第338射:連合王都へ向かう
連合王都へ向かう
Side:タダノリ・タナカ
「ねえ田中さん。このまま進んで大丈夫なのかな?」
そう身を乗り出して話しかけてくるのはルクセン君だ。
俺たちはいまハウエクブ王国へ向けて移動している最中なのだが、何か問題があっただろうかと考えて何も思い浮かばず聞き返す。
「何が大丈夫なんだ? 特に俺は思い浮かばないが」
俺は窓からタバコを出してトントンと灰を落とす。
「だって、ジョシーさんが護衛なんでしょう?」
「そっちは心配しても意味がない。あいつが仕事ができなければそれまでだ」
心配しているのはジョシーのことのようだ。
気持ちは分かるが、こう決めたんだからそうするだけだ。
「それに前方の戦車とか自走砲とか、装甲車が走ってるのって大丈夫なのかなぁ……」
「それも別にいいだろう。ノーダンル子爵が同席しているんだからな」
こちらの力を見せつけるために戦力を出したのだが、俺たちだけで向かえば門前払いの可能性が高いので子爵を連れていくことになったのだ。
これでダメなら手を組むべきじゃないしな。
「でも、タナカ殿。私たちもこんなのに乗ってたら目立つんじゃないのか? 別行動の予定なんだろう?」
「ああ、途中で降りて歩く予定だ」
流石に別々に動く予定だから、このまま王都に乗り込むことはない。
「えー、歩きかー」
「我慢しろよ光。ばれちゃ仕方ないだろう」
「そうですわ。私たちは私たちで冒険者ギルドに行って情報収集なのですから」
「ま、体がなまらなくていいじゃないか。どうせ冒険者ギルドでまた喧嘩を売られるんだろうしな」
「そうかなー? 今回シャノンさんからお手紙もらっているから問題ないと思うんだけど?」
「あれだろう? 田中さんが言いたいのは入り口でのちょっかいは無いにしても、シャノンさんの話が本当か試されるってことじゃないか?」
「ありそうですわね」
「ま、見た目は子供っぽいからな。相手の対応次第にはなるだろうが……」
「タナカ様の言う通り、腕っぷしになる可能性は高いですねー。そういう所ですから冒険者ギルドって」
そう言ってヨフィアはやれやれって感じで肩をすくめる。
「それで、拠点はどうするんだい? ゼランの所にお世話になるのかい?」
「そうだべな。おいらは図体がでかいから目立つから、大きい家の方が安全だべ」
「そうですね。なるべく目立たない方がいいと思います。姿かたちは違いますが魔族と名乗っていますし」
「大丈夫だよ。ノールタルの姐さん、ゴードルの旦那、そしてセイール。ちゃんと3人の家と安全は私が保証するさ」
「ああ、ノールタルたちはゼランの所で情報収集だ。俺と結城君たちは冒険者ギルドやそのほかからアプローチをする。拠点に関しては、ゼランが所持している小さい家屋でいい」
「別行動かい?」
「下手に集まると拠点襲撃で一網打尽だからな」
「タナカ殿がそんなへまはしないと思うけどねー」
ゼランがそういうと全員が頷く。
まったくいつまでたっても人を超人兵士のように言いやがる。
俺は一般兵よりも下の傭兵だ。
万能なのはどこかの英国の諜報機関所属とのやつとか、伝説の傭兵ぐらいしかいない。
「リスクは回避するべきなんだよ。ゼランの本拠地が襲われれば被害甚大だが、足出している小さい家なら被害は少ないだろう?」
「ああ、なるほど」
「こっちとしても護衛対象や警戒範囲を減らせるからありがたいんだよ。それに、ジョシー王都の様子はどうだ?」
『おう、どこかのファンタジーだねー。お城がドーンと中央にあるよ』
そう言ってタブレットに映像が飛んでくる。
ジョシーにはドローンで先行してハウエクブ王都に行ってもらっていたのだ。
当然事前の調査は大事だ。
「特に兵士が並んで出迎えなんてのはないか」
『見たところないね。お姫さんはなめられているって所かね?』
「まだ、到着まで数時間はあるからな、先触れも出したが到着してないだろう?」
『あー、馬ね。馬が連絡手段かー。やっぱりありえないわ』
それは俺も同じだが、いきなり現代の通信技術を身に着けようとしてもできることではない。
「ないものねだりしても仕方がない。というか、そんなのが相手だと俺たちが苦労するから楽でいいだろう」
そう、確かに不便ではあるが、こちらにとってはかなりのアドバンテージでもある。
このドローンしかり通信技術しかりだ。
『私はギリギリの戦いが楽しいんだけどな。無抵抗の的を撃ってもなー』
「そういう戦場には送り出してやるから安心しろ。そのままばらされてもいいからな」
