第371射:平和な前線基地
平和な前線基地
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
無事に連合軍の本陣到着した僕たち。
でもやることは特になく、車の中でのんびりとするだけだった。
ちなみに大型トレーラーの中に拠点を作っているので、装甲車の中よりのんびり過ごせている。
ユーリアたちも別に脅されているというわけでもないので、のどかだなーと思う。
ここが本当に戦場なのかっていうのも。
「あー、平和だ」
「何言ってるんだよ」
私が読んでいた本をテーブルに置いてそういうと、横で同じように……車の本で勉強していた晃はこっちを見てそう言って来た。
「ここ最前線の一歩手前だぞ? どこが平和だよ」
「でもさー、別にここに敵が来ているわけじゃないし、物資が届いて喜んでいる人たちも多いしさ。平和って言わない?」
「確かに、目の前に迫る危機はないのですから平和といってもいいかもしれませんわね」
撫子も同じように読んでいた本を置いて顔を上げて話に加わって来た。
内容も僕の話に賛成するような内容だたので……。
「ほーら。平和だって」
「とはいえ、あまり緩みすぎるのもどうかと思いますが」
「うぐっ」
あれ、僕の味方じゃなかった?
そんなことを考えていると、テーブルにすっとお茶が出てきて誰かと思ったら。
「まあ、落ち着いて本を読んでお茶を飲める環境だというのは事実ですから、それを満喫しても悪くはないですよ。戦場だとこういう余裕もなくなりますからね。今のうちに楽しんでおくことをお勧めします」
「あ、ヨフィアさん。ありがと」
「ありがとうございます」
「いただきます」
僕たちはお礼を言ってお茶を口に含む。
今日は緑茶か、あー落ち着く。
「ヨフィアさんはこの陣地を見回っていたんじゃ?」
「ええ。一応確認してきました。タナカさんやジョシーさんも動いてはいますが一応。下手するとこの連合の馬鹿共が襲ってきますからね」
ヨフィアさんは特に気にした様子もなくとんでもないことを言っているんだけど、これが冗談じゃないんだよね~。
今はまだ周りの連合の人たちは分かってないけど、私たちの戦力っていうのは田中さん曰く完全機械化歩兵ってやつらしくて、この世界のレベルとは一概に比べられないけど、地球の歴史からいうと一段どころが五段以上吹っ飛んでいるみたい。
まあ、僕だって戦車と歩兵が勝負になるわけないってわかるし。
味方が僕たちの戦力を正確に把握したとき、襲い掛かってくる可能性があるってやつ。
だからこそ、油断している今、田中さんやジョシー、そしてヨフィアさんは周りの様子を伺っているみたい。
「どうだった? 周りは?」
「そうですね。物珍しさはあるようですが、そこまで気にしている様子もありません。まあ、精々盾に使えるぐらいみたいです。どうしても数が少ないですからね~」
そうか、確かに数は少ない。
精々50台ぐらいで、敵も味方も万を超えるみたいだし。
その中での50がどれだけ優秀でも戦況には影響ないと思うだろうな~。
普通なら。
残念だけど僕たちが持ってきている戦車は戦力としては人の比じゃないからね~。
「じゃ、しばらくは安全ってことかい?」
「物資の引き渡しをしていますからね。そこを考慮はするでしょう。ですが、与えられている場所以外にはいかない方がいいでしょう。特に女性は娼婦としてみられますからね。ノールタルさんとかセイールさんは特に」
「ん? ああ、そんな奴がいたら頭吹っ飛ばすから」
「はい。吹っ飛ばします」
隣の席で、ゴードルのおっちゃんとお茶を飲んでいるノールタル姉さんはとセイールさんは笑顔でそういう。
2人は昔、その、慰み者としてひどい目に合っていましたからその反動なのでしょう。
「……よう、こんな強い女性2人を慰み者にできただなぁ」
「あん? ゴードル、私たちもか弱い女性なんだよ?」
「失礼です。ゴードルさん」
「失言だったべ」
ゴードルのおっちゃんが確かに悪いけど、ノールタル姉さんとかセイールのあの迫力でっていうと首を傾げるよね。
ま、女性はすべからくか弱いところがあるってことだよね。
「で、ユーリアは今どこに?」
そう、僕たちの代表としてこの軍に参加しているユーリアの姿がない。
大事にはなってないと思うけど、姿を見ないのは心配だよね。
