第337射:返答と部隊分け
返答と部隊分け
Side:ヤマト・ナデシコ
「皆さん、忙しいところお集まりいただきありがとうございます」
そう言ってユーリアが頭を下げる。
ここはシャノウのゼランさんの倉庫の会議室。
いつものように定期報告会かと思ったんですが……。
「ハウエクブ王国の方から連絡が来たようです」
「おおー、僕たちのことどうするつもりなのかな?」
「聞いてみないとわからないけどな」
「まあ、あれだけ脅したんです。悪いようにはならないでしょうねー。とはいえ、向こうは半信半疑でしょうけど」
ヨフィアさんの言う通り、この世界の人にとって鉄の船からミサイルが飛んで爆発したなんてのは理解を越えていることでしょう。
素直に信じるようなことはないと思います。
そんなことを考えていると、田中さんが口を開きます。
「雑談は後ですればいい。返事はどうなっている?」
問答無用で私たちは黙ってしまいます。
この中で雑談を続けられるような人はこのメンバーの中でいないのです。
「そうですね。挨拶はそこそこにこの手紙を読みましょう」
ユーリアは手に持っていた羊皮紙を広げて確認する。
ちなみにこの大陸とルーメルがある大陸はもちろん言語が違います。
ですが、問題なく会話ができているのは、リリアーナ女王やエルジュが国元から持ってきた翻訳機能がついている指輪のおかげで何も間違いなく会話や文書が読めるわけです。
本当に便利ですね。
私たち勇者というか、召喚された人たちは全員自動翻訳がついているようでそういうのは必要ないのがありがたいです。
そうですね。せめてこの能力ぐらい、地球へ持っていければ就職にこまることはないのではないでしょうか?
と、そんなことより、手紙の内容です。
「ふむふむ。タナカ殿の言う通り簡潔にいいますと……」
・魔族討伐協力に関して、是非とも協力してほしい
・ルーメル王国としての対応は、あってから正式に取りまとめたい
・非礼に関しては王都でも謝罪の上補償をさせていただく
「以上ですね」
「意外と、全部の要求が通ったとみていいのかい?」
ゼランさんはちょっと内容が分かっていない感じで首をかしげる。
「どういうニュアンスで書いてあるかわからないが、文字通りならそうだろうな。まあ、魔族討伐協力がどういうレベルかというのは詳しく聞いておく必要もあるだろうがな」
「だね。こういうのは道具だけよこせとかいうのもよくあるからね」
なるほど、戦力の供出をしろと。
確かに、そういうのは有りとは思いますが、私たちの道具を預けたところで使えるわけではないです。
なにより、こちらに攻撃をしないという保障もないですから、渡すわけもないのですが。
「でもさ、田中さんが出した道具っていつでも消せるんだから、貸してもいいんじゃない?」
「それをやると俺の固有技能とか疑われるからな。俺一人を押さえればとか考える馬鹿も出てくるだろう」
「ぶっ、ダストを押さえる? どうやって?」
ジョシーさんがそう言って吹き出しますが、私も笑いはしませんが田中さんを押さえられるわけがないというのは分かります。
私たちでも田中さんを押さえるのは無理です。
というか、自分が死体になっている姿しか思い浮かびません。
「まあ、それは俺も同意ですけど。そもそもこちらの意図に反した使用をしたら消す機能を付けているってことでもいいんじゃないですか?」
「いい案ですねー。そういう風に前もって言っておけば問題ないかとおもいますけど?」
確かに、事前のそういうシステムがあるといっておけば田中さんの固有能力だと思われることはないはずですが、田中さんは……。
「無理だ。相手が信用ならん。こっちを誤射してからじゃ遅いからな」
「だね。敵にわたることも考えると、把握できなくなるし、せめて渡すにしてもこっちが絶対に管理できる数がいいね。というか、戦車とかならダストが遠隔操作で来たんじゃないか?」
「あー、確かにできるな。砲撃をやってたが、自走もできそうだな」
「それなら、後方への射撃は自走砲を別に出した方がいいんじゃないか?」
「こっちの世界の戦場がそんなに広いわけないだろう。自走砲や迫撃砲は攻城戦、つまり拠点攻略にしか使えん」
「は?」
「いや、おまえあのゾンビ軍団見ただろう? こっちの世界では、隊伍を組んで前進してくるだけなんだよ」
「はぁ~!? 市街地戦とかは?」
「そりゃ、もう追撃戦だな。敵が町を盾にするメリットがないからな。そこまでされると挽回は出来ない」
「町ごと吹き飛ばすとかは?」
「市内に砲撃とかどこの虐殺者だよ。多国籍軍が介入してくる口実になるだろうが、せめて塹壕を吹っ飛ばすとかいえ。というかそういう陣地の構築もこっちじゃありえない。銃器がないからな」
「……くそじゃねぇか!?」
なぜかジョシーさんが叫んでいます。
いえ、彼女の性格から何を望んでいたかというのは分かりますが……。
「そもそも、あんなゾンビを使役するやり方してるんだから、まともな戦いにはならんだろう? 魔族が出てきた時にお前を前に出してやるからそれで納得しろ」
「お前は馬鹿か。あんなアメコミの怪物みたいなやつの前に姿を現すわけないだろう。遠距離で吹き飛ばすのが最適解だよ。私がやりたいのは撃ちあいなんだ」
