第327射:不自然な点
不自然な点
Side:アキラ・ユウキ
俺は今、爆心地を見すぎてちょっと気分が悪くなって濡れたタオルを目に当て横になっている。
「あー、もう情けない」
そんな言葉が口から洩れてくる。
いつまでたってもこういうことで体調を崩すのはだめだとわかっていても、体はいうことを聞いてくれない。
「大丈夫ですよ~。あんな状況で平気にしてられる人の方が少ないですから~」
そういって優しい声をかけてくれるのはヨフィアさんだ。
俺がやっぱり休むといったらすぐに準備を整えてくれた。
というかわかっていたような素早さだった。
「すみま……いえ、ありがとうございます」
「はい。よくできました。ここは謝るんじゃなくてお礼を言うので正解です」
声しか聞こえないけど、ヨフィアさんが笑っているのがわかる。
うん、この人が側にいてくれて俺は本当に助かっている。
メイドが副業なんていうのが信じられないほどだ。
と、そんなことを考えていると、タナカさんとジョシーさんの会話が耳に入ってくる。
『と、そういえば予知に関しては何かあるか?』
「ん? ああ、そっちに関しても面白いことが分かったよ。それは戻ってきてから説明するよ」
え、何かあったっけ?
確かに、ユーリアから詳しい話を聞いたけど何か特別な情報があったか?
そんなこと考えていると……。
「ジョシーさん、何かわかったのですか? 私には特に何かヒントがあったようには思えないのですが?」
「ああ、あったよ。とはいえ、裏を取っているところだね。まあほぼ確定だけど」
「それを教えてもらっても?」
「構わないよ。まず、服装だ」
「「「服装?」」」
その言葉に俺たちのほとんどは首をかしげる。
ゴードルさんだけはポンと手を打っている。
「なるほどなぁ。それで時期が分かっただべか」
「「「あ」」」
厚着をしているなら冬って感じか。
「あたりといいたいが、ここの気候はよくわかってないからな。荷揚げしているモノを見て判断したわけだ。ちなみに、服装に関してはお姫さん?」
「はい。ジョシーに言われて思い出してみましたが、確かに短い袖ではなく長袖ばかりでした。ゼランさんに確認を取りましたがこの地域にはちゃんと夏場と冬場があるので服装の変更はしているようです」
確かに、今は普通にみんな半袖だもんな。
となると……。
「ここが襲撃されるのはもっと後ってこと?」
「その可能性は高いね。とりあえずお姫さんが見た荷揚げしたモノをゼランに言って確認を取ってもらっているとこさ。時期で荷物は変わるからね。それで詳しい時期を調べているところさ。もっとも、私たちがこうして対策を行っていることで相手の動きが変わる可能性はあるけどね。とはいえ、少なくとも今の所相手の襲撃が変わるとは思えないね。予知が当たっているならって前提はつくが」
「なぜ変わらないと思うのですか?」
「そりゃ、こっちの情報がバレたとは思わないからさ。確かにダストはあのゾンビの群れを吹き飛ばした。だけど、それは私たちの存在を知らせるようなことはしていない。いや、ああいうことができるのがいるっていうのはあるけれど、それがシャノウにいるっていう確定にはならないからね。そもそも情報を伝えるための何かが存在しないことは確認している」
確かにそうだよな。
元々そういう情報を敵に流さないために一網打尽にしたんだ。
「まあ、定期的に魔術で連絡を取っていた可能性もゼロじゃないけど。それでもいきなりの音信不通でしかない。私たちが何かしたというのはばれていないはずさ。どこで行方不明になったのかもわかっていない。だからシャノウの襲撃がずれたとは思っていないのさ。ああ、何度も言うけど予知が当たっているならね」
ジョシーさんはとりあえず予知に関しては懐疑的なようだ。
いや、普通はそうだよなー。
「そもそも、あんな意味不明な行動をしていたんだ。どこかと連絡を取って行動していたとは思えないね」
「そうだべなぁ。あれは独自行動で動いてたとしか思えないべ」
「だよねー」
それは確かにそうだ。
何か目的のあった行動にしてはちょっとアレな動きだったのは俺でもわかった。
と、そんなことを考えていると、いつの間にかいなくなっていたゼランさんが戻ってきていて……。
「お姫さん。あんたが言っていた荷物はこの中にあるかい?」
そう言って、ゼランさんは絵が描かれたいくつかの紙をテーブルに出す。
その絵は果物らしきものだったり、魚だったり、民芸品だったりする。
ユーリアはその絵を見ながら……。
「これと、これ、そしてこれもありましたわ」
「なるほど、選んだモノから察するに秋から冬に入るところの品物だね」
「というか、ゼランさんこういう絵ってあるんだね」
「そりゃ、商品を輸入してほしい連中としてはちゃんと欲しいものを伝える必要があるからね。間違えて別のモノを仕入れてきましたなんてお互いに損でしかないから、こうして絵をかいて間違いがないか確認しているんだよ」
なるほど。
確かに口頭だけじゃ勘違いっていうのは起こりえるから、こういう絵をかいて商品の確認をしているわけか。
写真の代わりってことだな。
