第379射:決定
決定
Side:タダノリ・タナカ
珍しくルクセン君と大和君が料理を作りたいと言って来たので材料を出してみた。
正直学生が食べられるものを作れるのかと疑問だったが、普通に食べられるものだった。
ご飯をわざわざ炊いていたので、俺や結城君としては嬉しい限りだ。
ご飯やみそ汁に慣れていないこっちの連中は恐る恐るって感じで食べては意外と美味しいって感じだったな。
もちろん、パンとかも用意してたから食べれない時も問題は無いようにしていた。
だが、代わりに……。
「……私の出番がありませんでした」
と、ヨフィアががっくりしていた。
「メイドが主が起きていると言うのに寝ているからです」
カチュアにバッサリ切られていたけどな。
まあ、そこはいいとして。
朝食が終わってから、ユーリアとマノジル爺さんはまた連合の会議に出て行ったのだが、昼前には戻ってきて、俺たちにあることを伝えた。
「海沿いに攻めるの?」
「ええ。そうですヒカリ。連合の会議の結果、私たちは船からの補給を受けつつ、南側を解放していくことになりました」
ようやく方針が決定したようだ。
「ふーん。それはいいとして同行する連中とか、他の戦線はどうするんだ?」
その回答を聞いてもジョシーは特に喜びもせず詳しい話を聞く。
こういうのっていいことばかりじゃないからな。
「それに関しては現状を維持しつつ、私たちは攻城や敵軍に風穴をあけて、同行軍が制圧と占拠をするといっています。同行する軍に関してはこれからきめるようですわ」
「ま、すぐに決まるもんじゃないだろうね」
「そうなの?」
ジョシーの呟きでルクセン君が首を傾げる。
「そうさ。何せこっちの戦車とか戦艦を使えば人の集まりなんて数の意味がないからね。兵や物資を消費することもなく西側の連中と約束した領土解放を行える。こんな旨味しかないこと、さっさとやりたいだろう?」
「あー、確かにそうか~。でもさ、南側の人たち、国って決まっているんじゃない? そこに支援するっていう事も決まってるんじゃない?」
「まあ、決まっていただろうが、結局連合として対処しているから、勝手に抜けられても困るだろう? そして西側の連中だって自国だけ取り返して、はいさよならってできると思うか?」
「確かに、不義理なことをすれば今後の立ち位置が難しくなりますし、戻っただけで戦力が整ったわけでもないですわね」
そう、これが連合の厄介な、いやいい所か?
支援を約束している懇意にしている国があったとしても西側を奪還するまで協力というのが大前提にある。
自国を取り戻したからもう手伝いませんは通らない。
そんな馬鹿なことをすれば、次はないし、攻められる口実にもなる。
つまりだ、この状況下では余程のことがない限りは裏切りはないってことだ。
「って、ちょっと待って解放が簡単なら当初の予定通りの軍を派遣すればいいんじゃない?」
「いやいや、ヒカリ。少ないのは困るが過剰に送り込んでも意味はないだろう?」
「あ」
ジョシーの言葉に驚いた声を上げる。
そう、どの軍を送るかは確かに元々決まってはいただろうが、それが少なく済むなら少なくして他の戦力を増強する方がいい。
何せ人も物資も無限にはないのだ。
そして他の戦線が不安定ならそちらに戦力を回すのは当然の話。
「どれぐらいが適当か。そして誰がこちらに来るかって話で会議が紛糾しています」
「ま、当然じゃな。連合としては戦力をかけずに西側の解放が行えるが、逆に少なすぎても解放した土地を維持できない。維持して防衛するだけの戦力はどれぐらいいるのか。そういう所は難しいことじゃ」
お姫さんの言葉にマノジルの爺さんが言い添える。
伏せてはいるが、解放に成功した軍は有名にもなるだろうけどな。
もちろん、ルーメルが一番ではあるが一緒に開放を行ったというのは名誉になる。
ああ、ノウゼン王国はこの連合の代表だから、作戦の成功はそのまま名誉にはなるからそっちに関しては問題はないが……。
足を引っ張られるのは勘弁だな。
いないと信じたいが、世の中そううまくは行かない。
注意は必要だ。
そして、その注意をちゃんとするためにも……。
「それでお姫さん。南側、つまり海岸ルートを攻めるのことになったのはいいが、具体的なルートとか攻略目標はできたのか?」
大事なのはどこを攻めていくかだ。
それに合わせてやるべきことも変わってくる。
