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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第313射:忘れていたころに

忘れていたころに



Side:ナデシコ・ヤマト



「……相変わらず、ものすごい作戦を考えますわね」

「撫子。顔ものすごく納得してないよ」


光さんにそう指摘されても私は表情を変えることができません。

何せ、被害が出るとわかっているのにそれを止められないのですから。

自分の不甲斐なさに怒りが出てきます。


「シャノンさんは大丈夫だっていってたんだけどな……。それはなー」

「失礼ですが、全く信用なりませんわ。私たちに敗北する程度のギルド長に、斥候専門の冒険者がいるといっても……」

「魔族に探知されないように調査なんてできるかっていわれると微妙だよね」

「とはいえ、魔族がバウシャイのゾンビ連れて移動しているのを調べてくれっていうわけにもいかないしな」

「……ですから北の森を調査してくれとしか言えません。警戒をしてくれといっても私たちはただの新人冒険者。そのような者の言葉を信じてはくれません」

「でもさ、一応依頼は私たちだけどゼランさんもついてきてくれたから、慎重にやるって言ってくれたよ?」


確かに、ゼランさんが依頼をする際にはついてきてくれて子供のお願いじゃなくて、商人からの依頼だということにしてくれました。

何より金額も相場よりもはるかに上であり、危険であることも噂で聞いたと伝えています。

だから、何かあっても冒険者たちの責任ではあるのですが……。


「……死ぬのをわかっていて見送るのがこれほどとは思いませんでしたわ」

「……作戦の内って言われるとねー。あの人たちは大丈夫だって言ってたけど」

「……何人戻ってこれるか。いや、自業自得ではあるんだけどな」


晃さんの言うように、これで被害が出た場合は確かに冒険者たちの自業自得でしかありません。

ですが、死地だとわかっているのに何もできなかったのは何とも罪悪感が、消えてくれません。


「気にするな。情報は伝えた。というか、これをしなければ魔族とゾンビがいきなりこっちに来て遭遇戦になりかねないからな。そっちの被害を押さえたと思った方がいい」


そう言うのはこの作戦を立てた田中さん。

シャノウののんびりした人たちに危機感を持ってもらうために偵察の仕事を依頼する。

そして、発見した魔族とゾンビの集団に攻撃を仕掛けてもらおうというのが田中さんの目論見です。

確かに、敵がこちらに来るのであれば早期発見できた方がやりやすいというのは分かりますが、そのためにわかり切った犠牲を出すというのにどうしても慣れません。


「声が届かないとこうするしかないってことだ。まあ、ギナスの方は問題なさそうだけどな」

「それは、タナカ様が直接言ったからですよねー。ギナスさんはタナカ様の実力を理解していましたし」

「だからこそ、ギナスは喜んで協力してくれるだろうさ。敵の姿を発見すれば表の連中に働きかける。領主もギルドも動くだろう。犠牲が出ているならなおのことな」

「……それなら、ギナスさんの所だけっていうわけにもいかないよね」

「ギナスだけ割を食うのは不公平だな。俺たちは関係各所に平等に伝えた。そこでどう判断して周知したかで被害が変わるだけの話だ。仕事に不真面目な奴が死ぬだけだ」


田中さんの理屈には何も問題はありません。

私たちの言葉が届かないから、実際見てもらおうというだけです。

ちゃんと注意はしました。あとは本人たち次第。

それは、わかっている。わかっているのですが……。


「大和君。その感情は正常だ。つらいなら寝とけ。とはいえ、自分が突っ込んでとかは思うなよ」

「それは無謀だとわかっていますわ。だから、この作戦に協力したのですから」


私もこれが最善と思うから協力したのです。

私たちだけで解決できるのであれば何とかしています。

ですが、今回は何としても敵を殲滅して魔族から情報を得る必要があります。

半端に攻撃をして逃げられでもすれば、私たちの存在が敵にばれて何をされるかわかりません。

後方の港を襲って町一つ滅ぼしたのですから、私を後ろから襲うぐらいはしてくるでしょう。

だからこそ、シャノウという町が偶然見つけたということにしなければいけないのです。


「しかし、その様子を見ると、ギナスのところ以外は真剣さが足りないようだな」

「そりゃ、魔族って脅威を知らないからね。領主様は僅かに話を聞いているぐらいで、少しは偵察隊を出してくれたが、あれじゃね」

「冒険者ギルドも偵察だねー」

「いや、まあ聞く限り普通だけどな。情報が確かじゃないんだ。まずは偵察するのが当たり前だな。別に怠慢ってわけじゃない。ギナスの方は俺がすでに情報提供しているからな。それを元に動いているから戦力が違うのは当たり前だ。今回の偵察隊が敗走したら手助けして後退の予定だからな」

「助けにまわるのですか? スラムの人たちが?」


私はギナスさんたちの予定を聞いて疑問を持ちました。

スラムの人たちは表で生きる人たちは嫌いなのかと思っていましたが……。


「別にスラムは好き好んで敵を作るわけじゃない。ただ力がないとだめだから暴力が基本になっているだけだな。今回は表の代表ともいえる領主と広範囲に力を持っているギルドの連中に貸しを作るいい機会だ。喜んでやるだろうさ」

