第377射:戦える状況を整える
戦える状況を整える
Side:タダノリ・タナカ
俺は改めて……落書きっぽい地図を見てから顔を上げて今この場にいるメンバーの顔を見る。
大半は真面目に地図を見ているが、ジョシーとかコーヒーを飲んであくびしてやがる。
まあ、こんな地図を使って作戦を考えるとか前提が馬鹿すぎるからな。
「じゃ、飲み物飲んで落ち着いたところで、西側の攻略作戦を考えるぞ」
そういうと、なぜかヨフィアが手をあげてきた。
「なんだ?」
「いえ、攻略作戦を考えるのは結構ですけど。先ほども言ったように姫様が連合の方々と会議で私たちがどの戦線を攻略するのかを決めるので、それから話し合うのが最適では?」
「ああ、確かに普通ならそうだな」
「普通ならというと?」
「今回に限ってはこっちからも攻略作戦の提案をする。向こうとしてはこっちをただの手足と考えるか意見するだけの立場を持たせるかを図る」
俺は味方を試すと言ったわけだ。
頭を押さえつけてくるなら容赦しないという意味でもある。
それを理解したヨフィアは露骨に顔をゆがめて……。
「それってさっき話したように背中から襲われる確率高くなりませんか? わざわざ挑発しなくても……」
ヨフィアはそう言いかけて口を閉じて、再び口を開く。
「黙って言うことを聞くというのも問題というわけですね」
「そういうことだ。使い捨てにはしないだろうが、馬鹿だと思われるのも困る。そして一度言うことを聞くという事実を作れば……」
「ああ、そういうのは前回はこうだったって交渉してくるよな」
今度はゼランが苦笑いしながら言う。
前例があるとそれに則ろうとするのが世の習いだ。
こっちにどれだけ負担があるかとか考えもしない。
現代でもその調整は難しいってのに、この世界に経済観念がしっかりあるかなんて考えるまでもない。
というか、期待をしてはいけない。
それぐらい自分たちで身を護るぐらいはしないといけない。
世の中そういうものだ。
「そういうことだ。というかヨフィアは心配しているが、この程度の交渉は向こうだって了承しているだろうさ。こっちに戦線を任せたいんだから便宜を図るぐらいはする。そうしないと……」
「こちらの機嫌を損ねる可能性があるからね。いや、その場合はやりやすい。無礼者をパンッてわけだ」
ジョシーは人差し指を自分の頭に当ててそういう。
表現は間違ってないが、こいつの場合本当にやるからな。
殺してしまうと収拾が面倒だから最終手段なんだよ。
「ま、難しい政治の話はいいとして、それでタナカ殿はこれからどう攻める方がいいとおもっているんだい?」
味方の動きはいいとして、ノールタルは戦略予定について聞いてきた。
俺も本題に入りたかったので助かる。
「俺としては沿岸を取れる場所、南だな」
「あれ? 北は?」
ルクセン君は不思議そうに首を傾げてい聞いてくる。
これは、認識の違いだろうな。
「ここは日本のような島国や半島国家じゃないから、どっか端に行けば海があるってわけじゃない」
俺はそう言ってドローンから集めて作った地図を見せる。
「ここが今俺たちがいる場所だ。ここから西側に進むと5つに道が分かれている。だが、最北端の道は山脈に当たるだけで、海があるってわけじゃない。南はゼランたちが商売で使っていたという航路があるのは分かっているからいずれ海がある」
「あ、そういうことか。北は陸地だから敵がどこから来るのか予想できないってこと?」
「それもあるが、海からの支援が得られないのもある」
「海からというと、フリーゲートをですか?」
「ああ、大和君の言う通り。まあ、奥地でもミサイルの支援ぐらいはできるかもしれないが、物資を送りこめたり、威圧するには便利だからな」
目に見える脅威っていうのは俺たちの後押しもする。
「そういうことですか。じゃ、逆に嫌な場所ってどこですか?」
「いい着眼点だな。そう、俺たちが送り込まれて困る場所はどこかも考えておく必要がある。不利な状況を作らないために必要なことだ。わかって来たな結城君」
どういう風に戦えば有利なのかということを考えるのは、不利な場所は避けるという意味でもある。
そして、その不利な状況とは何かを考えることにもなる。
「俺たち戦車を中心とした部隊は基本的に地勢に弱い。特に起伏だな」
「ああ、凸凹しているよな場所では戦闘もキツイ。だから山陵とかで戦うのはよろしくないというか進めない」
俺の説明にジョシーが捕捉を加えてくれる。
「そういえば、戦車が山でっていうのは聞かないね」
「運用できないからな。とはいえ、そこまで道に関しては心配していない」
「なんで?」
「基本的にこういう主要街道は馬車が通る道だ。つまり、馬車が普通に通れるような環境ってことだ。馬車が通れるような場所で戦車が進めないっていうのはまずない」
「あ、そっか。じゃ、あと弱点っていうと?」
「そうだな。次に展開できる場所があるかってことだな」
「展開?」
ルクセン君はいまいちピンと来てないようだ。
まあ確かに、車が展開というのは日本ではありえないからな。
精々あって片側四車線ぐらいか?
