第297射:魔術の理不尽
魔術の理不尽
Side:アキラ・ユウキ
「「「……」」」
俺たちは今、この世界の非常識を改めて実感している。
何故なら……。
「よ、タナカ殿。そしてアキラ君たちも戻ってきたんだな」
「ああ。ようやく向こうについてな」
「そりゃよかった。いい加減こっちに顔を出さないから、魔物の餌になったっていう連中もいたからな」
「残念ながらそういうすごいのには会わなかったな。とはいえ、いても不思議じゃないとはおもうが、クォレンはそういう話は聞いてないのか?」
「いやー。流石に海の話はな。元々大型の魔物が棲むって言われているから、海に出るのは自殺行為でしかないって誰も出たがらないさ。命を担保に大型の魔物を確認する意味はあるか?」
「のちの人のためにはなるな」
「誰が命捨ててまでやるかっていうの。こういうのはタナカ殿ぐらいに力があるか、あとはノルマンディーにたどり着いた必死で逃げてきた連中ぐらいだろうさ」
と、タナカさんと、ルーメルの王都の冒険者ギルドのギルド長であるクォレンさんが普通に話しているからな。
そう、ここはルーメル王都。
ルーメルの近郊にこっそりとタナカさんが仕掛けたゲートを使ってルーメルまで戻ってきたというわけ。
ちなみに、エルジュとリリアーナ女王は自分たちの国に報告をするために別行動中。
お姫様も同じようにルーメルに報告中で俺たちはこうして結構お世話になったギルドへ顔を出しているんだけど……。
「やべー。マジでゲート、オーバーテクノロジーすぎるよ。あの一週間の航海を一瞬だよ、一瞬」
「ええ。本当にすごいですわね。ルルアさんのエクストラヒールもすごかったですが、ゲートもすごいです。こんな技術が地球にあればものすごいことになりそうですわね」
「いや、ものすごいっていうか、軒並み移動手段が変わって世界が大混乱になりそうだけどな」
ゲートとかどこのSFだよって言いたくなるよな。
それを実際に使ってこの場にいると、本当に魔術ってすげーって言いたくなる。
なんでこんな技術があるのに、こんなにこの世界の技術力がここまで低いのか不思議なほどだ。
まあ、ロストテクノロジーとか言うやつなんだろうけど……。
「ん? ちょっとまてよ。このゲートって今では扱われていない技術だよな?」
「そりゃそうだよ。こんな便利な移動方法があるなら、わざわざ馬車とかで荷物を運ぶ必要もないし、僕たちみたいによその国に何日もかけて冒険する必要ないじゃん」
「ですわね。それは分かっていたはずですが、今更どうしたのですか?」
「よく考えてみてくれ。ゲートみたいな超技術があるんし、俺たちを呼び出した召喚魔術とかいうものすごい魔術もあるんだ。これって普通にマノジルさんとかに魔術の研究するよりも、超文明の遺跡を探すって方向の方が可能性たかくないか?」
「あー、言われてみれば、そっちの方が可能性ありそう?」
「言いたいことは分かりますが、超文明の遺跡はどこにあるのかわかるのですか?」
光は少し悩んでいるようだけど、撫子はあっさりばっさり言ってきた。
「そこは調べないとわからないな。でも、魔術を調べるってことよりも俺たちが動ける範囲は広そうだろう?」
「あはは、僕たちじゃどうしても魔術のことはわからないしね。一応マノジルさんから教えてもらったけど、いまいちわからないし」
「確かに、魔術のことに関しては私たちは理解しているのではなく、使えるだけですからね。ですが、それを言えば超文明を見つけてもその知識がないのは同じことでは?」
「でも、ゲートみたいに完成品があればいいだろう?」
いちいちゼロから作り出す必要はない。
完成品を利用して戻れればいいだけだ。
「だよねー。魔術みたいに開発するんじゃなくて、完成品を見つけるっていうのはありかもしれないよ」
「ふむ。そういわれるとそうですわね。とはいえ、見つかっても使い方にも苦労しそうですが……」
「そこは頑張っていくしかないだろう。だけど、帰る方法が二つになるのはいいことだろう?」
「確かにそうですね。それに、見つかった時のことを今言っても仕方がありませんわ。その時に考えましょう」
「じゃ、今からギルドの資料室とかで遺跡のことを調べてみようか」
「だな」
ということで、俺たちはさっそくギルドの資料室に行こうとすると不意に声をかけられる。
「おや、ヒカリたちじゃないか。戻ってたのかい」
振り返ると、そこには情報屋のフクロウさんがいた。
「うげ、クソババア」
「ほんと口が悪いねこの血まみれ小娘が。海に出るってきいたからてっきり魚のえさにでもなったかと思ったんだが、あれか、魚も血の味がする小娘は要らないってことかい?」
「よし、その喧嘩勝ってやるから、訓練場に行こうか?」
はぁ、なんでこうヨフィアさんはフクロウさんに喧嘩腰なんだろうな。
とりあえず、戦闘になっても時間が無駄になるだけどなので、仲裁に入る。
「まあまあヨフィアさん落ち着いて。フクロウさんお久しぶりです。無事に海向こうから戻ってきました」
「ああ、アキラも元気そうで何よりだよ。まあ、あの噂の船が噂通りなら落ちる理由も見つからないけどね」
そうですね。
あのフリーゲートが落ちるとか敵は一体どんな大怪獣なんだって思います。
そんなのが海にいないことを本当に祈りますよ。
「海よりも大変なのは、陸の方だよフクロウさん」
「ええ。町が一つ無人になっていましたわ」
