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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第39射:祈りの闇

祈りの闇



Side:タダノリ・タナカ



俺は部屋に戻ったあと、ドタバタ隣が騒がしいので、眠らずにタバコをふかしていた。


「ふぅ……。鋭くなったか? いや、普通なら気が付くか。余裕ができたってことだな」


今日はグランドマスターの言葉を聞いて、言いなりになるようでしゃくではあるが、リテアの様子を見ることにしたのだが……。


「いや、綺麗すぎたな」


そう、リテアの繁華街にしては、綺麗すぎだ。

ああ、別にゴミが落ちていないとか、そういう意味ではない。

観光地特有というわけでもないが、都会にはつきものの、スラムというか、物乞いの存在をついに一人も見なくて、晩御飯を終えた。

だが、それはおかしい、物乞いの人たちにとっては観光客というのは基本的にお金を恵んでくれる可能性の高い、いい商売相手というのは違うが、まあそこまで変わりないか。

なにせ、旅する余裕がある人たちだからな。はした小銭ぐらい恵んでくれるだろうと思うわけだ。

だが、それが一切いないというのはおかしい。

しかも、繁華街とはいっても、冒険者ギルドと繋がっている場所だ。

貴族の街というわけでもない。

なのに、そういう人物が誰一人いないのだ。

そのことに違和感を感じたのは、俺だけじゃなく大和君たちもってことだな。


「……恐らくは意図的な隔離でもしているんだろうな。しかも徹底している。俺たちの目に付かないように。となると、あのガキどもはどこから来たんだって話だよな……。案外、良い拾いモノをしたのかもな」


