第355射:情報の更新
情報の更新
Side:ナデシコ・ヤマト
『大和君たちもこちらの映像と音声は届いているか?』
「はい」
そう返事を返します。
『とりあえず、そっちは冒険者ギルドの中にいるから誰か来たら対応を優先してくれ』
「わかりました」
私たちは冒険者ギルドの来賓室で田中さんとゼランさんの話を聞いています。
私たちが冒険者ギルドで待機している間にゼランさんの手に入れた情報を確認するために合流したようです。
正直に言えば私たちも向かいたいところだったんですが、昨日の急な依頼の申し入れもあり冒険者ギルドに待機していないと問題があるのでこうして聞いている状態です。
とりあえず警戒に問題がないか扉の方で待機しているヨフィアさんに視線を向けると頷いてくれます。
「ヨフィアさんが扉で警戒していますが問題ないようです」
『よし、なら話を進めるまえに……。ジョシーの方は聞くまでもないと思うがとりあえず聞くぞ』
『問題ないよ。話を進めな』
『じゃ、ゼラン頼む』
『あいよ。じゃ、まずはこの地図を見てくれ』
そういわれてタブレットに映っている地図を見ます。
それは、以前使われていた落書きレベルの地図とは……ちょっと違います。
『これは、このハブエクブの商会が所有している地図だ。タナカ殿が作っている地図と比べると精度は落ちるが、以前のモノよりもましだ。ちゃんと番頭たちから話を聞いて情報を更新している』
多少書き込みが増えているようで、おそらくハブエクブ王国近隣の町や村が以前のモノよりも多く記載されています。
何より目を引くのはでかでかとバツの赤線がいくつか引かれているところです。
そしてそれが分かっているようにゼランさんが説明を始める。
『このバツが今、魔族と交戦中の地域だ』
『場所は5か所か。ここはどういう場所かわかるか?』
『5つともどこも主要街道だね』
『主要街道ね……。ここで防衛線を引いているのは偶然か?』
私たちには田中さんが言っていることが分からず首を傾げる。
戦うのは偶然じゃないんでしょうか?
そんなことを考えていると、光さんが質問をします。
「ねぇ。田中さんの話じゃ偶然じゃない防衛線もあるってこと?」
『ん? ああ、ほらリリアーナ女王の所の一戦交えた時色々あっただろう? わかりやすいのは子爵の町だアスタリでの防衛戦。あそこは敵が来るとはっきりわかっていたから、陣地、つまり準備をできたわけだ。遭遇戦でそのまま戦うっていうのは意外と実は少ない。何せ遭遇戦は被害が大きくなりがちだからな。だからここで止めたい、もしくは仕留めたいっていう決めた場所で戦うことが多いわけだ。俺がシャノウの近郊でゾンビの集団を吹き飛ばしたのもある種の防衛戦だ』
「えーと、それじゃ偶然じゃなくて狙って防衛戦したってことじゃないの?」
『ああ、なるほど。防衛線を引いているって所が分からないのか。いいか、ルクセン君の話なら防衛が整う場所で戦うべきだろう? 街道で戦う理由はない。ゼランここに砦とかあるわけじゃないんだろう?』
『ああ、そういう話は聞いてないね』
『つまりだ。ここで戦っている連合軍は不利なところで守っているってことになる』
何故だろうという前に私は口を開きます。
「それはこれ以上奥に行かれたくはないからでは? 地図を見る限りここから前でも奥でも道が分かれています。分散されては面倒だと考えたのでは?」
そう、この地点のルートが敵を止めるならいい場所に見える。
「あ、そういうことか。撫子の言う通り分散されると面倒だからここで迎撃しているんだ。これは、考えてるんじゃないかな? 僕や撫子でも気がついたし、戦争できる人たちが考えて無いようには思えないけど?」
『その可能性は高いとは思う。だけど、そこらへんはちゃんと確認しないとな。で、ゼランそういう話は聞いているか?』
『そういうのは聞いていないね。とはいえ、状況から判断するに意図的にこの主要街道を押さえているっていうのは間違いないね』
『話は分かるが、魔族の連中は個々の戦闘能力は高いんだろう? わざわざ主要街道を通る必要があるのか?』
とジョシーさんが質問をしてくる。
確かに、今まで遭遇してきた魔族の能力を考えると、別に正面から敵と戦う必要はないですし迂回して後方を突けばいいだけとも思います。
実際、バウシャイの方はそうやって落としているんですから。
『敵を引き付ける必要はあるんだろうさ。確かに魔族は強いが、それでも真っ向から戦っている相手を1万人もやれないだろうさ』
『ああ、そっちか……。見晴らしのいい平原で待ち構えるからこそ身体能力の意味があまりないってわけか』
『そうそう、ああいう身体能力が高いのが本領を発揮するのは遮蔽物があるところだからな。不意討ちで倒すのが基本だ。何せ人数が少ないって話だしそうやって待ち構えられているとどうしようもないだろう』
