第34射:のんびり道中
のんびり道中
Side:アキラ・ユウキ
ガタンゴトン……。
そんな馬車の振動にも慣れてきた今日この頃。
俺たちは、リテアに向けて旅立っていた。
闇ギルドの関係でルーメルの貴族は忙しく、というか、魔族の件があったので、方針としてお城に報告することなく、リテアに向かうことになった。
「平和だね~」
そうヒカルがのほほんと、馬車の後ろから覗く、草原を見てそうつぶやく。
「ですわね。あれからすでに10日ですから、何か魔族がルーメルの貴族の伝手や情報を得ているならすでに襲い掛かっていますわね」
「ということは、やっぱり、ルーメルの貴族が情報流しているってことだよなー」
俺がそう考えを言うと……。
「ま、貴族とはいわないが、ルーメルに俺たちの情報を流していたやつがいたのは間違いないな。今回はわざと、商隊の移動に混ざってないからな。これを知っていて襲ってこないのはおかしい、いや、案外もう俺たちの実力を知ってあきらめたとかあるかもな」
そう田中さんがあり得ない冗談を交えながら言う。
魔王にとっては死活問題なんだし、ルーメルの貴族と結託していなくても、勇者は始末したいだろう。
だから、ないわー、な話だ。
「それはないと思うけどさ。でも、魔王を倒してほしいはずのルーメルがなんで僕たちの情報を渡すんだろねー」
「さあー」
俺にはよくわからなかったけど、撫子は少し考えるそぶりをしてから、口を開く。
「おそらく、勇者に活躍されては困るからですわ」
「え? なんで?」
「勇者が魔王を倒せば平和になります。ですが、それは魔王に対策してお金をかけていた分が削減されることを意味します」
「それって、お金が欲しいだけって話だろう?」
よくテレビでみる汚職ってやつだ。
「そんなわかりやすい、理由であれば潰すのはたやすいですが、現実はそうもいかないですわ」
「そうなの?」
「ええ。戦争で儲けているものがいるのも事実ですが、戦争により職を得ている人たちもいます。そして、今日まで、必死に町を村を、家族を守るために、準備をしていた人たちも多くいるでしょう。それが全部無駄になるとは言いませんけど、無駄な投資だったといわれる人もいるでしょう」
「んー。でもそれは家庭の問題だしなー」
「町や村のことを忘れていませんか?」
「ああ。そっかー。そうなると立場が悪くなることもあるのかー」
「いや、それもその代表の人のやり方だろう?」
「そうですわね。晃さんの言う通り、上に立つ人の手腕の見せ所ですが、晃さんなら兵士が必要ではなくなったのでクビにすると、今まで頑張ってきた人たちに言えますか? これ以上はお金が払えないからと」
「うーん」
そこは難しいかもしれない。
「だけど、やらないとどうしようもないんじゃないか?」
「代わりに仕事がなくて、盗賊になって町や村に被害をもたらしても?」
「あー、それはどうなんだろう? でも、打つ手は……ああ、そういうことか」
「そう。戦争が終わらなければ、そんな判断はしなくていいとなるわけですわ」
「でも、それって本末転倒じゃないの?」
「それでもやめられないものって多いんですわ。ダイエットが続かないように」
「そう言われると、わかるかも……」
「人は安易な手段を選びがちです。私たちも経験があるでしょう?」
確かに、この世界に来てからは、よくあった経験だ。
深く考えず楽観的に、安易な考えで失敗したことはたくさんある。
その都度、修正してこれたのは、田中さんがいたからだ。
なるほどなー。そういう連中はきっといるよな。
そんな話をしていると、田中さんが話に加わってきた。
「難しい話をしているところ悪いが、俺たちはそこまで細かく考える必要はないぞ」
「え? なんで?」
意外な言葉にぽーかんとする俺と撫子をよそに、光が普通に疑問を返した。
