第385射:得られた情報
得られた情報
Side:タダノリ・タナカ
夜が明けて、俺はタバコを一服するために外に出ている。
「あー、色々な意味で煙がうめぇ」
俺はそう呟きながら、ヤニを肺一杯に吸い込む。
捕まえた奴らの事情聴取では、シェルショックからか脱糞、尿漏れ、吐くなんてのが普通だから、あの中きついんだよ。
まあ、清掃に関しては一度消して出せば新品になるんで助かるんだが、臭いはその都度起こる可能性があるので、俺としては面倒きわまりなかった。
「俺の方が拷問受けてね?」
別段、この敵対国との戦時条約を結んでいるわけでもないから、相手に配慮する必要はないんだ。
俺が気を遣うのが間違ってないか?
そう思ってはいたが、いやいや、殺してもそれはそれで追加で内臓とか血液処理が待っているから面倒だ。
拷問って一言でいうが、それはそれで後片付けが面倒なんだ。
特に若者がいるからな。
それを発見されることは士気低下につながる。
「若いからなぁ」
若さっていうのはまぶしい、人は綺麗なものだと信じている。
裏取引なんてなくて公明正大なのが大人だとな。
まあ、子供の頃からそういう教育をしても、まともな社会になるとは思えないがな。
契約やぶりが当たり前の社会になっても困る。
そこら辺のバランスを考えると、そういう意味ではよくできた社会だったんだろう。
そんなことを考えていると。
「よう、ダスト。調子はどうだい?」
にやにやとした表情を引っ提げてジョシーがこっちにやってくる。
「調子は眠いな。いい加減徹夜はつらくなってきたな。別に戦闘もなかったからな」
「ああ、確かに気を張ってないと眠くなるよな」
ジョシーは納得という感じで横にたって同じように夜明けの空を眺める。
「そっちはしっかり寝たのか。この後交代だぞ」
「ちゃんと休んでるさ。こっちはちゃんと仕事の報告に来たんだよ。ほらヒカリたちのことだ」
「ああ、そういえばショックは大丈夫そうか?」
若者っていうのはルクセン君たちのことだ。
彼女たちが落ち込めばそれだけ死亡率が上がる。
精神が未成熟な連中の死亡率って戦場じゃ跳ね上がるからな。
戦闘に出さないのがベストなんだが、放っておくと妙なちょっかいも掛けられるだろうし、連れて行くのが最適と来たもんだから面倒なんだよな。
ああ、子供ぐらい放っておけよと思うが、あの力を見るとそうもいかないか。
レベルとか魔術とかスキルとか面倒な世界だ。
と、そんなことを考えているうちにジョシーが報告をする。
「全員、軽いシェルショックはあるが割り切っているね。以前ドローンで魔物を一方的にぶっ飛ばしたそうじゃないか?」
「ああ、あったな。まあ、そのほかにも知り合いの冒険者がほぼ死にかけだったり、裏組織を潰すときに死人は見てているからな、そういう所で慣れたんだろうさ」
「若いのに大変だな」
「確かにな。環境を考えると変化は激しいな。とはいえ良識がある方がこっちとしてはやりやすい。何も知らない浮浪者のガキだと一から色々教えるのが大変だしな」
「あー、そっちと比べると、まあ、ましだろうな。度胸は浮浪者のガキの方が上なんだがな」
「度胸が上っていうか慎重さが足りないというかおつむが足りない。簡単に騙されるのはこっちにとっても面倒だしな」
どっちもどっちではあるが、知恵と礼儀がある方が仲間にするならいいに決まっている。
それだけの話だ。
「ま、ヒカリたちが使えるってことでいいとして、そっちはどうだったんだ? 何か面白い情報は得られたか? 交代するのはいいが気を付けることは?」
おっと、そういえばジョシーは交代に来たんだったな。
俺もいつまでもタバコをふかしていないで、寝ないとつらくなるな。
そう思い、タバコを携帯灰皿で消して捨て話を続ける。
