第343射:撃ち方始め
撃ち方始め
Side:ナデシコ・ヤマト
ジョシーさんがいつになく真剣にカウントダウンをしていて、それに驚いているといつの間にか数字がゼロになり……。
『Fire!』
と、ジョシーさんから滑らかな英語が聞こえたと思ったら、閃光が走り同時に爆音が響いてきた。
ズドドドドーン!
「うわっ」
「すごいな」
あまりの音量にイヤホンを外して頭を振っている光さんと晃さん。
私も顔を下に向けて耳を押さえています。
それだけものすごい音でした。
ドローンの映像からも、至近距離で爆発しているのがよくわかります。
というか……。
「ねぇ。この音ってユーリアたちからだし、大丈夫なのかなぁ?」
「「……」」
ここですぐに大丈夫と言えないのは私たちも確信が持てないからですが……。
「いや、落ち着いてドローンからの映像見ればわかる。兵士たちはひっくり返っているけど起き始めている。ユーリアたちは戦車の裏だったし……」
「確認しました。地面に座り込んでいるようですが、無事のようです」
私はそう言いながらドローンの画面を拡大すると、ユーリアたちの姿がはっきりと見えます。
頭を振っていますから本当に無事なのだとわかります。
その横で、なぜかジョシーさんは特に動じることなく立っています。
「うひゃー。あの女本当に物凄いですねー。というか、戦車の一斉射撃を見るのはこれで二度目ですが、ありえねー。本当にありえねーです。あれの中をあの女は駆けて行ったと……」
ヨフィアさんの意見に肯定です。
ジョシーさんの実力には脱帽というか、あの中を笑って走っていたというのは本当にネジが飛んでいるとしか……。
『馬鹿いうんじゃないよ。戦車の相手は戦車にきまってるだろう。まあ、市内なら建物の陰から撃ち込むことはあるが、こんな風に戦列並べているところに突っ込む理由なんてない。ああ、自殺志願ならありえるな。そこのメイドとかな』
そんな笑いを含んだ言葉がイヤホンから届きます。
「ぬぐぐ……」
ヨフィアさんは悔しさでうめき声をあげていますが、何をするべきか……。
『馬鹿、煽ってないで状況説明しろ。お姫さんたちは座ったままだが無事か。あと見物とか言いつつひっくり返っている客は生きているのか? 脱出支援はいるのか?』
私が何かを言う前に、田中さんから質問が飛んできます。
やはり、この人は暇を許してくれないようですね。
『……わ、私は、だ、大丈夫です。しかし、周りは……』
『あー、問題ない。全員無事だ。あー爺さんは生きてるか?』
『生きておるよ。ちゃんと防音しておるからのう』
よかった、マノジルさんは無事のようです。
あのご老体であの規模の衝撃を受ければそれだけで……と思ってしまいました。
『丈夫な爺さんだな。で、周りの見物客は復帰して茫然自失って所だな。ま、自分たちの披露とは規模が違うからな』
ジョシーさんの言う通り、ドローンの映像からは王様たちも含めて立ち上がった人たちは茫然と煙が上がって地面が吹き飛んでいます。
それは先ほどの魔術師たちが合同で魅せた魔術よりも圧倒的で、信じられないという感じでしょう。
『よし。なら話を進めろ。何かあれば援護はする』
『……わかりました』
ユーリアさんはそういうと、ようやく体を起こして、周りの人たちに声をかけていきます。
とりあえず、問題はないようで声をかけていくと正気に戻っていくようです。
そして、戦車砲を撃ち込んだ場所へと近づいていって……。
『ここまでの威力だとは……』
『信じられませんが、現実にこれは……』
そんな話声がユーリアさんから聞こえてきます。
現場を確認しているようですが、いまだに実感がわいてこないようです。
それも当然でしょう。
自分たちが想像もしてない威力だったのですから。
私たちも当初は兵器がそれだけものすごい威力があるのは知っていましたが、やはりそれを目の前にすると唖然とするしかありませんでした。
知っているのと体感するのは違うのです。
そしてそれを理解しているユーリアさんはここで畳みかけます。
『おほん。皆様いかがでしたでしょうか? これが我が軍の主力兵器戦車の力です。なお、射程は……。ジョシー』
『はっ。次撃て!』
ジョシーさんがそういうと、一機の戦車砲が火を噴き遥か遠方で先ほどと同じような爆発が起こる。
それを見た観客の方々は言葉もないようだ。
それもそうでしょう。
射程が違いすぎるのですから。
この戦車が敵に回ればどうなるかよく理解できたでしょう。
