第316射:接触
接触
Side:タダノリ・タナカ
さてさて、こっちもメンバーが集まって戦力が……安定はしていないな。
正直にいうが、戦力的には俺は自分以外はまだ信用できていない。
裏切らないという意味では今のメンバーにそういうのはいないと思うが、実働的にはというやつだ。
作戦立案にしても同様。
まあ、今まで素人だった連中に防衛作戦を考えるとか無理な話だよな。
とりあえず、結城君たちにはそれを覚えてもらうだけでも御の字だ。
経験をしないことには先に進まないからな。
で、あとは偵察隊が接触してつり出してくれることを願うばかりだが……。
「どうじゃ?」
そう思いながらモニターを見つめていると、マノジルから声をかけられる。
「爺さん。夜更かしはつらくないか?」
「別に気にならんのう。年寄りは昼寝てても文句はいわれんからな」
「いい身分だ。で、先行している偵察隊だが、そろそろ運がよければ接触するだろう位置にきているな」
「ほう。ならつり出せるか?」
「そこはまだわからないな。ゾンビの連中は敵を発見した際に上官に伝えるなんてことをするか? っていうのがあるからな」
「あー、普通のゾンビだとそういう知能はないじゃろうな」
「やっぱりそうなのか。俺はその手のモンスターを見たことは無くてな」
映画やゲームなどのフィクションの世界でなら知っているけどな。
そういうのは頭に弾丸をぶち込めば終わる。
それと同じだといいんだが……。
「ほう。お主が魔物のことについて調べていないというのは珍しいのう。自分の脅威になるものは徹底的に調べ上げるものだと思っておったが?」
「一応調べてはいる。ゾンビは人の死体に残った魔力が魔石化して死体を動かすっていう説明だった。しかし、問題なのは、その死体の元がどれだけ魔力やゾンビに対する才能があるかどうかで、強さがまるっきり変わるってところか。話だけじゃさっぱりわからん。話を聞こうにもこっちにのこって警戒と情報収集だったからな」
「なるほどのう。やはりよく調べておる」
そうマノジル爺さんは言ってくれているが、実際の現場では役に立ってないので意味がない。
ゾンビの種類を知っていても、それを見極められなければ意味がない。
ドローンからではどれが戦闘能力の高いゾンビなのかさっぱりだ。
「ほめてもらって悪いが、敵を釣れなければ意味がないからな。それで爺さん、どうしたら釣れるとおもう?」
「ふむ。ドローンの方から魔族の連中に一発いれるといいじゃろう。そうすれば嫌でも周りを警戒する。そうすれば、騒ぎを聞いた偵察隊もそこに集まって……」
「鉢合わせるか。まあ、それぐらいしかないな。ここで逃げられても問題だ」
俺はマノジル爺さんの意見を採用して、ドローンを一機近づけていく。
「ん? まさか今からやるのか? 勇者殿や姫様たちに相談は?」
「する理由がない。これから起こるのは偵察隊が偶然、魔族が引きつれたゾンビと遭遇するだけの話だ。実際話したところで、この方法が変わるわけもない。時間を無駄に浪費する必要もない」
結城君たちは悩むことだしな。
その間に半端な接触をして貰ってもこっちが困る。
確実にこっちに引っ張ってもらう必要があるわけだ。
「ふむ。確かにのう。とはいえ、今やればタナカ殿は徹夜になるんじゃないかのう?」
「別にそれはなれたもんだ。こっちで状況を動かせるほうがいい。相手に主導権を取られるとそれこそ落ち着いて寝られんし、夜の炎はどっちにとってもよく見えるだろうさ」
「そうじゃのう。お互いにとっていい目印になるのは確かじゃ。しかし、被害はその分拡大するかもしれんぞ?」
「黙っていてもでるんだから、そこは合図を出した分警戒しない方が悪いだろう?」
「まったく、ああ言えばこう言うのう」
「何が起きても臨機応変に対応するのが現場の仕事だからかな。それができなければ前線の兵士は死ぬしかないんだよ。まあ、戦線を死んでも維持しろって言われているならどうしようもないが、向かっているのは偵察兵だからな。状況に応じて動けなければ意味がない」
「確かにのう。そのとおりじゃ」
幸いマノジル爺さんはこの手の話には理解があるから止めるつもりはない。
先ほど相談しないのかというのは後で非難されるかもしれないと言うことからだ。
勝手に動くのは反感を買いやすいからな。
「で、そっちの女王様は反対かい?」
とりあえず、一国の女王にはお伺いを立てておこう。
しっかり起きているみたいだしな。
「いいえ。話を聞く限り止める理由はありません。そして皆の意見を聞く暇もないようですしいいでしょう」
「そりゃたすかる」
「ですが、確認したいことが一つ」
「なんだい?」
「確実に敵を止めることはできるのですか? そこが一番大事です」
リリアーナ女王の視線は鋭いものだった。
回答に少しでも迷いがあれば否定に回りかねないが……。
「確実に止めるというか殲滅する。それだけの火力は揃えた」
「それで失敗した場合は?」
「敵が逃げるか、そのまま向かってくるかだが、敵が無傷だった場合はもう逃げるしかない。それだけの相手だってことだ。敵が逃げるならドローンで追って止めを刺すか、足跡を追うか悩むところだな」
爆薬満載で仕留められなければ本当に面倒な相手でしかないし、逃げるやつは情報漏洩の危険はあるがどこまで逃げるかの情報を集めたくもある。なので迷うところだ。
で、俺の回答を聞いた女王様だが……。
「いいでしょう。それだけ判断がはっきりしているなら被害も拡大しないでしょう」
