第302射:魔族とアンデッドの関係
魔族とアンデッドの関係
Side:タダノリ・タナカ
「……面倒だな」
俺はそう呟いて、タブレットに書き連ねられている資料を見つめる。
先ほどゼランからもたらされた情報を整理してみたのだが、どうしても……。
「フィエオンって国が発端だな」
そう、この地図を見る限り敵勢力のど真ん中に近くある国で魔族が発生したとみるしかない。
まあ、ゼランの情報が間違っている可能性もある。
どこかの山を越えて、海を越えて魔族が侵入してきたという可能性もゼロじゃないが、ギナスから集めた情報とほぼ同じなのが痛い。
嘘だといってくれってことだな。
つまり、状況的には……。
「ここが魔族生産地ってことになる」
冗談じゃない。
本当に冗談じゃない。
つまりだ、敵さんは魔族を作り出せるわけだ。
どう見ても死体を集めてだ。
しかも戦場での死体も即時利用できる可能性もあると来たもんだ。
「……なるほど。だから、町の連中がいなかったわけか」
そう、バウシャイの町がすっからかんになっているということは、こっちの材料のために回収したという理由につなげられる。
今まで死体を兵士にできるとはいえ、わざわざ後方の町を襲ってそれを材料にするなんてのは、非効率が過ぎるから今まで意図が読めなかったが……。
魔族を作れるとなれば話は別だ。
実際、魔族の戦闘力評価がどれだけかは知らないが、ノルマンディーを襲ってきた魔物が平均的だとすれば、あれを作る意味はある。
それだけ強敵だと俺も感じた。
何発もぶち込んで殺した相手だ。あれが数体いるだけでも通常の兵士では太刀打ちできないだろう。
まあ、数が多ければ体力切れを狙えるから数で押れれば退くしかないのもわかる。
その際に死体を回収している暇もなければ、綺麗な死体を作る余裕もないだろう。
だからこそ、後方で綺麗な死体を集めるために行動したっていうことだな。
「まあ、これもあくまで憶測にはなるな」
俺はタバコの灰を落としながら、タブレットを地図モードへと切り替える。
憶測から事実にするには証拠を見つければいい。
「さて、今までの話で遺体をゾンビとして連れて行っているのはほぼ確実だ。つまり、どこかを移動しているはず。なら何か痕跡が見つかるはずだ」
その痕跡を見つけるためには、地図を見てどのルートを通るのが最適かを考えないといけない。
といっても、連れて行っているのは死者の集団だ。
普通に国境を難民といって通るのは難しいだろう。
つまり、人が通らないようなルートで魔族の勢力地域に逃げるしかないんだが……。
「……地図が荒すぎるな」
そう、シャノウで仕入れた地図は、地球で使っている地図とは雲泥の差がある。
まあ、戦略上地図っていうのは一般的に売られているんものじゃないというのはこっちの世界に来てからしっているから、この地図だけでもギナスやゼランの努力の結晶なんだろうな。
とはいえ、使えない物には違いない。
なので……。
今まで、バウシャイの監視だけにとどめていたドローンを使って怪しそうなところの調査へと向かわせることにしてみる。
ルクセン君たちにでもたのもうかとも思ったが、まずはヒントでも見つけた方がいいだろうということで俺が自分でドローンを操作している。
「……戦争が実際に起こっていると聞いて表情が暗くなったからな。少しは考えさせる時間が必要だろう」
そう、ゼランからの報告で本当に魔族との戦争が勃発しているのがわかったしまった。
一応戦争を経験してはいるが、一度体験したからといって為になるというわけではない。
むしろ次が駄目になる連中は多い。
戦争トラウマ。PTSDってやつだ。
下手に参加させてそんなことになれば、俺はカウンセラーでもないから復帰させるのに時間がかかるか、一生復帰しない可能性もある。
ま、急ぐことはない。
「なにせ、俺の予想があたるってきまったわけでもない」
可能性は高いとは思うが、別に確定したわけでもないし、予想が当たったからといって即座に参戦するわけでもない。
「とはいえ、今後この大陸で俺たちが調査を進めていくうえで立場っていうのは必要なんだよな」
いかにゼランが手伝いをしてくれるとはいえ、国を相手に交渉をするのは簡単なことではないだろう。
その証拠に今だって情報収集に時間が掛かっている。
ゼランが上との交渉に手間取らないならさっさと情報は集まるはずだ。
まあ、知り合いが領主や町の権力者から情報を聞きだすぐらいに有能であるのはありがたい。
ギナスの時もゼランの知り合いでなければあそこまでスムーズに情報は得られなかっただろう。
俺たちがどこの伝手もなくギナスから情報を得ようとすれば血を流すことになったのは間違いない。
