第330射:領主動く
領主動く
Side:タダノリ・タナカ
俺たちは領主館から戻ってのんびりいつもの業務をこなしていた。
あの面会から凡そ1日、シャノウの町は大騒ぎになっている。
いきなり領主が兵を集めて出撃準備をして出撃、そして冒険者ギルドも同じ。
ただの魔物退治ではないとみんな理解したわけだ。
いやー、意外と早かったな半日で出て行ったからな。
そしてそこまでなれば情報封鎖などできるわけもなく、ゾンビの群れが迫っているということで、町の住人は逃げる準備や家にこもるとかいろいろ行動をとり始めた。
おかげで市場は大荒れ。
一気に食料品はもちろんその他の物資もあっという間に消えた。
「いやー、大騒ぎだな」
ドローンから見える街中は物資を手に入れられなかった町の人が物資を求めて大騒ぎをしている。
情報を知った連中が真っ先に買いに走ったからだ。
しかも通常の倍、3倍で買ってくれたので事情を知らない店の方は喜んで売ったわけだ。
もちろん良心的に商売をしていた人たちもいたが、そういうところはなおさら完売してしまっている。
おかげで……。
「たなかさーん。手伝ってよー。あと追加ー」
ヘロヘロになったルクセン君がドアを開けて入ってくる。
「俺は商品を出すので忙しいからな。店は頑張れ。これでゼランたちの商会の評判はうなぎのぼりだしな」
「むむー。その物資が出せる能力ってホントチートだよね」
「ああ。楽で助かる。おかげでこうした手が取れるからな。と、ホラ追加の小麦粉」
俺はそう言って新しく出した小麦粉を倉庫にどっさり置く。
それを見るなりゼランの部下たちが慌てて商品をもっていく。
そう、俺たちは今戦争が迫ったおかげで困窮している町の人たちに対して独占販売を行っているところだ。
ちゃんと適切な値段でな。
いやー、もう戦争にもならないんだけどな。
俺たちは適切な値段で販売して、町の人たちの生活を支えるわけだ。
領主たちは買い集めた商品とかどうするんだろうな?
返品とかこういう時できるのかね?
下手すると反乱案件だよな。
「これでいいのかお姫さんたち?」
俺は物資を出し終えて部屋に戻って笑顔でそう聞くと。
「いいです。これで領主は私たちことをいろんな意味で無視できなくなります。敵を倒した力、物資を提供する能力」
「そうですねー。これを無視しては色々問題がありますねー」
「まあ、暗愚であれば私たちを取り押さえに来るかもしれませんが、その場合はなおの事こちらが有利になるだけですね。物資がつきますし、物理的な戦力もこちらが上です」
おー、流石お姫さんに聖女さんに女王。
こういう搦め手はお手の物だな。
こっちが物資を握っているだけでなく圧倒的火力もあるしな。
相手がどう動くか見ものだ。
ということで、そのまま物資が無くなった人たちに対して販売を行っていると、兵士が慌ててやってきて領主館まで来いという話が来た。
だが、お姫さんたちは強気で……。
「そちらが来いといいなさい。呼びつけるとは不敬です」
と、追い返していた。
これでこちらは怒り心頭であるというのが伝わっただろう。
立場を考えれば間違いでもないしな。
あとは、あの領主がどう動くかだ。
どちらにしろフリーゲートの準備はしてあるし、お楽しみだな。
しかし、思いのほか動きが早いな。
まだ本隊は出発していない状態でこっちに声をかけてくるか?
まあ、ドローンで確認していると斥候部隊が出たのは見ているがそれが戻った様子はない。
そうなると、俺たちが倒したという話の確認は取れていないわけだ。
つまりさっきの呼び出しはまた別件ということか。
……ああ、食料だせって話か?
