第350射:はなしあいのじゅんび
はなしあいのじゅんび
Side:タダノリ・タナカ
『ひよこの面倒を見ろってさ』
「ひよこじゃねえだろう。不意を突かれただけだ」
と、俺は冒険者ギルドの連絡員のフォローをしてみるが、お粗末なのは変わりない。
『はっ。油断して行動不能になりましたって通じる世界なんて楽だよな』
「お前も知らなければ結城君たちにやられてたと思うけどな」
『バーカ。そうならないために情報収集するんだよ。それを怠っている時点でひよこだろ』
「お前もこっちの世界に呼び出されなけりゃ油断してただろうに」
『たらればを重ねるなよ。結果しか世の中にない』
「それならひよこどもを受け入れることになったんだ。精々使えるようにするしかないだろう。ま、処分もしやすいと考えればいいだろう」
『足を引っ張られる割合の方が大きそうだけどねぇ。ま、私は関わらないから頑張りな。と、追加情報だ。お姫様が呼び出しを受けた。今日の夜、何か動きがあるかもね』
「ようやくか? いや、早いか?」
『さあ、私たちの常識じゃ早いと言えるが、まあこっちはこっちの事情があるんだろうさ』
「どちらにしろ頑張れよ。相手が動かないとも限らない」
『わかってるよ。そっちも外からサポート頼むぞ』
「戦車砲でも城に向けておくか?」
脅しにもなると思っていたが……。
『それは今はやめてください。騒ぎになって判断が変わりかねませんから』
と、お姫さんから意見が出てきた。
言っていることはもっともだ。
「わかった。じゃあ動かす時間になったら言ってくれ」
『はい。その時はお伝えします』
「爺さんも死ぬなよ」
『まだまだ死ねんよ。とはいえ、サポートはいるからゼラン殿やノールタル殿もたのむよ』
『ああ、任せておきな』
『うん。その時は暴れてやるよ』
『姉さん。そこは穏便にやるだよ』
『手加減は必要ですよ?』
ゴードルとセイールは苦労しそうだな。
そんなことを考えながら、ドローンからハブエクブ王都の状況を確認してみる。
「……上空から確認しているが、特に兵士の動きはみえないな。ジョシー屋内はどうなっている?」
『特にこっちも動きは感じないね。なめているか、それともちゃんと交渉しようと思っているのか。どっちだろうね?』
「さあな。とりあえず護衛は任せるぞ。全滅したら笑ってやる」
『はっ。それだけ相手に気概があればやりがいがあるんだけどね』
ま、ジョシーが逃げ切れずに死ぬような場合は、お姫さんたちも生きてはいないだろうし、その時は遠慮なく城ごと吹き飛ばすだけだ。
と、その前に城に飛ばすドローンを増やしておこう。
爆弾投下用のやつらを配備して混乱させる準備だ。
流石にジョシーやお姫さんたちをここで殺されると色々面倒だからな。
そう思って作業をしていると……。
『タナカ殿。冒険者ギルドへ連絡を取ってもらえないでしょうか?』
「連絡? ああ、今日の話のことか?」
『はい。今のところ問題はないと思っていますが、万が一には備えた方がいいと思っています。なので、さっそく使ってみようかと』
冒険者ギルドがどこまで協力してくれるかってことか。
「とはいえ、いきなりすぎるし時間もないあまり引き出せるものは多くはないと思うぞ?」
『それはわかっています。ですが、動こうとするのとまったく動かないのでは違うでしょう?』
「ま、そうだな。契約書まで交わしたんだ。どこまで動くか見てみるとしよう。ジョシー、常に無線はオンにしておけよ」
『わかってるさ。じゃ、ヒカリたちに連絡たのむよ。ひよこをうまく使ってくれってな。ぷぷっ。連絡終わり』
ジョシーはそういって話を打ち切る。
こちらの声は常に聞こえているだろうから文句を言うことはできるが、するだけ無駄なのでやめておく。
それよりも連絡が先だ。
「結城君。聞こえるか?」
俺がそう連絡を取るが、場所が悪いようでボソッと。
『……すいません。場所を変えます。すいませんちょっとトイレに行きます』
結城君はそういってその場を離れるようだ。
いや、理由としては平々凡々なんだが露骨すぎで怪しまれないか心配だな。
まあ、実際トイレに入るのだから問題はないのか?
