第367射:冒険者ギルドからの視点
冒険者ギルドからの視点
Side:ナデシコ・ヤマト
私たちは晃さんがタブレットをシシルさんギネルさんに向けている姿を眺めています。
きっと彼女たちの画面には二分割された画面にルクエルギルド長とシャノンギルド長が映っていることでしょう。
声だけじゃない映像付きですからね。
「ほ、本当に、ルクエルギルド長ですか?」
「それにシャノンも」
ん? なぜかギネルさんはシャノンギルド長のことを呼び捨てにしています。
何故でしょうかと思っていると。
『本物だ』
『はい。本物です。シシルもギネルも久しぶりね。元気そう?って感じじゃなくて追い付いてないって感じね』
どうやらシャノンギルド長はシシルさんとギネルさんとはかなり砕けた知り合いのようです。
元々凄腕の冒険者だったと聞いていますから、その関係でしょうか?
「こんな道具が存在するなんて……」
「正直……まだ信じられない、かな? 幻術?」
知り合いかどうかはおいておくとして、いまだに目の間にあるタブレットの存在をいぶかしんでいるようです。
まあ、私も日本にいたころは魔術だといわれて炎を見せられても手品だと思うでしょうし、これが普通なのでしょうか?
とはいえ、そんなことをしていては話が進まないので、ちょっと画面の操作をして、自分たちがカメラに映るようにします。
「あ、私が映った。ギネルも」
「ですね。……しかもちゃんと動いている? 今の姿を送っているんですね。えーとシャノン。いま私がどっちの手を上げて指を何本立てているか分かりますか?」
そう言って、本当にシャノンさんに見えているのか、確認しているようです。
『わかりますよ。左手で3本。ちなみに利き手じゃないので不自然になっていますよ?』
「……本当に私たちの姿を今のままを送っているんですね」
『まあ、信じてもらえてなりよりだよ。これで手早く連絡ができる』
「そうは言うが、ハブエクブ王国の連中の前で使うつもりはないからな。そこは注意しとけよ」
『協力しているのではないですか?』
田中さんの言葉にシャノンさんは質問をしますが……。
「じゃ、そっちは冒険者ギルドの情報網を王家に渡しているのか? そういうわけじゃないだろう?」
『……確かに。失礼しました。それで私たちと連絡を取ったのはなぜですか?』
「ああ、そういえばシャノンの方はこっちの事情はまだ正確には把握してなかったな」
ということで、田中さんがシャノンさんに対して現在連合に合流するために動いているということを説明します。
『一応協力体制は取れたわけですね』
「一応な。背中に注意をしなければいけないから、俺たちは別に行動中ってわけだ」
『まあ、当然だろう。相手にとってもルーメルの存在は驚きだったわけだしな。そもそもこの戦争に関しても傍観をしていたんだノウゼン王国のこともあるしな』
「そこだ。ノウゼン王国と周りの状況で硬直している可能性があるって話だが、ここで俺たちが参加してその均衡を崩すとどうなる? そこをちゃんと聞いておかないと面倒だ。下手すると、魔族どころか、連合まで全部敵に回りかねない」
確かにそうです。
今回の魔族と人との戦いですが、そんな簡単な状況ではないのです。
ノウゼン王国が盟主として戦っていますが、それは背後関係はどろどろとしていますから。
「お姫さんの方からも情報を貰ったが、ノウゼン王国に関して冒険者ギルドとしてはどう思っているんだ?」
そう運転している田中さんから冒険者ギルドたちに対して質問が飛びます。
ですが、運転をしている田中さんから視線を受けているわけではないので、4人ともちょっと困った顔をして。
『すまないがタナカ殿。質問には私が答えていいのか?』
「ん? ああ、誰が答えていいかわからないよな。まずはルクエルで頼む」
『わかった。ノウゼン王国について、どういうレベルで話せばいい?』
「そうだな、まずはノウゼン王国の立ち位置、つまり認識がほかの連中と違っていないか話してほしい。その後個人的な意見って所だな」
『そうだな、確かにほかの連中のノウゼン王国の見かたは私も気になるところだ。では、冒険者ギルドから見たノウゼン王国だが……』
そこから語られるノウゼン王国の情報ですが、大まかなことに変わりはありませんでした。
ノウゼン王国は魔族が西側から侵攻してくる前は、東側の国を多数飲み込んで大きくなっていて周辺国では警戒の対象だったと。
ですが、私たちが知らない情報もあり……。
『今では強国ではあるが、元々は弱小国家だった』
ノウゼン王国の過去。
苛烈に他国を切り取っていく前の姿。
「ま、そりゃそうだろうさ。最初から大きかったんなら、今そんなに揉めてないだろうさ」
だけど田中さんはその走り出しの言葉にあっさりと感想を返す。
確かにその通りですが、その過程に過酷なことがあったのは間違いありません。
