第378射:隙間
隙間
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
昨日はなんか西側にどう攻めるかって話だったけど、大規模な戦いにはそれに合ったやり方があるんだなーってのが僕が思ったこと。
田中さんや晃、撫子って感じでの少数メンバーの旅とは全く違うんだなー。
そうなると、小学校での遠足とか先生たち大変だったんだなと思った。
「あー……」
なんか寝起きに考えることじゃないよね?
なんでこんなこと考えて起きてるんだろう?
集団行動って所かな?
変な目覚めで頭がぼーっとしていると
「あら、お早いですわね」
どこかに出ていたのか撫子が戻ってきて僕の起きている姿を見てそう言った。
「え? 今何時?」
「5時ですわよ」
「はや!?」
思わず、時計を確認すると確かに時間は5時10分を過ぎたところ。
なんでこんな時間に目が覚めたんだろ?
緊急事態なら目を覚ますようになったけどさ、別に起きなくてもいい時間帯に起きる必要はないからぐっすり寝ているはずなんだけど……。
「なんかあった?」
そうなると何か起こって僕がそれを察知して目を覚ましたってことになる。
まあ、そんな風に第六感が働くようなことはなかったけどさ。
「いいえ。静かなものですわ。本当に戦争をしているのかと思うほど。まあ、この世界の戦争って夜は休むようですが」
「あれ、そうだっけ?」
「余程でもない限り夜は攻めませんよ。明かりの確保が難しいですからね」
「ああ、そうだった」
この世界の戦争って夜はお休みなんだよね。
地球でも夜通し戦争っていうのは近代になってからだっけ?
「平和ならそれに越したことはないよね」
「ですわね。でも、これからは忙しくなるかもしれませんわ」
「なんで?」
「ユーリアが言っていたでしょう? 今日ぐらいには結論がでると」
「あー、田中さんの希望も伝えてどうなるかなぁ~」
正直船からの援護が受けられる状態は僕たちとして嬉しいからその要望が通る方がいい。
田中さんもユーリアに条件を伝えている。
それ以外の運用はしたくないって。
言っていることは事実だもんね。
向こうは此方の手を借りるほうなんだからこっちの言うことを聞いてくれるといいんだけど。
そんなことを考えていると、撫子がいい匂いをさせている。
「光さん。朝のコーヒーはどうですか?」
「あ、もらう」
僕は布団からもそもそと抜け出して、後方にあるテーブルに行く。
いい香りのコーヒーが鼻をくすぐる。
「どうぞ」
「ありがとー」
温かいコーヒーを口に含むと頭がはっきりしてくる。
「あー、美味しー」
「それは良かったです。それにしても最近は田中さんが堂々と力を使ってくれるおかげで寝泊まりや食事は楽ですわね」
「うん。それは本当に思う。ルーメルの所にいたころは車とか使えなくて馬車で寝泊まりも雑魚寝で床硬かったし」
「ですわね。それが今ではしっかり鍵付きのトラックの後部でベッド付きですわよ」
改めて寝泊まりしているトラックを確認する。
襲撃を警戒して窓こそないモノの、電気は通じているし、ベットも二段で端に4つ設置してあるから、ここで8人は寝られて中央には今僕たちが座っているテーブルまである。
もちろんベッドはしっかりしたつくりで馬車とはくらべものにならない。
特に警戒をしない時であればこのまま移動もするって田中さんが言ってるからかなり便利。
「そういえば、珍しくヨフィアさんもまだ寝てるんだ」
僕の視線の先にはベッドで気持ちよく寝ているヨフィアさんがいる。
いつもの彼女なら既に起きて色々準備をしているはずなんだけど。
と思っていると。
「いいんですよ~。皆さんの護衛も兼ねていますから~。正直アキラさんと一緒がよかったんですけど、タナカ殿に追い出されてしまいまして~」
「そりゃそうだよ。何する気だったんだよ」
「それは子作りですよ~」
「相変わらずストレートですわね」
「正直なメイドなので。あ、朝食に関しては7時になっていますので、それまでには起きますよ~」
そうベッドの上で手をひらひらさせたかと思うと、カーテンをさっと閉じて寝てしまう。