「はい。そちらは決まっています。地図をよろしいでしょうか?」
そう言われて、俺はドローンで作った地図をテーブルに広げる。
するとお姫様は身を乗り出し……。
「私たちが攻略に向かうのは、まずこの南のルートを支配しているオナイエ王国の王都解放を目指します」
そう言って、ある点を指す。
そこはまだ地図ができておらず、テーブルを叩くだけだ。
「とはいえ、まずは南側のルートを突破する必要があります」
指を戻して南側に続くルートの中間地点に指を置く。
写真もあるので、そこで陣を構えて戦っているのは分かる。
「おそらくここで戦闘があるでしょう。まずはここをどうやって被害を少なく突破するかを考えていただければ。その間に攻略ルートとそのルート上の拠点もわかってくるでしょう」
ま、当然の話だな。
ここを抜かない限り、南ルートの解放はできない。
で、その攻略方法なんだが……。
「攻略っていっても。敵の陣地に打ち込むだけだろう? 崩れたらそれで終わり」
ジョシーの言う通り、この世界では砲撃などは存在しない。
弓の狙撃を警戒しなくてはいけないが、それも魔力とか言う不思議能力で余程じゃない限りは抜けないし、戦車を貫通することは不可能だ。
つまり、敵陣地に砲撃を打ち込んだあとに戦車で押し寄せればそれで突破可能なわけだ。
逃げ散った連中は絞って適当に捕まえて情報を集めればいい。
「確かにその通りですが、私たち独自でしっかり情報を集めたいので敵の指揮官を押さえてもらいたいのです」
「ああ、そういうことか」
「なるほどね」
俺たちも考えていたことだ。
今の所敵の情報は連合から与えられるだけ。
都合の悪いことなどは隠されている可能性があるってな。
その情報不足を補うために、どこかで情報を集めなければという話はあった。
とはいえ、そこはいま戦っている戦線という話ではなかった理由としては……。
「いいのかい? そんなに出しゃばれば、一緒に同行している軍も面白くはないだろう?」
そう、一応前から戦っている連中の面子というのがある。
拮抗しかできていない連中なんだし。
ああ、いや拮抗しているのは作戦って可能性もあるにはある。
とはいえ、どのみち見せ場を奪われるんだから面白くはないだろう。
つまり、背中から撃たれる可能性が出てくるってことだ。
いや、元々撃たれる可能性はあるが、その可能性が高まるってことだ。
そこは考えているのかという意味で視線を向けると……。
「私たちも会議に参加しているのですが、どうやら魔族側、こちらでは西側の軍は話し合いにすら応じないようなんです。問答無用でこちらに襲い掛かっていて、それを防いでいる? 攻めているようなのです?」
「ああ、なるほど。情報が全然信用ならないって話か」
「その通りです。相手には人が中核を担い、魔物が先兵のような扱いです。ですからそこには……」
「何らかの目的があるのは当然だね。それを知るには指揮官クラスを捕まえて情報を吐かせる方がいいか。下手に味方にくれてやると情報を消されそうだね」
ま、よくあることだな。
やましいことがあれば、こっちに聞かせたくない情報があるから、勝手に自殺したとか、処刑したとかいうに決まっている。
「えーと、つまり南側の敵はまず僕たちだけで突破する必要があるってこと?」
「そのようですわね」
「まあ、味方もこっちのことはそこまで信用してないだろうし、意表をついて行けるんじゃないですか? むしろ後半になればなるほど、情報取れなくなりそうですけど?」
「結城君の言う通りだな。まあ、城や町なら俺やジョシーでも先に潜入して情報を集めるつもりだったが、お姫さんの話を聞くにさっさと情報は集めた方がよさそうだな」
「私も同意だね。そういえば、雑兵を捕らえたとかいう話は無いのかい? そっちからも情報を集めるのも向こうの一般情報を集めるのにはいいんだけど?」
ジョシーの言う通り、正確な情報は確かに指揮官クラスからの方がいいだろうが、敵の一般兵にはどういう理由で戦いに駆り出されているのか、そういう情報を集めることも必要だ。
「いえ、敵自体を捕獲したという話を聞いていません。ただ魔物を前面に出して兵を捕まえられていないと」
「「「……」」」
流石にそれは無いだろうと無言になるが、味方を嘘だろうと詰め寄ることもできない。
こりゃ、とにかく南側のルートを突破する際に確実に情報を集める必要があるな。




