第333射:無知というのは怖いこと
無知というのは怖いこと
Side:アキラ・ユウキ
シャノンさんはユーリアと2時間ほど話し合いをして帰っていった。
その帰り際に……。
「君たちはこれから冒険者ギルドには来るのかしら?」
「えーっと、まだ決めてないですね。子爵ともめていますし、下手にトラブルを作るわけにもいかないですから」
「だよねー。あんな言いがかりでゼランさんの物資奪おうとするんだし。あ、一応あの物資って僕たちのモノだっけ?」
「ええ。そうですよ光さん。まだ、所有権はこっちにありましたから普通は強盗であり、他国相手にとっては宣戦布告ものですね」
「……3人ともそこまでしっかり考えているならいいわ。というかお姫様のお付きなら近衛ってところね。道理で実力があるわけだわ。まあ、何か困ったことがあればいつでも来てくれていいわ。先ほどもユーリア姫に言ったようにあなたたちと敵対するつもりはないの。その証明ね」
そう言ってシャノンさんは倉庫街を離れていった。
「とりあえず、冒険者ギルドに関してはいいのかな?」
「さあ、僕にはさっぱり。撫子はどう思う?」
「これからですわね。私たちにどれだけ協力してくれるかでしょう。信じられないことがようやく信じられて。こんな話をほかの冒険者ギルドや各国に伝えるというのも難しいことですわ」
「「あー」」
俺と光で納得の声を上げる。
確かに難しいよな。
俺たちのことをほかの冒険者ギルドや各国に伝えるなんて俺でも方法を思いつかない。
普通なら嘘だといわれるだけだ。
まあ、冒険者ギルドの長であるシャノンさんなら多少話を聞いてくれるだろうけど、それでも大変には違いない。
「俺たちが何か手伝った方がいいのかな?」
「手伝うって言ってもなにするの?」
「私たちが言っていることが正しいと示す何かでしょう。例えば写真など」
あ、その手があるじゃんと思ったんだけど……。
「とはいえ、写真というもの自体がこの大陸にあるとは聞いていません。写真を見せたところで信じてもらえるかは疑問ですね。まあ、私たちが直々に実演して見せれば可能性はあるでしょうが……」
「僕たちがわざわざっていうのものねー。それって本末転倒な気がする」
「確かにな。俺たちの存在を認めてもらうのにここで交渉しているのに、さらに奥の土地で説明するとかなー」
かなり面倒でしかない。
さて、どうしたもんかと思っていると……。
「別にそれでいいんじゃないか? 適当にカメラでもビデオでも貸してやればいい」
「あ、ジョシー」
その声に振り返るとそこには光の言う通りジョシーさんが立っていた。
片手にかじりかけの果物を持ちながら。
「えっと、田中さんは?」
「ん? ああ、私と交代だよ交代。食事休憩だ。一人のスナイパーでもないからな。垂れ流しは勘弁だよ」
「え? 垂れ流し?」
「知らないのか? 配置を命じられた兵士は交代要員がいなければその場を離れることは許されないんだぞ。糞尿は垂れ流し、飯もそこで食べる。なにせ監視を外したところを狙われて拠点が落ちるからな」
「「「……」」」
相変わらず、兵士っていうのはものすごいんだなーと思わせる発言だ。
「まあ、交代要員がいないなんてことはめったにないんだがな。こうして私も飯を食ってトイレに行く余裕はある。なにせドローンの監視もあるからな。兵士の配置はこの前みたいな状況じゃないとする意味もないしな」
そりゃそうだろう。
常に銃持って狙撃体制ってどこのスナイパーだよって感じだ。
「それで私のことはいいとして、あの冒険者ギルドの長だったか? あいつの話し合いはどうなったんだ?」
「え? 聞いてたんじゃないの?」
「あー、あまりにも低レベルな話が最初にあったせいで後半聞いてなかった。ほら、休憩もしてたしな」
「「「……」」」
休憩で聞いてなかっただけなのに、低レベルって言わなくても……。
「こほん。会議の内容ですが、とりあえず私たちのことを冒険者ギルドを通じて各国に通達する予定だそうです。敵対者でもないことと、協力する用意があると」
「ま、当たり前だね」
「そして、現在シャノウの領地で不当に扱われているので抗議している。助けてくれる国はいないかと」
「ぶはっ、いいねぇ。そりゃこのシャノウを持っている王様は面目丸つぶれだ。これであのへっぽこ領主が変なことを言われることを防ぐわけだ」
そう、ユーリアはあえてシャノウの領主に不当に扱われたといってくれって言ったんだ。
本人とは和解したように話しているのに、冒険者ギルド側にはこの国が敵だと伝えているようなもの。
まあ、こうしないと領主が変なことを言われてそのまま敵判定を受けてしまう可能性もあるから、俺も悪い判断だとは思えない。
「それでシャノンさんにカメラやビデオを持たせろというのは?」
「ん? 使い方を教えてそのシャノンってやつが実演して見せればいい。別に持っていかれたところで何も問題ないものだしな。なあダスト」
ジョシーさんが不意に田中さんに話かける。
本人はここにいないから無線なんだろうなと思っていると、イヤホンから声が聞こえる。
『まあな。カメラとビデオは貸し出しても問題はない。そのまま証拠になる。信じてもらえなくてもそのまま消滅させてもいいからな』
「だよな。あとドローンに関しては……」
『ドローンの存在はまだ秘密だ。喋る理由を見いだせない』
「そうかぁ? ドローンがあれば連中はこぞって味方にしたいと思うはずだぞ?」
『そこまで向こうを信用していない。上から何でも見れるような道具は相手に警戒を抱かせる。こっちを殺しにかかる可能性もあるからな』
「そうなったら返り討ちでいいだろう?」
『数で来られると不利だ。俺やお前はともかく、ほかの連中は押しつぶされる』
「ああ、そりゃそうだ」
『さらに味方に対して攻撃されるんだ。まともに行動できるかもわからん』
うん、それは俺もできないと思う。
「なら、とりあえずカメラとビデオを渡すってことで良いじゃないかい?」
『ま、そうだな。あれぐらいなら供出してもいいだろう。ついでに味方に付く連中にはさらにってことにしてやるか』
「それならなおのことだろうさ」
うわ、これで敵になる人は少なくなるな。
「ということで、お姫さんに許可をもらってギルド長にわたしてきな」
「わかったよ。2人とも行こう」
「ああ」
「わかりましたわ」
俺たちはそう言ってユーリアの所へ向かって話をすると。
「あら、タナカ殿がそういう道具の貸し出しを許可するとは思いませんでした」
うん、俺も驚いている。
ああいう道具は絶対貸し出さないと思ってたからな。
「とはいえ、これでなおのこと交渉がしやすくなりますね。領主相手には存分に使わせてもらいましょう。アキラさんたちはシャノン殿にカメラとビデオを届けて操作方法を教えてください」
「わかりました」
ということで、俺たちは田中さんからカメラとビデオをもってシャノンさんに届けることになったのだった。
カメラとビデオの意味を知ったシャノンさんが驚きの声を上げているのが印象的だ。
さらには、データが一杯になったときには、データ送信をして消すという方法を教えたので、彼女は何も知らない内にデータをこっちに送ってくれるようになっている。
田中さんの案だけど、これで彼女がどうやってカメラやビデオを使っているのかよくわかることになる。
もちろん、盗聴器をマイクっぽく設置もしているので起動していないときもシャノンさんたちの会話は聞こえる状態になっている。
「知らないって怖いな」
俺は改めて知識が技術の違いがどれだけ大事なのか改めて思い知ったのだった。




