第324射:信用できる
信用できる
Side;タダノリ・タナカ
「よお。もどったよ」
「そうだな」
「ほれ、土産だ」
そういって、ジョシーは俺に市場で購入した果物を投げる。
それを受け取るが、そのままテーブルに置く。
「なんだ食べないのか?」
「汁がついてべたべたするからな」
汁がつくと本当にべたべたするからな。
美味しいというのはわかるが、それでも皿とナイフフォークを持ってからだな。
その回答にジョシーは意外そうな顔をして……。
「お前、そんなにきれい好きだったか?」
「日本で何年暮らしたと思っている。日本はハエがたかるような食品は扱わないんだよ」
「は? なんだそれ?」
信じられないという顔だ。
うん、実際日本の衛生観念はものすごい。
ほかの国じゃなかなか見られない光景だからな。
最近はようやく先進国はハエがたかるような食品販売はしなくなったが、発展途上国はまだまだだ。
「というか、普通に仲良くなれたのが驚きだな」
そう、果物のことはどうでもいい。
問題というか、なぜかこのジョシー意外なほどにコミュニケーション能力が高かった。
俺が知っているジョシーはただのトリガーハッピーで、戦闘狂だ。
だからこそ、弾幕榴弾落ちる場所で前に飛び出したんだが。
「は、だから言っただろう? 一人でやっていた時もあったんだって。ガキどもの世話ぐらいできるさ。そうでもないと普通の都市で過ごせないだろう?」
「確かにな」
そういわれると、なんとなくわかる。
俺たち傭兵団は常に戦場にいるわけじゃない。
一回の仕事で大いに稼いで都会に戻って豪遊するというのがいつものパターンで、治安が安定している地区に行くということだ。
そこで馬鹿やるやつはさっさと捕まって退団することになるからな。
ジョシーはそういうトラブルは一切起こしていなかった。
……改めて思い出したがやっぱり驚きだな。
まあ、そういうトラブルはってだけでほかのトラブルは多かったけどな。
「ちゃんと仕事ができるかはこれから確認していけばいいか」
「信用無いね」
「男を食い漁って、傭兵団に文句言った馬鹿が何人いたと思ってる」
「あはは。そりゃ、ダストたちの信用の問題だろうさ。こんな美人があんな男くさい傭兵団にいるんだからそういう風に見られたんだろうね」
「警察沙汰で面倒極まりなかったからな」
なぜかジョシーが食うのは同業者じゃなくて、若くて純情な奴が多いからな。
無理やり傭兵やらされてるって勘違いしたやつが堂々と正規手順でくるから対応が本当面倒だった。
「それで、ここで喋ってていいのかい?」
「ああ、そうだな。じゃ、こっちは任せるぞ」
「おう。魔族の破片でも持ってきてくれたらうれしいよ?」
「もっと女らしいものを要求しろよな。ほら」
俺はそう言って、魔族相手の銃器をスキルで出現させてテーブルに置く。
「随分といい物くれるねー」
「俺たちはものがあってこそだろう? あとドローンの操作練習はどうする?」
「練習用に3機ほどよこしな。それだけあればなんとかなる」
「わかった」
俺がそう言ってドローンも出すと、大和君が驚いたように口を開く。
「そこまで、えっと、いいのでしょうか……」
ジョシーにドローンの操作を渡すのは心配なんだろうな。
確かに、これを上手く使えば俺たちも危険になる可能性がかなり高くなる。
だが……。
「話を聞いてジョシーは信用できると判断した。マノジルの爺さんの縛りもあるし大丈夫だろう。それはノールタルとかヨフィアも同じだと思うが?」
俺がそう言って視線を向けると……。
「そうだね。私は信用できると思うよ。男を食うっていうのはまあ、人それぞれだしね」
「何かあれば後ろから刺してあげますから、ナデシコ様ご心配なく。あと、アキラ様に手出したら問答無用で殺しますからね」
「お前にできるといいな」
殺害宣言に笑いながら対応するジョシー。
俺たちの業界ではよくある話だ。
こういう軽口が出ている間はいい。
「だとさ。あとは大和君次第だが?」
俺は2人の反応を見てそう問いかけると。
「はぁ、わかりました。私も話してみてそう悪い人ではないというのは分かりましたし、私の心の問題なのでしょう」
「なはは。真面目だねぇ。ま、それがナデシコのいいところだろうさ。私は契約がある限りは敵にはならないさ」
「うん。よろしくージョシー」
「ああ、ヒカリ。よろしく頼むよ」
そう言って、ルクセン君は普通に話している。
撃たれてないからこその対応かな?
いや、もともとそういう資質はあったか?
