第361射:現場の確認
現場の確認
Side:ナデシコ・ヤマト
ハブエクブ王国が私たちからの物資提供で色々ありつつも準備を進めているその間に、私たちは新しい局面へと移っていました。
それは……。
『じゃ、今から戦場の確認をするぞ』
タブレット越しには田中さんがホワイトボードを背に立っているのが見えます。
そして、ホワイトボードにはどこかで見たことがあるような地図が貼られているのですが……。
「えーと、田中さん。戦場を確認するってどういうこと?」
真っ先に光さんがごく当然の質問をします。
今回の田中さんの招集での会議ですが、私たちは何も知らせていませんでした。
だから、ある程度予想はできるのですが、とりあえず確認を取るというのは大事だと思います。
『ああ、そこからだな。まあ、分かっていると思うが、俺の方から送っていたドローンが一昨日到着して連合と魔族の主要戦場の把握が終わった。だから、そこからの情報を分析したいと思う』
「『「……」』」
まあ、そうだろうとは思っていましたが、あっさり言われると私たちが集めてきた情報は一体何だったのかと思ってしまいます。
そんな私たちの気持ちは露知らずというか、あえて無視したまま話を進める田中さん。
『まず、ホワイトボードに貼ってある地図に見覚えが……多少あると思う。ゼランの商会が持っていた地図、そして冒険者ギルドが提供してくれた地図の写真版だ』
確かに見覚えがあると言えばあります。
あの落書きレベルの地図二つと似ているともいえないこともない地図。
『あはは、やっぱり落書きだね。これを見ると……』
地図を用意してくれたゼランさんもそこは気にしているのか苦笑い。
確かに落書きレベルではありますが、ゼランさんたちが必死に足で集めた地図であることにはかわりありませんから、それは無意味ではありません。
なので……。
「つまり、ゼランさんや冒険者ギルドが所持している地図は確かだったということですね?」
『ああ、そういうことになる。まあ、どれだけ正しいかをこれから調べるんだけどな』
田中さんはそういうと、レーザーポイントを当てて説明を開始する。
『まずゼランの商会が所持していた地図に関してだが、ルートに関してはほぼ正解だろう。主要街道5本で足止めといっているが、厳密には違う』
『どういうことですか?』
田中さんの否定の言葉にユーリアが首を傾げます。
その質問に答えるように新しい地図を追加します。
そこには……。
『この5つの主要街道は西側の各国へ分岐するためにできた道のようだ。そしてその奥、つまり俺たちがいる東側へ行くにはこの一本の道を通る必要があるわけだ』
そう、継ぎ足した地図にはフォークの根元の持ち手のような道が続いているのです。
『ゼランはこのことを知っていたか?』
『いや、知らないね。多分戦場ってことを聞いたからこの地図が出てきたんだろうね』
『ああ、そう思う。そして冒険者ギルドもそれは同じなようだな』
そう言って今度は冒険者ギルドが用意した地図にレーザーポイントが当たり円を描く。
確かに冒険者ギルドもゼランさんの商会が持っていた主戦場の地図のみだ。
後ろに続く道のことは考えていないようだ。
『ま、戦場という意味が分かってないとは思わないけどな』
田中さんはそういって鼻で笑っている。
つまり……。
「ルクエルギルド長はわざとこの情報を流したと?」
『そりゃそうだろう。悪意があるかどうかは別だけどな。ともかく希望した戦場の情報は出したから間違いではないな』
「どういうこと?」
横で聞いている光さんも田中さんが言っていることが分からず首をかしげています。
「えーと、戦場はこの主要街道の5つなんだよね? なのに後ろの道が大事なの?」
その通りです。
確かに後ろに私たちの東の国へとつながる一本道があるのは確かですが、戦いが起こっているわけではないので、重要かというと首をかしげます。
ですが……。
「いやいや、なんで5つ主要街道で抑えられてるかって、あの後方の道に主軍がいるからだろう?」
と、晃さんがあっけらかんに言ってのけます。
でも私たちは意味がよく分かりませんが、田中さんはすぐに頷きます。
『結城君の言う通りだ。この写真後方の写真だが道に黒い点がある。これは軍が固まっているからできるものだ。これが拡大写真』
田中さんはそういって黒い点に見える部分を拡大すると確かに人が固まっているのが見える。
というかテントとかも張っている。
よくよく見れば多くの人が出入りしているのも確認ができる。
「これってなに?」
『本陣ってやつだな』
「ほんじん?」
『あー、今の言葉にいうなら、総司令部か? いや、現場に出ているからただの野戦司令部か』
「そうしれい、ぶ?」