あの子供が無事に完治するなら、感謝される。死んでしまうならそれもそれで弔うといってついて行く。どちらとも向こうに歓迎されるかはわからんが、関わる理由ができた。


「ま、大体想像はつくがな……」


宗教国家、貧民が見えない、それも以前から……。


「やっかいすぎるな」


俺は窓から覗く月を眺めながら、そう呟く。

気のせいであってほしいが……、俺はそう思いながら、夜の一時を過ごし、大和君たちの協力要請があるかもしれないので、座ったまま休むことにした。



ちゅんちゅん……。

そんな雀の声に反応して目が覚める。


「ん……。もう朝か。無事に乗り切ったか。いや、別にそこまで重体でもなかったからな」


俺が瞼を開けると、外はうっすら明るくなっていて、辺りに人の気配を感じる。

一応、昨日は万が一の為に待機はしていたが、極度の栄養失調に骨折、病気ぐらいで人は中々死なないとは言わないが、死ぬならとうの昔に死んでるからな。

そう言う意味では、ああいう子供たちは逞しい。

いや、逞しくならないと生きていけないからな。身寄りのない子供ってのはどこの世界でも。


「とりあえず、一服するか」


俺はいつものようにタバコを取り出して、火を……。


コンコン……。


と、なんというかタイミングを見計らったような訪問だな。


「開いてますよ」


俺がそう言うと、結城君がガキを連れて入ってくる。


「おう。どうした? 死んだか?」

「しんでねーよ!!」

「こら、アロサ。静かにしろ。大丈夫です。田中さんのおかげで助かりました。アロサ、この人が薬を出してくれたんだぞ?」

「え? こんなおっさんが? ……あー、なんか胡散臭い薬師には見えるかな?」

「いや、別に俺は薬師じゃねーよ。お前の目は正常だ」

「は? でも薬を出したんだろう?」

「知り合いからのもらい物でな。旅には必需品なんだよ。わかるだろ? 風邪でも引いて森のど真ん中とかで動けなくなると、死ぬしかないからな」

「ああ、そういうことか」

「そういうことだ。俺は信用しなくていいが、薬は信用してくれていいぞ」

「そうか。助かった」

「礼を言うなら、お前たちを連れてきたそっちの結城君たちに言うんだな。で、それはいいとして、なんで部屋にきたんだ? 礼を言いに来ただけか?」


そう、わざわざ朝っぱらから俺の部屋に来る理由もない。

寝てたらどうするんだって話だからな。

だからこそ、何かあったかと思ったんだが、別にこの2人は慌てていない。


「あー、それなんですが、ミコットていう治療中の子なんですが、女の子でして……」

「なんか知らないけど、服を着替えさせるとかで、部屋から追い出されたんだよ」

「あー、そういうことか。しかし今更だな」

「まずは薬を飲ませて様子をみていたんですよ。あと流動食を作っていたり。そして、今しがた落ち着いたから」

「着替えさせようとして発覚したわけだ。まあ、ちっこいと男か女かわからんよな。そのアロサは男ってわけか」


声変わりもしてない、身なりも汚いとなれば、全然わからん。

ただわかるのは子供ってことと、極度の栄養失調ってだけだな。


「ま、話は分かったが、別に結城君の部屋でもよかったんじゃないか?」

「あ、いえ。撫子や光から、ついでに経過報告をしてこいっていわれて」

「そりゃ大変だな」

「まあ、あの場にいてもただ周りで用意してるだけでしたから、落ち着いた今では邪魔なだけですし」

「そうか。となると、今後の予定については、大和君やルクセン君に聞かないといけないか。まだ決まってないんだろう?」

「はい。まだ治療中なんで、そう言う話はしてないです。……くぁ」


そう言って、結城君は眠たそうに欠伸をする。


「なら、そのアロサは預かるから、結城君は寝て来い。ついでに、隣の部屋でそわそわしている、リカルドたちにも寝るように言っとけ。心配だったのかあいつらも起きてたからな」

「わかりました。お言葉に甘えます。って、田中さんは寝たんですか?」

「ああ、仮眠はとったから休んどけ」

「でも、アロサが……」

「別に、逃げねえよ。ミコットも具合よくなってるのは確認したし、俺たちは受けた恩を仇で返すほどクズじゃない」

「ということだ。アロサと俺を信じて休んでおけ。次はどうせ、大和君とルクセン君と交代だからな」

「……はい。休ませてもらいます」


こんな感じで、体よく結城君を追い出した俺は、部屋に残ったアロサに話しかける。


「で、お前はどうする? 休むなら、ベッドは使っていいぞ。お前も寝てないんだろ?」

「……いい。ミコットが世話になったのに、これ以上迷惑はかけられない」

「別に汚いとか気にしなくていいぞ。ガキは遊んで泥だらけになるのが常だしな」

「汚いってのは自覚あるけど、別に本当に眠くないんだ。基本的に俺たち、日中は体力温存しているから」

「ふーん。そうか、飯はどうする? 食うか?」

「……あのねーちゃんたちや、にいちゃんもそうだけど、なんであんたたちは俺たちにこんなにしてくれるんだ? 何が目的なんだ? 俺たちに出せるモノなんてなにも……」


なるほど、無償の行為に困惑しているところか。

実際無償じゃないんだけどな。

まあ、こいつらに満足感や情報の為ということを教えても不快になるか、理解できないだけだからな。というか、俺の言っていることが理解できるほどの頭の出来ならこんなところにはいない。

とはいえ、説明しないことには納得しないだろうからなー……よし!!


