第369射:車を動かすだけなら簡単
車を動かすだけなら簡単
Side:アキラ・ユウキ
ブロロロ……。
そんな車の音や振動がハンドルを握っている手を通して伝わってくる。
いや、アクセルやブレーキ、シートにいたるまで全部が車の状態を教えてくれているみたいだ。
「そうそう。その調子でいいぞ」
俺たちは今魔族と戦争をしている地域にまで移動している最中なんだけど、こうして運転を教えてもらっている。
なんで今更って思うかもしれないけど、このタイミングしかなかったっていう感じかな?
今までなんだかんだで車にのんびり乗る事態は無かったし、こうして俺たちに教える暇もなかった。
日本なら免許取ってないから駄目なんだけど、こっちは異世界だからいいんだろう。いいんだよね?
もう人殺しも経験しておいて何を心配しているんだろうと思うけど、やっぱりこういうことは日本人なんだなーって思ってしまう。
「意外と簡単なんですね」
「まあ、車の操作なんざ、ハンドルとギア、アクセル、ブレーキ。あとはおまけのワイパーとか方向指示器、ライトのオンオフだしな。しかも方向指示器、ウィンカーはこの世界で使う必要はない」
「確かに曲がるって伝える必要ないですもんね。ほかの車いないし」
方向指示器、ウィンカーは対向車や後続車に曲がりますよって伝えるものだ。
他に車もいないから意味がないってことだ。
「面倒なのは道路交通法だよ。国によって違うし、道路標識も色々だ。特に日本は多いからな。勉強がめんどくさい。だから日本に戻っても勉強しなくていいってわけじゃないからな」
「わかりました。もどったらちゃんと勉強します」
「えー、べんきょう~?」
「当然ですわ。日本で走るのなら日本での法に従うのが通りです。人を轢きたいのですか?」
「いや、それはないけどさ……」
どうやら、光は勉強は嫌なようだ。
まあ、俺も好きか嫌いかといわれると嫌いだけどさ、車の勉強に関して人の命がかかわるしそのための勉強を怠るつもりはない。
というか……。
「光の身長って足りるのか?」
「あー! 言っていけないことを言った! 身体的特徴を貶すとか、これは戦争だね! そうだよね!」
「落ち着いて光さん。晃さん!」
「あ、うん。ごめん。冗談で言ったつもりだった。最近は座布団とかで座高調整するから大丈夫だろう?」
そう、身長が足りない人は座布団とかを利用して座席位置を上げるのだ。
アクセルブレーキに足が届くのかという疑問はあるが、多分届くんだろう。
「それフォローになってないからね! 僕がちびのままって言ってるでしょ!」
「あーもう、光、面倒になってるぞ。なら身長伸びるから心配するなって言えば……」
「そんな根拠どこにあるんだよ! っていうね」
「だろ?」
「わかっているなら怒らないでください」
「ごめん」
「冗談を言えるだけのんびりしてるってことだな。よし、じゃあ変わってルクセン君やってみるか?」
俺たちの雑談を聞いて田中さんがそう提案をしてくる。
俺の教習時間はまだあるはずだけど……。
「え? まだ晃に教える時間じゃない?」
「残念ながら、結城君は優秀でな。教えることがない。高等テクとかならまだあるが、それはここじゃできないからな。ルクセン君や大和君に回そうと思っただけだ。で、どうだ?」
「うん。それなら運転してみたい。あ、撫子はどう?」
「私も覚えたいですね。ですが、思うに私たちよりも、ヨフィアさんに教えたりはしないのですか? 私たちよりも上手く使いそうですが?」
あー、確かにメイドのヨフィアさんなら、俺よりもスムーズに運転技術を習得できそうだよな。
そういえば、ヨフィアさんは車に関しては何も言ってこないけど、どうしているんだろう?
と思っていると、すぐに返事が返ってくる。
「この車って乗り物は銃と同じぐらいやばいモノですからね。タナカさんはそういうの警戒しているんですよ~」
「ん? いや、お前に教えてもいいとは思っているが、優先順位としては結城君たちが先だっただけだ。電気関連とかスイッチとかそういうのヨフィアがというか、こっちの人が理解できると思うか?」
「「「あ」」」
「いえいえ、あの船に乗っていたんですから、スイッチぐらいは分かりますとも。電気がつくんですよね?」
うん、田中さんの言う通りだ。
俺たちが優先順位が先なのは当然だった。
スイッチといっても色々なものがある。
「それだけじゃない。色々あるんだ。その常識を知っているやつから教えているだけ。ヨフィアにはなるべく早く覚えてほしくはあるが、元々の常識が違いすぎるからな、俺から叱られながら覚えるより、結城君に手取り足取り教えられた方がいいだろうとおもったわけだ」
「え?」
なんでそこで俺が出てくるわけ?