「ゼラン。さっきの兵士の招集は誰を連れて来いって話だったんだ?」
「ん? ああ、私だったな。多分、今、販売している物資に関してだと思うよ。とはいえ、物資の販売に関してはお姫さんの許可が必要だしな。なあ」
「はい。その通りです。ここの物資はあくまでもルーメルからの物資。私の許可なく販売は出来ません。呼びつけるなど不敬がすぎます」
「なるほどな。そうなると次は徴発に来る可能性がやっぱり高いか? ゼランはどう判断する?」
「んー。流石にそこらへんはわからないねぇ。私を敵に回す価値があるとはおもえないんだけどね。とはいえゾンビが来ていると思っているんだろう? 切羽詰まれば……」
「あり得るか」
「まあ、私たちを倒せて奪えると思っているならね。現実的とは思わないけどね。フリーゲートも呼び寄せているんだろう?」
「ああ。そっちの方が話が早いからな」
相手はこちらの実力が分かっていない。
だから、どう対応していいか迷っている。
ならば実力を見せればいいわけだ。
今回の不明な点は、こちらが本当に海の向こうからやってきたのかと、ゾンビの群れを倒せるほどの実力があるのかということだ。
それを解消できれば、向こうもこちらの言い分を信じてもらえるだろう。
そんなことを話していると、窓の外に武装した兵を連れたノーダンルがやってくる。
流石に民衆は食料が欲しいと思っていても、貴族に反感を買って切られたくないのか道を開けている。
そして、小麦を販売しているルクセン君たちに向かって……。
「ここで販売している小麦は全てこちらで徴収させていただく!」
そうノーダンルがいうと、武装した兵士が倉庫へと踏み出すが……。
「待ちな。料金を払わないつもりかい?」
ゼランがいつの間にか下に行っていてノーダンルの前に立つ。
「ゼランか」
「ああ、私たち相手にこんなことをする気かい? 町中の方は適正価格で買ってたくせに私は徴収とはどういうことだい?」
「ふん。町の者たちよりは蓄えがあるだろう。あちらを搾り取るわけにはいかない」
「ほほう。私たちには不利益をこうむれってことかい?」
「そうだ。何より使者を追い返した無礼もある。この程度で済ませているのだからありがたいと思え」
「はぁ、子爵。これで敵が一つ増えることになるんだよ? 責任を取れるのかい?」
「無論。そのようなものは来なかっただけだ」
「じゃ、遠慮はいらないね。もうちょっと賢いと思ったんだけどねぇ」
ゼランがそういうとノーダンルたちが飛び出そうとして……。
ターン! ターン! ターン!
そんな音が響く。
俺たちのメンバーを除いて何の音かと首をかしげているが、次の瞬間。
バタバタバタ……。
ノーダンルを含めて3人が倒れる。
「な、に?」
撃たれた本人は不思議そうにしている。
やっぱり銃ってものを知らない相手はこういう反応になるのかね?
気がついてない傷ってやつか?
ま、そこはこれから実験していくとしようか。
「ジョシー。全員行動不能」
『ちっ。面倒だね。半分はダストがやりな』
そう文句を言うが、その後銃撃音が連続して響き。
俺も窓から指定された範囲の馬鹿どもを撃ち抜いていく。
武装兵士共は唖然としていてその場で固まっているか、ノーダンルを囲って守るしかできていないのでいい的だ。
抵抗することもなく、総勢100名近くはいただろうが、全員きれいに地べたに這いずる結果となった。
いやー、銃を知らないってあほだよな。
弓矢が飛んできたって可能性も考慮すればいいものを。
「じゃ、あとは任せる」
『任せときな』
ゼランからそう返事が返ってきて、俺はそのまま見物をしつつタバコをふかし始める。
「さて、お前ら。一応領主様と騎士様たちだ。無体なふるまいはあったが殺しちゃ私たちが悪者だ。ちゃんと介抱しな! 傷が深い奴は、ヒカリたちにいいな。いいな!」
「「「おっす!」」」
「残りの連中はそのまま町の人に適正価格で売りな」
「「「おっす!」」」
「「「わぁぁぁぁぁ!」」」
その言葉に民衆が歓声を上げる。
傍から見れば、食料を奪おうとする悪徳領主だもんな。
さてさて、これで民衆も俺たちよりになった。
あとは、道の奥から血相を変えて走ってくるシャノンとギナスだが、あの2人はどちらの味方になることやら。
タバコをふかすことはやめず笑いながら、視線を海に向けると、そこには俺たちがのってきた艦がゆっくりと近づいてきている。
さて、色々そろったことだし、砲艦外交でも始めて見るかね。