『はっ。魔族か。そういうのがいると面白いな。とはいえ奇襲メインだろうけどな』
「あんな人外相手にお互い視界に入れて勝負とか正気の沙汰じゃないからな」
こいつ、ヒリヒリする戦場の空気を味わいたくはあるようだが自殺志願というわけでもないのが厄介だ。
無茶な戦場には飛び出さないだろうな。
……どういう基準で無茶なのかはよくわからんが、露骨に捨て駒にしようとするときっとこっちを攻撃してくる。
ほんと面倒だな。
「で、そっちの話はいいが、先触れはまだそちらでも確認できないか?」
『んー。特に確認できないね。っと、いや走っている馬がいるな。どこのだ?』
ジョシーはそう言って画面を拡大させる。
んー。
「あ、それ子爵の所の馬だよ。ほら、服の紋章」
『あー、遠くからよくわかったねヒカリ』
「あーなんとなく?」
『よく見てるってことだよ。なあダスト。ヒカリはいい斥候になるよ』
「日本人を戦争にかりだすんじゃねぇよ」
「「「あはは……」」」
結城君たちが苦笑いをしている。
褒められてもうれしい話じゃないからな。
『ま、そりゃそうだ』
「はぁ、話を戻すぞ。斥候が行っているってことはこっちも到着して問題ないってことだ。速度を上げる」
ちんたら進んでいたのは、先触れの馬を追い越さないためでもある。
そうでもしないと、俺たちが……じゃなくてジョシーがハウエクブ王国を殲滅しないためにだ。
どう見ても俺が出した戦車とか自走砲とか装甲車を見ればこちらの世界は理解が及ばないものに対して兵を向ける。
子爵が説明しようが後手だから攻撃されても文句は言えないが、ジョシーの奴は嬉々として相手を殲滅する様がありありと目に浮かぶ。
そうなれば、交渉が敗戦交渉になるだろうな……。
胃が痛い。
『いいねぇ。これでちんたら進むのも終わりだ』
「だが、上空の映像からまずは王都の把握をするぞ。それまでは今のままだ」
『おい、水を差すなよ』
「どこに潜伏するかって話だったろうが。で、王都の地図に全員注目」
俺はそう言って数秒待ってから口を開く。
「中央にあるのが、ハウエクブ王国の中心である城だろうな」
『まあ、そりゃそうだろうね。お姫さん、そうだろう?』
『はい。間違いないでしょう。ハウエクブの地理は平原の真ん中にあり、山などの天然の要害もありませんし、防衛のことも考えると中央に城を置くのが妥当でしょう』
『ぶっ。ぼうえいだってさ!!』
「一々笑うな。こっちの世界じゃこれが常識だ。というか地球でも塹壕や鉄線のバリケードは常識だろう? 実際壁があれば侵入するのも大変なのも事実だ」
『いや、それって制圧占領の時だろう? 敵陣をどうするかなんて上から爆撃だろうに』
確かにその通り。
現代戦に置いて、敵の急所は吹き飛ばすに限る。
とはいえ、そんなわかりやすい急所は現代では存在していない。
空はがら空きのように見えて、重要拠点には対空砲はもちろん広範囲のレーダー網が敷かれ、いまや地球の空は厳重な監視下にある。
なので空襲なんてまず成功しないし、攻撃した側も明らかになるので、世界各国から敵対とみなされる。
これがお互い核ミサイルを敵国に打ち込まない理由だ。
一度やってしまえば、文字通り世界破滅だからな。
または、一撃で自国以外をすべて焼く必要がある。
まあ迎撃機能がどこまで上がっているかが問題だが。
と、そこは今はどうでもいいか。
「ばか、制圧占領しないとこの場合収まりつかないだろうか。城ごと吹き飛ばすとかありえん」
『ああ、そういえばそうか。話し合いに来たんだったな』
「本当に頼むぞ」
『わかっているって。で、どこに潜伏するかだったか?』
「どこに滞在するかの確認だ。まず、ゼランの場所はどこになる?」
『そうだね。父が所有している倉庫だが……』
こうして事前にハウエクブ王国王都での地理を大体ではあるが、把握しつつ俺たちは王都へと乗り込む。
さあ、穏便に話が済めばいいがな。
気がつけば、俺たちは車から降りてのんびり進む位置になったのでジョシーたちと別れてのんびりと王都へと歩いていると……。
「えーっと、田中さん。本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。砲撃音なんて聞こえてこないからな」
「あれだけ言ったんだし流石に自重するんじゃないか?」
「だといいのですが……」
勇者3人からの評価はことごとく低いようだな。
俺もあまり信用してないがな。