「上級将校らしき人物からは話を聞けた。まあ、残念ながらあまり情報はもっていなかったな。組織としては西魔連合とか言っていたな」
「せいまれんごう?」
「西と魔物の連合軍ってことだそうだ」
「ああ、分かりやすい。で、トップは?」
「魔王っていうのがフィエオンにいるらしい」
「フィエオン? ……ああ、元々魔族が発生した場所だったか?」
「そうだ。そこがこの西魔連合の本拠地らしい。信ぴょう性はよくわからんが」
確実なら大きな情報だが、まだ確定するには足りないし……。
「そこが発生源なのはいいとして、それでなんで連合になるんだよ」
「そこはさっぱりわからん」
そう、肝心の情報は抜き出せていない。
なんでいきなり現れた人外の怪物である魔族に西側の連中が味方をしたのか。
「東側の連合と戦い始めて半年とちょっとだが、それ以前に西側は魔族とのトラブルがあったというのは分かるが、何をどうすれば意思を統一できるっていう疑問が残るんだよな。残念ながら、こっちの連中は利口には思えんし」
「だよなー。どいつもこいつも、国際連合を組めるような器じゃない。ここまで足並み揃えて東側に追ってこれるもんかね?」
「だからわからんってやつだ。状況からすればフィエオンっていう小国が発端なのはわかるが、それだけで西側の国がいくつかがフィエオンの仲間をして、敵対した西側の国を滅ぼしたっていうのが状況的な証明だろうが、何があってフィエオンを中心にするようなことが起こった? もっとましな大国があっただろうに」
「だよな。ネームバリューもない国を代表にするなんて意味がないな。他の国が納得とかもするのか?」
「普通はしない。面子が大事なのはいつの時代でも同じみたいだからな。ここまでまとまるってことは余程のことがあったと思った方がいいだろう」
「小国が中心になるようなことねぇ。大国がよほど馬鹿なことをして反感を買ったか?」
「魔王を中心として連合が組まれるぐらいだから余程だろうな。そこら辺を重点的に聞くか、それかこの西側の有力国の情報とかがあれば嬉しいな。東側の連中は避難してきた連中の話を鵜呑みにしているとは思えないが、こっちにその手の情報を流すとも思えない」
自分たちが悪い方に加担しているなんて、どこの国も言えるわけないからな。
何より大義名分を抱えて西側を侵略できるんだから言うわけがない。
「国の利益ねぇ。そうなると面倒だねぇ」
「戦争でどっちが正しいなんて稀だろう。そういうもんさ」
「ま、そうだけど、ヒカリたちはそういうのを気にするだろう?」
「別にどっちにも言い分があるだけだ。それなら俺たちは俺たちの利益になるほうに付くだけ。なにより、最初の出会いは印象の悪い魔族の襲撃だからな。ゼランを追いかけて海を渡って来た連中。あれと協力するような道筋は余程のことがない限りないだろうさ」
「あー、そういえばそんなことがあったな」
「ついでに町を一つ滅ぼして、ゾンビにして食ってたとかな」
「あったあった。確かにあのモラルを考えると西の連中と組む可能性は低いか」
「そういうこと。じゃ、とりあえずそういう魔族のことも聞けたら聞いててくれ。ほれ、夜中の調書」
そう言って俺はジョシーに書類を渡すとその場を離れる。
「昼までに何かいい情報がでるといいな」
「好きにやっていいのか?」
「処理が面倒なことはするな。特に死体とか。ルクセン君たちが見たら動揺するのが目に見えている」
「ああ、確かにそれは避けた方がいいな。わかったよ。ある程度手加減はしておく」
ジョシーの返事を聞いて俺はその場を後にする。
気が付けば夜明けの薄暗い中からすっかり日が昇って朝日がまぶしい。
「ふぁ……。飯食って寝るか。あ、シャワーは浴びないとな」
どうしても血なまぐさいからな。
そこらへんは気になるぐらい、俺も丸くなったもんだ。
そんなことを考えながら俺は自分の部屋に向かうのだった。




