第374射:さあ耳栓の時間だ
さあ耳栓の時間だ
Side:ナデシコ・ヤマト
ジョシーさんの説明で納得した私たちは連合の司令官たちがくるのを待っていました。
すると、その間に光さんが質問をしてきます。
「ねえ、撫子。なんでジョシーに話を聞こうとしたの?」
「ああ、それは不思議に思った。普通にユーリアとか田中さんに聞いてもよかっただろう?」
なるほど、私がなぜジョシーさんを選んで質問をしたのかというのが疑問に思ったのですね。
確かに二人の言われる通り、話の流れからユーリアか田中さんに顔を合わせる必要性について聞くのが普通かもしれませんが……。
「私としては田中さん、ユーリアについては回答がなんとなくですがわかっていました。会った方がいいと。それは二人も予想していたのでは?」
「あ、うん。それはね。そう思ったよ」
「まあ、偉い人に顔を知ってもらうってのはルーメルの時から必要って言われてたしな」
どうやら二人も私と同じような意見だったようです。
いえ、私としては偉い人に顔を覚えてもらうというのはそれだけで価値があることだとわかっているのです。
なので否定するつもりはありませんでした。
だからこそ、そういうのとは無縁そうなジョシーさんに話を聞いてみたかったのです。
「はい。ですからジョシーさんなら別の意見が出るかと思って聞いてみたわけです」
「「ああー」」
私の言葉に納得する2人。
それだけジョシーさんという人は私たちの常識からかけ離れてるということですが……。
「まあ、実際は至極もっともな意見でしたが」
「だよね~」
「普通に戦争のない地域では問題なかったとは言ってたしな」
「いや、なんか一般人が乗り込んできたみたいな話なかった?」
「なんかあったような」
確かにそういう話もあったなーと思いましたが、あれは仕方がないということにしておきましょう。
「こほん。とりあえずジョシーさんがそこまで誰彼構わずってわけではないのが分かって何よりです」
「なに? まだ心配してたわけ?」
「まあ、俺たちは撃たれたしな」
「私たちのことは仕事だったからですが、今回の相手は仕事でもないのです。ただ難癖を付けてくる相手をとなると心配だったんです」
「気持ちは分かるけど、ジョシーはそこまで見境ないわけじゃないよ」
「ああ、あの人はあの人でルールがあるみたいだし」
「それは私もわかっています。そのルールを破っていないかというのもあったんです」
いきなり、味方の司令官がジョシーさんのせいで戦死とか笑えなさすぎますから。
その場合、彼女は遠慮なく撃つだろうというのはこの場の誰もが認めるところです。
敵には容赦はしない。
それが彼女の事実です。
そう話していると、ノールタルさんが……。
「ま、心配はいらないさ。ジョシーは色々ぶっ飛んではいるけど、別にこの世界じゃ不思議な性格でもない。魔物や野盗とかもいるからね。外で働くんだからあれぐらいは当然さ」
ジョシーさんの態度は普通だと言ってきます。
確かに、冒険者なんて仕事をやっていれば敵はもちろん依頼主にも注意を払う必要があります。
それを考えれば、ジョシーさんの対応はこの世界にとっては普通なのかもしれません。
「私もそう思います。彼女にはちゃんと理性がある。攻撃時にはそれが見え辛くなるだけだと思います」
意外なことに一般人だったセイールも同意してきます。
彼女は魔族ではあれど、多少魔力が多いぐらいでそこまで強くはないです。
いえ、もちろん田中さんの訓練のおかげでちょっとやそっとじゃ音を上げたりはしませんが、それでもつい最近までは私たちと同じ一般人だったのです。
その彼女が同意するということはジョシーさんの在り方はそこまで不思議ではないのでしょう。
「あそこまで強い女性はあまり、というかめったに見ないだべが、そっちのヨフィアさんも強いだべだからな。何より性格的にも近いだべよ」
「おほほ、ゴードルさん。あんな殺人鬼と一緒にしないでくださいよ~。私はアキラさんたちの専属メイドですから~」
ああ、確かにゴードルさんの言うようにヨフィアさんも元々冒険者ギルドから送り込まれた人物で戦いにおいては容赦はありません。
そういう意味では確かに似ているかもしれませんが、ヨフィアさん自身は平穏を望んでいるのでそこは大きな違いだと思います。