「なるほど、時間は決めているんだね」
「時計が役立っているようで何よりです。しかし、7時ですか。どうしましょう?」
「ちょっと散歩に行く?」
「あまり外に出るのは好ましくないはずですが?」
「車の置いてある、ルーメルの陣地だけだよ。他の国の陣地にはいかない。外の空気を吸うぐらい」
「それな大丈夫でしょう。ということでヨフィアさんちょっと行ってきます」
「は~い」
返事が返ってきて僕たちは早速トラックの外へ出てみる。
「お、息が白い」
「寒いですわね」
外はまだ夜明け前だけどうっすら明るくなり始めていて僕たちの息が白くなっていた。
それだけ寒いってことだ。
「静かだね」
「ええ。もっと騒がしいかと思っていましたが、そうでもないようです」
辺りは静まり返っていた。
この拠点には私たちだけじゃなく、他の人も沢山いるのに何も聞こえない。
なんか世界から切り取られてような気分になっていると。
「安全な町でもないからな。明かりがまだ確保できない時間帯に動くことはないだろうさ」
そんなことを言って田中さんが男性用のトラックの陰から出てきた。
どうやらタバコを吸っているみたい。
「まあ、町だとしても明かりの費用が掛かるし明るくなるまで基本的には動かないな」
「そういうモノなの?」
僕は確認するように撫子に視線を向けると。
「あー、多分そうですわね。夜明けとともに動くとは聞いていますし」
「こっちは明かり確保も大変なんだよっと。まあ、時間帯的にそろそろ動くさ。ヨフィアもそう言っていたんじゃないか?」
「ああ、うん。なんかご飯は7時だって」
「ま、そうだろうな。今から明るくなり始めて動いたとして、薪を使ってお湯沸かしたり料理始めれば7時にできればかなり早いだろうさ」
確かに火を熾したりという所から始めると時間はかかるよね。
って、そこはいいとして。
「田中さんは何で起きてるの?」
「ん? ああ、ジョシーと交代で周りの監視だな」
「え? 監視してたの?」
「そりゃする。味方とはいえ別の国だしな」
田中さんはそう言って煙を吐き出す。
相変わらず、サボっているようで仕事はしっかりしているんだよね~。
「それで、何か動きはあるのですか?」
「いや、あの演習以降は近寄ってくる奴はいないな。遠巻きから見るだけだ。何せ砲を向けているからな。いつ撃ってくるかわからないんだろうさ」
「「あははは……」」
その言葉には苦笑いするしかない。
この前の演習で戦車の力は見せたし、ユーリアが下手に触ると誤作動するかもしれませんとか脅していたことが原因なのでしょうが。
「で、俺の方はいいとして二人は?」
「あ、えっと、普通に目が覚めた」
「はい。ちょっと風を浴びようと思いまして」
「なるほどな。まあ、ルーメルの陣地内ならぶらぶらしてもいいだろう。何かあったら耳に付けているので連絡しろ」
それはイヤホン兼マイクのトランシーバーみたいなもの。
これがあればいつでも連絡ができるからね。
「うん。わかっている」
「はい」
「じゃあな」
田中さんは一服が終わったようで、タバコを消してトラックの中に戻っていく。
それを見届けてから……。
「どうする?」
「どうしましょうか? すでに目的は達しているとは思うんですが」
「だよね~。戻って寝る?」
「うーん、それもいいかもしれませんが1時間ぐらいで朝ごはんですよ?」
「だよね~。とりあえず、またコーヒー飲んでゆっくりしようか。どうせまた忙しくなるんだろうし」
「それもそうですわね。休めるときに休みましょう」
なんか忙しい時にぽっかりと空いたそんな時間を僕と撫子はゆっくりと過ごす……。
あ。
「ヨフィアの手伝いしない?」
「そうですわね。任せきりもアレですし、作ってみますか」
最近はヨフィアにご飯は任せきり。
あとは、田中さんが出してくれるレトルト食品が多い。
幸い料理を作れるキャンピングカーもあるし、あそこでささっと作れる。
ご飯も炊いて、色々やってみよう。
ということで、僕たちは田中さんに頼んで食材を出してもらって久々の料理を始めるのだった。
もちろん、それはみんな美味しいって食べてくれたよ。
僕たちが料理下手なんて落ちはないのさ。




