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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第311射:境界線の先

境界線の先



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



存分に吐いて胃がすっきりしたと思って戻ってみれば、大型モニターにゾンビのドアップが映っていて大声を上げちゃったよ。

いやお恥ずかしい。でも、そんなことよりも……。


「敵の本隊をみつけたのですね」


一緒に吐いて一緒に叫び声をあげた撫子がそういう。

そう、今画面に映っているゾンビは僕たちが探していたバウシャイを襲った魔族たちが連れているんだろう。

つまり、敵の場所と情報が手に入れられるってこと。


「この魔族とゾンビはどこに向かっているの? 冒険者ギルドから地図交渉してもらった方がいい?」

「必要になったときは頼むが。今は特に焦ってはいない。ギナスを連れてきてこの映像を見せてもいいし、ゼランに地図の方は頼んでいる。何より、結城君に進行方向に町や村が無いか確認してもらっているからな」


そういわれて、横を見ると、晃が一生懸命にモニターを見ながらドローンを操作している。

晃は僕たちが戻ってきたことには気がついていたのか、軽く手を上げて「よっ」っていうとすぐに操作に戻ってしまう。


「今の所、進行方向に村や町は無いな。とはいえ、どこかの街道に出て町や村を襲う可能性がゼロじゃない。なるべく早く一帯の地勢は把握したいところだな」

「なるほど。つまり、この集団はシャノウに来る可能性はそこまでないのですね?」

「そうだな。大和君の言う通りわざわざシャノウに来る理由がないってところだな。シャノウに来るのならもっと前に針路を変更しておく必要がある。今から方向転換して襲うっていうのも時間が掛かりすぎる。まあ、敵が方向音痴で道に迷っているなら来る可能性はあると思うが……」

「道に迷う程度なら誰も困らないよねー」

「ルクセン君の言う通りだな。そんなアホなら敵になっても困りはしないだろう」


確かに、そんな馬鹿なら僕たちもそんなに困ったりはしないだろうねー。

となると……。


「この集団って何かを目標に移動しているってことかな?」

「だな。まっすぐ進んでいる。道に迷っているっていう感じじゃない。何か目的があるんだろうが、今までもらった地図から判断してもさっぱりだ」


田中さんはそう言いながら片手で以前手に入れた地図をひらひらさせる。

ああ、ただの子供の落書きレベルね。

確かにそんなのがあっても役には立たないよねーとは思いつつ、何かわかるかなと思ってその地図を手に取る。


「見てみていい? 何かわかるかも」

「構わないぞ。何かわかるなら有益だからな」


田中さんは特に拒否することもなく地図を僕に預けてくれる。

そしてそれをテーブルに持って帰って広げてみる。


「うん。雑」


本当に雑。下手したら子供地図の方がましかもしれないって感じ。


「……何度見てもフォローのしようがないですわね。これで地元の商人たちはやっていけるのでしょうか?」

「そこは心配ないよ。本人たちは自分で道を歩いているからね。簡単な地図でいいんだよ。何より詳細な地図を持っていると間諜を疑われるからね」

「ああ、自分の身を守るためでもあったんだ」


そうか、この世界では詳細な地図は大事なものだった。

だからこそ詳細な地図は一部の人しか持ってないし、その地図を盗み出すと一族郎党処刑するってユーリア言ってたしな。

でも、田中さんの上空撮影地図を見て顔を引きつらせていたよねー。

手書きから実写の地図だし、一気にレベルが何度も上がってって感じだし。


「そうだよ。地図っていうのはそれだけ大事なものなのさ。どこが弱点とかどこから攻められるとかバレちまうからね。私たちの海図と一緒さ。とはいえ、タナカ殿にとっては意味がないようだけど」

「いや、意味はなくないぞ。雑な地図でもあらかた方向性が分かれば各地にドローンは飛ばせるからな。いい加減シャノウに来て地盤も固まってきたから、そろそろフリーゲートに待機させている連中にドローンを遠方に飛ばさせて、地図を作ることも考えているな」

「……案外そっちの方が私たちがギルド長から信頼を得るよりも早いかもしれませんわね」


うん。撫子の言う通り、僕たちが冒険者として実績を積み重ねるよりはそっちの方が早いような気がする。


「そうでもないぞ。冒険者ギルドが持っているのは冒険者が探し出した地図だからな。通常の地図とはものが違うだろう。森のルートとか、ダンジョンの位置とかだな。そういうのは手に入れて損はないから結城君たちはそのままがんばってくれていい」


へー、そうか。

なるほど、独自で地図をつくるんだから、自分たちの便利いいように作るのは当たり前か。

というか僕たちの目的を考えると……。


「むしろ、帰る手段を探そうってなると、冒険者ギルドの地図の方が有益かも?」

「ああ。未発見の遺跡とかダンジョンの情報は冒険者ギルドの方が国より正確に把握している可能性はあるというより、絶対にある。国を越えて組織を維持しているんだから、国を上回る何かが何個もないと取り込まれるからな」

「確かにそうですわね。冒険者ギルドが各国の情報を得ているということはそれだけ国の情報が洩れているということでもありますわ。それを地図の情報が洩れるだけで一族郎党処分するような国が無視するわけがありません」


確かにねー。重要情報を独自に握っている相手を国が放っておくわけないし、それに対抗する何かがあるんだろう。

いや、田中さんが言うように何個もあるから手が出せないんだろうね。

一個だけならそれを押さえればいいだけだし。

……あれ? 意外と冒険者ギルドって底が知れない存在?