そう思っていると……。
『私が戦闘狂かどうかで盛り上がっているところ悪いが、お偉方が来たから話すのはやめときな。ああいう手合いはすぐに切り捨てるとかいうからね。特に若い女とかベッドに誘われるからね。注意しておきな。私よりも、ヒカリたちのほうが先に殺すなんてのは笑い話にしかならないよ』
そう言われて私語を慎みますが、そこまで下種なやつがいるのかと疑いたくなりますが、この世界では普通なのでしょう。
いえ、地球であっても軍などによる略奪はあるのですし、ないわけがないですね。
私は気合を入れなおして、ユーリアたちが到着するの待ちます。
馬をちょっと遠くに止めて歩いてきたせいか、偉い人たちは少し不満げです。
馬が使い物にならなくなると言われて素直に信じるわけがないでしょう。
何せ逃げる手段、足としては馬以上の物はないのですから。
そんなことを考えているとユーリアが人を引き連れて、私たちの前で止まります。
「連合の国の皆様。こちらが私が連れてきている腹心たちです。以後よろしくお願いいたしますわ」
そう言って、私たちを軽く紹介する。
名前を名乗るようには言われていないので、その場で軽く会釈をするだけだ。
「ふむ。この者たちがあの乗り物を使っているのか」
「ええ。それに国でも有数の使い手です。では、私の部下の紹介はこの辺で演習の見学位置へと……」
ユーリアは私たちの紹介は切り上げて移動を開始しようとすると……。
「いや、姫待ってくれ。姫やマノジル殿が動けないこともあるだろう。その時に連絡役としてこの中から誰かが来るということもあるだろうから、名前だけでも聞いておこう。部下に知らせておく」
「そうですね。では……」
ということで、男のゴードルさん、晃さん、そして女でノールタルさん、セイールさん、私、光さん、ヨフィアさんと説明していった。
まさか、女の私たちも紹介するとは思いませんでしたが、何かあったときのためでしょう。
逆に田中さんやジョシーさんの紹介をしていなかったのはわざとでしょうね。
私たちの中でもとびきりですから、隠しているのでしょう。
「ふむ。諸君らが何か困ったことがあれば、個人的にできる範囲で協力もやぶさかではない。おっと、私の紹介がまだだったな。私はこの魔族討伐連合を率いるノウゼン王国の国王より連合の総司令を拝命しているジョセフン元帥だ。では、これからの演習楽しみにしている」
そう言ってジョセフン元帥はその場を去っていった。
視線の先で車両の陰に隠れたところで、私たちは肩から力を抜く。
「んじゃ、さっさとおいらたちはトラックに乗り込んでのんびりするべよ。あ、耳栓はしておいた方がいいべな」
ゴードルさんの指示ですぐに私たちは移動を開始します。
砲撃音を近くで聞きたいとは思わない。
ですが、今日はそうもいかないので、なるべく防音効果を持ったトラック内に入って耳栓をして備えるしかないのです。
そして、耳栓をしようとしたとき……。
『では、カウントを開始いたします。10、9、8……』
私たちに知らせるためか、ユーリアから砲撃のカウントダウンが始まりました。
全員やばいという顔になって慌てて耳栓を身に付けて、耳をさらにカバーをして押さえつけていると。
ズンッ。
そんな衝撃と共に……。
ドーンッ!
と、爆発音が響きます。
私は何とか耳栓と保護が間に合ってそこまでダメージは無かったのですが……。
「あうあうあう……」
ちょっと間に合わなかった光さんが目を回していました。
「よ、し、なんとか、なったべ……」
「だね。砲撃は防衛戦の時に聞いてはいたけど……」
「あの時は敵陣が遠かったですから、というかゴードルさんは経験者では?」
「いや、あの時はタナカ殿が狙いを外してくれただからな」
ああ、そういえばゴードルさんはアスタリの町に侵攻してきて、戦車の戦列から砲撃を受けていたんでしたね。
だから、少し平気そうなのでしょうか?
そんなのんきなことを考えていると……。
『では、次に一斉射撃、連続射撃を行います』
あ、終わってなかった。
そうだ。
たった一発だけ見せて終わりになるわけがありません。
そこからの私たちは耳を必死に抑えてかがんで轟音が収まるのを待つばかりでした。