「俺はただ単にお前を預かったからな。虐待すると、あの姉ちゃんが怒るからな。わかるだろう?」

「あ、うん。それは分かる。あのねーちゃんたちは馬鹿みたいに優しい」

「で、その姉ちゃんたちは、勇者って言ってただろう? だから助けるんだよ。勇者はみんなの味方だからな」

「……うそだ。あんなよわそうなねーちゃんが勇者なわけないだろう」

「別に信じなくてもいい。なら、勇者を目指しているってことだ、それでいいだろう? 実際お前も助けてもらったんだしな」

「そう、なのか?」

「そうだろう? 普通ならお前等はこんなところに来てないだろうに」

「そう、か……」

「納得したな。したならほれ食え。おかゆだ」

「おかゆ?」

「胃に優しい食い物だよ。で、多少でも感謝してくれているなら、ちょっと俺の質問に答えてくれ」

「んぐ、んぐ……。なんかいったかおっさん?」


まあ、食ってからでもう一度は話せばいいか……。


「ほれ、こっちの飲み物も飲んどけ」


取り合えず、アロサには飯を食ってもらってから、話を聞くことにすると決め、今は食べてもらうことに専念する。

もともと極度の栄養失調だからな、そこまで待つことはなかった。


「なんか、久々に食べた気がする」

「そうか。よかったな。ま、俺の質問に答えてくれるなら、仲間の分の食糧もくれてやろう」

「ほんとか!? でも、質問ってなんだ?」

「ああ。まあ、質問も難しい話じゃない。お前たちなら絶対知っていることだ。あの姉ちゃんたちを見て不思議だっただろうが。俺たちは他国からきた。だからこの国の常識を教えてほしい」

「じょうしき?」

「お前たちにとっては当たり前のことだ。だが、他国から来た俺たちはこのリテア聖都のことを何も知らない。お前たちがなぜ日中活動しないで、あんな夜に出回っているとかな」

「……俺たちは、孤児院にいるんだ。だから昼は抜け出せない」


そこから、ぽつぽつとしゃべり始めた。

このアロサと大和君が連れてきたミコットはリテア聖都にある孤児院にいるそうだ。

とんだ笑い種の孤児院だな。こんな極度の栄養失調者を抱えているなんてな。

そして、さらにそれを笑わせてくれているのが、表向き、断食の儀だとさ。

リテアの信者には当たり前のことだと。

で、とうの孤児院の運営者はでっぷりと肥えているそうだ。

そういうことで、子供たちは夜な夜な孤児院を抜け出しては、食料を集めているということだ。

それがアロサたちの生命線というわけだ。


「なるほどな。しかし、ほかの孤児とかを見ないのはなんでだ? 孤児が全員孤児院に入れられているわけじゃないだろう?」

「本当に何もしらないんだなおっさん。俺たちはリテア市民3階位なんだ」

「3階位?」

「そう。3階位は俺たちのように身寄りのない子供で、孤児院に預けられているやつらのことを言うんだ。ほら、これが3階位の証」


そう言って、胸から十字架を見せる。


「で、それ以下のやつは、勝手に住み着いているやつな。税金を納めないとこの証は剥奪されるんだ。そして、背信者の地区に追いやられるんだ」

「背信者の地区ね」


いわゆるスラムって感じのところか。

そういうことか、区切りを決めて、厄介者は追い出しているというわけか。

まあ、よくある地区分けだな。


「旅人が背信者になることはあるのか?」

「あるよ。お金がないのに宿に泊まったりして、トラブルを起こすと、聖都を追い出されるか、背信者地区に送り込まれる。ああ、もちろん犯罪を犯すと兵隊に連れていかれる」


処罰されるってことだな。


「しかし、追い出されるのはわかるが、背信者地区に送り込まれるっていうのはどういうことだ? 帰ればいいだけだろう?」

「……旅人の多くは、リテアに救いを求めてるんだ。リテアの治療魔術は4大国で一番だから……。だから、治療を受けるまでは帰らない人も多いし、聖都に定住したがる人も多い。でも、仕事がないし……」

「背信者地区に送り込まれるしかないってことか」

「うん」


悪循環だが、よく聞く話だ。

都会には、夢を求めて多くの人が集まる。そして夢破れて、田舎に戻るか、それでもと踏ん張り続けるか。

そういう話だ。

だが、この状況は……、あからさますぎるな。


「アロサ。その背信者地区ってのに案内してもらえるか?」

「え? 旅人にはおすすめしないぞ? 下手に出入りすれば、兵士に怪しまれる」

「その口ぶりじゃ、行ったことがあるみたいだな」

「……そりゃ、食べ物を手に入れるためにいろいろいったから」

「案内してくれたら、食料は、そうだな。一週間分くれてやる。薬も一緒にな」

「わかった。教えるよ」


さて、どこまでこの国が末期か見せてもらうか。





ここでリテアの問題が見えてくる。

そして、田中はこの問題に対してどう動くのか?

撫子、光、晃は?


そして、ここの聖女ルルアは?

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