第354射:商会合流
商会合流
Side:タダノリ・タナカ
昨日の協力表明から一夜明けた。
特に夜間の動きはなかった。
これはハブエクブ王国が昨日の言葉通りに動いていたというべきか。
まあ、この程度で信頼をしたというわけではないが、一定の評価にはつながる。
おかげで、戦いがなくて残念がっているやつもいる。
『全く、なんで根性がないかね』
「戦いがなくてよかったって発想はないのか? 弾代だってただじゃないんだ」
『今はただだろう? オマエもちで撃ち放題』
「供給は無限ではあるが、お前の手持ちは制限があるだろうが。ワンマガジン30発前後。給弾中にやられる可能性もある」
『それぐらいで死ぬんならそこまでだろうさ』
「ほんとお前は、死にたがりじゃないっていうのが嘘だろ」
『無駄に死にたくはない。準備をここまで整えられて死ぬ方がおかしいってだけ』
オマエ以外は十中八九死にそうな状況だけどな。
「はぁ、まあそこはいいとしてお前から見た城内の様子は?」
『動きはないね。落ち着いているよ。とはいえ不満を持っているやつもいるね。こっちに敵意を向けてくる奴はいる』
「そりゃ、昨日あれだけ煽ったからな」
お姫さんがさっさと答えをだせ、そうしないと出ていく、そしてこの国の対応を伝えるとか言ったからな。
下手すると魔族の次に滅ぼされるのはハブエクブだといったわけだ。
まあ、だからこそ敵対は得策じゃないと判断を下せたわけだが、その分不満はたまったな。
爆発するかどうかも同盟相手にふさわしいかどうかを調べるためでもあるだろうがな。
「あとは、昨日言っていた準備がどれぐらいで終わるかだな。実際動いているのか?」
『さぁ、昨日の今日だしね。まだ普通なら命令書の段階だろうね』
「お前、いつもの言動と違ってこういう予想は普通だよな……」
『何度もいうけどね。私だってただの馬鹿じゃないんだよ。戦場で生き残りながら敵を撃ち殺したいだけなんだよ』
「十分馬鹿を越えたやべーやつだよ。ま、とりあえず引き続き護衛を頼む。俺は冒険者ギルドにいる結城君たちと連絡を取る」
『ああ、そういえば冒険者ギルドの連中から接触があったぞ』
「お、動いたのか?」
意外と早いな。
昨日の夜に連絡を入れて対策をしてくれとは言ったが、もう接触してきたとはな。
『動いたというかメイドで現れて冒険者ギルドの者ですと。何かあれば連絡くださいってさ』
「そうか。まあ、何かあればというのは役に立てばっていう前提があるけどな。今回は険悪になりかねないから事前の退避を頼んだんだが」
『それも手伝いってことだろう。何かあればってことにはなる』
「協力体制に疑問が出るな。ま、ほかの情報を集めてもらう予定だからいいのか?」
『そもそも、戦力としてはあてにならないだろう。そういう連中に求めるのは情報収集ぐらいだよ。他人の戦力をあてにするなんてろくなことにならない』
「確かにな」
信用が置けるのは基本的に自分の戦力だけだ。
まあ、国の同盟や契約しているとかならともかく、俺たちは使い捨ての傭兵だからな。
ん? 今の場合はルーメルという国の所属だからある程度信頼はおけるのか?
いやいや、そもそも戦力に数えられないぐらい弱いからな。
ジョシーの言うように情報収集だけが限界だろうな。
戦いから向こうを助けることがあってもこっちが戦いで世話になる可能性は低そうだ。
『それで、ダストの方はどう動くんだ? 引き続き監視か?』
「いや、落ち着いているなら俺も独自に動く。というか、ゼランの所だな」
『ゼラン? ああ、そういえばあっちはあっちで情報を集めていたな。聞いているか?』
ジョシーがそう問いかけると……。
『聞いているよ。たく、昨日は徹夜だったのに元気だねあんたたちは』
「徹夜は慣れているからな。仮眠もとったし」
『まあ、このぐらいは余裕だな。私はこれから寝る。で、何か有力な情報は見つかったか?』
『とりあえず色々情報は集めた。とはいえ、どれが本当かさっぱりというのも多い。時間がまだそこまで経ってないからね。シャノウとはやっぱり違う話が多い』
「そこまで違うか?」
『どうやら負傷して戻って来た冒険者がここにはそれなりに多いらしくてね。おそらく後方だからと思うけど、そこから話が漏れているってことだ』
「冒険者ギルドってなると、それなら結城君たちに聞いてもらった方がいいんじゃないか?」
『ああ、そっちも頼んでもらっているよ。ヒカリが任せてってやる気だった』
ルクセン君はそこらへん元気だな。
ま、屈託がないのはいいことだ。
「それで? ここで話すか?」
『いや、こちらに来てもらっていいかい? 色々地図や資料を見て意見を貰いたい』
「……わかった」
『間があったけど、何か問題でもあったのかい?』