まあいいか。それよりも今は……。
「じゃ、納得もできたとこだし、俺は現場に行ってくる。敵が襲撃してくる可能性もあるから、ジョシーは頼んだぞ。遊び無しでやらないとお前もまた死体に戻るからな」
「わかってるよ。あの映像をみてスペックは人を明らかに上回っているのは確認しているから遊んでるとこっちが死ぬのはわかるさ」
「ならいい。ドローンの操作はルクセン君たちがしっているから聞いておくといい。あと、ゼラン。ギナスの使いが来たら連絡をくれ」
「わかったよ。領主と冒険者ギルドはどうするんだい?」
「そっちも待てだな。俺がいないと判断しようがないだろう?」
「そうだね。わかったよ。私は引き続き知り合いの商人たちから情報を集める」
「ということだ、ジョシー。この地域のつながりとか聞きたければそこのゼランに聞け」
「ああ、なかなかできそうな女みたいだな」
ジョシーにそう伝えて俺は一人外にでる。
魔族の遺体確認をするだけだし、下手に人を連れて行くと速度が遅くなるし何かあったときの対応も遅れる。
俺一人の方が動きやすいって話だ。
「無線、通じているか?」
『はい。大丈夫です』
そう返事を返してくれるのは結城君だ。
ついでだ、さっきの話を聞いておくか。
「話ついでだ。結城君は先ほど何も言わなかったが、そこは大丈夫か?」
『ええ。まあ、納得がいったかどうかでいうとちょっとアレですけど、仕事だからってジョシーさんは言ってましたし、なんかそれは俺もわかっちゃいまして』
「なるほどな」
仕事といわれると、俺たちも冒険者として命を奪ってきたことには変わりないからな。
「まあ、あとから不満が出てくることもある。ジョシーはそれ以外にもちょっと面倒だからな」
『なんだとダスト』
「文句があるなら大人しくして見直させてみせろ。で、ジョシーのことはいいとして、現場の監視状態はどうだ?」
『はい。ドローンに映る限りは特に動くものとかは見えないです』
『ははっ、あれだけきれいさっぱり吹き飛ばして、燃やしてるんだ。残骸はあるけど、生きている物は見当たらないね』
「おお、煙が晴れたか」
ナパームでこんがり焼いていたから煙がもくもくだったが、それもようやくなくなったか。
到着していた時に煙があったらどうかと思ったけどな。
正直一番怖かったのが、森の火事だったんだよな。
敵を逃がすからとはいったが、実は森ごと吹き飛ばせないことはない。
だが、その後の災害を考えるとできなかったわけだ。
森を吹き飛ばしてナパーム処理をすればものすごい範囲が燃えてしまうだろう。
そうなれば生態系に影響がでる。
いざとなれば手段は問わないが、俺たちが探しているヒントが森にある可能性も捨てきれない。
この町の生産業にも影響がでるかもしれないしな。
周りに恨まれるようなことはしないにかぎる。
だから、森から囮を使って引っ張り出したところで燃え広がる心配はないと判断して、吹き飛ばして消毒としてさらに燃やしたわけだ。
「これで生きていたら驚きだな」
『ですねー』
『正直、生きているならどういう状態で生きているかが大事だね。それを調べて対策を立てる。今後そういうのを相手にしないといけないから絶対に必須だよ』
「だな」
ジョシーの話はもっともだ。
相手が生きているならその様子を見て対策を立てないといけない。
「とりあえず、そっちで動きがあったら教えてくれ。俺は運転するからな。画面に注視はできない」
『とうぜんですわ。よそ見運転で事故になれば大変ですわ』
『安全運転大事だよ。魔族と戦うかもしれないのにその前にケガとかあれだしね』
「ああ、気を付ける」
大和君やルクセン君の言う通りだ、よそ見運転で事故なんか起こして戦闘不能というのはあれだしな。
俺はそんなことを考えながら、シャノウを出てしばらく歩いてから装甲車を出して道を走る。
『おまえ、こんなのも出せるのか』
「フリーゲートも出したんだからこの程度はどうにかなるだろうさ」
『便利だねぇ。あとで私の分もいいかい?』
「信用できたらな。と、ドローンでこっちを追いかけているんだろう? 何か先に見えるか?」
俺は上空から練習がてらついてきているジョシーに様子を聞いてみる。
『特になにも……まて、およそ10キロほど先でなにやら集団が移動しているな』
「人か?」
『人だ。とはいえ、私はここら辺の人の服装がよくわからんからどんな集団なのかはさっぱ……』
『まって、あれって冒険者のみんなと、ギナスさんの所じゃないかな?』
『そうですわね。冒険者の皆さんの人数にしては多いですし、ほかのメンバーも先日の映像で見たことがあります』
そう言われて俺は車を止めて、いったん映像を確認する。
「確かにギナスの所と冒険者の連中だな。先行した連中以外は固まって撤退しているみたいだな」
意外と仲間意識が強いのか?
『ふぅん。仲間ってことか?』
「いや、どちらかというと裏で雇っているって感じだな」
『直接的なつながりはないと。じゃ、事情を聞くぐらいでいいんじゃないかい?』
「事情を聞くほど余裕がないだろうな。本人たちは軍勢がこっちに向かってきているぐらいしかしらないはずだ。爆風のことは知っているだろうがな」
確認に戻ったやつはいなかったはずだ。
『なら下手に顔を合わせるのは無しだな。戻ってきてから上を通して話しを聞いた方がいい』
「だな」
ということで、俺はその場で装甲車から降りて、装甲車をしまい少しあるいてから隠れて、向かってくる連中をやり過ごしてから、再び目的地に向かうのであった。




