第372射:戦争の現実
戦争の現実
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「どういうこと?」
僕はそう言って首を傾げている。
今まで待機だったのに、明日にはデモンストレーションっていうのはなんでだろう?
そう思っていると。
「簡単だよ。物資が効いてきているのさ」
と、ジョシーが椅子に座っていつの間にか持っていたワインを開けて飲み始める。
「物資が効く?」
「そう。一応、名目上は連合のための支援ってことだけど、それだけじゃない。物資を供給するってことは命を握るのと同じってわけさ。来た当初はここもそこまで余裕があるものじゃなかった。理由は物資がすくないから。特に食糧な。もう半年以上も続けていて、捻出が難しくなってきたんだろうね。そうなると最前線の物資を絞るのは崩壊につながる。それは避けたいから、我慢をすることになるのは……」
「この前線基地というわけですか?」
「そう、ナデシコの言う通りだ。いや、そこはここの連中も多少良心はあったらしい。この手合いの物資は最前線の方が絞られて当然なんだが、とりあえず届けてはいるみたいだね」
「あれだろう? 元々、東側の利権も狙っていたんだから、崩れてもらっても困るんだろう?」
「そういうのはあるだろうけど、真面目な指揮官がいるって証拠さ。おっと、話がそれたね。で、この物資でひもじい思いをしていたここの連中は私たちのありがたさが分かって来たってことさ」
うん、それは分かる。
ご飯が十分に食べられるようになったのは僕たちのおかげってことだからね。
それは感謝するよね。
「それで次に恐れることは私たちの撤退だ。潤沢な物資を運んできてくれる私たちがいなくなれば、今までの余裕ある生活が送れなくなる。それは兵士たちの士気にかかわるからな。ちゃんと私たちをこの戦場に押しとどめられなかった上への不満につながる。だから……」
「俺たちの機嫌を取ろうとするってことですか?」
「おう、分かってるじゃないか。アキラ。そういうことだ。私たちが機嫌を損ねて帰らないように行動を起こす。機嫌を取りに来るわけだな。まあ、機嫌を取るのはお姫様だけど、目的は決まっている」
「魔族を倒すこと」
「そうだ。私たちの最優先の目的は魔族を倒すこと。それにはこの連合で実力を見せないといけない。そのために戦車の力を見せる必要性があるんだが、今はあとから参戦していた物資だけを運んできた部隊だと思われているってところだ」
まあ、数は少ないし仕方ないよね。
ハブエクブ王国の方も精々5000ぐらいだし。
僕たちに至っては戦車が50両と付属して車両が10両前後。
この数で頼りになるって言われても首を傾げるんだろうね。
戦車の実力がさっぱりわからないし。
「とはいえ、お姫様が『戦争に参加させろ』って言っても下手に参戦を許可して、戦線を混乱させても困るし、それより困るのはお姫様、つまりルーメルの部隊が負けて撤退すれば物資も届かなくなる。それは避けたいから、向こうとしては戦争に参加はさせなくない。だが、物資は出してほしいとなる」
うん、だろうね。
聞いている僕としてもそういうやつがいたら困ると思うぐらいだ。
まあ、実力が分かっていないならというのが付くけど。
「そうなると、機嫌を損ねたくない相手としてはお姫様たちが少数で参戦しても意味がないですよと教えてあげようってことがまず上がるよな」
うん、納得してもらえればそれに越したことはないしね。
「ああ、だからデモンストレーションってことか」
「そういうこと。お姫様が連れてきた戦力が役に立つかどうかを見ようっていうよな。それで納得してもらおうってな」
つまり、お互いの妥協点として実力を見ますよ~って状況ができるわけだ。
「でもさ、それって大丈夫なわけ? ほら、ハブエクブ王国の時はみんなひっくり返ってなかった? というかここって渓谷だよね? 砲撃できる場所ってあるの?」
そう、場所が問題だった。
ここは西側と東側を繋ぐ唯一の道ともいえる渓谷だ。
周りは岩に囲まれていて、外を通ることはできない。
だから、みんなここに本陣を作ったんだと思うけど、そこで戦車砲をぶっ放すとか道を塞ぐことにならないかな?
