第366射:移動開始と連絡網の強化
移動開始と連絡網の強化
Side:タダノリ・タナカ
「あー、いい天気だ」
俺はそんなことをつぶやきながらのんびり運転をしている。
いや、びっくりするほど遅い。
こんな風に遅く進むのは本当に面倒だな。
全歩兵の機械化って大事だったんだなーと心の底から思う。
何せ俺たちの遥か先には大勢の兵士がのんびりと進んでいるからだ。
「なあ、もうちょっと早く進めないのか?」
『無理です。兵士を走らせれば逆に時間がかかります。それで、そちらは接触はありましたか?』
「いやまだないぞ。俺たちのことはハブエクブ王国も知っているんだろう?」
『そのはずですが、なぜ別行動を?』
そう、俺や結城君たちはユーリアと一緒に進軍することは無く遥か後方を追いかけている状態だ。
「先日も言ったが一網打尽を避けるためだな。あとはこっちにもちょっかいを出す馬鹿がいるかどうかって確認のためだな。しつこいようだが俺たちの存在はちゃんと知らせているんだろう? なあ、お姫さん」
『当然です。援軍をさらに頼んでいるといっています。合流まで待ちましょうと言われましたが、敵がどこから来るかわからないので後詰として来てもらう方が安全ですと伝えておきましたわ』
確かにそうだよな。
見知らぬ軍が後方にいるなんて混乱の元だ。
だからこそ俺たちが攻撃を受けないために事前にお姫さんに俺たちがいることを伝えてもらったわけだ。
相手の動きを見るためでもあったが、まさか偵察部隊も送ってこないとかびっくりだよな。
「さて、何もないのはおかしいと思うが、何を狙っていると思う? ジョシー?」
俺がお姫さんの護衛についている、戦争馬鹿に質問をしてみることにする。
『あん? 特に気にしてないよ。あれだ、実力を知っているから無駄にトラブルを避けたいってことじゃないかい?』
「そんな単純な話か?」
『単純だろうさ。下手にちょっかいを出して反感を買えばそれで終わりなんだ。難しく考えすぎだ』
「そういうもんか?」
『そうじゃなけりゃ、戦えばいいだけだろう?』
あ、こいつに聞いたのが間違いだったってやつか。
いや、実際攻撃されればそうするしかないが。
「はぁ、とりあえず何かあれば連絡してくれ。こっちも何かあれば連絡する」
『はい。その時はよろしくお願いします』
そう言ってお姫さんとの連絡は終わる。
そして俺は後ろにいるお客さんのことを思い出して声をかけてみることにする。
「結城君。冒険者ギルドからのお客さんたちはどうだ?」
「えーと、シシルさんにギネルさんですか?」
「ああ、そういう名前だったな」
美人だけが取り柄って感じの二人。
違うな。冒険者ギルドのルクエルがルクセン君たちに気を使って用意してくれた女性の職員だ。
だから、様子を聞いておくのは大事なことだ。
「2人ともまだ上の空ですね」
「出発してすでに6時間は経っているのにか?」
「車が珍しいようですよ」
「珍しい、ね。そんなので冒険者ギルドの仕事が務まるもんかね。とりあえず、俺から聞きたいことがあるから、話せるか?」
「わかりました。あのー、お二人とも今いいでしょうか!?」
なんか結城君が苦労しているなーと心底思う。
俺はこういう場合は蹴るか殴るしな。
さて、どれぐらいで正気に戻るかなと思っていると。
「ねえ、田中さん。冒険者ギルドの二人連れてきてよかったの? てっきり僕たちは歩いて移動とか思ってたけど」
「ああ、それも考えたが、分かれている理由はないと判断したからな。毎回、話をするにもその二人から目のつかないところにってなると物理的に難しいだろう?」
「確かにそうですわね」
「なら、むしろ即時連絡が取れるようにしておいた方がいいだろう。ルクエルとは知り合いだしな」
「「「え?」」」
俺の発言に驚く結城君たち。
ああ、そういえば教えてなかったな。
「ルクセン君たちが冒険者ギルドに色々要請しようって悩んでいる時だったか? その時に俺が寄っていた酒場にルクエルが来たんだよ。俺のことはシャノンから聞いていたんだろうさ。手紙に書かないわけないだろうし」