俺は結城君が冒険者ギルドの訓練場から屋内に入るのをドローンから確認して連絡を待つ。
『お待たせしました。どうかしたんですか?』
「さっき連絡があってな城の方で夜に話し合いになるそうだ」
『というと、同盟の件でしょうか?』
「普通に考えればそうだな。とはいえ、何の話し合いになるかは今のところわかっていない。なんでさっそく冒険者ギルドに協力を頼もうとおもう」
『え、いきなりですか?』
「ああ、こちらと手を結ぶって言っているんだ。城でトラブルがあった場合こちらの支援をお願いしたいってな」
『具体的な支援の内容はどうします? っていうか今夜ならなにも準備はできないんじゃ?』
「それはわかっている。だからできうる限りでいいといえばいい。どこまで動くのかあるいは動かないのか。見極めるのにちょうどいいからな」
と、先ほどジョシーに話したことをそのまま伝える。
いい加減、結城君も俺たちのやり方はわかっているようで……。
『なるほど。冒険者ギルドが口だけじゃないかどうかってことですね』
「ああ。後ろを刺されるようなことは避けたいからな。ここでどこまで頑張ってくれるか見せてもらおう」
世の中準備万端で迎える結果なんて成功で当然。
失敗したら笑い話にしからない。
大事なのはいざという時、準備不足でありながらどこまでやれるか。
そもそも万全の準備を整えて動けることなんざ世の中そうそうないからな。
それは冒険者ギルドの方もわかっていると思うし、こっちの意図もわかるだろう。
それを踏まえてどう動くか楽しみだ。
『わかりました。ですが、情報はどこからと聞かれるかもしれませんけど?』
「独自の情報のやり取りがあるっていえばいい。そこら辺を聞けるとは思っていないだろうしな。まあ、どうしてもとかいうなら、ダミーとして光を利用してっていえばいい。食いつくかもしれない」
『光って……ああ鏡ですね』
「その通り。だが光を使っているだけでどういう風にしているかのネタ晴らしはするなよ。相手に考えさせろ」
『わかりました』
結城君たちは素直に教えそうだからな。
いや、彼らにとっては一般常識レベルだからこそ簡単に教えてしまうんだろうな。
知識の重要性は知っているが、こちらの人との差を理解していないからそんな行動をとってしまう。
今まで命のやり取りとかそういう生きるか死ぬかの価値観は教えたが、こういう知識の重要性はあまり教えていなかった。
今度しっかり話す必要があるかもしれん。
ルーメルの連中も基本的に結城君たちには戦力としか見てなかったからな。
知識に価値があるとは全然考えていなかった。
まあ、それも当然か。
自分たちよりも優れているわけがないっていう基礎があるし、自分たちを上回ることを言われても理解できるものは少ない。
それを見出せるのはかなり少数だろう。
そういうのを含めて冒険者ギルドがどう動くか見せてもらうか。
と、そんなことを考えつつ。
とりあえず城を各所を爆破できるようにドローンを配置していく。
有事の際には壁に穴をあけて脱出させるに限るからな。
「いや、待てよ。城壁すべて吹き飛ばせるか試してみるのもいいな」
一部を吹き飛ばすなんて馬鹿なことをする必要はない。
全部吹き飛ばせば相手は動くに動けないだろう。
ジョシーたちの逃亡ルートがどうという前に相手がこっちの意見を飲むしかなくなるんじゃないか?
もともと交渉決裂した際はお姫さんを押さえるしかないのだ。
そのために城が吹き飛ぶ被害がでて死傷者多数の状態で交戦を継続するだろうか?
少しでも考えられる頭があれば、その時点で降伏するだろう。
ジョシーに短時間耐えてもらって、ごく一部を残して吹き飛ばせば力の差を実感してもらえるはずだし、向こうも死にたくない。
そこで協力するか否かを問えば頷くしかない。
実質こっちがトップで話をまとめられる。
暗殺の実績があるし今後は戦車に乗って話し合いに出ても文句は言えないだろう。
「あれ? これって相手に動いてもらった方がよくないか?」
今更ながら、そのことに気が付く。
とはいえ、トップになると部下への指示があるからな……。
あれか、属国として扱えばいいか。
なので国のトップは建前上ハブエクブ王家に変わりはない。
「よし。そうと決まったら、準備を急ぐか」
ドローンをさらに投入して、何とか中央の居城が吹き飛ばない程度に調整した爆薬を城壁近くに待機させる。
あとは、ジョシーへの連絡だが……。
『ぶははは! いいねぇ、その案最高! なあ、お姫様その手でいかないかい?』
『相手を煽るつもりはありません。誠意を見せるなら誠意で対応するだけです。まあ、戦車砲を向けるよりは効果がありそうなので交渉が決裂した際にはその方法でお願いします』
『……わしの心臓爆破音で止まったりせんかのう?』
「合図は出すから心の準備をして耳をふさいでもらうしかないな」
年寄りのマノジルがショックで死ぬ可能性か……。
いや、それは必要な犠牲と思っておこう。
あとは、結城君たちに連絡を入れるか。
冒険者ギルドがどういう方法をとっているのかも心配だしな。
爆破に巻き込んだとあれば、敵対されかねないし、注意はしておこう。
ということで、俺は改めて結城君たちに連絡を取るのであった。