『確かにそうだ。まあ、ノウゼン王国がこうした拡張方針になった切っ掛けというやつだな。そこが分かればノウゼン王国との交渉も変わってくるだろう』
「確かにな。事情を汲んでいると思えば多少は心情はよくなるかもな。で、その拡張路線の切っ掛けというのは?」
『先ほども言ったが、元々ノウゼン王国は小さい国、いわゆる弱小国家だった。そして、どちらかというと先代は守るタイプで外に出ることはなかった。まあ、普通に考えれば外に打ってでればほかの国から横やりを入れられるのは確実だろうから、先代が無能だったというわけでもないだろう』
私からすれば、守るために戦い、人を傷つけないようにしていることからいいことだとは思うのですが、それはやはり私が思っているだけ。
少しでも考えれば、それは駄目だということが分かる。
攻められていないならともかく、敵国が攻めてきているのであれば、それは統治者の無能により人々に被害が出ているということです。
つまり、守っているように見えますが守っていないのです。
そうなる前に対処するべきなのが、国のトップとしてあるべき姿でしょう。
今のロガリ大陸のように、大同盟を結び戦争が起こらないようにするのが、その土地に住む人たちにとっての平和であり守るということでしょう。
……とはいえ、そんな大それたことが私にできるかというと、出来ません。
ラスト王国のこともルーメル王国との和解も田中さんやエルジュたちが頑張ってくれたおかげだと知っています。
私が手助けできたのはほんの少しのことだけ。
だから、ノウゼン王国の先代のことを非難することも出来なければ……。
『しかし、終わりというのはやってくる。先代は防衛のために出陣したがそこで討ち取られてしまう。味方の裏切りもあったからな。そこで国土は一気に半分ほと奪われてしまった。普通なら飲み込まれて終わりだったが……』
「今代のノウゼン王が踏ん張ったと」
『その通りだ。今までにない作戦を実行して、敵を粉砕して見せた。その余勢を駆って敵国を逆に飲み込んだ。その一連の動きに周りの敵性国家も驚きのあまり対応できなかった。何せ、僅か一か月のことだ』
その言葉には私たちは顔を見合わせた。
一か月っていうと結構時間がかかったような気がするのです。
ですが……。
「馬と馬車ぐらいしか移動能力がないようなこの土地で隣国がいくら小さかろうと、支配下に置くっていうのは、俺たちの世界でも至難の業だ。つまり、元から手を入れていたってことだな」
『おそらく』
あ、そうですわ。
確かに移動手段が主に馬ですし、それで敵国の領土を掌握するなんてできません。
精々王都を落とすぐらいでしょう。
それに現代でもそうですが理不尽な侵攻には反発するはずです。
つまり、元からこれは計画されていた?
『その作戦を立てたのが先代なのか今代なのかはわからないが、鮮やかに敵国を手中に収めて見せたのは違いない。だからこそ手を出すのをためらった』
「ま、得体のしれない感じがするよな。自分たちの国の内部がどうなっているかとか」
『まあ、結局その間に自国の立て直しに成功したノウゼン王国はそれからはちょっとでもちょっかい出してきた相手に対しては苛烈な反攻を行って領土を切り取って行ったわけだ。攻められないために』
「なるほど。そこらへんはルクエルの私見、意見って所か」
『ああ、とはいえ、滅ぼされた国の王たちは別に処刑はされていない。多少領土は削られたが、殆どがそのままの領土で過ごすことを許されている。普通なら首を切って統制を強めるところだからな。とはいえ、そんなことは周りの国から見れば関係ない。他国をどんどん攻め滅ぼしている脅威の国というわけだ。そういう事情も相まって連合の盟主を受けたというのもあるだろう』
「ノウゼンが盟主になったのは袋叩きを避けるためでもあったが、敵対の意思がないを伝えるためでもあるってことか。ハブエクブ王国やゼランの商会からの情報では、ギスギスの連合だって話だったな」
『それは間違いではないだろう。お互いの真意は分かっていない。とはいえ、誰だって矢面には立ちたくはない。魔族という脅威があって今の平穏がある』
ですが、今のルクエルギルド長の話が真実であれば……。
『ふむ。その話が本当であれば、私たちが仲介役になれる可能性はありますわね』
と、ユーリアが話に入ってきます。
先ほどの話はちゃんと聞いていたのです。
「そうだな。とはいえ、どこまで真実かはわからないからまだ保留だ。それで、ルクエルの方はほかに何かあるか?」
『そうだな、ノウゼン王国のことは私からこれぐらいだな』
「よし、じゃあ、次はシャノンに頼もうか」
『わかりました。では……』
ということで、今度はシャノンさんからノウゼン王国の情報を聞くことになります。
しかし、こうして改めて色々な人からの意見を聞けば見方がガラリと変わってきます。
何度経験しても不思議な感覚であり、最初の印象を引きずってはいけないのだと再認識しました。