この大陸の冒険者ギルドも、そしてロガリ大陸にある冒険者ギルドも。

いやー、グランドマスターのおじいちゃんはそんな様子はなさそうだったけど……。


「いや、あの爺さんもそうとう裏ではやってるからな。国ですら持ってない宝珠での通信機能とかあれだけでも国が奪い取りたいものだが、それをしていないというのはそれだけ冒険者ギルドを刺激したくない理由があるんだろうさ」

「あれ? なんで僕の考えてたことわかったの?」

「顔を見れば何となくわかる。と、そこはいいとして、やはり森の中を移動しているやつらはゾンビだろうな。全員血色のよさそうなやつはいない」


そういわれて田中さんの方を見ると、なんか片方のタブレットに一人一人写真を撮ったのかものすごい数の顔が映っていて、そのどれもが生きているような顔色じゃない。

真っ青だけなら具合が悪いで済ませられたんだけど、全員目が濁っている。

全員が失明とか白内障ってことはないだろうし、所々顔にけがをしていて、軽傷ってレベルじゃない。

でも、全員っていうのは……。


「田中さん。全員を確認されたのですか? もしかすると生きている人がいるかもしれませんが?」

「生きていたとしてどうなる? パッと見ただけでも300人はゾンビだ。ほかもゾンビになっている可能性が高い。何せ全員大人しくこの森を飲まず食わずで歩いているからな。生きている連中がいたとしても、町を出ていった期間を考えると、普通に死ぬな。テントもなければ食料もないからな」


あー、テントはともかく、食料がないと普通人は生きていけないよねー。

でも、それは町の人がもう……。


「……生き残りはいないのですね」

「この中にはいないだろうな。ま、何とか逃げ出した連中がいるかもしれない。万が一この中にいたとしても、俺たちじゃ助けようがない。見ていられないなら部屋に戻って寝ておけ」

「「え?」」

「なに意外そうな顔をしてる。人が無為に殺されるのを見て落ち着いていろなんて言わない。普通は誰だってできないからな。普通の感性を無くす必要はない」


意外過ぎる田中さんの言葉に驚きを隠せない僕と撫子だけど、最後の話で僕たちが向こうに行っても戻れるようにっていう配慮だっていうのが分かった。

多分、僕たちはこれ以上人が無為に殺されるのを見ていると壊れるって思ったんだろうね。


「暴走されてもこっちが困るからな」


田中さんはこちらを見ることなくドローンを操作しながらそういう。

そしてまた口を開く……。


「戦って死ぬのと、無抵抗の人が無意味に殺されるのを見るのは本質的に意味が違うからな。ぶっ壊れるやつは多い。そして耐えても異常って言われるだけだ。人の心はないのかってな」

「「「……」」」


その重い言葉に全員が黙る。

僕たちにその言葉を否定できるものを持っていなかった。


「魔族の情報は集めておいてやるから、結城君のドローン調査を手伝うか、地図を見て何かを考えることをすればいい。これは俺の仕事だ」

「うん。お願いするよ」


僕はなんとかそういうと田中さんはやっぱりこちらを見ることなく、ドローンを操作しながら……。


「ああ、それでいい。適材適所ってやつだ」


そう言って再び調査に戻る。

既に大画面には晃が操作するドローンの映像になっていて一面森が映っているだけ。

……多分、切り替わったのはそういう映像がでてきたからだよね。

見て何かが変わるけじゃない。助かる人がいるわけでもない。

でも僕たちが見ることで最後を見届けることに意味があるのかもって思ってたけど、田中さんがその役を引き受けてくれた。


そして、理解した。

やっぱり僕たちと、田中さんにはまだまだ遠い境界線が存在している。

それは戦いの腕ってわけじゃなくて、僕たち生きるために戦う普通の人と、仕事のために戦う傭兵の違い。

心のありよう。


でも、だからこそ。


「よし、撫子サボった分は挽回しよう」

「ええ。少しでも犠牲者を減らすために情報収集をいたしましょう」


田中さんにできないことを僕たちはする。

うん、それでいいと思う。

とはいえ、あの様子だとこの土地にいる魔族っていうのはよっぽどなんだろうね。

一体なんでそんなことをしているんだろう?

そこがとても僕は気になっていた。



人が壊れるって判定はどこでするんだろうね?

悲劇に何も反応しない人かな? そとも戦場を生き残った人?

なかなか難しいよね。

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