「いや、あまり接触はしたくなかったんだが、こういうのは直接話さないと伝わらないニュアンスっていうのがあるだろうしな」
裏で秘密裏につながっている相手とは直接会うなんてのは下策でしかない。
まあ、俺とゼランの繋がりなんてシャノウの町でのことを調べれば簡単にばれることだし、そこまで気にすることはないだろうっていうのもあるんだろうが。
むしろ、全然気がつかない相手は別の意味で心配になる。
『言いたいことはわかるけどさ、シャノウを調べればわかることだよ? そこまで気にするかい? やっぱりやめておいた方がいいかい?』
どうやらゼランも同じ結論に至ったようで、とりあえず俺の意思を尊重してくれているようだ。
「いや、ゼランの言う通りだな。これから結城君たちや姫さんたちとも一緒に行動することもあるだろうし俺の存在はどこかで知らせないといけない。ここでばれてもある意味一緒だ」
『だろ? じゃ、こっちに来てくれよ』
「ああ」
とういうことで、昼前に行って説明後にご飯を提供するということになった。
普通はゼランの方が提供するんじゃないだろうかと思うんだが、やはりこっちの王都でも食事事情は地球の方が軍配が上がるらしい。
まあ、農作物とかの交配品種改良とかやっている暇はなさそうだしな。
そう考えると当然か。
とはいえファンタジー要素でうまいものがあってもいいと思うんだけどな。
そんなくだらないことを考えつつ、俺は予定通りに昼前にゼランが宿泊している倉庫の方に顔を出す。
「お、来たね。タナカ。元気そうだ」
「ああ、そっちもな」
そう会うなり言ってくるのは、ノールタルだ。
相変わらずちっさい割には肝っ玉太い。
「姐さんの言う通りだな。問題はないだべか?」
「わからないことが多い以外はな」
「世の中そんなもんだべ」
と、ゴードルと俺はお互いに肩をすくめて苦笑い。
「……あの、無理はしていませんか?」
「普通だな。そっちこそ無理はしてないか?」
「はい。ゼランさんはよくしてくれています」
セイールとの会話は基本的に少ない。
男たちに乱暴されていたからか、それとももともとこういう性格なのかはわからん。
だが、俺にとっては単純な会話で済むから気が楽だ。
「それでゼランの方は?」
「こっちだよ」
そういわれて、倉庫の中を案内される。
「意外と荷物が置いてあるな」
「ここはゼランの交易商の拠点の一つで色々荷物を置いているんだってさ」
「本人は行方不明でか」
ゼランはここ半年ほどルーメルが存在する大陸にいたはずだ。
と、思っていると。
「別に航海で半年連絡が取れないなんてことはザラだからね。そしてここは内陸の王都。ここの番頭がほかの国とか町村とやり取りしているんだよ」
「それは、ほぼ独立していないか?」
「しているね。でも、バックは私たちの商会がいるからこその安定度なんだよ。下手に反旗を翻せば取引先が全部潰れるからね」
「なるほどな」
ゼランたちの名前で商売ができているわけか。
まあ、その程度わからないやつが番頭、つまり代理店長なんかになれないか。
というか、地球で考えると全世界で展開しているお店と変わりはないんだろうな。
わざわざ社長たちが各店舗に顔を出すこともないし、仕入れの先はその地域で判断して個別でやる。
そういうことだな。
「しかし、それだと情報漏洩は大丈夫なのか?」
確かに各地の店舗が維持できるのはわかるが、それだけ人の出入りが多いってことになる。
そうなると、代わりに情報の機密性は難しくなるだろう。
「会社が傾くような真似はしないよ。そして私たちのことにしても長の知り合いっていう風にしか認識がないさ。今回の戦争での傭兵って言っているからね」
「ああ、なるほどな。納得しやすい理由を用意したわけか」
得体のしれない人がいるではなく、正体が知れている人物がいるというなら、納得する。
しかも、その人物は特に仕事に口出すこともなければ邪魔もしない雇われ傭兵。
これは追及しようもないか。
「とはいえ、ノールタルは見た目大丈夫なのか?」
「なに、こっちでもドワーフとかいるからねちっさくても問題ないのさ」
「ドワーフね……」
俺はあまり絡んだことはないが鉄の技術に長けた種族だっけか?
鉱山を掘るためにも身長が低いとかなんとか。
「ま、それで押し込めたならいい。特に問題がなさそうで安心だ。それでさっそく情報について聞かせてもらおうか」
「ああ、そうしよう。こっちだ」
さてと、何かゼランの商会からわかりやすい情報でも出てくるといいんだが……。
魔族と真っ向からやり合うのは身体能力的に不利だからな。
敵の情報をしっかり集めることに越したことはない。
お待たせいたしました。
先週はお休みをいただきもうしわけございません。
どうぞ、続きをお楽しみください。




