第334射:情報を集めるため
情報を集めるため
Side:タダノリ・タナカ
上手いことカメラとビデオを渡せたな。
しかし、ジョシーに言われて気がついた。
別にカメラとビデオは渡して問題なかったな。
いや、今までそういう信用がなかっただけだが、今のタイミングはいい判断だ。
俺はそう思いながら、どんどんたまってくるシャノンのデータフォルダを確認する。
「次々に試しているな」
結城君たちが説明して渡してきたのは約2時間ほど前だが、ちゃんと試しに色々やっているようだ。
ちなみにカメラとビデオとか言っているが、タブレットを渡しただけだ。
機能はカメラとビデオの機能だけしか教えていないが。
自動的に記録した写真、動画はアップロードするようにしているからこっちに流れるようになっている。
ネットとかないのに何でだろうとおもうが、そこは魔力で解決としか言いようがない。
サーバーも不思議なんだが、そこを今考えてもわからないので放っておこう。
これが地球に流れているなら、向こう側からもアプローチがある可能性もあるから、ある意味助かるしな。
そんな確認をしていると、お姫さんがこちらに向かってきて。
「そんな真剣に見ていらっしゃいますが、何か変わったことがありましたか?」
「さっき来ていた冒険者ギルドのシャノンとかいったか? こうして色々楽しんでいるみたいだ」
俺はそう言って、お姫さんに画面を見せる。
「……確かにすぐに写真を撮っているようですね。動画も……」
そこには、結城君やルクセン君、大和君と仲良く写真に納まっているシャノンの姿がある。
最初の方はいささか顔が引きつっているが、最終的には慣れてきたのか自然な笑顔になってきている。
あれか、日本では昔写真は魂を抜かれるって話があったからそういう風に感じているのかもしれないな。
「しかし、なんでこちらのタブレットから映像が見られるのですか?」
「ドローンの映像もここから見られるからそういうモノだと思えばいい。構造を説明してもわからんだろう? 使えるから使う。そう言うのでいい」
「なるほど。そういうことですね。こういうモノは一から理解しないといけないと思っていたのですが違うのですね」
「そんなことを言ったら、いまお姫さんが着ている服や装飾品の作り方はもちろん原材料まで知っておかないといけないといけないからな」
「確かにその通りですね」
世の中、理解の及ばないモノは知らないと使えないと思っている人が多いが、別にそうでもない。
理解しなくても使えるモノは沢山ある。
リモコンのボタンを押せばそう動く。それだってボタンの仕組みや電波を飛ばす仕組みを一から知っているわけじゃない。
まあ、自分が失敗をしないかとかそういうのを心配してなんだろうな。
引き金を引いて自分を撃ってしまったらみたいなことを想像しているのかもしれない。
そんなことを考えていると、お姫さんは俺に再び質問をしてくる。
「なぜ、連絡が取れることを言わなかったのですか? このタブレットはその機能があるのでしょう?」
「信用してないからだな。お姫さんもよく考えればわかるだろうが、遠方の相手と一瞬で連絡が取れる道具っていうのは、軍事利用されたらとんでもないことになるっていうのは分かるだろう? そっちの爺さんもな」
俺はそういって側に控えているマノジル爺さんに声をかけると深くうなずいて……。
「うむ。どこでも即座に遠方と連絡が取れる方法があればそれだけでも国は確保してくるじゃろうな」
「……失念しておりました。確かにそれだけ価値のあるものですね」
「まあ、そういう技術や力があると思っているルーメル相手に喧嘩を売るかはわからないが、いい印象も与えるか不明だからな」
過剰な力は警戒心も生むってやつだ。
わざわざ敵を作るような真似はしないし何より……。
「実際は俺一人でやっていることだからな。馬鹿が動いて出る可能性もある」
「確かにその可能性もゼロではありませんが、タナカ殿がその手の輩に後れを取るとは思えませんが」
「足止めされるとか、足を引っ張られるだけでも面倒なことになるんだよ。情報を知るだけで相手に警戒を抱かせるなら、最初から知らない方がいい。それだけの話だ」
そう、知らないなら警戒心も抱けない。
それだけの話だ。
「しかし、冒険者ギルドに差し出したということは、あの領主ノーダンル子爵にも催促される可能性がありますが?」
「それは対応次第だな。というか、一応領主の出方を見るために冒険者ギルドのシャノンの方には黙っとけと言ってるからな。これを破ればどうなるかだな」
「別にシャノン殿が喋るとは思いませんが、タブレットを見聞きした連中から漏れる可能性はあるでしょう?」
