだ。
余程強い結束があると見える。
圧政なんてしてれば、こんな短時間に東側まで攻め込むことは出来ないだろうしな。
普通、敵国を制圧してしまえば、内部安定に数年は時間がかかる。
それを無視してよそに進軍なんて、内部崩壊するに決まっているからな。
そういう準備もしっかりしているのか、それともやっぱり逃げてきた連中にかなりの問題があったのか。
今は分からないが、安易な判断は下せないという所だ。
「……確かに、ルーメル内部でも暗殺とか色々ありましたよね」
「ええ。リテアの方も聖女について色々ありましたし」
そう言って苦笑いをする結城君と大和君。
「あはは、僕たちも勇者ってことで色々あったしね」
当然、ルクセン君たちも勇者というわけのわからん立場で国に翻弄されて右に左に国を移動することになったしな。
「でもさ、それを言ったら田中さんやジョシーもそうでしょ?」
「まあな」
俺なんて勇者についてきたおまけ扱いだったしな。
おかげで自由にやれたっていうのもあるが。
「こっちは死んでるしな」
ジョシーに関しては死んでいることも今ではそこまで気にしていないようだ。
まあ、こいつにとって死んでいるとは言わないだろうけどな。
今も自由にやれているんだし、何より砲撃でいなくなったんだから儲けものぐらいに思っているかもな。
「私たちもひどい目にあったしね」
「しかも味方?からですからね」
ノールタルとセイールの話はノータッチ。
慰み者になったなんて話は、掘り下げるだけ地雷だ。
「んだんだ。こういうのは本当に難しいもんだ。デキラの肩をもつわけじゃないだべが、あいつはあいつで目指すものがあったんだべ」
ゴードルはそう言ってコーヒーの入ったコップを見る。
元同僚が軍事クーデターを起こして、色々やっちゃったんだからな。
確かにあのデキラってやつも、今の現状に不満があって、そしてそれに賛同した連中も多かった。
あの時だけは、確かにデキラの方が正しかったのかもしれない。
まあ、後詰が甘くてひっくり返されたわけだが。
「結城君たちも色々あったのを思い出したようで何より。これからの戦争は自分たちの主義主張のぶつけ合いだからな。どちらかが正しいって言いうより、そういう主張があるってことぐらいで聞いておけばいい」
世の中そういうもんだと受け流すぐらいの力はいる。
後でどう動くにしろな。
「ねえ、向こうの主張があるのは分かったけど、どういう経緯でこうなったとか、詳しい話は聞けてないの?」
ルクセン君がもっともな話を聞いてくる。
「今のところは何ともだな。こっちの指揮官らしき人物は文字通りそのままでフィエオンがなぜ中心になったかなんて知らず、命令されて動いている感じの軍人だ」
「えー、そういうものなの?」
「軍人はそういうもんだ。命令されれば動く、将軍でもなければ戦略とかに口出しはできないしな。最前線のしかも一部の指揮官が全容を知っているわけもないだろう」
これが、この最前線の本部なら多少わかることもあるだろうが、木っ端の指揮官ってことだな。
「知っていたら、軍というか国の目的がもろばれで対処されるし、そういうことは話さないもんさ。何より軍人はどっちに大義があるかっていうのはあまり考えない。そういう装置だしな軍っていうのは」
あくまでも国の暴力装置であるわけで、自分で考えることはしないのだ。
それが暴走すれば軍国主事、軍事主義となるわけだが、それでもすべての事情を知っているのは国のトップであって末端の軍人じゃない。
「つまり、何もわかってないってことかな?」
「軍人から得られた情報はないな。とはいえ、今回のことで前線を一つ押し上げたことになる。次の目標はここだ」
俺は地図を広げて指をさす。
「町ですか?」
「ああ、軍人からの情報と、逃げてきた連中の情報は一致していたわけだ」
当初から提供されていた、南側を突破した後は町を攻略してくれと指示があったが嘘ではなかったようだ。
「名前は、ノスアムですか。特に情報は……ないですね」
「特に名産とか名物になるようなものはないって話だが、どう考えても南側のルートの補給を担っていたのは間違いないだろう。ここを落とせば、敵の資源や資金を押さえることにつながるし、より精度の高い情報も得られるだろう。それだけ人がいるだろうしな」
まあ、もちろん南側が突破されたことは伝わっているだろうし、耳のいい連中はさっさと逃げているだろうけどな。
とはいえ、町を落とす意味合いは大きい。
後方を気にしなくてもよくなるしな。
……まあ、統治するのは連合の連中だから絶対の安心はできないがないよりはましだということだ。
だが、それよりも。
「次は町かぁ……」
ルクセン君は露骨にやる気をなくしている。
「そういえば、町を攻めるのは初めてのことか」
「いやいや、普通はないって」
即座に突っ込みをするぐらいには元気はあるようだ。
これなら大丈夫か?
いやーとはいえ、気にしておいた方がいいだろうな。
「町にはもちろん攻め込む。補給とかもちろん、情報も欲しいからな」
「あの、その場合住民の安全とかは?」
結城君が恐る恐るという感じで聞いてくる。
「俺たちも無抵抗の住民に手を出そうとは思わないが……」
「向こうは私たちのことをどう聞いているかわからないからね。臨戦態勢だったらこっちも攻撃せざるを得ないね」
「ま、そうだな」
ジョシーの言う通り、向こうがこちらに危害を加えようというのであれば対処しなければいけない。
世の中、正規兵よりも非正規兵の方が面倒なのは、地球の歴史が示している。
パルチザンの蜂起なんてされて後方遮断とか、面倒極まりないしな。
しかもこっちはあっちほどそういう戦時協定が結ばれているわけでもない。
なんでもやり放題ってわけだ。
だが、そういうのを知らないルクセン君は。
「え? 攻撃するの?」
「するしかないな。笑顔でナイフを持って近づいてくる奴と仲良くは出来ない。油断してぶっすりやられるより、先にやるしかないってだけだな」
「……そう、だよね」
俺の言っていることは分かるのか、理解の言葉を示すが絶対といっていいほど嫌悪しているな。
まあ、見た目無害を装っている連中を殺したり攻撃するのは正規兵でもためらうからな。
「とはいえ、それは最悪の事態だ。もちろん事前に降伏勧告は出すし、連合の連中には無体をしないようには通達するし、上にも話を通している」
ここで皆殺しとか略奪とかされたら、結城君たちの士気がガタ落ちするのは目に見えているしな。
敵から情報を得るためっていうのもあって許可はお姫さんからとてもらっている。
「いいんだよな?」
「ええ。今回の予定を上回る速さの戦勝もありますし、あの戦車を相手にしたくはないでしょう」
と、すまし顔で答えるお姫さん。
俺たちとしては頼もしい限りだが、露骨にやっていると反感を買うんだよな。
そこらへんは後でマノジルの爺さんから話を聞いておくか。
お姫さんをやってしまおうなんて話が出てくれば面倒だしな。
「ということで、今日までは休みつつ、明日の出発を目指す。いいな?」
「「「はい」」」
こうして俺たちは会議を終えて移動の準備を始める。
さて、連合の連中は何人ついてこれるかな?