そう二人が告げるんだけどフクロウさんは特に気にした様子もなく……。
「別に珍しいなことじゃないさ。戦争だっていうのは聞いているからね。町の一つや二つ無くなることはよくあるさ。こっちだって、ロシュールとガルツが戦争の時には町や村がいくつも炎につつまれたもんさ。まあ、それでも今までの戦争に比べれば被害は少ないぐらいだけどね。そうやって廃墟になった町や村はこの大陸にもあるよ」
「「「……」」」
そういわれて、沈黙する俺たち。
確かに、こういうことはこの大陸でもあったんだよな。
俺たちが現場を目にしていないだけで、この大陸では大国同士がぶつかる戦争があったんだ。
そう思っていると、ヨフィアさんが動いてフクロウさんの頭をたたく。
「もうちょっとオブラートにいえんのか! このクソババァが!」
「いったいねぇ! そんなことを隠しても仕方がないだろう。何より戦争に割り込もうとしているんだ。人死にを見て固まっていたらきりがないよ。今のうちに慣れさせとかないと、いざという時に動けないよ」
なるほど、そういう気づかいだったのか。
でも……。
「それこそいまさらですぅー。ルーメルで闇ギルドとの抗争、ラスト王国との戦争でも死体は見てますからぁー」
「それでも大量の死体はないだろう。ラスト王国の時はあくまでも軍人、そして徴兵されたとはいえそれでも戦うことを覚悟した連中さ。でも、町が落ちたってことは戦えない人たちを無残に殺すことが多いからね。それは違うだろう?」
そういわれていやな気持になる。
確かに、ルーメルの時も、ラスト王国の時も、そして死を身近に感じたリテア聖国での冒険者の死はあくまでも死を覚悟した人たちの死を見てきた。
でも、それが町の人たち、戦えない人たちの死体とかは見たことがない……。
まあ、ラスト王国では鞭で打たれて死んでた人たちもいたけど、それ以上の人たちが殺されている。
それを見て俺は冷静でいられるんだろうか?
「まあ、それはそうですけど、そう簡単に死体積みって見られるもんじゃないですよ。普通邪魔になるからそのまま燃やすことが多いんですから」
「なんだ、町で大量に見たのは白骨死体か?」
「ん?」
「「「ん?」」」
「「「んん?」」」
なんか話が違う? いやずれている気がするって思っていると、クォレンさんと話していた田中さんがこちらに振り返って……。
「フクロウ。残念ながら死体の山積みをみたわけじゃないんだよ。白骨死体の山もな」
「ん? どういうことだい? 無人になった町をみたってナデシコが言ってたが?」
そこまで言われて、どこで勘違いが起きたのかがわかった。
その発言をした撫子も理解したのか、すぐに説明を始める。
「申し訳ありませんフクロウさん。文字通り無人の町だったんです。死体はおろか、争った様子もほとんどなく、誰もいなくなった町があったんです」
「は?」
「ぶはははっ! クソババァが理解できずに見せる間抜け顔! 笑えますー!」
ボゴッ。
綺麗にみぞおちに拳が入った。
「かふっ」
流石に急所に入れられるとヨフィアさんも動けなくなるらしい。
というか、大丈夫か?
「ヨフィアさん。そこまでフクロウさんに突っかからなくても」
「……メ、メイドには引けない時があるんで、す」
「そのまま呻いてな。で、無人になってたっていうのは文字通りということかい。不思議というか意味が分からないね。本当に誰もいなかったのかい? どこかに隠れていたり避難していた可能性は?」
「いや、その可能性は低そうだな。フクロウ。ほれ、今見ている映像と写真なんだが……」
そういってクォレンさんがバウシャイの映像を見せると、ひったくるようにつぶさに写真と映像を見始める。
その間に、ヨフィアさんは光の回復魔術でなんとか復帰して立ち上がり……。
「ぐっ、回復魔術でようやく動けるようになるとか、冗談のレベルじゃないですねぇ」
「そろそろ、冗談を見極めないとヨフィア死ぬよ」
「ですね。あのクソババアの力をなめていました。今度からは遠距離で言うことにします」
「全然全然やめる気がないね」
「いったい何がそこまでヨフィアさんを突き動かすのですか?」
「それはもちろん。う、ら、みですよ」
うん。笑顔で言われてもみんな何も言えねぇ。
そんな感じで話していると、田中さんたちは話を進めていて……。
「どうだ? こんな不思議な状態は俺でも見たことがなくてな。聖女さんやマノジルのじいさんは大規模魔術で眠らせたあと、捕縛して連れて行ったみたいなことを言ってたんだが、何が目的かはさっぱりわからなくてな。クォレンや、フクロウなら何かわからないかと思ってな」
「残念だが、俺もこんな状態は見たことがないな。フクロウはどうだ?」
と、フクロウさんに声をかけるけど、なぜかフクロウさんはモニターや写真を凝視して固まっている。
というか鬼気迫る表情だ。今まで見せたこともない、余裕のない状態。
「フクロウ。聞こえてるか? 何か知っているのか? おい」
その様子に田中さんも気が付いていて、さすがにまずいと思ったのか肩に手をかけて揺すると、ゆっくり田中さんの方を向いて……。
「……間違いだといいんだけどね。これは、大量にアンデッドを作る方法に似ているよ」
え? なんだって?
何か物凄いことを聞いた気が……。
魔術って本当にすごいね。
いろいろな意味でさ。
要は使いようってやつですね。
ちなみにエルジュはそういう黒い想像ができるタイプじゃなかった。