『次、連続で』
『はっ、随時撃て。3連射』
しかし、さらにアピールは続く。
先ほどの魔術師隊の連射速度がどれほどのモノかはわかりませんが……。
ドンドンドン……。
瞬く間に各戦車から3連射が放たれて次々と遠方の土地が土砂を巻き上げていく。
ここでようやくどこかの映画で見た、そしてこの前魔族との戦いアスタリの防衛で見た光景が繰り広げられました。
圧倒的な数の魔物をいとも簡単に消し飛ばし続けた連射。
死の雨が降る。
そして、地球の戦いはさらに銃撃、そのまえには爆撃。
……どれだけ効率よく敵を殺すことに特化したのかと唖然とします。
ですが、それは味方に犠牲を出さないためでもあるのです。
昔の戦いは人と人で誇りがあるという人はいますが、結局のところ殺し合いでしかありません。
……田中さんがいう正々堂々なんてクソくらえと言っているのは今では理解できるつもりです。
生き残るためにあらゆる手を尽くす。
危険を冒さないために圧倒的火力を使う。
相手が可哀想なんて言うのは現実を知らないからこそ言えるものだと。
人はナイフ一本、石一個で命を失うのです。
どれだけやっても安全などないのですから、圧倒的火力で相手を圧倒してしまうというのは当然のこと。
そして、今の現実を見た王様たちはどう見えたのでしょうか?
圧倒的な力を持つ国が現れたというのは確実で、それをみて排除するべき敵?
それとも味方にするべき?
そんなことを考えているうちに気がつけば砲撃は終わっていて、砲撃地点は濛々と煙を上げいるだけになっています。
ですが、私が正気を取り戻したのですが、まだ見物をしていたお客様たちは茫然自失としているようです。
「いつ正気に戻るのか」
「いやー、当分は戻らないんじゃない?」
「ですねー。見たものがぶっ飛んでいますし、理解するまでに時間かかるんじゃないですかねー」
『しかし、このままぼーっとしてもらっても話が進まないな。ユーリア姫様。そろそろ次に行ってもいいじゃないですかね?』
ゼランさんがいつの間にか話に入ってきてユーリアさんに話しかけます。
『そうですね。わかりました』
返事をしたユーリアさんは唖然としている王様たちに声をかけ、意識をはっきりさせたことで、ようやく帰路につくのですが、その間王様たちは話し合うことなく呆けた様子で戻っていくだけでした。
お城に戻ったのを確認した後私たちは改めて今日のことを話し合うことになりました。
「答えは出さなかったけど、これでユーリアたちを下に見るってことは無いんじゃない?」
「これで下に見てたら逆にびっくりだよ」
「はい。あれだけ力を見せて高慢な態度をとれるようなものは早々いないでしょう」
「どうでしょうかねー。案外夜にブスっとあるかもしれないですよ?」
ヨフィアさんが怖いことを言います。
私は否定したかったのですが、声が出てこず……。
『ま、ありえる話ではある。お姫さんを殺して戦力を奪おうとするのはあるよな。メイドとかの責任にして』
「表向きは代わりに管理させてもらっていたですかねー?」
『ああ、そういう名目はあるだろうな。まあ、あとに続かないからまずとるような手段ではないがな。人はよくわからない行動を起こす。だから、ジョシー生きているか?』
田中さんがそう問いかけると、ジョシーさんがすぐに返事をしてくれます。
『ああ、普通に生きているよ。全員面白いぐらいに手のひら返しだね。護衛の私に対してもな。一応、指揮官が私。爺さんが戦車整備、お姫さんが最上位指揮者ってことになっているからね』
ほっ、そうなると危害を加えられそうなことはないでしょう。
少し安心しました。
「それで、話合いはまだ?」
『まだだね。というか今日一日まてって感じで部屋に追いやられている。なあ、お姫さん?』
『ええ。今頃会議で大忙しだと思いますわ。油断はしないつもりなので、ジョシーさんよろしくお願いいたします』
『任せときな。ダストは言わずもがなだが、ヒカリたちも徹夜して監視しておけよ。いつ動き出すからわからないからな』
「わかってるって。最近はいつもそんな感じだし」
光さんが言うように私たちはこちらに来てから夜中は全員寝るようなことは無く、ローテーションで起きて警戒をしています。
早めに休むので寝不足というのもないのが幸いですわね。
『了解。各自そのまま警戒を続けてくれ。さて、明日で話し合いがまとまればいいがな』
明日だけでまとまるとは、正直私は思えないのでした。