「いや、敵が罠の火力を無傷で乗り越えたなら被害は甚大になるぞ」
つまり、敵はそれだけの耐久力があるってことだ。
それを打倒する力はシャノウにはない。ということは対抗できないということで、全滅するしかないということだ。
「そんな敵がいれば仕方がないです。何よりその情報が得られたことを喜ぶべきことですね。ええ。そういう厄介な敵がいないかを確かめるためにも今回の作戦は必要不可欠でしょう。そんなことを知らずに戦場で対峙してしまうことほど愚かなことはないですから」
「納得してくれたようで何より」
厄介な敵がいるのであればこの罠で判明するというのも事実だ。
そんな奴相手に真っ向勝負するなんてただの自殺志願者だしな。
「まあ、色々話ているけどさ。まずは腹を膨らませてやるんだね。ほら」
いつの間にか現れたノールタルはそう言って俺たちにパンを渡してくる。
焼きたてのようだ。
「ゼランの所で窯を借りてね。焼いてみたんだ。どうだい?」
「ああ、美味いぞ」
「はい。姉さん美味しいです」
「ええ。本当に」
そうしてしばらくもくもくとパンを食べた後……。
「さて、眠くならないうちにやるか、偵察部隊の連中もほとんどが森の前に到着している。ここで火柱でも上げてやろうじゃないか」
俺はそう言って、音と光が目立つ閃光弾を魔族の所に狙いを定めて……。
ポポン。
そんな軽い音とともに弾が放たれて、一拍の後夜の闇が一瞬で光に包まれて静寂が大爆音で破られる。
「さ、お互いどう動くかな」
「普通に偵察じゃろう。お互いに」
「ですね。ここで様子をうかがわない偵察兵など意味がありません」
「だね。でも、動きを見るとやる気度が分かるねー」
ノールタルの言う通り、領主軍、冒険者、スラムのチームで動きが違った。
まず、いい動きを見せたのがスラムチーム。一人を速攻で帰した。おそらくギナスの所だろう。
そして、残ったチームから偵察を単独で4名程潜入させた。
次に冒険者チームは返すことはせず、辺りを警戒をして、半数を偵察、残り半数はこの場に残って連絡待ち。
最後に領主軍。伝令を出さずに、なんと部隊の4分の3を森に投入。残りが待機。
あー、まあ別に悪い判断でもないのか?
対処できると判断しているなら数が多い方が戦闘は安定するもんな。
意外と領主軍が強くて魔族たちを殲滅する可能性もある。
……かなりの大博打にはなりそうだけどな。
「魔族の方はどうですか?」
「魔族の方も、もちろん気がついているな。そっちはすでに動き出している」
偵察しているドローンの映像にはすでに魔族の姿はなく、なんと全員が動いている。
真面目にこいつらに指揮官とか計画性というのはないようだ。
それに合わせてゾンビたちも動き出している。
本当にこいつら何が目的なんだよ。
「となると、ぶつかるのは時間が掛からぬか」
「そうだね。できればアキラたちのためにも少しでも多く生き残ってほしいけどねー」
ノールタルの願いは正直難しいだろう。
魔族を相手でも難しいからな。
「……森の様子わからないね。ゾンビのうめき声と足音ぐらいは聞こえるけど」
「夜だしな」
ノールタルも森の状況を見極めようと目を凝らしているが、真っ暗な森を確認することは難しい。
今日は雲の出ていて、森の影は真面目に真っ暗だ。
こんな中に偵察に行く連中もかわいそうに。
「そういえばタナカ殿、夜にも見える……何じゃったかな? そういうのがあるとか言ってなかったか?」
「あー、サーマルカメラか。とはいえ、まあやってみるか」
とりあえず、マノジルの言うようにナイトビジョンに切り替えるが……。
「何にも見えないけど?」
「そりゃ、森の枝葉が生い茂っているからな。木が隠れ蓑になる。上空からの攻撃もこういう風に回避できるからこそ、俺は魔族の連中を外に引きずり出したかったわけだ」
「なるほどのう。上を取っただけでは勝てないということか」
マノジル、空を取った時点で勝ちはほぼ確定だ。
今回は敵の殲滅を目的としているから勝利条件が厳しいだけ。
あとは、ほかのルートでこのシャノウやフリーゲート艦が落ちれば俺たちの負けとも言えるだろう。
と、そんなことをしているうちに、マイクに叫び声が届く。
誰かやられたな。
そう思っていると、森に入ったスラムチームが全員無事に戻ってきた。
即座に森の外に待機しているチームと合流すると即座に撤退を開始。
判断が早い。最初から合言葉を決めていたんだろう。待機していたチームはテントなどはそのまま放置して即座に撤退。
その後20分ほど遅れて冒険者チームも戻ってくる。
数人腕をかばっていたりするが、走れないことはないようで軽傷に見える。
そのあとはスラムチームと同じく素早く逃げている風に見えるが……。
「冒険者のチームは入っていった人数と合いませんね」
「ですのう。何人か足止めになったのでしょう」
「それはいいけど、領主軍はなにやってんのかなー。ほかのチームが撤退したのは見ているよね?」
そう、スラムチーム、冒険者チームが撤退したのは見たはずだが領主軍は動いていない。
まあ、入っていったメンバ―の方が多いし、あとは指揮官も入っていった可能性がある。
だから動けないって所か。
とはいえ、伝令をようやく領主軍は送り出す。
これで最低限連絡は届くだろう。
さて、あとは敵が釣れるかどうかだが……。
さあ、偵察隊の運命は。
そして田中たちの新大陸での戦いも幕を上げる。