あ、なるほど。
確かにノルマンディーで戦った魔族たちは確かに強かったですが、戦えない相手ではありませんでした。
つまり私程度でもそれなりに戦えるので、あの大陸でなら私以上の人なんていま警戒をしてくれているヨフィアさんなど沢山いるはずなので、あまりアドバンテージはないというわけですね。
出来るのは不意打ちで数を減らすことぐらい。
「え? なんで敵を引き付ける必要があるわけ? バウシャイみたいに後ろとって不意討ちすればいいじゃん」
『ルクセン君の考えはわかる。だけど相手は迂回ルートなどを通って後ろを突くようなことはしていないから、魔族側も突破されたくないんだろうな』
「どういうこと?」
『光。つまりだ。この防衛線は連合軍にとっても大事だが、魔族の奴らにとっても大事ってことだ。人数が少ないならなおのことな』
「あ、そういうことですか。敵も自分たちが確保した地域に入られたくないってことか」
横で晃さんがポンと手をうつ。
なるほど、そういう考え方もあるんですね。
『だな。その可能性は高い。なにせ魔族がわざわざそんな不利なところで戦う理由がないからな。そこに釘付けにしたい理由があるんだろう。結城君が言ったように攻め込まれたくないとかな』
「つまり、魔族側にも何らかの考えがあるというわけですわね」
『元から、バウシャイを襲った連中がゾンビを連れて行ってたしな。何かを考えて行動しているのは確かだな。とはいえ、話ができるのはここまでだ。詳しい情報がない今、ここで話してもただの憶測でしかない。今できるのはゼランからの詳しい話を聞いて今後の方針を決めることだ。それで、外に情報は?』
『そうだね。ほかに目ぼしい話はないけれど、私たちがハブエクブ王国の支援部隊として動くならこっちになるはずさ』
そう言って、ゼランさんが指さすのは私たちが今いるハブエクブ王国の近くの戦場ではなく真ん中の戦場の後方です。
「わざわざ遠いところに行くの?」
『ここに連合の中央司令部があるらしいんだよ。ほらこの国、フィアルア王国。実に魔族が進軍してくる主要街道の4つを国内に収めているところだよ』
確かにゼランさんの地図上では主要街道はフィアルア王国が5つのうち4つを占めています。
ということは……。
「一度この国に行って挨拶をしないとだめということでしょうか?」
『その通り。勝手に入って勝手に戦ってっていうのは冒険者ぐらいしかできないよ。そうしないと敵か味方わからずに攻撃されるよ。ちゃんと手順を踏む必要があるのさ。だから、ハブエクブ王国もお姫様の質問にそう簡単に答えられないのさ。確認の連絡を取るだけでも苦労するからね』
「そうなると俺たちが今度向かうのはこのフィアルア王国ってことですか。この国はどういう?」
『一応、連合軍のまとめ役ってことになっている。つまり連合で一番権力があるってことになっているけど……』
『そういう代表っていうのはあまりあてにならないね。フィアルア王国にあれこれ指図されるのは嫌いってところもあるだろうしね』
ジョシーさんはすぐに吐き捨ているようにそう言います。
まあ、人が多ければそれだけ意見があるということなので代表だからと言って好き勝手出来るわけではないのは分かります。
『私もそう思っている。だから、あまり今の情報を当てにはしない方がいいだろうね。多分主戦場がここだから大人しくってことになっていんじゃないか?』
『ありえそうな話だな。面子のためにってことか』
『自国内での戦いでほかの国がトップとか言われると国内の不満が出てきそうだしね。そういう不満を抑えるのも理由の一つだとは思うね。後ろから背中を刺されるとか面倒でしかないし』
そうですか、いえ、自分の立場で考えてみればわかることですね。
日本国内で戦争が起こっているのに、他国に戦闘の主導権を握られるというのはちょっとありえないと思ってしまいます。
何のための政府かとも思いたくなりますね。
ですから、こうして顔を立てる必要があるのですね。
『今はこのぐらいだね。食料品や武器防具なんかは高額買取をしているから意外と商人が流れているよ』
『戦時景気ってやつだな。しかもこの大陸を真っ二つって言ってるぐらいだしな』
『儲けられるときに儲けるのは傭兵も商人も一緒さ。となるとそっちも考えないといけないか……。ゼラン?』
『あいよ。お金の流れだね。そこで暗躍しているやつもいるかもしれない。魔族が食料を生産できるとも思えないしね』
ああ、確かに。
あの魔族たちが普通に畑を耕しているとはちょっと考えずらいですね。
『よし。あとはお姫さんの所の情報と、冒険者ギルドの情報を照らし合わせてだな。みんな現状を維持して情報収取を頼む』
「「「はい」」」
ということで、今日の会議は終わりました。
しかし、意外とこのハブエクブ王国から出るのはまだまだ時間が掛かりそうですね。




