第383射:捕虜はこちらです
捕虜はこちらです
Side:タダノリ・タナカ
ズドーン! ドーン!
そんな炸裂音が交戦地点から聞こえてくる。
俺が出した戦車たちのコンディションを確認してみるが、特に問題はない。
正常に稼働している。
故障率が高い戦車を運用しているわけじゃないが、こういうのはマジで気にするよな。
動かなければ戦車なんてただの的にしかなりえない。
まあ、この世界で戦車の装甲を貫けるものは今の所ないのだが。
ズドーン!
しかしながら、それなりに離れた後方にいるんだが、それでもここまで音が聞こえてくるから、現場は騒々しいだろうな。
そんな馬鹿なことを考えながら、俺は後方遮断のための戦車を用意する。
人を掃討できる小機関銃付きのタイプだ。
全部が全部戦車砲で倒すなんてのはできないから、サブウェポンがついている戦車はよくある。
「さて、現実に戻ってくるのはいつになるのかね」
俺は後方を塞ぎつつもさらに後方を警戒して戦車を展開し、今出した戦車のコンディションを確認しつつ、敵陣へと近づく。
しかし、これで何人……生きているのかね。
とりあえず魔物は意思疎通ができないからいいとして、人は残っているといいんだけどな。
そんなことを考えていると、ようやくバタバタと足音が響いてくる。
煙が晴れるのを待つことなく逃げ回っているようだ。
俺は戦車で道を塞ぐように展開して、逃げてくる連中を待ち受ける。
「あ、あ……」
「う、うそだ……」
ドローンからの映像で煙を抜けて道をまっすぐ走ってきた奴らはその場で座り込んでいた。
どうやら腰が抜けたというやつか。
まあ、俺としてはありがたい。
俺は遠隔操作で鉄のトラックの後部を移動し。
『降伏する者は武装解除して目の前の箱に入れ。逃げるなら止めを刺す』
俺がそう拡声器を通じて腰を抜かしている連中に声をかけつつ、戦車の砲と機銃を向けると。
「ひ、ひぃぃ!?」
「あ、あ、ま、まっ……」
一人が腰抜け状態から抜け出したのか立ち上がって逃げようとするが、そこまで甘くはなく。
タタタ……。
無機質な音が響き、機銃から弾丸が飛んであっさりと逃げていたやつは倒れ伏す。
血だまりが広がり、あの量だと助からないな。
ビクンビクンと痙攣すると動かなくなる。
うん、早かったな。
『よし、判断は早く行こう。面倒は嫌いだからな。10数える前に箱に入らなければ始末する。10、9、8……』
俺は相手の返事を待つことなく、そう宣言をしてカウントダウンをすると、腰を抜かしていた連中のほとんどが慌てて立ち上がり我先に護送車仕様のトラックへと走って乗り込んでいく。
俺はそれを見届けつつも、未だに立てない連中には……。
『3、2、1、0』
「まっ」
タタタ……。
無機質に銃撃音が響き、立ち上がれないような奴の処分をする。
これでトラックに乗り込んだ連中は、俺が言ったことは確実に実行するということが分かっただろう。
そんな感じで、逃げてきた連中をトラックに押し込んでいると、偉そうな服。
あれだ、妙に豪華な服を着た髭を生やしたおっさんが護衛かお供と一緒に出てきた。
無事だったのかと思うのと、こりゃ説得できるかと思っていると。
「な、なんだこれは!?」
「ま、回り込まれている!?」
おっと、どうやら現状の把握は出来ているようだな。
なら、話も通じるかもしれない。
『指揮官クラスとお見受けします。勝負は決しました。ここで死ぬか、上級将校対応での捕縛をされるか選んでいただきたい』
俺はそう言いつつ偉いさん用のトラックを近づける。
さて、ここでルクセン君の質問を思い出す。
『え? 敵の偉い人って降伏簡単にするの?』
これは難しい問題だ。
相手が戦力があれば確かに降伏なんてしない。
特に国王とかな。
捕縛や殺されれば国が、がたがたになるからだ。
事実上の敗北だ。
指揮官に関しても、一軍が機能不全に陥ることになるから降伏というのは最終手段ではあるが……。