「確か、今はカチュア先輩やマノジルさんと一緒にハブエクブ王国の人たちと話し合いをしている最中ですよ。物資の分配はしていますけど、下手に矢面に立たされることも嫌ですし、ハブエクブ王国が戦後攻め立てられてもこまりますからね~」
「攻めたてられる?」
「ええ。これから実演をするでしょうし、その際ハブエクブ王国が危険視されるのは間違いないでしょう」
「ああ、そういえばそういう話あったな~」
僕たちが強すぎるからノウゼン王国というか連合が僕たちを次の敵にしかねないとかなんとか。
「でも、そういう問題って話してどうにかなるモノなの?」
何度話し合っても田中さんの戦力が減るわけじゃないしな~。
僕たちも弱くなるわけじゃない。
「話でおいらたちが弱くなるわけじゃないだべが、意思の表示にはなるだべよ」
「意思表示?」
「んだ。話し合いができるってことだ」
ゴードルのおちゃんはそう言って頷く。
それに合わせてノールタルの姉ちゃんも口を開く。
「そうそう。私たちはすぐに周りを攻撃するような人じゃないですよ~ってね。まあ、その分隙を狙ってくる輩もいるだろうけど、本国、つまりルーメルが後ろにいるとしっかり教えれば下手なことをする連中は減るだろうね。何せ、私たちに何かあれば本国ルーメルが動くっていうことだし」
「ああ、後ろにはもっと強いのがいますよ~ってこと?」
「そうそう」
なんかほかの人の力を使って脅しているように見えるけど、実際は田中さんの力だし、ほかの人の力を使っているのは間違いじゃないか。
それがそういう面倒なことを止めることになるのか~。
「それに、本来の私たちの目的は魔族を倒すことは間違いないですけど、そのあとの調査が本当の目的です。それを行うためにも力を示すのは必要だと思います。どうもこの土地の人たちは戦うことが好きなようですし……」
「好きかどうかはどもかく、セイールの言うように最近までずっと戦争をしていたんじゃ。疑うことを忘れてはいないだろうね。油断すればすぐに喰われる。私たちみたいにね」
「「「……」」」
ノールタル姉さんとセイールの言葉に全員が沈黙する。
だって、ついこの前までそういう風に扱われていたから。
なんていえばいいのか。
そう思っていると。
「そのためにもちゃんとお披露目をするんだよ。あれを見ればちょっかい出そうとか思わなくなるからね。そこはあのお姫様が上手くやってるさ」
ゼランさんがそういってお茶を飲む。
「おう、流石王族付きのメイド。腕はいつでもすごいもんだね」
「当然ですよ~。カチュア先輩に鍛えられていますから。とはいえ、今はアキラさんたち専属ですけど~」
「というか、ゼランは物資の引き渡し終わったの?」
「ああ、今日の分は終わったね」
ゼランがこの場にいなかったのは、物資の引き渡しをしていたからだ。
物資を渡しているとは言ったけど、一気に全部渡すわけじゃない。
そこらへんは色々政治的な思惑とかがあるんだけど、一番の問題は田中さんが出すってところ。
わざわざルーメルの援軍がすぐにくるよってパフォーマンスのためにトラックを出してそこに物資を沢山積んでいるだ。
それを毎朝この拠点に運び込んでいるわけ。
面倒だけどよくやるよね~。
「ねえ、ゼランから見てどう? ここの人たちは?」
「そうだね~。切羽詰まっているようには感じていないね。まあ、ここに残っているのは西側の連中だからね。国を追われたわけじゃないから当然だろうけど」
「あ、そうなんだ。東側の人たちは全員前線?」
「全員ってわけじゃないだろうけど、少ないだろうね。祖国を取り戻すために戦っているんだ。そこで手抜きはしないだろうさ。そうでもしないと今度は西側の連中が不満をいう」
「確かに、東側の人たちのために兵士をだしているのに、西側の人たちがさぼっているのをみたらやる気はなくしますわよね」
あ~、確かに撫子の言う通りだよね。
当事者が理由もなくサボって、関係のない人たちが頑張っていたらやる気は無くなるよね。
「で、そこはいいとして。結局僕たちはあとどれだけここにいたらいいんだろう?」
結局はそこだ。
到着したとらすぐに出撃かな~と思っていたのに、そういうことは無く今は物資をつかってみんなと仲良くやるのがメイン。
戦いの雰囲気は無しだもんね~。
そう思っていると。
「明日には戦車のデモンストレーションやるんじゃないか?」
「だね。向こうもこちらのホラ話を多少聞く気にはなっただろうし」
そう言って、田中さんとジョシーが戻ってきていた。
「どういうこと?」
その質問に僕は普通に首を傾げていた。