だが、ゼランの伝手もそろそろ限界というところだ。
ゼランは今までの付き合いから協力は惜しまないだろうが、それでも国が相手となるとなかなか難しくなってくるだろう。
だからこそ、これからどう立ち回るかで、今後のこの大陸の調査の進み具合が変わる。
そのきっかけになるのが、このバウシャイの町から消えた死体の謎だ。
「町の死体が魔族を作る材料になっているのなら、これを伝えることで連合軍の後押しをすることができる。立場もそれなりにもらえる可能性もあるが……下手をすれば俺たちが犯人ともいわれかねない危険もあるな」
諸刃の情報ではあるが、要はタイミング。どう使うかが大事ってことだ。
俺たちの情報を聞いて無視できない状態を作り出す。
それで俺たちの立場を確保するっていうのはいいよな。
まあ、命を狙われる可能性もあるだろうが、それはそれでいい。
敵は排除してこちらの力を見せてもいいからな。
幸い、その時には軍のお偉いに囲まれているだろうからな。
「ま、色々考えてはいるが、結局は俺の予想が当たってないと意味がない。普通にお姫さんや聖女さんの名前を使って交渉するのもありだが、そっちはそっちで時間が掛かるからな。利用できるものがあるんだ。そこを有効活用しないとな」
お姫さんたちを利用すると、それはそれで後が面倒だというのもある。
こういうのは自分の力でどうにかするに限る。
しがらみが多いと帰り辛くなるからな。
と、そんなことを考えながらドローンで敵の撤退路と目星をつけたルートを追っていくと……。
「おっと」
俺は森を進んだ先にあるちょっとした広場で死体が移動していた証拠かもしれないものを発見した。
上空からだとはっきりしないので、あたりに気を付けながらゆっくり降下をすると、その姿がはっきりしてくる。
「靴だな。こんな人が通ることもないような場所でな」
俺がドローン越しに確認したのは人が履く靴だ。
ゼラン曰く、この大陸にも魔物が出没するようで、森の奥深くなどは魔物が巣くっていて人が近寄ることはまずないそうだ。
そこで見つかる靴という人が着用するもの。
つまりここを通った人がいるということになる。
なぜ? そんなの分かりきっている。
「死体をゾンビ化して連れていくには人目につくのはまずいからな。そうなると街道とかじゃなく姿を隠せる森の中を進むしかない」
幸い、バウシャイから森がある方向は一方向しかない。
他の町へと続く道がある平野と、俺とヨフィアが隠れながら進んでいった山の方向だ。
残りは海に面しているので、外よりも楽だった。
下手すると海から船で離脱した可能性も考えたが、町の住人を考えると全員は不可能に近い。
何せ精々大きくて200人がのれる程度の船だからな。
ゼランが言うにはバウシャイの町は1万人には満たないがそれなりの人数が住んでいたらしい。
それを全員船に乗せようというのは無理があるだろう。
それにゾンビって操船できるのかという疑問もある。
そこまで賢いなら、魔族にするよりもそのまま兵士に加えた方がいいだろうしな。
だから大量のゾンビを連れていくなら、森しかないと思ったわけだ。
「しかし、それを考えると俺とヨフィアが侵入したルートだと状況が悪ければ出くわしていた可能性もあるわけか」
まあ、その時は戦っただけだろうが。
だが、それよりも大事なことは、このルートというのは……。
「下手するとシャノウを直撃するな」
そう、おおざっぱな地図でも記載されているように、山脈を挟んでバウシャイと俺たちが拠点にしているシャノウは隣り合わせなのだ。
隣り合わせと言ったが山脈が厳しすぎて、普通は通るような場所ではないんだけどな。
だからこそ、死体を連れて移動するにはいいルートだ。
「もうシャノウを通り過ぎているのか、それともまだ到着していないのか……。いや、もう通り過ぎているか」
バウシャイが襲われたのはすでに半年以上前。
いくら集団移動は遅くなるとはいえ、半年もあればあの山脈を越えるのには時間は十分だろう。
となると、どこを通った?
いや、まずは奴らが通ったルートを確認するか。
あと追えばどこを通ったかわかるか。
「さて、この夜の間にわかるか?」
そんなこと言いつつもそう簡単にわかるなら誰も苦労はしないよなと思いつつ、タバコの灰を落として夜の月を眺めるのであった。
「あ、山脈側のドローンを増やしてみるか」
材料を持って逃げるにはルートが制限されます。
さて、山脈を越えて1万未満のひとを連れてい移動するとなるとどれぐらい時間が掛かるんでしょうね?
そして、勇者たちはこの事態にどう行動を起こそうと思うのか?




