第373射:会うべきか会わざるべきか
会うべきか会わざるべきか
Side:タダノリ・タナカ
俺たちは今、連合への戦力誇示のためのデモンストレーションを行うため、連合陣地をでて砲撃予定地で準備を整えていた。
お姫さんは無事に連合の連中を説き伏せたようだ。
物資の後押しがよほど効いたようだ。
まあ、それも当然か。
戦費を全部ルーメルが持つと言っているようなものだしな。
助けを求められて、奪還したあとの約束があるとはいえ、それは奪還出来たらの話だ。
奪還できなければ損なだけ。
助けを求められた面目というのもあるだろうが、費用が少なくなるならそれに越したことはない。
戦争はお金がかかるもんなんだ、今も昔も。
気合でどうにかなるものではない。
そんなことを考えていると……。
「しかし、ダスト。なんで戦争している西側でやるんだ? 最前線で戦っている連中に聞こえて士気低下とかにならないか? あいつら戦車砲とか知らないんだろう?」
そうジョシーがこの場所でデモンストレーションをすることになったのかを聞いてきた。
疑問はもっとも、自分たちの後方でわけのわからない轟音が響けば恐怖するだろうな。
とはいえ……。
「自分たちの東側でするのもどうかって話なようだぞ?」
「はぁ? どういうことだ?」
「西側の助けに行っているのに、連合の偉い連中がこぞって東側でデモンストレーションに参加しているとか、どう思う?」
「ああ、そういうことか。全然助けにもいっていないって評判になるわけだ」
実情は違うんだけどな。
総司令官が最前線に出るとかもう終わりだ。
だが、一般人はそういうことは分からない。
一々説明をするよりも、西側で兵士たちには通達しておけばいいなだけマシという話だ。
「やだね~一般人は」
「世論なんてそんなもんだろ。銃を持ってりゃ殺人犯なんだ」
「はっ。でも軍人は別ってか?」
「日本じゃ軍人も駄目らしいぞ」
「どうやって国を守るんだよ」
「自衛隊っていうらしいぞ。それでも文句を言うやつはいるらしいけどな」
「背中にナイフを突きつけられてよく働くね~」
「しっかり給料は出ているからな。世の中そういうもんだろ」
俺たちがそんな話をしながら戦車の配置をしていると……。
「……なんか、生々しいこと話してるな~」
「でもさ、自衛隊への反発って事実だよな」
「憲法に反することですからね。とはいえ、昨今の日本の状況を考えると無理な話でもあるのですが……」
「なんか、アキラさんたちの世界って大変そうですね~」
「武器を持てないとか、どう自衛するんだ?」
そんな声が聞こえて振り返るとそこにはルクセン君たちが立っていた。
どうやら全員暇のようだ。
「そっちの準備はできている感じか?」
「準備っていっても僕たちは指揮車に乗ってるだけだし」
「いやいや、ちゃんとここに来た理由があるだろう。ユーリアからの連絡が来ました」
「もうすぐ、具体的には1時間以内に見せられるかという話ですわ」
ああ、向こうもようやく見る準備が整ったわけだ。
元々展開力も違ったからなら、戦車や装甲車の速度に馬が追い付けるわけもない。
俺たちとほぼ同時に出発したが、お姫さんの言う通り、通常の速度で展開してくれと言われたので、俺たちはその通りに動いた。
多分戦時での動きを見せつけたんだろう。
おかげで馬に乗ってついてきていた連中は完全に置いて行かれることになった。
それがようやく着いたということだろう。
「連合の上層部は随分と驚いているようでしたよ~」
「ま、普通は驚くさ。全然速度が違うんだからな。で、あと一時間ってのは休憩かい?」
カチュアは面白そうに話して、ゼランが準備時間に関することを聞く。
「一応、こっちの準備が整うのを待つって感じだよ。でも、馬をしっかり休ませているけど」
「面目ってやつかな?」
「でしょうね。ですが、こっちも準備には時間がいるのは間違いありませんが、どうでしょうか?」
「今すぐにでもできるな。……ああ、観客席の準備はしてないな」
「適当に離れていれば見えるしな~。ま、車両の上に陣取ってもらうか?」
「馬鹿か、爆風受けて転げ落ちたら怪我をする。そんなことで連合の不興を買う理由はない」
「その程度で転げ落ちる連中なんてさっさと死んだ方が、足手まといにならずに済むだろう。戦場での直感が働かない指揮官とか役立たずさ」
「いやいや、ジョシー無茶苦茶だって」
ジョシーの言うことにルクセン君はあきれた感じで言うが、実際そこまで変なことでもない。
そういう危険を冒そうとするだけでダメなんだ。
ちゃんと事実に基づいて判断を下す。
指揮官がバカなところに出たがるというだけでアウトという話だ。
この場合総司令が前に出てくるようなもんだからマジで洒落にならん。
