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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第326射:残骸

残骸



Side:タダノリ・タナカ



『じゃ、私の方から改めて大陸の情勢を説明していくよ』


そう口火を切ったのはゼランだ。

もともとゼランがノルマンディーにやってきたのが始まりだから、ゼランが説明を始めるのは筋だろう。

あとは、この話とユーリアの予知を聞いてジョシーがどんな判断を下すかだが……。


「その前に、俺も仕事をしないとな」


俺が運転している先には、煙が上がっている場所がある。

いまだに残り火があるようだ。

ドローンからの状況では生き残りはいないようだが、注意は必要だろう。

ゾンビなんてのは死なないのがお約束だからな。

車を降りてなんて真似はしない。

装甲車だからそのまま爆心地へと乗り入れる。

すり鉢状に吹き飛んでいるので車両を走らせるのは問題ない。

これがただの車ならスタックする可能性があるのでやめるが、こういう時は便利だ。

いまだに原形が残っている死体をそのまま踏みつぶして中心部へと向かう。


「……生きている奴はいないか」


残念ながら情報を聞き出せるような原型をとどめ生きているような奴はいないな。

さながらここは地獄ってところか?

いや、この程度、戦場じゃよくあったしな。

大規模爆発で全員死んでいるだけかなりましだ。

これが蒸し焼きとかになるともっとあれだしな。

ファンタジーよりも現実の方が残酷っていうのは皮肉なのかそれともそれが救いなのかは俺には判断できない。

と、そんなことを考えていると、前方に目で見てわかるほどの上り坂が見える。

つまり、ここが爆心地、中央だということ。


「ここで起爆したわけか」


俺は車を停車させて、車内からあたりを見回す。

ここのどこかに魔族とかいうのがいたはずだ。

人をつぎはぎしたような奴とか、魔物の一部を付けたやつとか。

だが、あたりはパチパチと多少まだ残り火があるぐらいで、静まり返っている。

緑が広がる大草原の中に存在する地面がえぐれた場所。

つまり、ここには詩人的に言うのであれば、死しか存在していない場所。

まあ、このレベルの爆発を受けて死んでいなければ俺たちが困るわけだが。

そんなとんでもない生物がいた場合は、真っ向から勝負なんてできない。

攻略方法を新しく考える必要がある。

だが、俺の心配とはよそにやはり何か生き物の気配はない。


「ま、よくよく考えればそんなのがいるわけもないか。そんなのがいるのなら……」


すでにこの大陸は魔族とかいうのに制圧されている。

この爆発を耐えられるのであれば、どう考えてもレベルという概念があるとはいえ、人が爆発の火力を上回ることはできない……と思う。

つまり勝つ術がないのだ。

だから余計な心配というわけだ。

今後そういう化け物が出てこないとも限らないが……この爆発とナパーム処理はそういう段階を超えているんだよな。

爆発力による破壊と、ナパームによる超高温焼却と酸欠もコンボだ。

いくら炎が平気でも呼吸ができなくて死ぬわけだ。

逆に呼吸をしていなくても超高温により焼けて死ぬ。

これを超えてくるのはやはり化け物しかいないだろう。


「ん?」


そんな化け物を想像しながら、あたりを見回していると、不意に黒い塊が目に入り気になって車を進めると……。


「おー、死体はあった……のか?」


目の前には炭と化した4本腕の顔が付いた上半身っぽい何かが落ちていた。


「爆発で下半身が吹き飛んだって感じか。4本の腕のうち3本は半ばから消失して、頭らしきところは顎ぐらいだけと」


ナパームの際に生きていたのかと思ったが、体の欠損具合から爆発で死んでしまったようだな。

とはいえ、そのまま素直に降りるような真似はしない。


「結城君。俺の周辺の辺りで生きているのはいるか?」

『いえ……黒い、炭ぐらいしかいないです』

「わかった。あと、気分が悪いなら変わってもらえ。ゴードルとかにな」


煙が晴れてきて詳しく見れるようになったのなら、つまりゾンビだったとはいえ、元人の焼死体の炭を見るのはきついだろう。

ベテランの兵士でさえ、こういう光景が苦手なやつがいるしな。


『いえ、大丈夫です』

「無理はするな。俺の迷惑にも繋がるからな。あと、ジョシー面白いものを見つけたから映像みれるか?」

『ん? なんだい? ヒカリ、どうしたらいいんだい?』

『えーと、タナカさんの映像に切り替えてっと』


本当にジョシーのコミュニケーション能力に驚きだ。

いや、対応しているルクセン君がすごいのか?