いや、理由は分かるけど、田中さんが教えるのは面倒だから、常識を教えつつそのついでに車の練習もってことですよね?多分。
「あ、それならアキラさんに教えてもらいます」
凄く嬉しそうなヨフィアさんの返事に俺は冷や汗が出てくる。
「ま、頑張れ。頭は悪くない奴だから理解はするだろうが、どうしてがかなり続くタイプだ。わからなければ俺に回してもいいが、なるべく解決してやってくれ」
「スイッチがどうしてとか言われても、そうなるシステムとしか説明できませんよ?」
「……確かにそうだな。車の構造について講義はしておかないといけないか。修理とかにも関係するし」
「うん。修理は出来ないとまずいと思う」
「ですわね」
そうそう、修理ができないと問題ですしそこらへんは協力してください。
「といってもな。本格的な車の修理方法とかになるとやっぱり時間はかかるからな。基本的なことだけにした方がいいな。というか、それぐらいしかできない」
「……ああ、確かにそうですよね」
運転をしながら本格的な勉強なんてできるわけもない。
色々言ってはみたが、結局俺たちの現実を知らないワガママってことだよな。
それから、脇道に車を止めて俺は光と車の運転を変わる代わりに、田中さんから……。
「ほい。コレこの車のマニュアル。ヨフィアはもちろん大和君にも渡しておけ。ヨフィアには説明しながらな。自分で説明することで、理解度も深まるはずだ」
「なるほど」
「確かにそういう話は聞きますわね。相手に教えるということは、自分が良くよく理解して、分かりやすく伝える必要があると」
「ま、今伝えるのはどこをどうすれば車が動くかぐらいでいい。というか、構造とか教えられないだろ?」
「ええ、まあそうですね」
「そこまで車は詳しくないですわ」
俺と撫子は素直にそういう。
車が動くのは知っているけど、どういう構造でどういうシステムがあってというのは全然知らない。
まあ、エンジンがガソリンで動くぐらいか?
多分、予想ではミニ四駆を複雑化したようなものだとは思うが、そういう説明は雑すぎるだろうな。
ということで、俺たちは本を受け取って後部座席のほうへ移動すると。
「はい。こちらをどうぞ」
と、ヨフィアさんから白い錠剤を渡される。
「え? これは?」
「ああ、酔い止めですわ。どうしてもコンクリートの道とは違い荒いですから」
「なるほど」
俺は素直に錠剤を受け取って水で流し込む。
車酔いってひどいと本当キツからな。
「ヨフィアさんは飲んでいるんですか?」
「ええ。私たち後方の人たちは全員飲んでますよ~」
「おう、心配するな。というか、この車の振動でキツイとかなら馬車とかなら死ぬんじゃないか?」
「あー、ゼランさんの言う通り初めての時はマジで死んでましたね」
「ですわね。腰が痛いのなんのって」
撫子の言うように初めての馬車はワクワクだったがそんなの途中で終わった。
揺れがすごくてお尻が痛いし、揺れるんで気持ち悪いし、遅いしの三重苦だった。
そんなことを思い出していると。
「おう。どうした? ん? ついた?」
そんな田中さんの声が聞こえてくる。
相手はおそらくジョシーさんだとは思うが……。
「わかった。俺たちの到着は……伝えておくからそっちにな。交渉はまずはお姫さんで行うと」
そんな話を聞いてしまえば俺たちは黙って運転席側に集中していると、すぐに話が終わったようで……。
田中さんが助手席から顔を出してきて。
「聞こえていたようだな。ようやく連合軍の本陣に着いたようだ。いま案内を受けて指定の場所に駐留しているらしい。そして話はまずはお姫さんとハブエクブ王国が受け持つそうだ。俺たちはこのままの速度で行ってよし。話し合いが決裂する可能性もあるからな。戦闘の準備も怠るな」
「「「はい」」」
一気に気が引き締まってきたと思ったんだけど……。
「あと、弁当出すから食っとけ。戦闘になる可能性もあるからな」
ということで、まずは食事をしてから車の勉強をすることになったんだけど、連合と魔族のことが気になってあまり手につかなかったいうのは当然だと思う。