そんなアホを抱えているぐらいなら、どこかで事故死してくれた方が敵にやられるよりは動揺が少なくて済む分ありがたい。
「流石に車の上はタナカ殿の言うように不興を買う理由はないのでやめておきますが、地面に突っ立ってひっくり返るぐらいはいいと思っています」
俺たちの会話の途中でお姫さんがそういって現れた。
マノジルはいないようなので、おそらく連合の連中と一緒なのだろう。
「そっちの不興はいいのかい?」
お姫さんの言い様にジョシーは楽しそうに質問する。
そしてお姫さんも笑顔で。
「そのぐらいは体感してもらわないと、こちらのことはわからないでしょう? まさか盾を構えて受け止めてみろとも言えませんし」
「確かに」
ジョシーはお姫さんの返事を気に入ったのかげらげら笑いだす。
「いやいや、戦車砲を盾でって跡残るの?」
「爆散して肉片が残ればいいのか?」
「そもそも残るでしょうか?」
爆心地のやつは木っ端みじんで肉片すらも確認できないと思うぞ。
ああ、鎧の破片ぐらいは……何とか見つかるとは思うが。
と、そんなブラックジョークを眺めているよりも先に話すことがある。
「で、お姫さんがこっちに来たってことは準備ができたってことか?」
「ええ。馬は木につないで乗らないようにと説得もしました。車の音で混乱も多少していたのでそこは納得してくれましたので、あとは指定の場所から眺めてもらうだけです」
なるほどな。
しかし、馬に乗ったまま見るとか振り落とされるのが目に浮かぶ。
落馬って下手すると死ぬから、それで死んでも面倒だ。
そういえば、ハブエクブ王国の連中も馬に乗ってみていて振り落とされた馬鹿がいたか。
ついでに馬も逃げた。
過去を考えればお姫さんの説得は当然だな。
下手すると収取に時間もかかる。
「ハブエクブ王国の方々も説得に回ってくれて助かりました」
ああ、実体験から基づく忠告か。
それなら下手な説明よりもよっぽど信用してもらえるだろう。
「それで、私たちが見学する場所はどちらになりますか?」
「ああ、それならこの地図のここの予定だ」
俺は地図を見せつつ指し示す。
「今回は斜めに構えるのですね」
「岩の山に対して直角だと距離が足らない。爆風の破片が飛んできてもいいならそれでするが?」
「なるほど。それは遠慮します。このままで」
そう、今回のデモンストレーションは目標が岩壁になってはいるが正面からだと距離が足りず破片が飛んでくる可能性が高いので、斜めに撃つように車両を展開している。
それで目標はギリ500メートル先だ。
ハブエクブ王国の時は300メートルだったが今回は岩壁という障害物があるので、破片が飛んできて被害が出ないことを願う。
まあ、その時は向こうが悪いということにしよう。
「場所はわかりましたので、連合の方々を案内してきます。皆さんはそのままで」
「え? このままでいいの? 偉い人に何かするとかは?」
「ヒカリ。私たちは対等な立場としてきていますので、そういうのは不要です。少しでも隙を見せるとこの戦車を奪いに来ますからね。そういう意味も込めて私以外の言葉は聞かないという対応でお願いします」
「うへ~。無視か~、なんか苦手だから車の中に引っ込んでていい?」
「ええ。構いませんよ。それがいいかもしれません。とはいえ、面通しはしておいてもいいかもしれませんが」
「顔を合わせる必要があるの?」
「はい。ヒカリたちが私たちの関係者であるとわかれば上は何かあれば単独でも面会の許可を取れるかもしれません。何があるかわかりませんから、そういう伝手は大事ですよ。いかがですかタナカ殿?」
「悪い話じゃない。まあ、代わりに顔を覚えられて暗殺者とか離反を向けられたりするんだが」
「え~」
「まあ、そういうリスクはありますよね」
「どっちもどっちですわね。ジョシーさんとしてはどうしたらいいと思いますか?」
意外なことに大和君からジョシーに話を振る。
振られたジョシーは気にした様子もなく。
「偉いさんに覚えられて置くってのは大きな行動を起こす際には必要だ。何せ金の融通ですらしてくれるからな。もちろんリスクはあるが、何もないと何もできないからな。それよりはましだ。まあ、顔を合わせたらすぐに車に引っ込むってことでいいだろう。その時にナデシコたちが話しやすそうとか、頼るならこいつだってのを見定める機会にもなるからな」
普通に役立つアドバイスをした。
ジョシーの言う通り会わなければ何も始まらない。
危険性なんてどこにでも転がっている。
それをどう対応するかっていうのは本人たち次第なだけだ。
「じゃ、会うよ」
「だな。確かに信用できそうかどうかは見ておかないとな」
「そうですわね。顔だけ合わせてすぐ撤退ということで」
「では、そのように私は行きますね」
そう言ってお姫さんは去っていく。
俺たちは粛々と準備を始めるのであった。