「それこそ、俺たちが大本っていうのはわからないからな。ここにタブレットの話を聞きに来た時点でシャノンが喋ったのと同義だ」
「確かにそうじゃな。それでこれからどうするつもりなんじゃ?」
マノジルの爺さんは髭をしごきながらをそう質問をしてくる。
「領主がどう動くかって所だが、その前に冒険者ギルドに渡したんだから、ギナスの所にも渡さないと不公平だろうから、俺が届けに行ってくる」
俺はそう言って席をたつ。
ギナスなら冒険者ギルドに妙な道具を渡したなんて情報はすぐに行くだろうからな。
拗ねないように俺が直々に渡しに行くことにする。
それと……。
「おい、ジョシー。俺はスラムをまとめているギナスの所に行ってくるからここは任せたぞ」
『ん? ああ、シャノウのマフィアか。使えるのか?』
「領主よりはましだ。俺の話を聞く耳持っているからな。今しがた来た冒険者ギルドより信頼は上だな」
『それってこの町で一番信頼できるってことじゃないか。なるほど。だから渡さないわけにもいかないと』
「そういうことだ。じゃあな」
『わかったよ』
俺はジョシーの返事を聞くと、そのままギナスの屋敷へと足を運び、タブレットの説明を使い方を教える。
「ほう。それを俺たちにくれるか」
「やるわけじゃない。貸し出しだな」
「ほぼ同じ意味だよ。というかこの前は信頼してなかったが今更どういう風の吹きまわしだ?」
「いや、いまだからだな。あの船からの攻撃を見て、それを持ち去ろうと思うか?」
「ふん。わかりきったことを聞くな。そんなことを誰がするか。それで、これの見返りは?」
「そっちで情報収取をしてくれればいい。そっちで撮ったデータ、絵や映像はこっちにも飛んでくるからな」
俺はシャノンには言っていない情報をあっさり話す。
「ちっ、全部筒抜けってことか」
「そうだな。だが、考えようによっちゃ、確実に情報をこっちに流せるってことでもある。信頼が置ける奴にでも渡して情報収集するんだな」
俺はそう言ってさらに2つのタブレットを置く。
「おい、こんなにいいのか?」
「そりゃな。1つがギナス用で、あと2つが部下用にないとそっちが持っている意味ないだろう。ほれ、こっちでも部下が記録したデータは確認できるからな」
「こっちでもできるのか!? こりゃいい!」
「それで、やってほしい情報収集がある」
「やっぱりか」
「そりゃ無償でこんなものを貸しはしないさ」
「それは当然だ。とはいえ、ここまでの品を貸してくれたんだ。これぐらいはやってやろうじゃないか」
「無理はするなよ。この道具があるからってのは過信で足元掬われるぞ?」
「そこは専門家だ。馬鹿な真似はしねえよ。それで目的はやっぱり領主ノーダンルか?」
「ああ。あれだけ馬鹿なことをしたんだ。変に動かれるとこっちも困る。シャノウを吹き飛ばすなんてのはしたくないからな」
「そこまで馬鹿な領主でもないんだがな。というか、領主としてはまっとうな対応だぞ? 無理やりはあったが、ああいうのは別に普通なら問題はない。お前さんたちのやり方がありえない」
まあ、言っているのは当然だ。
あんな売り方普通はありえない。
だが、こっちがいいといっているのだから問題はない。
ゼランと俺たちの契約がそうなっているから、領主が口を出すことじゃない。
「わかっている。あまりやるとにらまれるって話だろう?」
「ああ。まあ、そっちの事情もわかるが、露骨にやりすぎるな。ノーダンルも顔を潰されすぎると直接手を出すしかなくなる」
「だからこうして調査を頼むわけだ。そうなる前に止めた方がいいだろう?」
俺はそう言ってにこやかに笑う。
「俺だって町を消し飛ばしたくはないからな」
「笑って言えるお前が恐ろしいよ。話は分かった。連絡はこれで入れる。いいな?」
「ああ、映像を撮ればそれで報告になるからな」
ということでギナスに領主の監視を任せたのはいいとして……。
「それでもう一つ」
「なんだ?」
「これで、連合軍はどう動くと思う?」
「……そんなのはこんなちんけな悪党にわかるわけないな」
「戦況に関しては調べているんだろう? それらを踏まえてどう思う?」
「答える前に言っておくぞ。あくまでこれは俺の意見だ。あの領主だって目先の物資を目の前にしてタナカたちのことを低く見て手を誤った。そういうことはありえる」
「わかってるさ。お前の意見が聞きたいんだ?」
「そうだな。冒険者ギルドのシャノンにこれを渡しているし、そう悪いことにはならんとは思っている。協力者として受け入れられるだろうな」
「そうか。つまり、戦況はよくないってことか」
「……そうだ」
こりゃ、結城君たちにしっかり話しておく必要があるな。
激戦はこれからだってな。




