第358射:商業ギルドの状況
商業ギルドの状況
Side:タダノリ・タナカ
結城君から連絡がきた。
さっそくルクエルの奴が地図を提供してきたようだ。
露骨というかなんというか、まあ、世の中そんなもんだろうとしかえいない。
行動力が高いの評価するべきか?
あっさり暗殺されそうで怖いけどな。
ま、正直地図を渡してくるとは思わなかった。
独自の地図を渡してくるっていうのは、その情報という金をこっちに流すことだからな。
流失してもいいとは言っているが、それだけで損害が起こるから本当に大事な情報は隠しているだろう。
俺たちが見てもその価値が理解できないっていうのもあるだろうしな。
とりあえず、まずは写真や動画に記録に残してそれから話し合いをするってことで、俺は拠点をでる。
しかし、王国側の監視がいないとか妙な話だな。
シャノウの領主から連絡はいっているだろうに。
いや、俺たちがそこまで重要ではないって判断したとか言ってたな。
まあトップがお姫さんなのは間違いないが、全権を握っているわけじゃないんだが、それは相手が知る由もないか。
それとも俺たちはどうにでもなると判断しているか。
それはそれで俺たちにとってありがたいことだしな。
実際俺の方に監視がついているようなことはない。
国がそこまで馬鹿と思うべきなのか楽なことを喜ぶべきなのか微妙なところだな。
全員に監視を付けるわけにはいかないっていう予算や人員とかの問題はあるかもしれないが……。
そんなことを考えているうちにまたゼランがいる倉庫にやって来た。
「昨日の今日でまた集まるとは思わなかったな」
そう言って中に入ると、ゼランがちょうどドアの前を通りかかっていたようで。
「よう。来たのかい」
「ああ、さっそく地図を手に入れたって連絡が来たからな」
「思ったよりも動きが早かった」
「ゼランもそう思うのか?」
「ああ。冒険者ギルドが地図を偽物だとしてもそう簡単に出すわけがない。あれは商業ギルドが持っている地図とも違う独自のものだしな」
「そういえば、商人ギルドの方はどうなっている? ゼランの商会が持っている地図は見せてくれたが商業ギルドのはまだだったよな?」
ゼランもゼランでノールタル、セイール、ゴードルの3人をかくまっているだけではない。
この土地でならゼランが持っている商会の力を存分に発揮できるからな。
前日は商会の力で交易ルートを割り出した地図を見せてくれたが、それよりも強力なのはこの土地で商売取り仕切っている商業ギルドが存在している。
もちろんシャノウにも商業ギルドは存在しているが規模がそこまで大きくないので情報がそこまでだったがここはハブエクブ王国の王都だ。
それなりに情報は集まっているはずだが……。
そのことをきいたゼランは苦虫を嚙み潰したように顔を顰めて。
「わるい。まだそこまで行っていない。ここの商業ギルドはそこまで現状をひどいと思っていないようでね。商売道具を簡単に開示はしないって言っているんだよ」
「ま、それは当然だな」
商人にとっちゃ戦争は絶好の書き入れ時だ。
上手く立ち回ればかなりの額が稼げる。
まあ、下手をすると一文無しとかになるんだけどな。
その種となる地図を戦争のために差し出せっていうのは、かなり難しいだろう。
商人たちにとっては売れる相手がいればいいんだからな。
だが、気になる点もある。
「当然ではあるが、それは相手が仲間じゃないってことであればだ。なんでゼランは駄目なんだ。同じ商人だろう? 別に敵対しているわけじゃないはずだが?」
「実はそうでもないんだよ。港のシャノウならともかくねっていえばわかるかい?」
「ああ、なるほど。海の商売と陸の商売がかちあうことになるわけか」
「そういうこと。私たち海の商売が持つ販路もあるからね。隣の芝生は青く見えがちってやつさ。こっちも一かバチかの戦いをしているんだけどね」
どこにもでもある話だが、同じ業種に見えても実際は色々絡み合っていることがある。
縄張りというやつだな。
暗黙の了解でそういう仕切りがされていることはよくある。
軍人といっても、陸軍、海軍が別組織であるように、ゼランたちも陸路の商売と海路の商売はものが違うのだろう。
そこにゼランが踏み込んだ形になっているから、商業ギルドは非協力的だと。
ここに存在しているゼランの商会はあくまでも海から来た商品をさばく仲卸しという立場で直接的な販路を持っているわけではないとのこと。
棲み分けをしているか。
「商業ギルドも戦争にはそこまで焦ってないってことか」
「だね。こっちまで攻め寄せられるとは思ってないようだよ。いや、攻め寄せられても自分だけは生き残る自信があるんだろう。冒険者ギルドも同じようだけど」
「まあ、町を占領しても一度きりの略奪ですませるのは余程馬鹿かそういう予定かって話だからな。しかもどっちのギルドもこの国だけの組織じゃない。そこを襲えばそれでおしまい……」
それでようやくあることに気が付いた。
「そういえば、そういうこの大陸で幅を利かせている組織として、今回の魔族の侵攻をどうとらえているんだ? 国から逃げてきた王族もいるようだし、ほかにも撤退してきたギルド職員とかいてもおかしくないが?」
