第365射:連合の事情
連合の事情
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「ノウゼン王国?」
『そう、ノウゼン王国だ』
僕の問いかけにゼランさんがそう繰り返す。
ちょっとしたことで連絡を取ったらその話が出てきた。
なんだっけ?
ノウゼン? のうぜん、能善? 日本古来のやつ?
「ああ、連合のトップの国ですよね」
「そうですね。冒険者ギルドからの情報でありましたわ」
「あー」
そんなのあった。
「それがどしたの?」
僕にとってはなんの話か分からないので普通に聞き返したんだけど……。
『いや、一応私たち、ヒカリたちが頭を下げて入る国の情報はいるだろう? というか、タナカの旦那から言われて集めていた情報だから聞いときな』
「ああ、納得」
確かに、どういう人なのかっていうのは知っておかないとだめだよね。
馬鹿な奴が仕切ってると疲れるし。
女ってそういう所派閥意識強いからね~。
ほら、僕ってクォーターだからさ、色眼鏡で見られるんだよね。
女学園だったのもあって本当にそこらへんきつかったんだよ。
撫子がいてくれて助かったけど。
「で、どんな人っていうのはおかしいな。どんな国なの?」
『東側では一番って言われている国だね。良く国も治めているようだけど、ここ最近の王様じゃ一番戦争をしている』
「戦争というとどういう意味でしょうか?」
『そのままだよ。他国を滅ぼしている、あるいは領土を切り取っている王様さ』
「「「……」」」
その説明に何と言っていいのかわからなくなる。
僕たちにとって戦争は褒めるべきことじゃなくて、忌諱するべきことだしね。
『ヒカリたちにとってはそういう反応だろうね。周りの国にとっても警戒すべき国だけど、商人や傭兵、冒険者にとっては仕事を提供してくれるいい国なんだよね』
「あー、そうか。そういう側面もあるよね」
確かに戦争ってお金や物資をガンガン使うから、それのおこぼれっていうのはおかしいけど、お金を稼いだりする人が出てくるのは知っている。
「ノウゼン王国の立ち位置はわかりましたが、よくそれで連合のトップに立てたものですね」
確かに、それだけ戦争をしているけんかっ早い国を代表にしているなんてみんな怖くないんだろうか?
『だからこそだよ。こいつを背中に置いて魔族と戦うわけにはいかなかった。戦力を出してもらうことでノウゼン王国の行動を縛る必要があったんだよ』
「「「ああ」」」
そっか、そういう意味もあるのか。
確かに戦争を吹っ掛けている国を放置はしたくないよね~。
安全のためにも巻き込んだってことか。
『それにノウゼン王国もこの話に乗らなければ周りから攻められる手はずになっていたんだよ。後方をすっきりして安全に戦いたいだろ?』
「確かに、そうですね。でも、それでよくまとまっていますね?」
『まとまってないからこそ、あんな変な戦い方になっているんだよ。いや、冒険者ギルドからの情報を見て納得だね。だからこそ、このハウエクブ王国も動きたくなかったんだろうね。下手をすると魔族との戦いのあとは東側の国での生き残り戦争だ。いや、確実に起こると予想しているだろうね』
「なるほど、戦後のことを考えているのですね。とはいえ、そんな理由だと内部はぎすぎすしているのでは?」
『しているだろうね。そりゃ面白いぐらいに。下手なところを見せれば背中をぶっすりだろうさ』
うわー、嫌な連合もあったもんだ。
でも、そうなると不思議なことがあるんだよね。
なので、素直に質問してみることにする。
「ねえ、それなら魔族と戦争をする必要はなかったんじゃない? 放っておけばよかったのに」
そう、連合なんかわざわざ面倒なものを組まないで放っておけば何も心配することはないはずだけど……。
『そこからは私が説明しましょう』
そう言ってゼランさんから、ユーリアが説明役を買って出てきた。
『ハブエクブ王国からも同じような情報を得ました。そしてなぜノウゼン王国が盟主になっているのかも』
「それはなぜでしょうか?」
撫子が改めてその理由を聞くと、しばしの沈黙の後。
『これ以上戦争をしないためだと思います』
「「「はい?」」」
僕たちはその回答に首を傾げるしかない。
今まで戦いを沢山仕掛けて国を滅ぼしてきたノウゼン王国が戦争をしないために盟主になった?
どういうこと?