「では、私の予知は秋から冬に入るまで起こらない可能性が高いということでしょうか?」
「多分だけどね。まあ、条件がそろったときは注意するに越したことはない。お姫さんがこの場所に残ってその窓を眺めている時さ。とはいえ、そんな状況めったにないと思うけどね。何せこのシャノウの港町にお姫さんだけがいるような状況ってそうそうないだろう?」
「確かに。私が単独でこの場にいるようなことはないでしょう。最低カチュアがいます」
「はい。姫様をここに残すようなことはございません。また、ここで姫様と私だけでいるとは思いません。勇者様、タナカ様、そしてゴードルさまたちの誰かはいるでしょう」
「だろ。ちょっと席を外すことはあってもそうそう問題にはならないはずさ。私たちにはこのスマホがあるからね」
ジョシーさんはそう言ってスマートフォンを手にもってひらひらさせる。
確かにそれがあればそこまでのラグもなく対応可能だ。
「それに、ドローンでの監視、そして沖合にフリーゲート艦も控えている。万が一があっても敵は殲滅できるだろうさ」
「それって、町ごと粉砕ってことじゃ……」
俺がそう呟くとジョシーさんはにっこりとした笑顔をこちらに向けてきた。
「私たちが撤退をしている時点で収拾は不可能に近いからね。吹き飛ばすぐらいしかできないよ。私たちが市街地戦で勝てるなら取り返しているしね」
「あー、確かにそうだよねー」
光の言う通り、確かに戦闘で何とかなるなら田中さんとかジョシーさんがハチの巣にしているはずだよな。
それが無理ってことだから艦からの攻撃ってことになる。
つまり、その時点でどうにもならないってことなんだよなー。
だからジョシーさんの言っていることは、普通に考えて正しい判断だ。
ただその言葉に俺たちはほかの人を見捨てるということが許容できないから忌諱感を感じだ。
なにもできないバカな子供が無茶を言っているのと何も変わりはない。
「ま、それは最悪の想定だがそういうことも考慮に入れて動くことは忘れないようにしな。いざという時指示が出てもいやだとか言いかねないからね。そういうのがないように日ごろから問題が起こってもいいように対策をしておく。これぐらいしかできることはないのさ」
ジョシーさんはそういって、再び地図に視線を向ける。
「さーて、ダストのやつが戻ってきてからだけど、私たちはこれからどう動くつもりなのかね。ゼランの情報が正しければ敵と戦っているのは中央のここだ。対して私たちが海側の後方。こっちに移動するにしても時間がかかりすぎるね。あとこの国がこの連合にどこまで食い込んでいるかも不明ときたもんだ」
「というか、ジョシーさん。何もわかってないから何も決められないってやつじゃないの?」
「おお、ヒカリの言う通りだね。ちゃんとダストのやつ教えているんだ。とはいえ、この国から正しい情報が来るとも限らないからね。こちらとしても独自の情報網が必要なのさ。例えば、ヒカリたちが行っている冒険者ギルドやダストが顔を出しているこの町の裏組織とかね」
うん。俺たちは独自の情報を集めるためにそうやって動いている。
とはいえ、やっぱりこの状況だと情報不足は否めないよな。
「まあ、今の状況はそうだとして、何かわかればどう行動したいって方針はあるんですか~?」
と、ヨフィアさんがジョシーさんに質問してきた。
「そうだね。とりあえず、私としては同じように後方の港の様子を見に行ってみたいね」
「「「港?」」」
「ああ、今までのことを考えるとどうしても不可解なんだよね。バウシャイが襲われたというのはわかるけど、ゼランの話だと少数。ダストが確認したゾンビの集団のリーダーと思しき者たちはゼランが確認をとった同一人物だろう?」
「ああ、間違いないよ」
「となると、ゾンビをわざわざ連れていくっていうのはよくわからない。バウシャイをゾンビの町にして放っておいてもいいはずだからね。あのバカな連中を見ただろう? あんなあほどもが連れていくって判断を下すのも怪しいもんだ。だから連れていくことだけは誰かから指示されたんだろうと私は思っている」
「なるほどだべな。確かにあの軍隊になっていない集団を抱えるほど利口には見えなかっただべ。だからあれを引き連れるようにはいっていたってことだべな」
「ああ、ゴードルのいうとおりだ。とはいえあまりにお粗末だったから、バウシャイを襲うぐらいでほかの戦果は期待してなかったって感じだね。ちゃんと町の連中ゾンビに仕立て上げる予定があったなら、船でもよこして戦力を無事に届けるぐらいは手配するさ。それか船を手配できない理由があったか」
そこまで言われてピンときた。
「つまり、港は手を出されていない可能性があるってことですか?」
「その通りだよ。船っていう便利な乗り物を戦略上使わないなんて頭がおかしいからね。意図的に使わないのか、使えないのかってところだ。魔物が海にもいるからそれを警戒しているならそれはそれでいいさ。でもな、ゼランたちみたいな交易をしている連中もいるんだ。なのにやらないのは……」
「「「不自然」」」
俺たちはこうして今の状況を打破する可能性を見出した。