「相手に銃器はないから諦めろ。というか、話がずれすぎだ。お前が出ていきたい戦場があれば斡旋するからそれで納得してろ。で、武器などの供出は基本的に認めない。いいか?」
「ええ。わかりました。2人の言い分ももっともです。盗まれたりすればこちらに被害も及びかねませんし、一々消して再度配布というのも手間です。最終手段ということにしておきましょう」
「ああ、それがいい。というか、その際俺たちが殿になるから、そんな対応はしないけどな」
「そういう時こそまとめて吹き飛ばすのが定番だね」
……当たり前の話なのですが、なぜかこの2人が爆破というと辺り一帯全て吹き飛ぶ規模のイメージになってしまいます。
いえ、撤退としては当然だと思います。
敵の進軍を止めるためでもありますし、こちらの物資を利用されないためでもありますが……まあ、納得しておきましょう。
「それで、これからハウエクブ王国の首都に来いって話か?」
「はい。タナカ殿の言う通り、まずは王都に来て詳細を詰めようということですね」
「行くのか?」
「これに関しては行くしかありません。が、その際船以外にもこちらの武威を示さなければ、海上だけとおもわれてしまいますので……」
「ま、そこは理解している。戦車と装甲車とかを連れて行けばいいだろう。艦は見せたんだし、乗っていく分としては何も問題はない」
「やったー。それなら時間も疲れもないよねー」
「そうですね。流石に馬車での移動は色々大変ですから」
光さんの言葉にエルジュさんも同意しています。
確かに、こちらの技術に合わせての場所移動となると、どうも腰が痛くて仕方ありません。
それが改善できるのはいいことです。
「問題はこっちに誰を残すかだな」
「え? 誰か残すの?」
「そりゃな。沖合に艦もある。相手は俺たちがいなくなれば何とか艦を自分のモノにしようとしてくるはずだしな。まあ堂々と奪おうとはしないだろうが技術とか色々情報を集めようとするだろう」
「確かにその可能性はありますね。私たち代表者がいなくなれば、下の者を上手く言いくるめてというのはあるでしょう」
田中さんとユーリアの言葉に頷くリリアーナ女王とエルジュ、そしてマノジルさんたち。
これも政治というやつなのでしょう。
しかし、誰を残すか。
「逆に考えるか、絶対行かないといけないメンバーは誰だ?」
「なるほど。そちらを考えるのがいいですわね」
誰を残すのかではなく、敵地かもしれないところへ行くのに赴かないといけないメンバーを選出するというのは間違いではないでしょう。
「でしたら、まず私は外せないでしょう。あとはカチュア。そして相談役のマノジル」
「そこは当然だな。あとは戦力として……ジョシーが行ってみるか?」
「「「え!?」」」
あまりの判断に私たちは思わず声を出して絶句してしまいます。
「おい、なんだこの反応」
「いや、お前の暴れっぷりを考えると妥当だと思うぞ」
「では、タナカ殿はなんで彼女を推薦したのですか?」
「簡単だ。何かあったときの撤退戦のとき、俺が後方でサポートするのと、ジョシーがサポートするのどっちがいい?」
「……なるほどのう。ジョシーの嬢ちゃんの方が、面と向かって戦うのは向いていると思うわ」
ああ、マノジルさんの言う通り、確かに後方からきれいにサポートしてくれるのは田中さんの方がいいですね。
彼女は前面で戦う方が得意だと思います。
そして、ジョシーさん本人もこの話を聞いて頷いています。
「そうだな。どちらかというと、前面で戦う方が得意だな。サポートもできないことはないが、そういうのはダストの方が適任だろう」
「じゃ、お前が護衛でついていってくれ。俺が別行動で動く」
「それがいいですね。あとは、リリアーナ女王やエルジュはどうしますか?」
「私たちはこちらに残った方がいいでしょう。ユーリア姫とは背後が異なりますから」
「そうですね。そして何より、ここならすぐに国に帰れますし、艦の対応もできます」
「そうですね。俺もそれは賛成です」
「だね。僕も同じく」
「私もいいと思いますわ」
このメンバーは妥当だと思いますわ。
リリアーナ女王やエルジュは連合国の代表でもあり、他国のトップでもあるので何かあるかもしれないことを考えるとこのシャノウにいるのがベストでしょう。
「私はどうした方がいい?」
「ゼランは行った方がいいな。俺と同じように別口で現場で情報収集だ。知り合いがゼロってわけじゃないだろう?」
「まあね。私も向こうの様子は見たいからありがたいよ。で、ヒカリたちはどうするんだい?」
そうゼランさんが言って私たちに視線が集まります。
確かに、私たちはどうするべきなのでしょうか?
「必須ではないが、結城君たちのためもあって協力したいという旨は伝える必要があるか?」
「どうでしょう? 今は弱みともとられかねません。ゼラン殿と同じように、タナカ殿と控えてもらうのはどうでしょうか?」
「まあ、そうだな。それがいいか。ジョシーも護衛対象が多いのはあれだろう?」
「そうだね。護衛対象は少ない方がいい」
護衛対象とはっきり言い切られるのはあれですが、何もいえません。
何より、国のトップの前に私たちが出て行ってもユーリアの言う通り弱点になりかねないですから。
こうして私たちはハウエクブ王国の王都へ向かう準備を始めるのでした。