「うわー、なんか悪いこと企んでないかな。それ」

「そりゃ、助けるんだ見返りは欲しいだろうさ。まあ、ギナスがどういう場面で使うかはわからないが」


と、そんな話をしていると、ユーリアがマノジルさんを伴ってやってきて。


「タナカ殿お話もいいですが、今後の予定をしっかり話したいのですがいいでしょうか?」


そう言いました。

その顔は真剣そのもの、いつかの防衛戦を思い出させる顔です。

そう、絶望的な……って待ってください。


「ユーリア。何か見えたのですか?」

「……ええ」

「へ? 見えた? 何が?」

「んー? ってああ! 光。ユーリアって予知能力があっただろう」

「ああ!」


どうやら、2人も思い出したようで何よりです。

そう、ユーリアが私たちを呼んだのは予知によるもの。

最近はそんな話は全然聞きません。

確かにこのレベルでは信用も何もないでしょう。

無理にやるしかないと理解できます。


「で、何を見たんだ? 俺たちの誰かでも死んだか?」

「……いえ、それは分かりません。ただ、このシャノウが何かに襲われているというのは分かりました。その場にタナカ殿たちはいません。私たちだけで何とかしているという感じでした」

「このシャノウが戦場になるのですか?」

「おそらくは。だから、今後の動きをはっきりと決めたいのです」

「なるほどな」


そういうことでしたか。

私たちがいないときにシャノウが襲われるということは、田中さんの計画を聞いてそれが近々起こるのか判断するつもりなのでしょう。

私もユーリアの話を聞いてしまったのですから、聞かないわけにはいきません。

なにより、このシャノウを守るために、取った作戦が無意味になるということですから。


「まず、お姫さんが見たっていうのは間違いなくシャノウなのか?」

「はい。それは間違いありません。何せ場所はこのゼラン様の部屋での映像だったので」

「それで、なんで襲われていると思ったわけだ?」

「人々が逃げまどっていました。そして殺されていました。見たこともない異形の魔族によって」


……なるほど、それなら確かに魔族に襲われたとわかりますね。

しかも見たこともないですか。

やはり、敵にはまだまだ違う魔族がいるということでしょう。

そう考えていると、田中さん止まることなく話を聞きだします。


「で、敵はどっちの方向から来ているようだった?」

「え? 方向ですか?」

「ああ、人が逃げていった方向は、こちらの海側にか? それとも、こちらから表の方にか?」


方角?

その質問の意図を私たちは理解できずに首をかしげます。


「あ、え、えーと、確か、港の方から魔族がやってきて、表の町中へ避難していたように見えます」

「そうか。つまり、敵は海の方からやってきたってことだな」

「「「あ」」」


確かにその通りです。

敵が陸から侵入してきたのなら、人々は海側に逃げるはずです。

しかも向こうはゾンビを大量に連れているのですから、こっそり逃げることも難しいでしょう。


「となると、敵は別働隊がいるってことになるな。しかも俺たちが離れたところを狙っている所となると、こっちのことを把握しているか。それとも偶然か」

「うーん、そういわれると不思議だよね。この状況で、森のゾンビたちを倒しに行っている間に襲われるってことかな?」

「その可能性もある。お姫さんたちだけ残っているなんて言うのは、このシャノウの拠点にまだ俺たちがいるってことだからな。とはいえ、どの程度の戦力が海から来ているのかはわかったか?」

「いえ、そこまでは。しかし、大勢の人が逃げていたので、少数ではないでしょう」


確かに、多くの人が逃げているのであれば、それは脅威が一つではない可能性が高いです。

むしろそういう騒ぎには人が集まるものですから。


「そうなると、不思議じゃないですか? そんな大勢が港に乗り込んでくるなら、沖合で待機しているフリーゲートが気がつくし、ドローン偵察にも引っかかるんじゃないですか?」

「あ、晃の言う通りだよね。それを抜けてきたってこと?」

「別にあの船をシャノウの守りとしてつけているわけじゃないからな。俺たちが離れているならドローンで確認してても行動は起こせないな」


確かに、ドローンでトラブルを確認できても、対処にすぐ行けるわけでもありません。


「……田中さん。これではいつ敵が来るのかはわかりません。ユーリアが言っていたように最初はどうするつもりだったのかを教えてもらっていいですか?」

「そうだな。今の所は偵察隊が向かっているのをドローンで監視しつつ。一定のラインを越えたら追いかけて、予定キルゾーンに仕掛ける予定だったな」

「きるぞーん? キルゾーン。殺す範囲?」

「ああ。偵察の連中が見つかってシャノウに敵を引き寄せることになると思うからな。予測進軍路が読めたら、そこにトラップを設置して全部吹き飛ばす。生きてたら回収だな」

「あれ? 情報を抜き取るっていうのは?」

「出来たらの話だ。多くを求めると失敗するからな。しかし、今回のお姫さんの話はそういうことになりそうだな。敵を捕縛することよりも、後ろを守れってことだろう。外れても誰かがこっちに残って偶然生きていたやつを回収すればいい」


……普通に筋の通っている作戦ではあるのですが、何ともやりきれない気持ちがあるのは、私は真面目過ぎるのがいけないのでしょうか?



みなさん。ユーリア姫の能力覚えていましたか?

一応、大事なことですよ?


とはいえ、みんなが信じてくれない理由はわかったでしょうか?

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