「そう、展開。一人しか通れないような場所じゃなくて、大勢が展開できる場所がいるんだ」
「えーっと……」
「光さん。横に4人歩ける道幅と1人しか通れないような場所なら4人一緒に戦える道幅がある方がいいでしょう?」
「ああ、そういうことか。戦車が沢山並べて一気に使えるところがいいってことか」
「そういうこと。まあ、別に砲を上に向ければ多少は調整が効くが、横一列の方が相手の方もこちらの陣容を伝えられるからな」
実際な話、相手が現代兵器を持ち出さない限りは特に道でも問題はない。
そしてやりたくはないが、木をぶち壊して進むことも可能だ。
押し倒せるレベルなら押しつぶすし、無理なら砲撃で視界を取るだけ。
弾が無駄って話もあるが、この環境であるならその制約はないに等しいからな。
「そういうことも考えて山場は駄目ってことか」
「ああ、木ならなぎ倒してもいいが、崖はどうしても足場は作れないからな」
というか、そもそも陸戦兵器は現代では後詰めにしかならないからな。
そんな堂々とした陸地侵略なんかすれば各国から非難轟々。
例え最初は上手く行ってもあとで行き詰るのは目に見えている。
大国であってもな。
ああ、最終手段で核ミサイルでも打てばうやむやにはなるだろうが、その時は自国も崩壊する話になる。
と、現代の話はいいとして、今は陸戦兵器しか使えないわけだ。
しかも条約があるわけでもないから、血みどろの市街地戦になるからな。
防御力のある戦車を使うしかないってことだ。
幸いなのは、携行対戦車ミサイルとかがないのが幸いだ。
内戦の時に戦車で市街地侵入とか命がいくつあっても足らないからな。
「まあ、この条件を満たせるような場所がいいってことだな。もちろん連合にも事情っていうのはあるだろうがな」
「現実問題。敵もどこに戦力を集中していいかわからない状況だしな。私たちが一点突破をした後はこっちに兵力を集めるかもしれないが、それはつまり別に戦力が集中するってことだ」
「あ、囮?」
「そう、ヒカリの言う通り。囮としても私たちは十分に活躍できる。その間に本体が重要拠点を制圧するとかな。ま、どこが重要拠点とかはわからないけどな。敵さんはそういうことも考えると戦力を集めすぎるわけにもいかない。落とした拠点の維持についてはどうしても私たちじゃ無理だしな。取り返してって言っている連中に返還だろうさ」
「ああ、その問題もありましたわね」
そう、ジョシーの言う通り。
いくら俺たちがこの世界で圧倒的な戦力を保有していようが、領土を制圧して維持する力はない。
何より人が足りない。
それを分散させるなんて持っての他。
まあ、上の連中はある程度分散してくれっていうかもしれないけどな。
そういうのは拒否だ。
勝手に持って帰ったりロストしたふりするだろうしな。
逆にそれを逆手にとってお金や権利をせびるのもいいだろうが、まあ、それはお姫様の話次第だな。
そして。
「どこを攻めるにしろ。その時は情報をしっかり集める。敵に魔物だけじゃなくて人がいる理由もな。確実に連合が隠している事実があるだろうしな」
いや、俺たちと連合の知っている事実が違う可能性もあるが、さてさて魔族っていう連中は一体何なんだろうな。
俺はそう考えながらタバコをふかすために席を離れる。
「ふぅ」
ああ、空気だけは美味い。
いつも硝煙と砂埃ばかりだったからな。
いや、日本にいた時は排気ガスか?