とりあえず、問題がないのはいいことだと思っておこう。


『おお、これか。で、どれだい?』

「今から拡大するからまて」


俺はそういってカメラを例の焼死体にズームをする。


『へぇ、腕が四本。上半身の大きさからみるに優に4メーター近くか』


ジョシーは見せた炭から即座に情報を抜き出す。

どうやってモニター越しから大きさが図れるのかさっぱりだが、俺も同じ判断だ。


『炭なのが残念だねー。とはいえ、さっき見せてもらった映像からするにゾンビを食ったり遊んでたりしてたやつだね。ほかにいたかい?』

「いや、いなかったから多分そいつで間違いない」


そう、この炭は俺たちがドローンで発見していた魔族だ。


「とりあえず、こいつは持って帰るぞ」

『いいねぇ。倉庫で分解しようじゃないか』


うれしそうな返事をするジョシーはやっぱりジョシーだと思う。

こいつはこういう裏表を使い分けているんだろうな。

いや、それは傭兵全員が言えることか。


「よし、確認手伝ってくれて感謝だ。あとはゼランたちに大陸の大まかな情勢を聞いておくといい」

『何かまた面白いものがあったら知らせな』


そういって連絡を切って俺はガスマスクを装着してから車のドアを開け、それを盾にしながら銃を持った腕だけを出して……。


ドンッ。


発砲して炭のど真ん中に穴をあける。

……反応はないようだ。

死んだふりの可能性はなしと。

俺は再度周囲を確認しながら焼死体の方へと近づく。


「……この場合成仏してくれっていうのか?」


そんな的外れなことを考えながら、俺はその死体を死体袋に入れてからアイテムバッグに押し込む。

いやー、こういう時だけは魔法って便利だと素直に思う。

普通このあと車に積み込むとかいう重労働がいるのだが、そういうのがないのは本当に楽だ。

この技術だけでも地球にもって帰ればひと財産どころじゃなくて、技術をめぐって戦争になりそうだな。

……ま、そういうことは帰れる方法が分かってからでいいか。


「さて、あとほかに魔族の死体はと」


ドローンの映像から魔族たちが一か所中央にまとまっていたのは確認している。

一人の遺体があったのだからほかの物もあってもおかしくはないが……。

辺りを見回してもそれらしい焼死体は見つからない。

原型をとどめていたのはこいつだけということか。

それか、大爆発のせいで上空に吹き飛ばされ、あらぬところに落ちている可能性もあるが、それは探しようがない。

とりあえず、車に乗り込み爆心地から移動をする。


「あとは、落ちている炭を多少拾っておくか」


おそらくバウシャイの住人だった破片。

少しでも持って帰って故郷に戻してやるぐらいはしてもいいかもしれない。

むろん、俺たちの見分が終わってからにはなるが。

こうすることで、結城君たちの罪悪感もまぎれるだろうさ。

こういう行為は正直俺にとってはあまり関係ないが、人によっては心の安定につながるからな。

どこの国でも遺体は余裕があるのであればちゃんと弔ってやるというのは当たり前にある。

俺たちみたいな傭兵は死体はそのままなんだけどな。

いや、実に罰当たりなことで。

そんな風に皮肉に笑いながら、シャノウに戻ることにする。


「こっちは調査終了した。戻る」

『わかったよ。気を付けるんだよ』


俺の連絡に返事をしたのは、結城君じゃなくてノールタルになっている。


『アキラは休んでるよ。やっぱり気分が悪いんだってさ』


俺の疑問を感じ取ったのかすぐに答えを言うノールタル。


「そうか」


ただ俺はそう返す。

休むことも必要といったのは俺だしな。


「ああ、何か周りに何か変化はないか?」

『いや、ないよ。ああ、そういえば爆心地に行った際に入れ違った冒険者とスラムの連中には気を付けるんだよ』

「了解」


ああ、そういえばそういうのもいたなーと思い出す。

確かに車の速度だと追い越してしまうだろうな。

そこは注意しておかないといけない。


「そういえば、ギナスや冒険者ギルドからは連絡はないのか?」

『いえ、まだどちらからも連絡はありませんわ。今事実確認をしているのではないでしょうか? 先行して連絡していた人が戻っただけですし』


大和君の言う通り確かにその可能性はあるが、ギナスがそんなのんびりした行動をとるか?

いや、俺たちに掛け合うよりも上の方が先か。

領主がこの報告を聞いてどう動くかも見ものか。


「とりあえず、その連絡が来たら俺に回してくれ」

『わかりました』

「あと、ジョシーへの情勢説明はどうだ?」

『ああ、大体終わったよ。まあ、タナカ殿と同じようにしかめっ面だったけどね』


そりゃー、あんな適当な地図と、伝聞だけの情報だとな。

いくらジョシーでもそんな顔になるだろうさ。


「感想を聞こうじゃないか」

『これじゃ動きようがないね。とにもかくにも連合の勢力に食い込む何かが必要だよ。それがこれってわけか』

「わかってるじゃないか」

『それぐらいはわかるよ。これで対等の相手とみてくれるといいんだけどね。私を呼び出した連中の頭の中身を考えると心配極まりないね』


それはジョシーと同じように同感だ。

国の大きさというのは理解できていない人が多いからな。

まあ、こんな文明レベルだと国家間のバランスなんて二の次が多いだろう。


「と、そういえば予知に関しては何かあるか?」

『ん? ああ、そっちに関しても面白いことが分かったよ。それは戻ってきてから説明するよ』


へぇ、あのお姫さんの予知に何かヒントでも見出したのか?

俺はジョシーが何を説明するのかを楽しみにしつつ、アクセルを踏んで速度を上げシャノウを目指す。

ひとまず、今回例の予知からの襲撃はなかったが、今後も警戒するの面倒だ。

ジョシーの見解が役に立つことを願うね。




生存者なし。

残骸が残るだけ。

地獄の様相だけど、実際現実でも起こったことだからそういう事実があったことは忘れないようにしたいね。

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