そう。
今までそういう話は聞いてこなかった。
ただ単にシャノウが遠すぎたという可能性はゼロじゃないが、ここは王都だ。
そういう連中が逃げてきている可能性はあるはずだが……。
「そういえば、そういう連中の話は聞いていないな。冒険者ギルドの方は?」
「いや、そっちの専門は結城君だしな」
「なら、会議室に行こう。地図の件で集まっているからさ」
「そうだな。ここで話しこむのもあれだしな」
ということで、ゼランとの話を切り上げて会議室へと向かうとそこには結城君たちがすでに待っていた。
と言っても宿屋からのモニター越しだが。
それはともかく、どうやら俺が最後のようだ。
『おはようございます』
「おう。と言ってももう昼近いけどな」
『ねぇ、田中さん。お腹すいたしごはん出していい~?』
『こら、光さん』
『私もヒカリ様に賛成です』
若者たちはいつものように賑やかのようだ。
まあ、静まり返っているよりはましだろう。
とくにここ最近は結城君たちは別行動で食事制限をしているようなものだしな。
「いいぞ。最近はこっちの食事ばかりで飽きてきただろう。ゼランたちもいいぞ。ゴードル何か食いたいものとかあるか?」
流石に結城君たちだけ特別扱いするわけにはいかないのでゼランやノールタルはもちろん、体格の大きいゴードルなどは同じ量だけやっても満足できないからそこは気を遣う必要がある。
「そうだべな。なら、焼肉弁当がいいだ」
「わかった」
ということで、俺はスキルでゴードルの分をまず真っ先に出す。
普通の人なら弁当ひと箱でいいが、ゴードルは体格だけで3メートル近いし、筋肉もすごいので5箱ぐらいでようやくという感じだ。
「足らなければ遠慮なく言ってくれ。ゴードルはこの中で待機してて退屈だろうしな」
「だははは。そこまで我慢はしてないだよ。ゼランたちも気を使ってくれるだからな」
「そりゃ、いま我が商会で一番の戦力だからな。荷物運びもガンガンこなしてくれるしありがたい限りさ」
「ああ、そういえば、こっちでも普通に商売やってるんだっけか?」
「もちろんだよ。商人が商品の取引しないでどうするんだい? ま、タナカ殿のおかげなんだけどね」
ゼランの商品在庫については俺の能力で作った物資がメインだ。
元手がかからない超便利だし、高品質だ。
こうして俺たちはこちらでの活動資金と信頼を買っているわけだ。
確かに国の援護があるほうが助かるには助かるが、絶対というわけでもないので、こうしてゼランの持つ商人の力を拡大してもらっているわけだ。
シャノウの方では町の支持を得るために商品をばらまいていたいが、この王都では別に町の支持を得られるような状況でもないので、別に安売りもしてはいない。
なのでこの王都では商業ギルドでの影響力を高めるために動いてもらっている。
まあ、そういうのもあって地図を渡すのを渋っている可能性もあるな。
良質な商品をばらまかれてはほかの商人を潰してしまうことになる。
そうなると商業ギルドはもちろん、その地で商売をしている商人たちの恨みも買ってしまうことになるわけだ。
魔族を倒す前に味方を倒す必要性が出てくるわけだ。
そうなると実にめんどくさい。
うーん、ここら辺はゼランと話し合っておく必要はあるか。
そんなことを考えつつ、全員に弁当を配って、俺も弁当を食べていると……。
『おいおい。実にうらやましい状況だな』
と、ジョシーから連絡が来た。
「何言ってるんだ。そっちは王宮で贅を尽くした料理食ってるんだろう」
『わかってて言ってるだろう。味が足らねんだよ。私が野営で塩コショウ振って焼いた肉より薄味ってどうなんだよ』
「ま、昔は胡椒の価値は高いっていってたからな。こっちには供給されてないんだろう。同じものがあるかは知らないが」
『ちっ、で、ヒカリたちが回収した地図は?』
「もうちょっと待てよ。飯食ってるんだ」
『映像だけでも飛ばせるだろう。こっちはやることはないんだよ』
『そうですね。少しでも情報は欲しいところです。明日にでも会議をすると言っていますから』
「会議っていうと軍の動きか?」
『おそらくそうかと。すぐに出ることはないでしょうが、進軍路などの話し合いになると思います。そのために……』
「事前に冒険者ギルドの地図とかがあれば向こうが考えていることがわかるかもしれないし、危険かもしれないってことがわかるってことか」
『ええ。今の状況ではいい悪いが判断できませんから』
なるほどな。
少しでも情報があるほうがいいのはいいことだ。
「よし。じゃ、もう少しで食べ終わるからまってくれ」
『あーてめぇ!?』
「そんなに吠えるなよ。カチュアに緊急用で弁当とかは渡しているからアイテム袋から出せばいいだろう」
『え? そんなのがあるのか?』
「そりゃ、弾薬だけ渡しても意味がないだろう」
戦場で確かに武器弾薬は大事だが、生きていくための物資もいるんだ。
そういうことぐらいは考えている。
「じゃ、俺たちが食べ終われば話を……」
『こっちも食べるに決まってるだろ。おい、カチュア弁当出せ』
ということで、向こうが食べ終わる間待つことになったのだった。