「そりゃー。いろいろ裏というか、事情はあるだろうが、事情があるからといって、俺たちを犠牲にしていいことにはならん」
「あ、そっか。邪魔するならぶっ飛ばすってやつだね」
「そうそう。根本の討伐はなかなかできないだろうが、別に俺たちが世直しする必要はないからな。戦争がなくなって、予算の関係で失業者があふれて、盗賊が出てくるなんてのは、俺たちには関係のないことだ」
「そっかー。あれ? そういえばなんでこんな話になったんだっけ?」
「いやいや、光が、なんでルーメルの貴族にーって話からだろう?」
「あ、そうだった。ごめんね、撫子。嫌な説明させて」
「いいえ。大丈夫ですわ。私もやる気をそぐようなことを言ってしまって申し訳ありませんでした。田中さんの言う通り、目の前の敵は倒すべしですわ」
そんなことを話していると、横でこの会話を眺めていた、キシュアさんたちが感心したようにつぶやく。
「今まで何度も思いましたが、勇者様たちは立派な教育を受けているのですね」
「ですねー。私は半分ぐらいしか話は分かりませんでしたけどー」
そう感心されても、俺たちにとっては普通?の会話だしな。
日本で普通に学校に通っているのなら、この程度の会話はついていけるだろう。
だけど、この会話もこの世界の人たちからすれば、驚くようなことらしい。
そんな風に思っていると、不意に馬車が止まり……。
「歓談中すいません。田中殿。なにやら、前方で戦闘が行われているようです」
と、リカルドさんの一言で、のんびりとした空気は吹き飛んだ。
「戦闘? つまり、誰か手配してた?」
「どうだろうな?」
「まだ判断がつきませんわね。田中さんどういたしますか?」
撫子がそう田中さんに指示を仰ぐと……。
「まあ、焦るな。リカルド、戦闘とは言っても、戦っているやつらは人と魔物か? 人と人か?」
「あ、失礼いたしました。人と魔物です。オーガが相手ですね。体が大きいのですぐわかりました」
「ああ、あれか」
そう言えば、俺たちもリカルドさんが言った戦闘の様子は見ていなかったので、馬車からおりて、様子を見てみると、確かに、大きな人型の生き物が進む先に見えて……。
「あ、誰かジャンプして斬った。すごーい」
光の言う通り、大きなオーガにとびかかって戦っている人が斬りかかったのが見えた。
「ですが、倒れませんね」
「だなー。オーガってタフなのか?」
結構深く斬り付けられたように見えたけど、オーガは少しひるんだだけで、すぐに立て直してケガなどないように再び暴れ始めた。
「オーガは極めて高い回復力を持つのです。なので、ただ斬り付けるだけではひるむだけで、すぐに回復してしまいます。倒すには、大きなケガ、骨を砕くとか、部位を斬り飛ばすなどが有効ですが、あの巨体に大けがを負わせるのはなかなか難しく、ダメージを連続で与えて、回復が追いつかないようにするか、炎でのケガは再生されないので、魔術師も有効ですね」
リカルドさんが説明してくれたけど、なんて厄介な魔物だ。
「さて、タナカ殿。どうするのですか? 私たちで倒しますか?」
「オーガ程度なら問題ないとおもいますよー?」
キシュアさんとヨフィアさんは俺たちの戦力なら倒せると判断しているらしい。
まあ、田中さんの銃があれば簡単に倒せるだろうけど。
「んー、どのみち邪魔になるし、情報を得るためにも、協力しよう。まあ、演技している可能性もあるから、そこは気を付けてな。馬車は置いていくから、キシュアが馬車の番を頼む」
「はい。わかりました」
そういうことで、キシュアさんが馬車の番で残り、俺たちは戦闘が行われている場所にゆっくり近づいていく。
「なんで歩いてるの?」
「助けんじゃなかったんですか?」
「横槍を入れるからな。相手が倒せると思っていたら、獲物を横取りすることになる。そうなると揉めるからな。敵でないのにそういうのは嫌だろう?」