光さんは首をかしげていますが私は多少わかってきました。
「光さん。総司令部、司令部というのは軍における作戦を遂行する際のトップの組織です」
「ん~? それって国の王様がするんじゃないの?」
「それは命令を出すだけです。実際に軍を動かして出陣することは稀です。現場の指揮官例えば将軍などが命令権を預かってそれを遂行するんです。ほら、事件が起こった際、〇〇事件捜査本部っていうのがあるでしょう?」
「ああ、そうか。事件が起こったからって警察署長が事件解決に動くわけじゃないもんね。ドラマだと捜査一課とかが解決するもんね。それで捜査本部とか置くから、司令部ってそういうこと?」
「はい。ですよね、田中さん?」
『ああ、その説明で大丈夫だ。ゼランにもわかりやすくいえば、売り上げを上げろと支部に指示して、実際に動くのは支部長の配下の一部ってやつだな。わかるか?』
『わかりやすい説明だよ。つまり、5つの主戦場の頭、命令を飛ばしているのはその後方の本陣ってわけかい?』
『ああ、おそらくな。ここから各主戦場の命令とか物資の輸送をやっているんだろうな』
なるほど。
そういうことですか。
確かに主戦場ではないですが、重要な拠点ではありそうです。
「でもさ、なんでそんな面倒なことしているの? 奥に引き寄せてみんなでぼかーんってやっちゃえばいいんじゃない?」
しかし、そこで光さんの最もな意見が出てきます。
確かに5つの主戦場で抑えられているなら、本陣に兵力があるなら、それらを動員して全部撃破してしまえばいいと思うのは当然です。
なぜそれをしないのか?
『あー、そこは多分政治だろうな』
「「「政治?」」」
私たちは意味が分からず聞き返してしまいます。
『おそらくこの5つの主要街道で戦っているのは、西側で国を持っていた、あるいは縁がある国々なんだろう』
「はあ? それは当然では? それを助けるために、押し返すために連合を作ったのですよね?」
私は当たり前のこと聞いた気がするのですが……。
『ま、助ける度合いの問題だ。いや、まあ別の理由がないとも限らないが、実際に聞いてないから事実はわからないが、お姫さんどう思う?』
そこでなぜかユーリアに話を振ります。
そして話を振られたユーリアはというと……。
『押し返せるかどうかはともかく、政治が絡んでいるのは間違いありませんね。それは断言できます。光さんが言うように本陣から援軍を出せばそれで結果が出るのにそれをしていないのですから』
『いや、案外敵の力を見るために当て馬にしている可能性はあるぞ?』
ジョシーさんはいやらしい笑い声をあげながらそういいます。
なるほど、敵の実力を見るために、情報を集めるためにあえて敵をぶつけているという可能性もありますね。
何せ魔族というあの化け物たちは文字通り人知を超えるモノです。
事前に情報を十分と集めるのは当然でしょう。
下手に合流されて連携されると辛いと私でも思います。
ですが……。
『いや、当て馬は違いないだろうが、敵の力を見るっていうのは違うだろう。かれこれ半年近くも戦っているんだからな。もう力を調べるもくそもないだろう。押し込めずその程度ってことだ。まあ、お互い決め手をかけているっていうのもあるかもしれないが』
確かに力を見るというのは確かにおかしいですね。
すでに十分時間が経っているのですから。
「何かしら意図があってそのような状態になっているということですね。それが政治だと」
『おそらく、というか十中八九その通りです。皆がナデシコのようであればいいのですが、力を貸したからには何かしら見返りを求めるモノです。ここまでの規模の支援をしたのですから領土の割譲は当然で、無理やり各国の権力中枢によそ者を入れなくてはいけないでしょう。それをなるべく避けるため、縁者で頑張っているものかと』
なんとも生臭い話ではありますが、私たちだって帰る手段を探すためにやっていることではあります。
そして何よりそれに命を懸けているのですから当然の報酬と思いますし、国が動くのですからそういう動きはあって当然だと最近では私も納得しています。
「まあ、お手伝いしてもらうのに報酬無しっていうのは駄目だよね。そこら辺の歩合が変わるからがんばってるってことか」
そして光さんもそこらへんは納得しているようです。
当然ですね。
今では彼女も私たちと一緒に冒険者として仕事もこなしてきました。
頑張ったことに対して無報酬といわれて納得はできません。
それだけの労働をしたのですから。
そう考えていると……。
「田中さん。連合の意図とかは後で確認するとして、そういえば敵軍はどんな構成なんですか?」
『おう。そっちも大事だな』
そうでした、晃さんの言うように戦後のことよりも今の戦いをしっかり調べるのが重要です。