「……降伏する」
辺りを見回した指揮官らしい人物は肩を落としつつ素直にそう告げる。
『では武装を解除して、あちらの鉄の箱へ』
俺がそういうと頷いて武器を下ろし入っていく。
まあ、最後まで抵抗するのは矜持とか、国の存亡がかかわっていればだ。
今回のは国境線の小競り合いで、別に意地を張ることでもないし、ここにいる指揮官が上位でもないということだ。
何より、捕虜になれば生きて帰れる。
それは戦争においてよくあることだ。
だが、それをルクセン君たちは知らない。
相手を殺せば、特に権力者とかを殺せば泥沼化することが多いからな。
抵抗をしないのなら、金銭と共に返還する方が儲かるし恨みも買わない。
これがヨーロッパというか、昔の戦いも今の戦いもこういうものだ。
100年戦争とかいう時代はこういうやり取りが多くあった。
負けて捕まって保釈金を払って帰還。
指揮官はつまりお金というわけだ。
もちろん下っ端は死ぬが、指揮官クラス、つまり貴族の戦死はそこまで多くは無かったんだよな。
まあ、日本においては負けは死ぬっていうのが基本だからな。
いやいや、調べると金銭での捕虜返還というのはあったんだが、切腹とか名誉のために自死を選ぶっていうのは日本では意外と多いんだよな。
そして、二次大戦での沖縄戦とかもだ。
降伏するぐらいなら死ぬという気概を持った国民性?とでもいうべきか?
そう言うのがあるから降伏を理解しづらいのだろう。
「よし、こちらアルファ。ヘッドクオーター聞こえるか?」
指揮官が入ったトラックの後部を閉めて、ジョシーに連絡を取る。
『こちらヘッドクオーター感度良好。アルファどうした?』
「そちらの攻撃で逃げきた指揮官らしき人物を捕獲した」
俺は簡潔に状況を伝える。
『ヘッドクオーター了解。一度、会議をする。しばし待ってくれ。その間は作戦を継続。他にもいるかもしれない』
「了解。引き続き撤退する兵の捕縛を続ける」
まあ、ジョシーの言う通り指揮官クラスが一人だけっていうのもおかしな話だ。
普通軍隊における指揮官は複数いる。
もちろん代表的な将軍とかは一人だけだが、補佐をする連中なども俺たちからすれば情報を持っている指揮官クラスの将校ってわけだ。
数がまあ千単位だからそこまで期待はしていないが、情報源は多い方が精査ができるからな。
とはいえ、狭い戦車に乗り込みつつ、辺りを見るが、兵が逃げてくる様子はない。
捕まえた兵の数は大体100前後。
3000人いたとことを考えるともっといてもよさそうだが……。
そういえば半数というか3分の1ぐらいしか人はいなかったんだよな。
魔物を突撃兵として使っているから、全体の10分の1は捕まえたってことか。
「残りは全部死んだか?」
後方にしか人がいないとはいえ、戦車に前時代的な隊伍……どころか古代の戦い方みたいな並びかたの距離をとっても意味はない。
人が走って戦える距離なんざ射程範囲だからだ。
生き残った連中はジョシーがあえて攻撃しなかったって感じだろうな。
先ほど連絡を取ったジョシーにも慌てる様子はなかったし、ドローン上空監視映像でも戦車隊に敵が群がっている様子もない。
いや、後ろの兵隊たちがなんかひっくり返っている感じか?
そういえば突撃するとかなんとか言ってたが、それもできない感じか。
まあ、俺たちとしてもそれがありがたいんだけどな。
だって流石に味方を撃つわけにはいかないからな。
敵対してくるなら容赦はしないが、こちらから敵対する気はない。
「ま、初戦は楽な仕事になったわけだ。ひとまずは安心か?」
作戦は予定通りに進んでいる。
魔族とかが乱入してくる可能性も考慮はしていたが、残念ながらこの日は俺が期待した事態も起こらず、会議の結果捕虜を連れてくるように連絡があって南側の戦線を突破することに成功したのであった。
「さて、これから各戦線がどう動くのやら」