『ここはヒカリたちには難しい話なのですが、これ以上土地を抱えても内部から崩壊すると見たのでしょう。滅ぼされた国は王家や貴族が素直にノウゼン王国に従ったわけではありません。戦争で命を落とした者の家族たちは、命を懸けて復讐しようとするところもあるでしょう。ここまでは分かりますね?』
僕たちは頷く。
それぐらいは分かる。
当然だよね。
大事な人を殺されて大人しく従うと思うなよってやつだ。
『今のノウゼン王国はそういう恨みを抱えた者たちを大量に内部に抱えています。ここで、連合の盟主にならなければ、各国から攻められるのはもちろん内部の反乱も起こるのは必定でしょう。だからこそ今戦争をしないために連合として、いえ人が一丸となって魔族と戦うという体をしているのです。その間に何とか内部を抑えるつもりでしょう。その期間が長引いている原因ではないと』
「ん? ちょっとまって、それってノウゼン王国は魔族を押し込めるのにわざと押し込んでいないって言ってない?」
『押し込めるかどうかはやって見なければわかりませんが、全力で対応しているかと言えば現状を見ればはっきりしているでしょう。いまだに東側の国の支援だけにとどめています。建前は先にも話しましたがお礼の件があるからと言えるでしょうが……』
『裏では、自分たちのための時間稼ぎでもあるってことだね。いや、あの国ならありそうだね。時間を稼がないと逆に国がまずいんだから』
「でもそれなら、周りの国は黙って見てるってことになるよね? なんで?」
本当に疑問だ。
ノウゼン王国が時間稼ぎをしているのは分かったけど、それって結局周りの国がピンチになるってことだ。
意味が分からないと思っていると、今度は田中さんが……。
『そりゃ、真っ向から勝負はしたくないさ。周りの国が寄ってたかって叩けば確かに勝てるかもしれないが、どこの国が兵を減らすかとか、滅亡する。そういう話になるからな。そして、後ろからは魔族たち。そうなると、お互いある程度矛を収めて、まずは共通の敵を倒す。自分の被害を抑えつつな』
「なんか……微妙な話ですね」
晃の言う通りだね。
結局魔族のために協力ってわけじゃなく、自国のために動いてるんだもんね。
『そうでもない。結城君たちの地元でもよくあることだ』
田中さんの言葉で異世界にいるのに、現実臭くなってくる。
いや、元々そういう世界だったけどさ。
リリアーナやエルジュもそういう政治抗争で大変だったし。
「なるほど。つまり私たちが魔族を押し返すと危険だということですか?」
僕が別のをことを考えていると撫子はぎょっとするようなことを言う。
『そこが微妙なところですね。ハブエクブ王国自体は、元々ノウゼン王国とは矛を交えていません。静観をしていました。港が魔族に襲われたということで危機感を持って参戦したという言い訳は立ちますが……』
「それは相手が鵜呑みにするかは別ですわね」
『その通りです。何よりハブエクブ王国が参戦を決めたのは私たちの脅し……もとい協力があってのことです。私たちの希望を通したのですから、ハブエクブ王国の安全保障ぐらいは希望してくるでしょうね』
『ま、当然のは話だな』
『だね』
と、ユーリアの言葉に田中さん、ゼランさんも同意する。
いやいやいや、それって本当に背中から刺されるってことじゃん。
「しかし、そのことをに対してハブエクブ王国は何か言っていないのですか? こういう戦乱に巻き込まれるということは、デメリットですし、私たちに希望を先に言うのが筋ではありませんか?」
「確かにそうだよね。戦争に巻き込まれるから、参戦したくないっていえばいいじゃん」
僕が賛同すると、ユーリアは苦笑いをして。
『私たちが脅しをかけましたからね。まあ、それだけが参戦した理由ではないでしょうが、そう言ってくるでしょう。圧倒的な戦力で脅されたと向こうは言うでしょう』
「「「ああ……」」」
『この戦いで活躍すればハブエクブ王国の地位は多少なりとも上がるだろうからな。そういう意味でも参戦する理由はあるけどな。油断はしないで交渉に臨むしかない。まあ、それはお姫さんが主体で俺たちは後方支援だ』
『はい。ノウゼン王国や連合との交渉は私が行います。とはいえ、皆さんにも接触はあるでしょうから、そこは気を付けてください。進軍は予定通り明後日となっています』
こうして連合の情報を聞きつつ僕たちは明後日の出陣を待つばかりとなった。
冒険者ギルドの方からも兵士を出すとか言ってたけどどうなるのかな?