「なるほど。ゆっくり近づいてまずは相手に確認をとるんですね」
「そういうこと。相手の意思を聞かないとな。ま、こうして近づいている間に倒してくれるならそれはそれでありがたいからな」
そういうことか。
あわよくば倒してくれるなら、特に会話もなく済むってわけだ。
でも、そんな希望は叶うはずもなく、オーガとおそらく冒険者たちらしき人たちの戦いの前にたどり着いた。
「ラーリィ頼む!!」
「うん!! ファイアーアロー!!」
ラーリィと呼ばれた少女?が魔術を唱えて、オーガの体に炎の槍が突き刺さる。
「ごがぁぁぁっ!?」
オーガは痛いのか叫んで、さらに暴れまわる。
「ちっ、全員、俺の後ろ下がれ!!」
その様子に危険を感じたのか、大盾を持ったおっさんがそう叫んで、パーティーを自分の後ろに誘導したとたん。
「ごあぁっ!!」
怒ったオーガが草原に突き刺さった大岩を持ち上げて投げてきた。
おいおい、あんなのが直撃したら死ぬって。
「ふんっ!!」
しかし、その大岩を盾を持ったおっさんはシールドバッシュではじいた。
「うわー。すごっ」
「あれがスキルの力というわけですね。人外じみてますわ」
あまりの光景にそうつぶやく光と撫子。
その間にその冒険者たちは行動を開始する。
「ちっ、腕がいった」
「クコ!! サーディアの回復を頼む!!」
「任せて!!」
「俺と、ラーリィで引き付けるぞ!!」
「うん。任せてオーヴィク!!」
なかなか連携のとれたパーティーのようで、迷うことなく判断を下し、オーガへと向かっている。
しかし、これだと手を出すひまがないよなー。
ピンチでもないし、ちゃんと戦えてる。ここで手を出すのはどうかと思う。
「田中さんどうします?」
「んー。頑張っているようにみえるしなー、まだあの部隊も戦えそうだし、このまま傍観がするしかないなー。ま、あの冒険者たちの様子から、偶発的な戦闘みたいだし、安心できたってことをまず喜ぼう」
「微妙なよろこびかたですわね」
「戦わなくていいんだから平和で何よりだよ。で、リカルド、ヨフィア。あの冒険者たちの腕前はどんなもんだ?」
田中さんは傍観することを選んで暇になったのか、一緒に来ているリカルドさんとヨフィアさんにあの冒険者たちの実力を聞いた。
「そうですな。オーガは通常、3個小隊で戦う魔物ですからな。1つのパーティーで相手どれるのはなかなか腕のいい冒険者だと思います」
「ですねー。まあ、1つのパーティーでも倒せないことはないですけど、安全に倒すなら複数パーティーが推奨の魔物ですね。見ての通り、一撃が非常に重いですから」
確かに、振るったこぶしが地面にめり込んでいる。
あんなのを食らえば普通は死ぬ。
こっちは一発で終わり、相手は何度も切らないとだめってのは普通にやりたくないよな。
そんなことを考えながら眺めていると、オーガは勝てないと思ったのか、身をひるがえして逃げようとして、俺たちと目が合い、こちらに向かって走ってきた。
「あれ? なんか僕たちを狙ってない?」
「オーガは食事をすれば回復力が上がりますからな。私たちを食べる気なのでしょう」
「冒険者たちは意表を突かれて、追いかけていませんね」
「となると、俺たちが戦うの?」
めんどくさいなーと思っていると。
ズドンッ!!
と爆音を響いて……。
ズズンッ……。
オーガが倒れた。
「もうすぐ昼時だしな。時間をかけたくなかったからやらせてもらったぞ」
そう言って、田中さんが大きな銃を担いでいた。
うーん。さすがにオーガも頭を吹き飛ばされたらどうしようもないか……。
ここで田中一行は、オーヴィクたちと出会う。
さてさて、必勝ダンジョンを見ている方は、ガルツでのローエルといい、そろそろ楽しくなってきたのでは?