「あー、まあ、そうだよね」
「……つまり私たちの仲介は必要なかったと?」
「いや、向こうも俺と連絡を取ろうと思ったのは、大和君たちの対応を見たからだというのもあるぞ。露骨にやばい奴だったら、協力しようとも思わないだろう?」
「確かにそうだよね。いくら手紙で伝えられているからって、簡単に信用できないし。でもさ、ユーリアがやった戦車の試射とかも影響あったんじゃない?」
「そりゃあっただろうな。実際のモノを見ないと何とも言えないしな。それに加えてシャノンの手紙とルクセン君たちが加わって俺に接触する気になったんだろう。どれか一つでも欠けていれば……とは言わないが、全部そろったからこそ説得力も強くなっただろうしな」
「そうですわね」
「だから、大和君たちの行動が無駄になったわけじゃない。こうしてギルドから派遣人員も来たからな。道中の手続きとかはフォローしてくれるんだろう?」
そう、冒険者ギルドから来たこの2人はただの連絡役でついてきたわけじゃない。
道中の町などで行き詰ったときに仲介役をしてくれることになっている。
そういうことがないように、事前に連絡はしてくれているようだが、妙なことを考えるやつはどこにでもいるからな。
「えと、そのはずなんだけど……」
「まだ呆けてるのか?」
いくら何でも冒険者というか俺たちのアドバイザー兼連絡役がこんなんでいいのか?
ルクエルの人選、どうなってんだと思っていると。
「申し訳ありません。もう大丈夫です。ちゃんと道中の問題は対応しますので」
「しかし、タナカ殿。本当にルクエルギルドと連絡ができるのですか? そのような道具を渡すタイミングは?」
「え? 普通に酒場で渡したぞ。ワインのついでにな」
「「「ワインのついで?」」」
「ああ、ワインがキレたって連絡があったから、接触したかったんだと。まあ、その都度待つのもアレだから連絡手段渡した」
「「「えー」」」
なんか、ギルドの派遣二人だけじゃなく、全員で何か言いたげな声を出してきた。
「普通、ワインのためだけに連絡手段送らないでしょ? 仕事のためだよね?」
「もちろんそれもある。ついでに映像を送れるからな、シャノンとも連絡が取れるように解禁している」
「……そんなに動いているんですか? シャノンギルド長には連絡手段はあえて教えていなかったのにいつの間に」
そりゃー、こっちからタブレット見ている時を見計らって連絡をしたんだよ。
本人は写真や映像を確認していただけなんだけどな。
「ついこの前で、声をかけたらひっくり返っていたな」
椅子ごと。
いや、人ってあんな風に驚けるモノなんだと感心した。
「いや、誰だって驚くよ」
「知らないんですから当然ですわ」
「それで、シャノンさんは元気そうでしたか?」
「ああ、元気だったな。ひっくり返ったぐらいだから。それでルクエルとの合同会議をしていたりした」
「そこまで……ギルド長はなんで私たちにそれを教えてくれなかったのでしょうか?」
「シシル。それを言われて私たちが信じると思う?」
「……難しいですね。まあ、あるかもぐらいです」
「とりあえず、信じるために連絡とってみるといい。結城君たちのタブレットからも連絡できるから」
「え?」
「驚くことかよ。出る前に調整で預かっただろう? 普通に連絡先登録しただけだ」
「あー」
こいつら簡単に携帯電話を人に貸してデータ抜かれるタイプだな。
「納得しただろう。とりあえずその二人に簡単に連絡が取れるってことを教えるためにやってみてくれ」
「あ、はい」
そう返事が聞こえたかと思うと、すぐに操作を始めたようでコール音が車内に響く。
ちなみに俺はよそ見運転はせずのんびりと運転をする。
いや、よそ見しても事故しそうにないけどな。
それだけゆっくりなんだよ。
『もしもし。どうした?』
『はい、もしもし。何か御用でしょうか? って、これはユウキさんからですね』
『お? ああ、勇者殿たちからか。てっきりシャノンからだと思ったよ』
そんな感じで車内はのんびりした空気で話が始まるのであった。