というか、絶対になるでしょ。
「まあ、そこは場所は選ぶ。ここが封鎖してしまえばそれだけで大打撃だしな。それをやってしまえばルーメルの面目もつぶれるというか、敵だといわれかねない」
今度はジョシーに代わって田中さんが説明を始める。
確かに、ここを戦車砲で封鎖してしまったらそれはそれで大問題だよね~。
ごめーんで済むレベルじゃないのは僕でもわかる。
「お姫様から言われて、場所を探しているって所だ」
田中さんはそう言ってタブレットを見せてくれる。
どうやら位置は西側の渓谷を抜けたところで撃っても問題がないような所だとは思う。
山の岩壁の写真が並んでいるから。
って、ちょっとまって。
「ユーリアから言われてってことはもうデモンストレーションの話進んでるの?」
「元々、俺たちが来る前にこちらの実力を見て参戦させてほしいってことは言っていたみたいだ。まあ、真剣に取り合ってはいなかったようだが、物資の件もあって動くだろうっていうのは分かっていたからな。演習場所は探していたってわけだ」
「じゃ、話はまだってこと?」
「今はハブエクブ王国と調整中なだけだしな。今日にでも話があって、明日にはって予想はしている」
「なるほど」
だからそういう話をしながら戻って来たわけか。
だけど、そこで疑問もわいてくる。
「田中さんとジョシーが周りを見て回っていたのは? 何か面白い物あった?」
そう、ドローンで周囲を見て回れるのだ。
わざわざ歩いてみて回る理由は別にあるってことだ。
この人たちが無駄なことをするわけがない。
「とりあえず、この拠点の構築具合とかを見てたな」
「拠点の構築ってどういうこと?」
「敵がここに来るのか想定しているとか、防衛に使えそうな場所とか、物資の保管場所、その他の施設の具合だな。この拠点がどれだけ使えるか調べるのは当然だろう?」
ああ、確かにそうだ。
どれも田中さんが全部そろえていたから気にしてなかったけど、普通はどれもこれもない状態なんだ。
「ま、半年以上戦っているからか、兵舎も用意してあるし、治療場所みたいなものもある。多分、ここに作る気なんだろうね」
と、ジョシーはお酒を煽りながら言う。
「作るって何を?」
「防壁っていうべきかな、それとも防波堤かな。まあ、とりあえず東側の連中は動かない戦況に対して見切りを付けているような感じだな」
「「「見切り?」」」
あまりな言葉に僕は声をそろえて驚いてしまう。
だけど、田中さんは違って頷いて……。
「俺もそういう風に感じたな。ここを砦みたいに作って通路を塞いで西側の敵を防ぐための拠点にするつもりと見た。物資を見る限りそういう建築資材が多いからな」
「ですが、それは万が一のことを考えて防御を固めているのでは?」
うん、撫子の言う通りだ。
万が一味方が抜かれても、ここで止めるためじゃ……。
「発想が逆なんだよなぁ。ま、懐事情が違うからか」
ジョシーはそう言って笑う。
なんでと思っていると、田中さんが説明を始める。
「普通はな、砦を作るのには予算がかかる。しかも今回は西側の連中を支援するためって目的だ。もちろん自分たちに火の粉が降りかからないようにっていうのもあるが、そんなお金があれば、西側を奪還するのにつぎ込んだ方がよくないか? 砦を作るのは後でもいいはずだ」
「「「あ」」」
そう言われて気が付いた。
確かにジョシーがいうように発想が逆だ。
万が一のことを考えて砦を作る前に、相手を倒して西側を助ける方に力を割くのが当然だ。
「……つまり、ノウゼン王国を中心とした連合は見限っているってことですか?」
晃が恐る恐る質問をすると……。
「見限ってはいないかもしれないが、いい加減休息を入れたいっていうのがあるのかもな」
「休息ですか?」
「戦争を四六時中年がら年中やれるようになったのは、地球でも近代になってからだ。いや、現代でも世論が許さないだろうな」
「ああ、あの大国たちなら世論を押して、さらに体力はありそうだけどな」
ジョシーは田中さんの意見に笑いながら付け加える。
「さっきも言ったが戦争はお金がかかる。そしてそのお金を生み出すのは国民が働くことだ。でもな、この地域の戦争っていうのは兵士を徴兵しているのが大半だ。常備軍は備えているが、それは大体10分の1以下。つまり、戦力の大半は農民、平民から集めたってことになる。そうなると?」
「……資金はもちろん物資もなくなるということですわね」
「そういうこと。働き手が戦争に来ているんだからな。その徴兵した兵士に対しても食料や給金を配らなければ逃げてしまう。当然だろう?」
「何のために戦争に連れてこられたかわからないですもんね」
晃の言う通りだ。
確か昔の戦争って、食い扶持を稼ぐためでもあったはずだ。
なのに、食い扶持どころか食べ物もないしお金ももらえないとしたら、逃げるよね。
「ああ、だから物資が切れて逃げられて信頼を失う前に戻して、働かせて、またお金や物資を集めてってことを想定していたんだろうな」
「だけど、ここでお姫さんの到着だ。どう思う?」
「あー。助かった?」
「その通り。ちょっとだけの物資かとおもえば、このダストの妙竹林な力で物資はほぼただで無限に近い。なら、解散せずに、しかも自分たちの懐を痛めずに戦争を継続できる。それを手放すか?」
うん、今の話を聞けばまずありえないと思う。
他人のお金で旅行しているようなものだろう。
それは手放したくないよね~と思っていると。
「お待たせしました。皆様揃っているようですね。明日、我が軍のデモンストレーションを行うことになりました」
そう言って、ユーリアがカチュアさんやマノジルお爺ちゃんを連れてやってきた。
あ、違うか、戻ってきたんだ。
というか、やっぱりそうなったか。
ちょっとしたミスで、光が二連続になっております。
ご了承ください。
次は田中さんにする予定です。




